MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2197 消費税が目の敵にされるワケ(その1)

2022年07月02日 | 社会・経済

 7月10日投開票の参院選で大きな争点となっている物価高対策。その手法の一つとして、ほとんどの野党が公約で掲げているのが「消費税減税」です。

 立憲民主党は(消費税を)時限的に5%に減税することを、日本維新の会は軽減税率を8%から段階的に3%に引き下げることを、共産党は税率を直ちに5%まで半減させることをそれぞれ公約にしています。また、社民党は3年間の消費税の徴収停止を、れいわ新選組は消費税自体の廃止を掲げているところです。

 一方の岸田文雄首相は、6月27日の衆院予算委員会で消費税減税の可能性を問われ、社会保障の安定財源であり「いま触ることは考えていない」と改めて否定しています。

 現在の経済情勢を考えれば、物価高騰への緊急対策を講じることはもちろん必要でしょう。しかし、そのために(すでに社会に定着している)基幹税の一つである消費税にあわてて手を付けるのは(私自身)「どんなものかな」と思いますし、政権政党して抵抗があるのも理解できます。

 もとより、この日本で「消費税」の導入がどれだけ大きな政治課題だったか、そして、消費税率を引き上げるためにどれだけの政権が倒れてきたかを思えば、(政権担当者としては)そう簡単に「税率引き下げ」を口にするわけにはいかないでしょう。そういう意味では、日本の戦後政治にとっての「消費税」は、まさに「鬼門」と呼んでも差し支えない存在と考えてもよさそうです。

 それにしても、政治の世界ではなぜこれほどまでに「消費税」は嫌われるのか。そうした問いに答えるように、7月1日のYahoo newsに関東学院大学教授の島澤諭(しまさわ・まなぶ)氏が「だから消費税は嫌われる」と題する興味深い論考を寄せているので、備忘の意味で(2回に分け)その概要を小サイトに残しておきたいと思います。

 今、ある国で行政サービスを維持するのに1000の財源を必要としているとする。この国の総人口を100とし、内訳を勤労世代80、引退世代20(注:引退世代は一切働かないものとする)とした場合の財源の調達手段を、氏はこの論考の冒頭でシミュレーションしています。

 (所得税などの)賃金税だけの場合、引退世代は働かないと仮定しているので1000÷80=12.5と、勤労世代は一人当たり12.5負担しなければならない。一方、引退世代は(働いていないので)負担が0となると氏は言います。

 次に、この国で、少子化高齢化が進行し、勤労世代40、引退世代60になった場合を想定する。ここで、従来通り賃金税だけで行政サービスを維持するならば、勤労世代の負担は25(=1000÷40)に倍増し、引退世代は相変わらず0のままだということです。

 このように、働く人が減る社会では、賃金税を基幹税に据えたままでは、行政サービスをスリム化して歳出レベルを下げない限り、勤労世代の負担が増していく一方だと氏はこの論考で説明しています。

 では、賃金税のように勤労世代にのみ負担を課すのではなく、全国民が一様に負担する消費税を導入したらどうなるのか。

 消費は、基本的には全国民が行うので、全国民が負担者となる。従って、国民一人当たり1000÷100=10の負担で済むと氏はしています。賃金税の場合と比較すると、勤労世代の負担は25から10に△15軽減され、引退世代の負担は0から10へ+10増加するということです。

 さらに賃金税のままでは、勤労世代の負担増加は、勤労世代から結婚や子育てに回す余裕を奪い、少子化が加速されることとなる。勤労世代のさらなる負担増が少子化を加速する「少子化のループ」により、国の存続すら難しくなる可能性があるというのが氏の認識です。

 そこで、少子化、高齢化が進行する社会では、負担が一部の世代に集中する賃金税から、負担を広く薄く分かち合う消費税への転換への合理性が生まれると氏は説明しています。

 これこそが、政府が消費税を少子化、高齢化時代にふさわしい税制と呼ぶ理由となっている。(そういう意味で言えば)政府の言う消費税の「社会保障目的税化」は決して本筋ではなく、導入に際しての方便というか、後付けの理由に過ぎないということです。

 さて、ここからが、「消費税が政治家に目の敵にされる」本当の理由に関する部分です。

 もちろん、(改めて説明するまでもなく)、賃金税から消費税に税制を変更すると、勤労世代の負担が減る一方で、引退世代の負担は増えることになる。ここには当然、世代間の対立と政治的な摩擦が発生すると島澤氏はしています。

 誰しも、自分の負担が増えるのは回避したいもの。政治力を使って賃金税から消費税への制度転換を阻止することが、合理的となる(政治)勢力が生まれるということです。

 これが、いわゆる「シルバーデモクラシー」の議論に繋がっていく。つまり、消費税は、少子化、高齢化が進行している社会の基幹税には最適だが、まさに同じ理由から嫌われる運命にあり、そこに「政治」が介入してくるというのが氏の指摘するところです。

 さて、確かに消費税は、その導入の主旨からして(資産の蓄積が済んだ)「持てる世代」の利益と相反しています。このため、今回の選挙戦に当たりほとんどの野党が主張している「消費税の廃止」や「消費税率の引き下げ」は、実は「景気対策」「物価高対策」の名を借りた、高齢世代の巻き返しと理解すべきなのかもしれません。

 また、そう考えれば、若い世代で与党自民党の支持率が高く、いわゆる「団塊の世代」を中心にした高齢世代ほど、野党勢力への支持率が高いという現在の政治状況も合点がいくというものです。

 コロナ禍の下、経済対策と称するバラマキへの抵抗感が薄れ財源論が軽視されがちな昨今、一方で、消費税を「庶民の敵」として悪者扱いする政治勢力の動きについても十分に注視していく必要があるのではないかと、氏の論考から私も改めて感じたところです。

(「#2198 消費税が目の敵にされるワケ(その2)」に続く)



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