『あの時、見た潜水艦』by MoiMoi。
子どもの頃に1度だけ行った事がある湖。
湖のちょうど真ん中あたりに島があった。
その島まで自分でボートをこいで行った時、かすかに湖底に何かを感じた。
誰かが僕を呼んでいる。
僕は泳ぎが得意ではなかった。
なので潜る事などまったくできなかった。
でも、その湖底には潜水艦が沈んでいると思った。
なんで潜水艦だと思ったのだろうか。
あの頃の湖は奇麗だったが、今はどうだろう。
近くに外人村があった。
そこにいた外国人の女の子と少し仲良くなった。
彼女はハーフだったので日本語が出来た。
名前はジュリアだったかジョアンナだったか。
あのボートに彼女は乗っていたのだろうか。
記憶はすでに曖昧になっていた。
行ってみよう、あの湖へ。
汽車は目的の駅に向かってゆっくりスピードを落としていった。
村の様子は、あの頃とほとんど変わっていない。
まるで昨日のように記憶がよみがえって来た。
駅前にまだ本屋があった。
隣の郵便局もだいぶボロくなっていたが健在だった。
と言う事は、当時泊まった旅館もあるかも。
ホテル形式の旅館は湖畔にあった。
湖は旅館の敷地内にあるようなもんだった。
駅から旅館があった方向に歩いて行った。
湖が見えたら左折。
大きな木が目印の旅館。
「台東旅館」は存在していた。
少し坂を下って行くと玄関があった。
玄関脇には駐車場があったが車は一台も停まっていなかった。
夏は混んでいるかと思っていたが、やはり寂れた土地なのだろう。
観光客がいない方がこちらとしては楽なので特に問題は無い。
玄関入ると正面に小さな絵が飾ってあった。
潜水艦の絵。
驚いた。
旅館の人に、なんで潜水艦の絵が飾ってあるのか聞いてみたら、昔、家族で泊まりに来た子どもが描いた絵だと教えてくれた。
僕は絵が描けない。
僕以外に湖底に潜水艦を感じた、子どもがいたと言う事だろーか。
荷物を置いて、さっそく湖まで行き、ボートを借り真ん中にある島まで漕いで行った。
大人になってからも泳げない。
何かあっても潜れない。
誰もいや何も僕に呼びかけて来ない。
何も感じない。
島にたどり着いたが、そのまま引き返そうとした、その時、突然波が起こり船が大きく揺れた。
島で遊んでいた女の子が、幽霊と遭遇したようなビックリした顔で、こっちを見た。
何が起こったのかと後ろを振り返ると、潜水艦が浮上していた。
それも2隻。
小さい方の潜水艦は、まるで親子のように大きな潜水艦に寄り添っている。
大きい方の潜水艦は僕を見つめているようだった。
女の子が
「ママ!ママ!」と大きな声で母親を呼んだ。
「どーしたの?何があったの?」
大人には見えていないのか、母親は平然としている。
でも僕には見えていた。
そのあと、潜水艦はゆっくり潜り始め目の前から消えてしまった。
僕が初めて潜水艦と出会った時の話はこれでおしまい。
これ以降、潜水艦は時々目の前に現れる。
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