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ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【AMAZON】難波先生より

2013-02-11 12:42:00 | 難波紘二先生
【AMAZON】もちろん世界最大のオンライン書店だが、元はギリシア神話に出てくる「弓を引く邪魔にならないように、右乳房を切除した女戦士」のことである。トロイ戦争ではアマゾン族の女王ペンテシレイアがトロイの救援に駆けつけるが、アキレスとの一騎打ちで倒されることになっている。
 3世紀、ローマの作家クイントゥス「トロイア戦記」(講談社学術文庫)では、アキレスは長大な槍を抱えて女王に突進し、「たちまちペンテシレイアの右の乳房を傷つけた」とある。話が自己矛盾している。


 前から「アマゾン伝説」の起源が気になっていたが、出典が見つからなかった。たまたまヒポクラテス「古い医術について」(岩波文庫)を読んでいたら、「空気、水、場所について」という環境衛生について述べた論文に、黒海の北東にあるアゾフ海に住むスキタイ人の中に「サウロマタイ人」がいて、女系社会であり、女はみな戦士で右乳房を幼時のうちに専用の青銅製器具を用いて焼き切るとある。これは明らかに「アマゾン族」についての記述だが、そういう名称では呼ばれていない。


 ヘロドトスは「歴史」(岩波文庫)でこう書いている。「サウロマタイ人はアマゾン族ともいい、アマゾンのことをスキタイ語では<オイオルパタ>という。オイオルは男、パタは殺すという意味である。ギリシア語になおせば<男殺し>という意味である。」
 ここではアマゾネスの社会では敵を3人(1人とも)殺さないうちは若い女は軍隊から除隊できない、除隊するまで処女でいなければならない、除隊後こだねをえるために、他の部族の若い男と交わる。生まれた子が男であれば殺す。女であれば育てる、と社会継続の方法が述べられている。だが「右乳房切除」の話は書いてない。


 百科事典AmericanaのAmazon(神話)の項を読んでいると、ディオドロス・シクルスが「アマゾン」について記載していることがわかった。彼は1世紀のギリシア語による歴史家である。その「世界全史」は全12冊(ペンギンブック:英語ーギリシア語対訳)もあり、まだ邦訳がない。畏友竹島君とライフワークとして翻訳しようと約束していたのだが、先に死んでしまった。


 で、それを見ると(索引がしっかりしているので、たちどころに必要な箇所が出る)、軍を率いてスキタイに侵略したペルシアのアケメス朝の創始者キュロス王を捕虜にし、殺害したのが「アマゾン族」だとある。「右乳房切除」の掟についても書かれている。
 しかも、「このために、この国民はAmazonと呼ばれるのである」と語源説明までしている。
 訳注によると、amazonは a=ない、mastos=乳 が結合したギリシア語で「乳なし」の意味。つまり固有名詞ではなく普通名詞が固有化したものだという。


 事実、ディオドロスはリビア(アフリカ西部にも、「アマゾン族がいた」と記している。エチオピアの近くで、アトラス山のふもとにあり大洋に面した沼地の中の島にある、というのだから記載がかなり混乱している。ここでも女系社会で、乳房切除が行われているが、男性乳児の殺害や手足を骨折させるという行為は記載されていない。
 (ここで不思議なのは、「空気、水、場所について」第13節冒頭には「以上がエジプト人とリビア人についてである。」とあるのに、第12節は短くアジアのことについてしか触れていない。スキタイ人の話は第17節に出てくる。アフリカの話がカットされたとしか思えない。)


 ヒポクラテスは原子論を唱えたアブデラのデモクリトスと同時代人で、ペルシア戦争後、「ペリクレスの平和」の時代に東地中海世界をひろく旅行し、医学を研鑽した人だ。だからBC400年頃に活躍している。「ヒポクラテス全集」は死後に「ヒポクラテス学派」の医師たちがまとめたもので、問題の論文の成立時期は不明である。 
 ヘロドトスは彼より約50年前の人で、「歴史」を書いた目的はペルシア戦争(BC492~479)の原因と経過を記すことだった。もしヒポクラテスが「歴史」を読んでいたら、「アマゾン」という名称を記したはずで、書いてないということは彼が読んでいない。従ってこれは直筆の論文のひとつだ、ということになるのかも知れない。


 アマゾン川の語源は川を下る途中で女性戦士に襲われたから、と何かに書いてあった。南米にはアマゾナスという町もいくつかある。
しかし、オンライン書店を始めるにあたり、なんで「アマゾン」と命名したのか、そこがわからない。
 どなたかご存じの方、ぜひご教示下さい。
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