その本は本屋の片隅にひっそり隠れていました。
毎日、本屋さんが目立つ所に置いても、いつのまにか地味な本がある棚に移っています。
昨日は文化人類学の本の中に潜んでいました。
「今日はこんな所に隠れていたんだね」
なぜか本屋さんは本を見つけます。
毎朝、この本が何処に隠れているのか探すのが楽しみだからです。
本屋さんは、この本が好きでしたが商売なので売れて欲しいと思う時もあります。
でもこの本がいなくなったら寂しいなとも思っていました。
ある日 奇麗な女の人がお店に入ってきました。
この本屋さんはかなり地味な本屋なので、奇麗な女の人が入って来る事などまずありません。
なので本屋さんは、少し緊張して顔が赤くなりました。
女の人は本棚を端から端までゆっくり見ていました。
そしてその本を少し背伸びして手に取りました。
本屋さんは「あっ」と心の中で声を出しました。
女の人が、じーっと本を見つめていると本は赤く染まりました。
本が照れてる。
「この本ください」
「カバーしますか?」
「いえ結構です」
女の人はお金を払うと
「この本,あなたに差し上げます」
「えっ?」
「これ私が書いた本なんです」
「そーでしたか」
「ほとんど売れなかった本なので何処の本屋さんに行っても置いて無かったんですけど、よーやくここで見つけました」
「だったらお持ちになったら」
「自分用のは1冊家にあります。私、本屋さんに自分の本が置いてある姿を時々見たいんです。だから本屋さんにプレゼントしますから、あなたが持っていてください」
「わかりました」
本屋さんはレジの後ろにある自分用の本棚に、女の人がいつ来ても見えるように置きました。
「ありがとう」
女の人はそう言うと、静かに本屋を後にしました。
本屋さんは、女の人の後ろ姿を見ながら本屋をやっていてよかったなと思いました。
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