【実験とは】
4/7 14:00から理研の記者会見があるというのでTVで「ミヤネヤ」を覗いたが、小保方、笹井という論文執筆者が出ていないので、あらかじめ録画しておいたこともあり、外出することにした。少しヒゲが伸びているので、洗面所に上がり電気剃刀を取り出そうとしたら、容器に潜んでいたカメムシをつかんだ。臭い。
スカンクの臭腺は肛門の周囲にあるが、カメムシでは背中にある。英語ではStink-bugという。こういう実用的な言葉は「岩波生物学辞典」、「英和/和英・生物学用語辞典」(三共出版)に載っていないから不思議だ。
あわてて洗面器の中に放り込んだ。背中から落ちたが、頭胸節と腹節をバネのように使って起き上がった。が、陶製の洗面器は這い上がれない。捉まえて殺さなければいけないのだが、ガムテープですぐに殺すのも、もったいない。そこで実験に使うことを考えた。
室内で捕らえた虫は、いつもはピンセットで挟み、エタノール溶液入りのビンに入れて殺している。しかし、洗面台には脚の皮疹に塗っている食用オリーブオイルがある。カメムシは気門により呼吸しているから、これを一滴たらせば、オイルが気門に入り窒息死するはずだ。これが実験の「アイデア」と「仮説」。
止まった状態でビンからオイルを一滴たらしたが、暴れるばかりで一向にくたばる様子がない。「あ、気門は腹部側壁に並んでいた」と気づいて、寝室にピンセットを取りに行き、つまんでひっくり返した。やはり腹部は厚い羽根に阻まれて、濡れていなかった。
カメムシは羽根がオイルに浸かったもので、手足をバタバタさせるが、まったく動けない。そこへまたオイルを一滴たらしたら、1分半で完全に動かなくなった。(写真)
このカメムシは「クサギカメムシ」で、ごくありふれた種である。この時期、越冬のため侵入した屋内から出ようとして、窓枠や天井によくたかっている。
さてこの経験だが、科学的にはこれで「アイデア→仮説形成→実験計画→実験材料と実験器具・薬品の用意→実行→結果の検証→記録の作成」という手順を踏んでおり、立派に科学実験である。1回の実験のように見えるが、実際には2回の実験だ。
検証した仮説は「カメムシの気門にオイルをかけたら、窒息死する」というものだ。
1回目は背中からオリーブオイルをかけたために、オイルが腹まで回らず、ムシは死ななかった。この実験はだから失敗である。
2回目は同じカメムシをひっくり返して、腹にオイルをかけた。だから気門がつまりすぐに窒息死した。
第1回目の実験は「オイルをかけたが気門のある腹側まで廻らず」失敗した。これは期せずして「対照実験」になっている。背中からかけてもカメムシのような「半翅類」(前羽根が厚いキチン質でできている昆虫)では、オイルが腹まで回らない。青虫なら別だが。
第2回目の実験は、カメムシの解剖学的構造の再認識により、手順を補正している。
オリーブ油は、もともとサラダ用の粘稠度の高いものだが、毒性はない。器具は先細のピンセットだけで、記録にデジカメを用いた。結果はオイルの物理学的性質が引き起こしたと解釈するほかない。カメムシは気門を塞がれて窒息死したのである。つまり仮説は証明されたことになる。

