MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2586 メディアによる「言葉狩り」

2024年05月23日 | 社会・経済

 将来の有力な総理大臣候補の一人とされる上川陽子外相が5月18日、静岡県知事選にかかる自民党推薦候補への応援演説において「「この方を私たち女性が(知事として)うまずして、何が女性でしょうか」と述べていたとされる問題。

 野党や一部メディアなどから女性に対する配慮を欠いたという指摘がある中、上川氏は19日、報道陣の取材に対し「私の真意と違う形で受け止められる可能性があるとの指摘を真摯に受け止め、撤回する」と述べ、発言を撤回する意思を表明したと伝えられています。

 発言を追う限りでは、自民推薦候補を新しい知事として「うみ出す」という意味で述べたとみられるこの言葉。朝日新聞などの報道によれば、「うまずして、何が女性でしょうか」という発言自体に女性の出産を想定させる側面が否めず、子どもを産みたくても産めない女性などへの配慮を欠くものとして批判の声が上がっているということです。

 実際、今回の報道に対し立憲民主党の蓮舫議員は、「女性は『産む』との前提。『比喩』だとしてももうやめてほしい。本当に痛い。」と「X」(旧ツイッター)に投稿。同じ立憲民主党の論客、辻元清美議員も 「『うまずして何が女か』というようなことをたとえでも使ってしまったら、『産まない人は女性じゃないわよあんたは』というように言われて苦しんでいることを容認してしまうことにつながりかねないなと私は危惧しました。」と話したと伝えられています。

 一方、政界、メディアを中心としたこうした動きに対し、違った意見も次第に目にするようになっています。

 国際政治学者の三浦瑠麗氏は同19日に「X」を更新。上川陽子外相の発言に関し、「みんな家事育児や仕事のかたわら、選挙運動の裏方から地元の働きかけまでボランティアで担ってくれてるのは現実問題として女性たちだっていう事実を知らんのか。創価学会の婦人部の意見が力を持ってるのもそこでしょうよ」と、選挙における女性のパワーを指摘。「『言葉の選び方に(産めない人への)配慮が足りない!』と被害者憑依して怒るのは勝手だけど、あのくだりは実際に家事育児を片務的に担い、選挙のボランティアまでしている聴衆のプライドをくすぐったんでしょう」と、上川氏が使った言葉の政治的な有効性を評価したとされています。

 さらに三浦氏は、「うむ(産む)という言葉を無意識にせよ選んだ背景には、聴衆の女性たちに自らの『力』を自覚させる何かがあったからだと思うよ。その『力』の自覚を記者は真正面から否定しにいくのかってこと」と指摘し、一方的な報道姿勢を疑問視したということです。

 また、元大阪市長、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏は20日、フジテレビ系情報番組「めざまし8」に出演。上川陽子外相の発言に関し、「選挙期間中ですから撤回したんでしょうけど、引き潮を早くしなければいけないということで、でも僕はこの発言は許容できると思っています」とコメント。続けて「(これは)支持者向けへの発言で、一般世間向けへの発言ではありません。それから『子どもを産め』という発言ではなくて、当選者を出させてほしい。しかも現実ですね、選挙運動に携わっている人たちは、若い世代は参加しない、子育て世代は忙しい。現実子育てが終わった人が多いんです。そういう人たちを鼓舞する表現としては僕は許されると思う」と話したということです。

 さて、こうした様々な意見かもわかるように、前後の文言をしっかり追えば今回の上川氏の発言の「女性パワーで候補者を押し上げよう」という趣旨に違和感を感じる人がそんなに多いとは思えません。世論の反応も割と落ち着いていて、メディアの煽りりに乗るのは一部野党ばかりといった状況も生まれつつあるようです。

 上川氏と言えば、(先にも述べたように)史上初の女性総理大臣候補として最近メキメキと頭角を現してきた政治家の一人。従ってこれから先も、いろいろと足を引っ張る動きがあるでしょう。私自身、特に上川氏の支持者というわけではありませんが、折角なので、「こんなつまらないことでケチをつけてほしくない」という思いはあります。

 政治家の言葉は重いとはいえ、(なによりも)ポリティカル・コレクトネスの名のもとに進む(ある種の「言葉狩り」ともとれるような)昨今の言葉遣いへの過度な規制には、十分な監視が必要ではないかと改めて感じるところです。



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