MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2221 リスクを取らないビジネス

2022年08月06日 | 社会・経済

 総合経済誌「週刊東洋経済」の5月21日号の連載コラム「少数意異見」に、ウーバーイーツなどのフードデリバリービジネスに関する興味深い一文が掲載されていました。(「便利なフードデリバリーの陰にあるもの」(週刊東洋経済2022.5.21)

 事業で成功するには、多かれ少なかれリスクをとる必要があるというのがこれまでの常識だった。しかしそうした中、シェアリングエコノミーの衣を纏い、「リスクを取らないこと」で大きく普及しつつあるビジネスモデルが(かの)フードデリバリー産業だと筆者はこのコラムで指摘しています。

 コロナ禍でフードデリバリーの需要が高まる中、都内の主要道路などでデリバリーに急ぐ自転車やバイクが危険走行を行う姿を目にする機会が増えるようになったと筆者は言います。

 社会の要請を背景に、フードデリバリーは街のありふれた景色として急速に浸透した。特に東京の都心部では、専用のバッグを背に疾走する自転車やバイクを目にすることが珍しくなくなったが、それとともに、配達時の交通事故のニュースも増えているというのが筆者の感覚です。

 初期の配達員には、「空き時間での小遣い稼ぎ」といった牧歌的な雰囲気があったが、最近ではフードデリバリーを本業とする労働者も少なくない。そうした中、配達員が少額の手数料で生活を成り立たせようとすれば、数をこなすしかないと筆者はしています。

 数をこなすには、急がなければならない。事故を起こせば働けなくなることは分かっていても、荒い運転で無理をしがちになる。これは(被害者になっても加害者になっても)不幸にも事故に巻き込まれた市民にとってはたまらないことだということです。

 こうした「負の外部性」に対し、非対称の利益を享受しているのがデリバリー事業者だと筆者はこのコラムで指摘しています。

 配達員は業務委託扱いとされるため、事業者が自己の責任を取ることはない。最近は批判を受けて対策を打ち出してはいるものの、本質的な解決にはなっていないというのが筆者の認識です。

 百歩譲って、彼らが経済的富を生み出しているのならそれも良かろう。しかし、デリバリー事業者は世界中で営業赤字を垂れ流しており、税金もほとんど払っていないことを考えれば、リスクに「タダ乗り(フリーライド)」しているとしか言いようがないということです。

 さて、経済活動における「負の外部性」とは、言うまでもなく「第三者の犠牲の上に成り立つコスト」のこと。公害や健康被害など、企業が製品やサービスを生産することで生じる、社会に対する有害な影響がこれに当たります。

 因みに、外部性とは、製品やサービスの生産または消費に関連するコストや利益を指す言葉で、製品の生産に関与しておらず、製品やサービスを消費していない第三者に影響を及ぼすことから「外部」性と呼ばれています。

 もとより「負の外部性」は、生産または消費にかかるコストとして捉えるべき費用です。たとえば、「公害」の場合は、特定の製品の生産と消費の両方から生じる負の外部性であり、企業ばかりでなく、消費者もその責任(負担)の一端を担うことが求められる費用ということができるでしょう。

 さて、話は戻って、(そういう意味で言えば)フードデリバリーサービスの最大の享受者である利用者こそが、最大のフリーライダーということができるかもしれないと、筆者はこの論考に記しています。

 電話一本でハンバーガーのデリバリーを頼んだあなたは、大雪や大雨の日でも安い料金で届けてもらえることに満足し、便利さの陰にある負の外部性(合羽を着て危険に身をさらす配達員や社会が支払うコスト)を顧みることはしないだろう。

 しかし、そんなあなたがむさぼっているのは(目の前の)ハンバーガーやピザだけではないことを、改めて肝に銘じる必要があるとこのコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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