ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

「第30回中国四国臨床臓器移植研究会」難波先生より

2012-08-28 12:08:26 | 難波紘二先生
【知恵熱】昨日土曜日は、広島市のホテルで開催された「第30回中国四国臨床臓器移植研究会」に行ってきた。
 13:00~の開催で、発表演題は16題、特別講演として東京女子医大田邊一成教授の「腎移植と抗体」があった。
 会長は広島大の大段秀樹教授(消化器・移植外科)だった。


 年1回の研究会なので、今年で発足30年目になる。これを「中四国腎移植懇話会」として結成したのが、当時広島大第二外科助手だった福田康彦氏で、1983年8月20日、岡山大学第二外科折田勲三教授を「当番世話人」として、第1回が倉敷市で開催されている。この頃、市立宇和島病院はすでに腎移植のメッカとなっており、米国ウィスコンシン大学から「死体腎の無償供与」を受け、万波誠がさかんに腎移植を行っていた。


 有名な臓器保存液「ベルツァー液あるいはウィスコンシン大液」(商品名ヴァィアスパン)は、この長距離輸送の経験を踏まえて開発されたものだ。
 1986年に市立宇和島病院は「腎移植100例」を9年と5ヶ月で達成し、10月25日に、女子医大の太田和夫教授を招いて、「腎移植100例記念シンポジウム」を開催している。ちなみに東京のど真ん中にある女子医大が100例を達成するには、11年かかっている。


 「中四国腎移植懇話会」は、その後「中四国移植懇話会」、さらに「中国四国臨床臓器移植研究会」と名称を変更し、現在に至っているが、回数は通算となっている。会場には福田康彦先生(後、県立広島病院副院長をへて広島総合病院院長)の姿も見えた。下関済生会病院長だった上領先生や呉共済の光畑先生もいた。演題は専門用語の略号が多く、大筋はわかるが細かいところはわからない。


 田邊先生の講演も同様で、「DSA」という用語の意味がわからない。「あ、これは暗号解読法で解くしかないな」と、聞き流しながらDSAが出てくる文脈を解析した。6~7回出てきたところで、「Donor Specific Antibody(ドナーに対するレシピエントが作る特異抗体)」の略でしかありえない、とわかった。どんな暗号でも使用頻度が多くなれば、かならず解読できる。後で喫煙所にいた、参加者の移植医に聞いたら、やはりそうだった。


 話の論旨は覚えているから、保持している短期記憶を「意味として再構成」し、長期記憶に貯蔵すればよいわけで、理屈としてはこの作業は簡単なのだが、まるで子どもが一挙に新しい知識や体験に曝されたような案配で、脳が草臥れることおびただしい。子どもなら知恵熱が出るところだ。知恵熱は出なかったが、今朝は脳と体が、ぐったりと疲労しているのを感じた。


 前に腎移植1,000例を個人として達成したのは、女子医大の太田先生と万波誠だけと書いたが、田邊先生も1,000例を達成されており、2012年現在、女子医大全体としては3,147例であり、現在も月15例のペースで進行中だそうだ。間違っていたので、訂正します。


 田邊先生の講演で非常に興味ふかく思ったのは、「血液型A型の人にB型の腎臓を移植すると、糸球体の内皮細胞にA型のものが出現し、キメラになる」という話だった。移植例の10%程度にこの現象が見られ、これがあると移植の長期成績が悪いという。後で懇親会の時に、さらにお話しを伺ったが、「拒絶反応が出て、そこに血液幹細胞が接着して修復するための結果なのか、キメラになるために拒絶反応が起こるのか、そこはまだ不明」ということだった。


 会場での質疑で、鳥取大の井藤教授(病理学)が、「骨髄移植を受けた患者で、胃がんが発生し、DNAを調べたら骨髄ドナー由来だった」という話を披露していたが、これも非常に興味ふかい。


 大腸ポリープの癌化に際しては、茎の部分にある「異型細胞巣」からがん化が始まる。アスピリンを服用していると、このがん化が防げるという大規模臨床試験結果があることを、名古屋日赤の伊藤部長(病理)から教わったが、アスピリンは血小板の凝集を防ぎ、血液中の白血球の血管外遊走を妨げるから、癌の悪性化を防ぐことができる。


 というのも、「癌の悪性化」つまり浸潤と転移は、マクロファージ機能をもった血中単球が、上皮細胞に細胞融合するか、核の情報を伝達することで生じるからだ。アスピリンのがん予防効果は、これで説明可能だ。


 「骨髄移植後の胃がん発生例」では、ドナーDNAとレシピエントDNAの両方を調べた結果、ドナーのものしか見つからなかったのであろうか?
伊藤先生、この論文をご存じでしたら、ご意見とともに教えて下さいませんか?


