MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯313 日本の会社に入るということ

2015年03月07日 | 日記・エッセイ・コラム


 コンサルティング会社「ニッチモ」の代表取締役で「カリスマ転職代理人」の評もある海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏が、2月6日のWeb経済誌「東洋経済オンライン」に、「新入社員の『宴会芸をしたくない』は甘えか?」と題する面白い論評を寄稿しています。

 ある日、氏の手元に送られてきた学生向けの就活本に「(入社試験の面接で)自己PRをうまく言えなかったときはもう一度はじめからやり直してもいいものか?」という、学生からの質問が載っていたということです。この質問に対し、この本に「謝ってでももう一度はじめからやり直せ」という回答が掲載されていたことを、氏は驚きとともに紹介しています。

 そこには、面接をまるでフィギュアスケートの「演技」のように考えている学生(や回答者)の意識が垣間見えると、海老原氏はこの論評の冒頭で述べています。

 面接において企業は、学生の「演技力」などを評価しているのではない。話の中身を聞いているのであり、「イイとこあるな」と思ったら助け舟を出してでも深く聞きたいと思うはず。美辞麗句を暗記してきてそれを順番に話す学生に、企業が魅力を感じるわけなどないという指摘です。

 氏は、学生の就職活動を支援する中で、このように学生が「企業(の気持ち)」というものがどういうものかを余りにも知らなすぎることに、悩まされることが少なくないと述べています。

 例えば、「会社に入るとやりたくもない宴会芸をやらされるというのは本当ですか?」というような相談を受けることがままあるということです。

 実際、日本では、新人社員に宴会芸をやらせるというような社風が残されている職場は少なくないかもしれません。一方、海外(外資系企業)では、無理やり宴会芸をやらされるなんてあり得ないだろうと海老原氏は言います。

 であれば、宴会芸をしたくない就活生は欧米の会社を目指すべきなのか? 
 敢えて言えば、事はそんなに単純ではないというのが海老原氏の認識です。

 そもそも、欧米の企業の雇用形態は日本のそれとは根本的に異なっている。一般に欧米では会社に「入る」という雇用契約ではなく、ある部署のあるポストの仕事をするという契約でしかないというのが氏の指摘するところです。

 つまり、欧米における入社には、会社という共同体の一員(として「腹を割った」関係)になろうという感覚を見つける余地がありません。

 さらに海老原氏は、欧米の場合、決められた職務で雇用されているので、その契約を変更しないかぎり職務が変わることもない。職務を変えるためには空きポストに自ら応募することが必要で、昇級や昇格も自動的には行われないという厳しい現実があるとも併せて指摘しています。

 会社が経営上の観点からポストを減らすと決めれば、「整理解雇」という言葉で会社を追われてしまう事態も当然想定される(そしてそれは実際にしばしば起こっている)。なぜなら「ポスト」契約である以上、ポストがなくなれば雇用が終了することに文句を言えないからだと氏はしています。

 一方、日本型の就職は、「労働力」としてではなく一人の「人間」として、「会社という大きな袋(家族/社会)の中に入る」契約だというのが海老原氏の見解です。

 だからこそ、仕事が合わない、上司と合わない、顧客と合わないといった場合でも、そうした個別の事情を酌んで空きポストへの異動を融通してくれる。能力がアップすれば、たとえリーダーなどのポストに空きがなくても、職能等級がひとつずつアップしていったりもする。
 
 さらには、最初は難易度の低い仕事を優先的に与えられ、ゆっくり覚えながら次のステップに上がっていくといった配慮もしてもらえるのだということを、就活生は(当然のこととしてではなく)有難く思う必要があるということです。

 そもそも、日本企業で新人に宴会芸をやらせるのは、決して彼らに「恥をかかせる」ことが目的なのではなく、配属部門以外の社員に親しみを持って受け止めてもらうためという側面が強いので、こうした通過儀礼をやみくもに拒絶するのはかえって(人としての)シンパシーを得られないと氏は指摘しています。

 自分をさらけ出すことが社員間のコミュニケーションを円滑にし、風通しのよい職場環境づくりに資することを「先輩」社員たちは経験上よく知っているのでしょう。また、新入社員の方も、職場の人間に個人の人間性をさらけ出すことで、ひとりの人間として会社という共同体に受け入れられたりすることを、身をもって知るチャンスになるかもしれません。

 もちろん、それでも「宴会芸なんてやったことがないし、これからも絶対やりたくない」という考え方があってよい。「宴会芸をやらなくていい」というメリットが、欧米の厳しい雇用に身をさらすリスクよりも大きいと判断して欧米の会社を目指すのも、それはその人の価値観だと海老原氏はこの論評を結んでいます。

 日本の企業にも欧米の企業にもそれぞれ固有の特徴があり、それぞれの中にもまた様々な社風を持った企業が存在しています。

 学生の皆さんが就職活動を始める際には、それらをまずしっかりと把握・認識のうえ、自らの個性にあった企業を選択することが重要です。そして、「ここぞ」と思った(本命の)企業に対しては、採用担当者に是非「生身」の身体でぶつかってみてほしいと、私も改めて感じた次第です。





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