MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯892 政権選択と公約の意義

2017年10月12日 | 国際・政治


 10月10日に総選挙が公示され、いよいよ選挙戦の幕が切って落とされました。

 それにしても安倍晋三首相は今回、一体何のために衆院の解散・総選挙に打って出たのか?(その後の政治の動きから)ここにきて改めて疑問に思う向きも多いかも知れません。

 9月25日、衆議院の解散を決めた安倍総理は会見を開き、消費税を2019年に予定通り増税する考えを明らかにして、その際の税収の使途を国民に問うと語りました。使途を従来の計画にあった借金の返済に充てるのではなく、子育てや介護といった少子高齢化の対策に充てるというものです。

 また、安倍首相は同会見で、今回の解散を少子高齢化や北朝鮮の脅威への対応のための「国難突破解散」と命名しており、この総選挙における国民の信任を梃子に、現在の国難的な状況を乗り越えたいとしています。

 しかしその後の2週間で政局は大きく動き、政治勢力図は(誰も想像しなかった形に)様変わりしました。最大野党の民進党が事実上解党し、公示までに新党が二つ誕生。多くの立候補予定者が政党を移るという異例の状況が生まれています。

 これだけ急激な政界再編が起こると、それぞれの会派の政権公約も当然簡単にはまとまりません。首班指名の指名先までもがはっきりしない政党がある中で、有権者は、何を縁に投票先を決めればよいのかと、戸惑う声も聞こえるところです。

 こうした(混乱する)状況を受け、10月11日のPRESIDENT Onlineでは、政界の風雲児として知られる前大阪市長の橋下徹氏が、「公約なんかで政党を選ぶな!」と題する過激なタイトルの論評を寄せています。

 この論評において橋下氏は、様々な批判はあるにしても小池百合子都知事と前原誠司代表のとんでもない政治行動によって、日本の政治グループが分かりやすく3グループに整理されたと、現状を(ある種の感慨を持って)評価しています。

 各党の公約も何とか出そろい、テレビ討論や新聞では政治評論家、学者、ジャーナリストなどが各党の公約を「あーでもない」「こーでもない」と吟味している。「でもね、いつものこのパターンは、もう終わりにしないといけない」と、氏はこの論評で厳しく指摘しています。

 選挙で各党の公約を細かく比較しても意味がない。特に大きな新党が突貫的に設立された今回の選挙では各党の公約を吟味しても全く意味がないと、氏は政権公約の意義を否定しています。

 橋下氏は、まず「公約」自体が(構造的に)ほとんどが守られないということを、有権者はしっかりと押さえなければならないとしています。

 政治家が打ち出す公約は、そのような方向で政治を進めたいという「願望」のようなものとして理解すべきだと橋下氏は言います。

 元三重県知事の北川正恭氏が(願望ではなく政党が国民に約束するものとして)「マニフェスト」を提唱し、以降、政治家はかなり具体的な政策を提示するようになってきた。ところが、政治家が選挙前に掲げる公約と、実際にそれを実行するための工程表の違いが日本ではきちんと整理されていないことから大混乱をもたらし、今もその混乱は続いているということです。

 北川氏が唱えるマニフェストは、政治家が示す大きな方向性の下に役所が具体的に政策や制度を作り込む際の工程表・スケジュールにイメージを置いている。しかし、これは政治家が作るものではないし、作ること自体不可能だというのがこの論評における橋下氏の認識です。

 政治家の公約は、何百人単位の役人が総がかりで議論し、日本の複雑精緻な法体系と整合性をとったり関係各所との利害調整を行ったりし、さらに財源を確保してようやく具体的な制度となる。そして最後は議会の賛成をもらって、やっと実行できるものだと(首長を経験した)橋下氏は説明します。

 つまり、政治家の公約は直ちに実行されるものではなく、役人の議論や検討の過程で実現不可能なことが判明することも多い。だから、公約がそのまま完全に守られるということの方が「例外」なのだという指摘です。

 橋下氏は、各党が公約として掲げるこうした政策アイディアの実態を踏まえ、公約に実現不確実な政策が並ぶ以上、公約だけで政党を選ぶのは困難だとしています。このため、もしも公約だけで政党を選ぼうと思えば、公約に掲げる政策・制度を可能な限り少なくして○×の混在をなくしていかざるを得ない。結局、究極的にはワンイシュー(単一争点)選挙が、最も政策選択を的確に行える手段だということです。

 氏は、選挙に当たって政党から示される(公約やマニフェストという名の)政策パッケージを、「福袋」に例えています。

 同じような商品がごちゃ混ぜに入っている複数の福袋から、一つの福袋を選択するような感じ。こんなときに袋の中身を一つ一つ吟味しても仕方がない。欲しい商品もあれば、要らない商品も中には入っている。

 そんな福袋を選ぼうとする時、選択の対象は個別の商品ではないだろうと橋下氏は言います。あくまでも袋の中の商品を一つのまとまりとした福袋全体が選択の対象となる。袋の中の商品全体を一つのまとまりとした福袋全体の雰囲気と、あとは価格で決めるのが普通の姿だというのが、政党の政権公約に関する橋下氏の認識です。

 そして、だからこそ政治家の議論で重要なのは、役所がやるような個別の政策や制度の議論ではなく、政治の方向性についての大きな考え方の議論だと橋下氏はしています。

 まずは安倍政権の実績をしっかりと評価すること。報道で騒がれたことだけでなく、むしろ騒がれていない着実な実績をしっかりと見る。これまでの政治や他党と見比べて、まあそれでいいかというなら政権与党に、全くダメなら野党に選択肢を広げるということです。

 仮に現政権ではダメだと感じて野党を選ぶにしても、安倍政権と「違う」(人たちが政権を担う)希望・維新か、「全然違う」方向性を持つ共産・立憲民主か程度の判断で必要にして十分だと、氏はさらに説明しています。

 今回の選挙が(安倍首相が言うように)「政権選択選挙」であるとするならば、選択するにはどんな要素を判断しなければならないのかを論理的に詰めて考える必要があると橋下氏は言います。そして、政権選択に必要な要素は何かを論理的に考えていくと、まずその根拠として必要なのは安倍現政権の実績の評価であり、その次がよりましな基準であり、野党を選ぶにしても公約の中身というよりも政党の色であるというのが橋下氏の基本的な見解です。

 さて、私自身、政権選択を「ワン・イシュー」選挙で行うことは、その他の問題から目を逸らすことに繋がり最も適当とはとは思いません。しかし、だからと言って(確かに氏の指摘するように)個別の政権公約の適否がそれほどの意味を持つものとも思えません。

 財源も定かではないままただ美味しそうに並べられたバラ色の公約を一つ一つ吟味してもあまり意味はない。むしろ全体的な「立場や姿勢の違い」に目を向けて大切な一票を行使すべきだと考える橋下氏の主張を、私もこの論評から(それなりに)興味深く読んだところです。



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