女の子は雨の中、公衆電話の受話器を握りしめ下を向いていた。
電話の相手は恋人だろうか。
女の子は泣いていた。
赤い傘が震えていた。
僕は少し離れた所から、その様子をしばらく眺めていた。
撮りたかった。
映画のワンシーンみたいな映像。
でもカメラを向ける事は出来なかった。
ファインダーを覗けなかった。
女の子は、この日の事を早く忘れたいだろう。
記憶を写真に残されたくないだろう。
僕は胸の何処かに、女の子の姿を焼き付け、静かに立ち去った。
僕は思い出していたのかもしれない。
恋人と別れた時の事を。
雨のパリで。
あの子も代官山の公衆電話で誰かに見られていたかも。
泣いてる姿を。
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