MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2445 60代は人生の分岐点

2023年07月24日 | 社会・経済

 平均寿命も80歳代後半にまで伸び「人生100年時代」と言われるようになった現在、ほとんどのサラリーマンが定年退職を迎え年金生活に入る60歳代は、実際多くの日本人にとって「微妙」な時期になっているようです。

 老後の暮らしは自己責任で、政府も子どもも面倒など見てくれない。還暦を迎えても30年は自分で食い扶持を稼がなければならないとすれば、なかなか隠居暮らしもしてはいられません。

 とはいえ、役職定年や定年退職で収入の大幅ダウンは避けられないし、身体だって(頭だって)若い頃のようには動かない。バリバリの「現役」でもなければ「老後」でもない…そんな中途半端な60代をどう過ごすかが、(そこに続く)70代、80代の暮らしに大きく影響するという声もあるようです。

 「還暦」をひとつのターニングポイントと位置付けて、「ここでもうひと頑張り」と第二の人生に積極的に乗り出すのか。それともこれを機会に断捨離し、隠居生活に向けて人生のダウンサイジングを始めるのか。

 7月3日の経済サイト『東洋経済オンライン』に、エコノミストで投資教育研究所所長の野尻哲史氏が、同研究所が毎年行っている「60代6000人の声調査」を踏まえ「平均年収は500万円 日本の60代意外なリアル」と題する論考を寄せているので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。

 同調査によれば、調査対象となった60代の平均世帯年収は552.9万円。最多年収帯は201万〜400万円(全体の26.6%)なので高額年収の人に平均値が引っ張り上げられていることがわかるが、それでも中央値は400万円を少し上回る。60代の都市生活者の年収は、思ったよりも高いと氏はこの論考に記しています。

 ちなみに、60代でも現役で会社勤めをしている人は、世帯年収の平均値が769万円とかなり稼いでいる。それに比べれば、公的年金を受け取っている人は相対的に年収が低いが、それでも平均で487万円弱の世帯所得を得ているということです。

 世帯年収なので、年金を受け取りながら夫婦でアルバイトなどの収入がそれぞれ100万円程度あれば400万円を超えることは不思議ではないと氏は言います。一方、世帯の年間生活費平均は358.3万円で特にその分布が201〜400万円層に集中している。収入に比べて支出のばらつきが小さいことから、60代は収入が多い人でも支出は抑制気味にしているというのが氏の見解です。

 これは、収入に対して余裕のある生活をしているとみることもできるが、将来の支出増を気にして使い方をコントロールしているとみることもできる。また、ここからは、世帯年収が平均よりも低い層の人にとっては、他の資金が必要になることが明らかに見て取れるということです。

 一般に60代に年収を聞くと、働いて得る勤労収入と公的年金の収入が想定される。しかし、それでも足りない場合には、保有する資産を取り崩して収入とする資産収入を加えて、退職後の生活費は賄われると氏は話しています。

 そこで重要となるのが、もちろん世帯保有資産(がどれだけあるか)ということ。直近の調査では、60代の世帯保有資産の平均値は2291万円強とされたが、そこにはバラつきの大きさが目につくというのが氏の認識です。

 調査結果を見ると、まず世帯保有資産の塊が大きく2つに分かれていることがわかると氏はしています。

 1つ目の塊は資産の極めて少ない層で、中でも最も人数の多いセグメントは、全体の23.3%に達する資産0円世帯。資産を保有できていない世帯が2割以上を占めるというのはちょっと驚きですが、金融広報中央委員会による「家計の金融行動に関する世論調査」(2022年)でも60代の2人以上世帯で20.8%が金融資産を保有していないと回答しているので、大きな誤差とは考えられないと氏は言います。

 そして、1つ目の塊のもう一方は1万円から500万円以下の層とのこと。この層だけでも全体の19.5%を占めており、0円世帯と合わせて考えると、実に60代世帯の4割以上が、(金融資産500万円以下の)保有資産の少ない層によって占められているということです。

 一方、もう1つの塊は、全体の17.5%を占めている2001万〜5000万円の層だと氏はしています。大手企業を退職して退職金を受け取っている人であれば2000万円を超える資産を保有していても不思議はなく、この層が突出していることも理解できる。

 結果として、平均値は2291万円強となっていますが、中央値は500万円を少し超えたところにあると推計できるため、60代の保有資産を考えるときには、ばらつきの大きさには十分注意する必要があるというのが氏の見解です。

 さて、こうして収入、支出、資産の数値を見てくると、(かなりのばらつきがあるとはいえ)平均像は収入550万円、支出は410万円、資産は2300万円と、60代世代の実力は現役世代を超えるといっても過言ではないと氏はしています。

 少なくとも日本経済への影響を数字で見る限り、60代は決して「隠居暮らし」などではないというのが、この論考で氏の指摘するところです。

 もちろん、退職後に続く長い人生を送るために力を蓄えておく必要はあるとしても、彼らの収入は30台後半並み(家計調査・収支編で2022年、35〜39歳の勤労世帯の世帯主収入は46.5万円/月)で、資産はその3倍(家計調査・貯蓄負債編で2021年、30代勤労世帯の貯蓄額772万円)。今時の60代が暮らす、「老後」という言葉にはとても似つかわしくない生活が浮かび上がってくるということです。

 70代の中盤に差し掛かった「団塊の世代」の影響力や、「シルバー民主主義」が指摘されて久しい昨今ですが、高度成長期からバブルにかけての時代に青春を過ごした現在の60代もまた、(後の世代に比べれば)まだまだ「恵まれている」といっても良いのかもしれません。

 そうした意味も含め、「やはり“只者ではない”のが60代ではないか」とこの論考を結ぶ野尻氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