「きみを嫌いな奴はクズだよ (現代歌人シリーズ12)」木下龍也
好きな短歌。今読むと内臓が掴まれたように痛くなります。
戦争が両耳に届く両目に届く時間を与えられずに
戦場を覆う大きな手はなくてきみは小さな手で目を覆う
ぼくは最年少の兵士だったキスは済ませたが恋は知らなかった
この歌人に掴まれてます。
ただ、ただ、好きな歌を
痩身の祖母にもたれる弟の夏が終わりに傾いてゆく
全方位春ゆうぐれの公園でブルーシートのおもりとなれば
もうずっと泣いている空を癒そうあなたが選ぶ花柄の傘
砂浜にH・E・Lまで書いてLを付け足し力尽きよう
ではOの到着次第速やかにHELLをHELLOにして浮上せよ
リクルートスーツでゆれる幽霊は死亡理由をはきはきしゃべる
独白もきっと会話になるだろう世界の声をすべて拾えば
長文のメールに「はい。」とだけ返すのがたのしくてひとりぼっちだ
うつくしい名前をもらいそれ以外なにももらえず死ぬ子どもたち
近すぎてぼくらはきっと出会えないまゆげとなみだみたいなものだ
立てるかい 君が背負っているものを君ごと背負うこともできるよ
2m前を死因が通過して、風、ポケットの切符さわる
雪を着る墓の匿名性を手で払って祖父を探す夕方
地元の図書館にリクエストをかけたけど
高いから買ってもらえず、お隣の市から借りてくれた。
まぁ、自分で買えってことだな。