(実験材料・器具)
こういう単純な実験でも、「気門は腹側にある」という知識がないと、「オリーブ油をかけるとカメムシが死ぬ」と聞いて、すぐに追試すると、たいていは背中からかけるから、「再現性がない」ということになろう。
「STAP細胞」の実験を見ると、大きなところで「体細胞→STAP細胞→STAP幹細胞」という三つの実験がある。それぞれが相当複雑な実験で、しかも担当者が異なる。全員が一同に会してミーティングを開いた形跡もないし、実験手順をマニュアル化して本実験を行った気配もない。1,300万円を投じて1年がかりで追試すると理研が公表したが、これでは再現は不可能だろう。
科学の基本は仮説形成とその検証実験と結果の論理的解釈にあるので、多額の金と高価な装置を使っても、基本の思考方法が非科学的では何も生まれて来ない。
4/7 14:00から理研の記者会見があるというのでTVで「ミヤネヤ」を覗いたが、小保方、笹井という論文執筆者が出ていないので、あらかじめ録画しておいたこともあり、外出することにした。少しヒゲが伸びているので、洗面所に上がり電気剃刀を取り出そうとしたら、容器に潜んでいたカメムシをつかんだ。臭い。
スカンクの臭腺は肛門の周囲にあるが、カメムシでは背中にある。英語ではStink-bugという。こういう実用的な言葉は「岩波生物学辞典」、「英和/和英・生物学用語辞典」(三共出版)に載っていないから不思議だ。
あわてて洗面器の中に放り込んだ。背中から落ちたが、頭胸節と腹節をバネのように使って起き上がった。が、陶製の洗面器は這い上がれない。捉まえて殺さなければいけないのだが、ガムテープですぐに殺すのも、もったいない。そこで実験に使うことを考えた。
室内で捕らえた虫は、いつもはピンセットで挟み、エタノール溶液入りのビンに入れて殺している。しかし、洗面台には脚の皮疹に塗っている食用オリーブオイルがある。カメムシは気門により呼吸しているから、これを一滴たらせば、オイルが気門に入り窒息死するはずだ。これが実験の「アイデア」と「仮説」。
止まった状態でビンからオイルを一滴たらしたが、暴れるばかりで一向にくたばる様子がない。「あ、気門は腹部側壁に並んでいた」と気づいて、寝室にピンセットを取りに行き、つまんでひっくり返した。やはり腹部は厚い羽根に阻まれて、濡れていなかった。
カメムシは羽根がオイルに浸かったもので、手足をバタバタさせるが、まったく動けない。そこへまたオイルを一滴たらしたら、1分半で完全に動かなくなった。(写真)

このカメムシは「クサギカメムシ」で、ごくありふれた種である。この時期、越冬のため侵入した屋内から出ようとして、窓枠や天井によくたかっている。
さてこの経験だが、科学的にはこれで「アイデア→仮説形成→実験計画→実験材料と実験器具・薬品の用意→実行→結果の検証→記録の作成」という手順を踏んでおり、立派に科学実験である。1回の実験のように見えるが、実際には2回の実験だ。
検証した仮説は「カメムシの気門にオイルをかけたら、窒息死する」というものだ。
1回目は背中からオリーブオイルをかけたために、オイルが腹まで回らず、ムシは死ななかった。この実験はだから失敗である。
2回目は同じカメムシをひっくり返して、腹にオイルをかけた。だから気門がつまりすぐに窒息死した。
第1回目の実験は「オイルをかけたが気門のある腹側まで廻らず」失敗した。これは期せずして「対照実験」になっている。背中からかけてもカメムシのような「半翅類」(前羽根が厚いキチン質でできている昆虫)では、オイルが腹まで回らない。青虫なら別だが。
第2回目の実験は、カメムシの解剖学的構造の再認識により、手順を補正している。
オリーブ油は、もともとサラダ用の粘稠度の高いものだが、毒性はない。器具は先細のピンセットだけで、記録にデジカメを用いた。結果はオイルの物理学的性質が引き起こしたと解釈するほかない。カメムシは気門を塞がれて窒息死したのである。つまり仮説は証明されたことになる。

(実験材料・器具)
こういう単純な実験でも、「気門は腹側にある」という知識がないと、「オリーブ油をかけるとカメムシが死ぬ」と聞いて、すぐに追試すると、たいていは背中からかけるから、「再現性がない」ということになろう。
「STAP細胞」の実験を見ると、大きなところで「体細胞→STAP細胞→STAP幹細胞」という三つの実験がある。それぞれが相当複雑な実験で、しかも担当者が異なる。全員が一同に会してミーティングを開いた形跡もないし、実験手順をマニュアル化して本実験を行った気配もない。1,300万円を投じて1年がかりで追試すると理研が公表したが、これでは再現は不可能だろう。
科学の基本は仮説形成とその検証実験と結果の論理的解釈にあるので、多額の金と高価な装置を使っても、基本の思考方法が非科学的では何も生まれて来ない。
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