MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯165 未来への選択

2014年05月19日 | 社会・経済

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 中長期の日本経済の課題を検討するため、今年1月に政府の経済財政諮問会議に設置された有識者による専門調査会である「選択する未来」委員会が、5月13日に中間報告を行いました。

 この報告において同委員会は、政府に対し、何らかの対策を講じなければ50年後に8000万人台に落ち込むとされる日本の人口を、「1億人」に維持できるよう目標を設定すべきだとしています。また、そうした目標を達成するため、これまで高齢者対策が中心だった政府の福祉関係予算を「子どもへ大胆に移すべきだ」と提言し、出産や子育て支援の財政支出を「倍増」するよう促しています。

 政府が人口維持の明確な目標を打ち出すのは実はこれが初めてということであり、政府は今回の提言を、6月にまとめる予定の経済財政運営の指針(いわゆる「骨太の方針」)に反映させていくこととしています。

 報告書は、日本の未来について、
 ① 現状のまま何もしない場合には、極めて厳しく困難な未来が待ち構えている
 ② しかし、制度、政策、人々の意識が速やかに変わるならば、未来は変えることができる
として、若い世代や次の世代が豊かさを得て結婚し、子供を産み育てることができるよう、政府に対し速やか(で、集中的)な改革、変革を迫っています。

 報告書を読む限り、確かに今後の日本に訪れるとされる未来からはあまり明るい兆しは見えてきません。人口の減少は(大規模な移民政策などを採らない限り)今後ほぼ50年にわたり続くと考えられており、その減少数も現在の年間概ね16万人から、2020年ころには年間50~60万人へ、2040年代には年間に100万人以上が減少する状況が生まれるとされています。

 また、50年後の日本には、全人口の約4割が65歳以上となるまさに超高齢社会が到来するとしています。そしてこの結果生まれる労働力人口の減少は、経済成長の鈍化をもたらすばかりでなく、地域社会の縮小や社会保障費の増大による地方財政の持続性の危機などをもたらす可能性が高いということです。

 その時、働く人より支えられる人が多いといういわゆる「人口オーナス」(←「人口ボーナス」の逆で、人口構成の変化が経済に負担を与える状態)に直面する日本は、国内市場の規模を縮小させるばかりでなく、投資先としての魅力を失ったりイノベーションの低迷を招いたりしながら、経済規模の縮小がさらに経済の不調をもたらす「負のスパイラル」陥る恐れがあると報告書は言います。

 また、報告書では、地方から東京への人口流出がこのまま続けば、地方圏を中心に4分の1以上の自治体が行政機能を発揮することが困難な状況に陥り、その一方で東京圏における人口の急速な高齢化は、首都東京のグローバル都市としての魅力を奪っていくだろうとしています。医療介護の財源だけでなく、担い手の不足などにより、こうしたサービスが受けられない住民が多数出現するだろうという指摘もありました。

 こうした中、今、私たちは未来に向けて何を「選択」し、次の世代、次の社会への道筋をつけて行ったら良いのか…。報告書はこの問いに対し、政府に次の5つの処方箋を示しています。

1 子供を産み育てる環境を(全力で)整備すること
 具体的には、出産や子育てへの支援を倍増し、費用は現世代で負担すること。様々な分野の施策を「子供のための政策」という視点から見直して、未来への投資と位置付けて積極的に拡充していくというものです。

2 経済を世界に開き、創意工夫による新たな価値の創造を目指すこと
 中小企業のグローバル化や外国人財の戦略的な受け入れによるオープンな国づくりに加え、柔軟な制度改革によるイノベーションの促進を図るというものです。

3 年齢や性別に関わらず能力を発揮できる社会を作ること
 男女にかかわらず、能力や意欲に応じた活躍の機会を充実させるとともに、正規・非正規など様々な形態における雇用の機会を整備するというものです。特に、70歳までを「新生産年齢人口」と捉えなおし、現役のプレーヤーとして活躍できる社会づくりを提案しています。

4 集約・活性化と個性を活かした地域戦略を進めること
 地域の再生に向けた郊外部から中心部への市街地の集約化によるコンパクトシティ化を進めるとともに、地方の魅力アップによる東京から地方への人の流れを創っていこうとするものです。

5 安全、安心の基盤を確保すること
 日本の伝統文化や美意識、価値観の継承や発展に加え、日本ブランドの確立を図っていこうとするものです。また、世界の中での存在感を保ち、国際貢献や国際ルールづくりへの参画により、日本を世界に発信し続けるということです。

 報告書では、「未来への選択」を具体化するのはいずれも簡単なことではないが、「人口急減・超高齢社会」という必ず訪れる「未来」に対し様々なステークホルダーが危機意識を共有することが何より重要になるとしています。

 私たちは、ついつい未来の社会に自分の生活を映して考えがちです。先日、民間の有識者による「日本創成会議」による提言がメディアで話題となりましたが、こうした指摘が様々なセクターから相次いでなされ、国民の意識(視点)を「次の世代」に向けて少しずつ動かしていくことがこれから大切になるのかなと、あらためて感じたところです。


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