2023年、ユーラシアグループが「世界の10大リスク」のひとつとして大きく取り上げた「Z世代」の存在。その理由がどこにあるのかについて、多くのメディアで活躍するジャーナリストの池上彰氏が、9月12日の「現代ビジネス」に『池上彰の未来予測/過激な「Z世代」が政治や経済のリスクになる!?』と題する一文を寄せていたので、その一部を(参考までに)紹介しておきたいと思います。
Z世代は、まさに「ティックトック世代」のこと。Z世代に代表される若い世代にとってYouTubeではもはや「長すぎる」という理由で、最大3分までの動画共有SNSであるティックトックの方がよく利用されていると池上氏はこの論考に記しています。
検索も、グーグルばかりではなく、Instagramなど、様々なSNSを活用することが多いのが彼らの特徴。実際、氏が教えている名古屋の大学の学生たちも(ある意味)ティックトック漬けで、選挙の情報すらティックトックで得ていたと氏は話しています。
2022年7月に行われた参議院選挙で「参政党」が議席を獲得できたのも、ティックトックでの拡散があったからとされている。ティックトックを見ていない世代からすれば「わけのわからない政党」という印象だったが、結果、特に新型コロナウイルスワクチンに否定的な若者たちは、動画を通じ参政党をかなり支持していたということです。
とはいえ、Z世代がリスクだと考えられるのはなぜなのか?これは(いかにも)欧米的な発想から来るものだというのが氏の指摘するところです。とりわけ大きいのは、若き環境活動家、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの存在感。彼女もZ世代で、環境問題について非常に深刻に考え強く訴えているが、アメリカのZ世代も総じて政治や環境問題などに対して意識が高く、地球温暖化対策などを訴え各地でストライキや街頭デモなどを繰り返しているということです。
池上氏によれば、ユーラシア・グループの報告書は、「企業や公共政策を変えるためにオンラインで(運動を)組織化する能力と動機の両方を持つ。ボタンをクリックするだけで世界中の多国籍企業の活動を困難にし、政治を混乱させることができる」Z世代は、「その多くが、学校や仕事を休んででも気候変動や銃規制、社会正義に関する政府の政策に抗議し、教育界や経済界に、自分たちの世界観に合わせることを求める『生まれながらのアクティビスト(活動家)』だ」などと指摘し、「その政治的影響力はさらに広がっている」と評しているとのこと。2022年秋のアメリカ中間選挙では、フロリダ州で民主党の25歳の、まさにZ世代の人が下院議員に当選したと氏はしています。
こうした若者たちは、いずれさらに過激になるかもしれない。これまでの秩序を破壊し、まったく新しい運動をつくることになるかもしれない。その運動がリスクになるかもしれないし、いいほうにいくかもしれないという意味で、ユーラシア・グループは「ティックトックなZ世代」をリスクに入れたということです。
Z世代の人たち自体が危険だという意味ではないが、過激なZ世代は実際に現れつつあるというのが、この論考における池上氏の認識です。環境への意識が高い人たちが、菜食主義ですら生ぬるいと、完全に動物性タンパクをとらない「ヴィーガン」になる。さらには肉食に反対して、焼肉レストランになだれこんで営業を妨害するという事件まで起きていると氏は話しています。
美術館に飾られている名画にトマトスープをかけたり、手につけた接着剤をはりつけたりする事件もたびたび起きている。(もちろん名画そのものを憎んでいるわけではないが)環境保護を主張するZ世代の過激派にとって、こうした事件を起こすこと自体が環境保護へのメッセージにつながると考えての行動だということです。
この日本でもやはり、グレタ・トゥーンベリさんの影響を受けて環境問題に取り組む若者たちが増えつつある。しかし、まだまだ欧米ほどの過激さはないため、日本企業もこうした過激なZ世代についての認識は低いようだと氏は言います。ただ、特に海外でも事業を展開している企業は(こうした流れを)十分に意識しておいたほうがいい。自社が環境破壊や人権問題につながる行動をしていないか、慎重に判断すべきだというのが氏の指摘するところです。
例えば、人権に関しては(欧米諸国を中心に)「新疆綿」の使用が問題になっている。新疆綿は、新疆ウイグル自治区に住むイスラム教徒のウイグル人を、中国が強制労働させて作っている疑惑があり、米国では同自治区からの綿製品などの輸入を禁止したと氏はしています。
しかしそれ自体、厳密に行おうとすると非常に難しく、現在、世界の衣料品メーカーが対応に苦慮している。綿の供給網は驚くほど複雑であり、(一定の産地のものを排除しようとしても)様々な産地のものがごちゃ混ぜになってしまうということです。
とはいえ、この新疆綿問題を放置すると、ユニクロや無印良品などの日本の大規模衣料品メーカーも、Z世代を中心に不買運動などを起こされかねないとのこと。もちろん「純粋(ピュア)」であることは若者の特権であり、世の中を変えるために必要なパワーであることは間違いないにしても、そこにはまだまだ現実社会との葛藤や摩擦が生まれかねないというのが氏の懸念するところです。
いずれにしても、Z世代の成長や影響力の増大とともに、環境や人権と言った正しさの下に繋がり、行動する消費者の拡大は今後も続いていくはず。そうした流れを意識し、それを前提に世の中の常識を変えていく必要があるだろうと考えるこの論考における池上氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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