MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1070 トランプ氏の評価

2018年05月19日 | 国際・政治


 ここ2か月ほどの間の出来事だけを見ても、トランプ大統領は金正恩委員長との米朝会談を独断で了承したほか、通商拡大法232条およびスーパー301条による輸入制限措置を一方的に提起し中国との貿易摩擦を表面化させました。

 また、最近では2015年に米欧など6カ国とイランとの間で締結された核合意からの離脱を単独で表明するなど、その政策は一貫性を欠くばかりか極めて独善的な解釈に基づく場当たり的なものと言わざるを得ません。

 当然、これらの決定に対しては(米国の内外を問わず)多くの識者が強い疑念を表明していますが、ホワイトハウス内部の政策運営は一段と混迷の度合いを深めており、政策自体ますます予想不可能なものとなっているとの見方が支配的だということです。

 実際、政権発足以来、ゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長(3月8日辞任)、レックス・ティラーソン国務長官(3月13日辞任)、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)(3月22日辞任)などの有力閣僚が次々とホワイトハウスを去り、代わって、元CIA長官のポンペイオ国務長官や超保守派で知られるボルトン大統領補佐官などの一癖、二癖ありそうな人物が新たに政権に加わっています。

 トランプ政権は、昨年1月の発足以来、内政、外交、人事、税制などのあらゆる面において(これまでのルールでは)予測不能な政策を次々と繰り出してきました。第2次大戦後半世紀以上にわたり世界秩序をリードしてきた米国の姿勢とは大きく異なるこれらの政策決定により、国際社会における米国の信頼は急速に低下していると言えるでしょう。

 しかしその一方で、米国におけるトランプ大統領の支持者たちはこうした政策運営上の深刻な問題点を殆ど気にしていないようです。トランプ大統領の支持率は、昨年4月以降、40%前後でほぼ安定的に推移しているとされています。

 こうした状況から判るのは、トランプ大統領は支離滅裂な政策運営に対する国内外の有識者からの批判や国際社会における米国の信頼低下は(恐らくは)ほぼ眼中にないということ。(いわゆる「ラストベルト」などの)共和党と民主党の支持が拮抗する選挙区のトランプ支持者層が喜ぶ政策を、短期的な視点で次々と打ち出し続けていると考えるのが合理的でしょう。

 こうしたトランプ大統領の政策運営に対し、4月21日の英経済紙「The Economist」は、「対トランプ、問われる共和党」と題する社説において、非常に厳しい批判の目を向けています。

 同紙は記事において、この政権のより重大かつ差し迫った問題は、(政策の内容というよりも、むしろ)トランプ氏の気性、そして政治家としての資質にあると指摘しています。

 自分への服従心や、人々の怒りをあおりその怒りを糧に自分の勢力拡大を図るトランプ氏の政治姿勢は、世界が民主主義のあるべき姿としてよく仰いできた米民主主義を脅かすものだと記事はしています。

 過去にも、米国の大統領には自分を過大評価し、嘘をついたり、女性を誘惑したり、いじめたり、大統領としての規範を逸脱する米大統領は確かにいたが、トランプ氏ほど露骨に好き勝手な振る舞いをする大統領はいなかったということです。

 彼の持つ力の根源は、基本的に「事実に対する軽視」にあると記事は説明しています。トランプ氏が昨年5月に解任したコミーFBI長官はその回顧録において、ホワイトハウスの状況を「重要なことから小さなことまで、とにかく嘘をつく。(トランプ氏への)忠誠心を第一にするという行動規範を貫くため、道徳も真実も重視しない組織となっている」と評しているということです。

 トランプ氏は、真実と嘘とを区別しようとしない。(もしかしたら)区別できないのかもしれないと記事はしています。
彼は実業家時代、そして大統領候補の時は、人が信じてくれそうなことはあたかも真実のように扱ってきた。そして大統領となった今では、(大統領としての権力によって)かなりのでっちあげをしても逃げ切れると思っているのだろうということです。

 そして、トランプ氏と同氏の支持基盤を何としても喜ばせようとするカルト的ともいえる動きは、少なくとも3つの面で今の政治に影響しているというのが記事の認識です。

 一つ目は「政策への悪影響」というもの。政府は一貫性のある政策を実施するのではなく、怒りや反移民主義、重商主義など、(あまりに単純なポピュリズムとも評すべき)衝動的な欲求に支配されており、過去の経験に基づく議論は考慮されていない。

 実際、選挙戦に当たっての彼の公約そのものが矛盾に満ちており、何かの目標を達成するというよりも(世界に)混乱ばかりを引き起こしているということです。

 二つ目は、過去の慣習により制限されて来た大統領の行動をないがしろにしているという点です。

 納税申告書の開示を拒否し、利益相反に関する規定を無視。営利目的の事業の経営や政権の上級職への家族を任命の自粛も無視して、利益誘導により家族の事業に利益をもたらしていると記事は指摘しています。

 さらにその三つ目として、記事は、自分を邪魔する者を「反対派」としてではなく邪悪な者、腐敗した者、裏切り者と断じて全否定する政権の姿勢を挙げています。

 トランプ氏とその支持層は、(例え共和党員であっても)トランプ氏を支持する善人と、そうでない悪人に分けて考える。メディアもトランプ氏を応援するのは熱烈な忠義者で、支持しないメディアは国民の敵という烙印を押され、「陰謀」だとか「フェイク」だとかいうことばで(省みることなく)切り捨てていくということです。

 彼は、合衆国憲法に基づく「大統領」という存在を、帝王のように(法を)超越したものとして認識しているのかもしれません。大統領の権限はあくまで法理に基づくものであり、子供のように理屈もなく威張り散らす「支配者」を、米国の「理性」はいつまで許しておくつもりなのか。

 記事は、米国ひいては世界の未来について、トランプ氏が望ましくない人物であることを認識している共和党議員や共和党員にも大きな責任があるとこの記事の最後に指摘してきしています。

 トランプ氏の自己中心主義を戒める最善の方法は、中間選挙を含め、選挙で共和党を敗北させることと、米大統領選へのロシア干渉疑惑捜査とそれを指揮するモラー特別検察官を妨害から守る法案を成立させることしかないと記事は言います。

 「最も不正義を働くことのできる人物を、正義を超越した存在にしてもよいのか?」という、アメリカ合衆国建国の父の一人とされる政治家ジョージ・メイソンが1787年の憲法制定会議で述べた言葉をもって共和党員の良心に訴える「The Economist」紙の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。



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