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「この世界には私が撮らなければ誰も見たことがないものがあるのだと信じています」by ダイアン・アーバス。   

公衆電話の思い出。

2014-05-23 | ショートショートストーリー。

女の子は雨の中、公衆電話の受話器を握りしめ下を向いていた。

電話の相手は恋人だろうか。

女の子は泣いていた。

赤い傘が震えていた。

 僕は少し離れた所から、その様子をしばらく眺めていた。

 撮りたかった。

映画のワンシーンみたいな映像。

でもカメラを向ける事は出来なかった。

ファインダーを覗けなかった。

女の子は、この日の事を早く忘れたいだろう。

記憶を写真に残されたくないだろう。

僕は胸の何処かに、女の子の姿を焼き付け、静かに立ち去った。

僕は思い出していたのかもしれない。

恋人と別れた時の事を。

雨のパリで。

あの子も代官山の公衆電話で誰かに見られていたかも。

泣いてる姿を。

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