みりんの徒然声

日々、感じたことを日記や詩でお届けします

みりんの徒然声 優しい終わりの迎え方 ラスト

2016-07-05 22:18:12 | 日記
なああ、しゃがれた猫の声で我に返る。またうとうとしていたようだ。もはやあたしをこの世に留めておくのはこの猫のためだけかもしれない。でもね、長く生きた猫は猫又になる。と言うからあんたもきっと大丈夫ね。とあたしは微笑む。不眠はいつしか他眠となり、あたしの味方になった。夢の中はいつだって幸福なあたしがいてあたしはもう夢と現実の境目が曖昧になっている。壁に張られた引き延ばされた古い写真をあたしはうっとりと眺める。忍さん、御主人ですか?そうだよ、今何をしているのか?生きているのかすら分からない大好きな人の写真。お子さんは?若い子は遠慮がない。ふふふ、あたしはゆったりと答える。いないよ、彼はあたしの恋人であり、親友であり、親代わりであり、子供であったからね。二人だけの世界ってやつですか?羨ましいですね。でしょう?あなたもそんなソウルメイトに出逢えるといいわね。余裕たっぷりに答える。やだー、忍さんったら。笑う彼女。ほら、もうその過去は現実だ。あたしは今、ソウルメイトを先に亡くし来世の再会を夢見る幸せな未亡人だ。小さな部屋は言った側から現実になる幸せな部屋だ。ああ、また眠くなってきた。忍さん、またね。はいはい、さようなら。この子を宜しくね。あたしは深々と頭を下げる。訪れた人にはこうして深々とさようなら、と言うことにしている。万かーあたしが死んだらこの猫が困らないように。忍さん、さようならじゃなくて、またね、でしょう?女の子は言う。はいはい、さようなら。もう、忍さんは。苦笑する背中を見送りあたしはまた目を閉じる。古い写真が笑い掛ける。なああ、猫が寄りそう。おやすみなさい。そして、さようなら。静かに静かに眠りが誘う。