 不思議なことに、「腎移植後に移植された腎臓に発生した腎癌」のDNAを調べたら、すべてレシピエント由来である。それ以前に報告された例は、DNAが検査されておらず、すべて「癌の持ち込み」と解釈されていた。医学史上に残る「思い込みによる間違い」である。


 それで、今では「担癌ドナー」からの臓器提供が積極的に考えられるようになった。移植学会や泌尿器科学会は、「癌の持ち込み」が間違いだとわかると、当初の論点をそらして、「ドナーの人権と健康被害」を問題にしてきたわけだ。しかし、これは普通の「生体腎移植」のドナーを減らすことになる。死体臓器提供は増えず、生体ドナーも減れば、いったいどう責任をとるつもりなのであろうか?


 参加者と話してみて、外科系の移植医は「腎癌の手術経験がない」、泌尿器科医の多くは「移植の経験がない」ことがよくわかった。ここが日本の腎移植の「落とし穴」ないし「大地溝帯」である。相川厚は、「10年間腎癌の手術経験がない」そうだ。透析専門の吉田克法も同じ。高原史も同様だ。


 臓器移植はこれまで「健常臓器」の移植を対象として来たので、いわゆる「移植専門家」には、ガンや感染症についての専門的知識が乏しい。学生時代にならった知識を「金科玉条」としている。ガンの浸潤と転移についての「種と畑」理論はもう否定され、あらたに「上皮・間葉移行」説が登場しているのを知らない。そういう人たちが「権威」として幅をきかす。危険なことだ。歴史に汚名を残すだろう。


 白血病や悪性リンパ腫の核型異常を知っているものなら、がんや肉腫の核型がいかに異常であるか(数的にも、形態学的にも)をよく知っている。血液がんの遺伝子異常はきわめて単純である。からむ遺伝子も最低2個でよい。これに対してがんや肉腫は、遺伝子異常も複雑で、単純でない。病理発生が大きく異なることが予想されるゆえんである。


 系統発生の過程において、多細胞生物が出現し、ボルボックスのような細胞集合体から、海綿のような外胚葉(皮膚)と内胚葉(腸管)をもつ管状の生物に進化した際、体をパトロールして異物の侵入を防ぎ、同時に情報伝達をする遊走性の「アメーバ細胞」が生まれた。
 この細胞が後に2系統の進化をする。
 第一は、間葉系となり、血液細胞となる。
 第二は、原始生殖細胞となり、卵子と精子を生む。


 海綿動物ではアメーバ細胞は貪食細胞であると同時に生殖細胞なのである。
 だから後に血管と血液が誕生しても、血中に「多潜能幹細胞(PS細胞)」が存在し、末梢臓器に定着して「臓器幹細胞」になるのは不思議ではない。


 末梢血をアルカリフォスファーゼ(ALP)染色すると、リンパ球のかたちをしているが、ALP陽性の細胞が0.1~0.3%ほど見つかる。あれが「末梢幹細胞」である。この細胞は膜表面にALP陽性で、CD20というB細胞抗原とCD5というT細胞抗原を持ち、悪性化すると「マントル細胞リンパ腫」となる。
 卵巣の胚細胞も膜表面にALPが陽性である。
 なぜ、これらが共通に「アルカリ性環境でリン酸基を切断する酵素」を持つのかは明らかでない。
 しかし、この酵素がなにか重要な役割を果たしているのは間違いなかろう。


 「移植」という医療は人工的にキメラをつくる技術であり、学際的知識の結集と広い医学生物学的な知識が要求される医療だと思う。
 移植学会は視野狭窄に陥ることなく、大局的判断を誤らないようにしてもらいたいと思う。
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