MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1897 「人様に迷惑をかけてはいけない」の呪縛 ②

2021年07月07日 | 社会・経済


 6月19日の東洋経済ONLINE(「日本人はなぜ、ベビーカー運びを手伝えないか」2020.6.19)において、コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子氏が、『何しろ(日本は)「自己責任」と「迷惑」の国。「人様に迷惑をかけてはいけない」「自分で責任を取れ」「誰かに頼るな」ということを(小さな頃から)刷り込まれ、人の厚意を素直に受け取ることができない人も少なくない』と話しています。

 確かに、日本人の中には、(勇気を振り絞って)電車の中でお年寄りに席を譲ろうとしたのに無下に断られたり、駅の階段でベビーカーを運ぶのを手伝おうとして不審の目を向けられたりして傷ついた経験を持つ人も多いでしょう。
 また、そうした感覚が身についていればこそ、(実際に拒絶された経験はなくても)「親切心で声をかけるのは迷惑に違いない」と思い込み、行動に移せない人も多いのではないか。こうした日本人の「極端なリスク回避志向」が、日本の社会の中で様々な「助け合い」を拒んでいるというのが、この一文で氏の指摘するところです。

 一方、こうした日本人の「リスク回避志向」が、(他の先進国に比べ)国内における新型コロナウイルスの感染拡大を抑制してきた側面も否定はできません。人々は政府や自治体の「自粛」要請に(人様に迷惑をかけぬよう)几帳面に応え、海外の大都市のようにロックダウンなどの強攻策をとることもなくせずに第2波、第3波を乗り越えてきました。

 しかし他方では、そうした日本人の(リスク回避的な)性格が裏目に出て、ワクチン接種の遅れや経済回復の遅れにつながっているとの指摘もあるようです。
 ワクチン接種に当たっては、副反応などがあってはならない。安全で無駄なく、平等・公平で整然とした完璧な接種環境を求める国民の意識は根強く、それが接種スピードの足かせとなっている部分は否定できません。

 また、国民が「ゼロリスク」を求めるあまり、政府も合理的な経済活動の再開に二の足を踏んで、他国に比べて景気回復の遅れが目立つといった側面も見え隠れします。
 「人に迷惑をかけない」という、父母から受け継がれている(われわれ日本人にとって)ごく当たり前の教えにも、プラスの面のほかにマイナスの面もあるということでしょう。

 さて、(話は少し変わりますが)6月21日の日経新聞の夕刊のコラム「あすへの話題」に、伊藤忠商事会長CEOの岡藤正広氏が「日中韓、教育の違い」と題する興味深い一文を寄せています。

 古来、多くの日本人が「人様に迷惑をかけるな」と育てられているが、最近ある人から、中国では小さな子供のころから「人にだまされるな」と教えられ、韓国ではそれが「人に負けるな」になる、という話を聞いたと岡藤氏はこのコラムに綴っています。
 「日・中・韓ではこれほど教育の前提が違う」と言ってしまうとやや極論に聞こえるかもしれないが、これまでの商社マンとしての仕事の経験を振り返れば、これは何とも「言い得て妙」と感じられるというのが氏の感想です。

 中国人の商魂のしたたかさは、「だまされまい」と他人の言動を客観視できることと無縁ではあるまい。また、韓国人のたくましさの裏には、徹底した競争意識があると氏は話しています。
 このような意識は勝負事の最後のところで差をつける。ゴルフやサッカーの試合でも、ここぞという時の彼ら彼女らの強さを、多くの人が目の当たりにしてきたところだということです。

 「負けたくない」「だまされてなるものか」という意識が競争原理をもたらし、人類の進歩を促してきたこともまた事実。「迷惑をかけるな」の精神も尊ぶべきだが、それがマンツーマンの競争を放棄する風潮につながるのなら話は違ってくるというのが氏の見解です。
 実際、(例えば)世界を相手にする商談はきれい事だけではすまず、常に競争という要素が存在する。そうした戦場に遠慮は存在せず、もとより性善説だけでは戦えないということです。

 さて、全世界を同時に覆ったコロナウイルスとの闘いやそこからの復興も、そういう意味ではウイルスの感染拡大を抑え、その中で成長への道を見つける世界各国との競争だと言えるかもしれません。

 過度のリスク不安に委縮するばかりでなく、大きく周囲を見ながらフェイクに騙されない負けない方策を考えていくこと。そうした意識を強く持って目的に向けて動くことも、時には必要だということでしょう。

 真のグローバル人材とは英語を話せるだけではなく、相手の歴史や文化、メンタリティーを理解した上で堂々と戦える人のことを言う。厳しい話だが、それが現実だとこのコラムを結ぶ岡藤氏の指摘を私も興味深く読んだところです。


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