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「この世界には私が撮らなければ誰も見たことがないものがあるのだと信じています」by ダイアン・アーバス。   

電池を外せば動かない。(ショートショートストーリー) #novel #book

2011-04-28 | ショートショートストーリー。

今の日本を考え、ショートショートストーリーを書いてみました。)(  MoiMoi。)

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「なんでカメラマンになったの?」

 公園のベンチで女の子が聞いた。

よく聞かれる質問なので答えは決めてある。

『独りで出来るから。それとカメラがあれば外出する気になるかと思って』

 「外に出るのが嫌いだったの?」  

 『嫌いじゃないけど得意でもなかった』

 内向的な性格改善の手段としてカメラマンになったと言うのはウソではなかった。

「よく分からないけど、今は大丈夫なの?」
『今日は大丈夫。昨日、腕時計を買ったから』
女の子は右手首にはめた黄色い腕時計を見つめた。
「腕時計を買うと外に出たくなるの?」
『そーじゃなくて、何か新しいものを身につけたら、外出したくならない?』
「なるかなー」
女の子は空を見上げて考えてみた。
『たとえば、バラの刺繍のブラウスを買った日とか』
 
 「バラなんか好きじゃない!」
 
 『そんじゃネコのペンダントは』
「それだったら分かる」
ネコの目をした女の子は少し微笑んだが、近くのコンビニで買って来た缶ジュースを一口飲むと表情が固くなり話し方に抑揚が無くなってきた。
「わたしも欲しい
『何を?』
「腕時計」
『どんなの?』
「針が無いやつ」
『デジタルって事?』
「デジタルは嫌い」
『なんで?』
正確すぎる。少し曖昧な方がいい」
『でも針が無いアナログ時計なんて売ってないと思うよ』
「だったら針が動かない時計でもいい」
『電池を外せば動かない』
「電池が無ければ動かない。電池が無ければ動かない」
女の子は何度も同じ言葉を繰り返した。

「いい事聞いた」
女の子は、またジュースを飲むと
新しいものを身につけたら外出したくなると、あなたは言った。だから明日、針の動かない時計をして出かける」
『本当は出かけたくないの?』
女の子は下を向いた。
 『どこに行くの?』
 「言えない」
『何しに行くの?』
「電池を外しに行く」
『電池を外しに?』
「電池を外せば動かないと、あなたは言った。だから電池を外しに行ってくる」
『それは君にとって大事な事なの?』
女の子は少し考え
「みんなにとって大事な事」
『みんなって?』
「世界の人達」

そう言うと女の子はうつむき
「明日になれば分かる。明日になれば時計なんか必要なくなるかもしれない」
『なるかもしれない?。って事は、ならないかもしれないって事?』
「電池を外せば動かない」
女の子はまた同じ事を言うと、ベンチから立ち上がり、
「これから時計を買いに行く

ボクはあわてて『この時計あげる』
そう言うと、黄色い腕時計を女の子に差し出した。
『時計屋さんで電池を取り出してもらえばいい』

女の子は
「これが無ければ、あなたは外に出ない?」
『出ないかもしれない』
「明日は、家から一歩も出ちゃだめ」

女の子は今まで僕に見せた事ない厳しい顔して言った。そして
「電池を外せば動かない。電池を外して時間を止める。時間が止まれば救える」
『救える?』
「救える」
『何から?』
「破滅から」

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