ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【コーヒー】難波先生より

2013-03-20 12:18:33 | 難波紘二先生
【コーヒー】の原産地はアラビア半島イエメンで、紅海からアデン湾への出口にある海峡の対岸モカ(Mocha)郊外である。アラビア語では「クァファ(Qahwa)」という。植物としてのコーヒーの学名はCaffea arabicaで、「アラビア」という地名が入っている。
(梶田昭「医学の歴史」,講談社学術文庫, によれば、エチオピア原産でマホメット以前の6世紀にアラビアに伝わり、10~11世紀のアラビア人医師が飲み方や用法を考案したという。)
 植物中のチッソ環を含む化合物で薬理作用があるものを「アルカロイド(Alkaloid)」というが、コーヒーの主成分カフェイン(茶にも含まれる)は、タバコのニコチン、阿片のモルヒネと並んで「三大アルカロイド」のひとつだ。
 
 イスラム教が飲酒を禁じたため15世紀の半ばに、これが酒に代わる飲料として広まった。コーヒー豆を焙煎して粉にし、コーヒーをいれる方法を発明したのは「スーフィー派」の聖職者アル・ザブハーニーだといわれる。1450年頃に死去している。当初は儀式用の飲み物だった。
 この新しい飲み物は、喫茶店で出され人々の社交の場となったので、イスラム教は何度も「コーヒー禁止令」を出している。


 英国に伝わったのは17世紀の中頃、「清教徒革命」の時代で、ロンドンに多数の喫茶店ができた。まだ紅茶が輸入される前で、富裕層は水が汚れているので、朝からビールやワインを飲んでいたが、飲料としてのコーヒーは覚醒作用もあり、主に知的階層の愛好品となった。18世紀にはヨーロッパ全土に広まっていた。20世紀の半ば、パリのカフェ(喫茶店)はサルトルやカミュなど作家の溜まり場で、彼らは私書箱とお定まりの席を持ち、ここで手紙を読み原稿を執筆した。(一日に何杯のコーヒーを飲んだかは知らない。)


 コーヒーに含まれるカフェインは、お茶に多いテオフィリン、ココアに多いテオブロミンというアルカロイドと構造的な類縁関係にある。テォフィリンには気管支拡張作用があり、喘息の治療に用いられる。これらのアルカロイドには、ニコチン、モルヒネと同様に習慣性(中毒性)がある。
 カフェインの致死量は成人で約10グラムであり、通常の方法で出したコーヒーだと、一度に100杯以上を飲まないと死なない。カフェインは脳細胞のアデノシン受容体に競合的に結合するので、「眠気を抑制する」という薬理作用を発揮する。


 <コーヒーにニコチン酸が含まれている>というHPの紹介を岡山のO先生からいただいた。
 http://www.chem-station.com/blog/2007/07/post-26.html
 ニコチン酸はナイアシンともいい、ニコチンの誘導体でさらにピリドキシン(ビタミンB6)に変化する。ニコチン酸もビタミンB群に含まれ、欠乏すると「ペラグラ」という皮膚病変をともなう特異な病気になる。トウモロコシを主食とする住民(いまの北朝鮮のような)に多い。
 ただコーヒーは栽培品種となり、世界各地で栽培されており、品種により含有アルカロイドの種類、含有量は異なると思われ、一律には論じられない。


 インスタント・コーヒーを発明し、最初に特許を取得したのは日本人科学者である。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/インスタントコーヒー


 この製法には大別して2法があり、
 1)スプレー・ヒート法:熱風の中にコーヒー液を噴霧し、熱乾燥により細顆粒状の粉末にするもの。コストが安く大量生産できる利点があるが、風味が失われる欠点がある。ネスカフェの「エクセラ」がこの方法で作られている。メーカーによっては完全に溶けず、澱が残るものがある。
 2)凍結乾燥法:低温で溶液を凍結させ、細かく砕いた後に、減圧して水分を飛ばして乾燥させるもので、粗大顆粒状のパウダーができる。過熱されていないので風味は失われにくいが、手間がかかり、コストが高くなる。ネスカフェ「ゴールドブレンド」がこの方法で作られている。この方法の場合、パウダーはお湯に完全に溶け残渣が生じない。


 余談だが、タバコは日本と同様に中国でも早くから普及した。しかし明の皇帝は1637年以後(禁煙論者が喜びそうなことだが)、厳しい禁煙令を出した。密作者、密売者には死刑をもって臨み、さらし首にした。このためポルトガル人がすでに持ち込んでいた阿片を代わりに吸引するようになった。中毒性はこっちの方がつよい。この阿片吸入装置が日本に伝来してキセル(煙管)となった。きざみタバコを詰める煙管のがん首は、本来は阿片の樹脂を詰める場所だったのである。1729年、清の皇帝は「阿片禁止令」を出したが、もうすでに手遅れだった。(なお、満州族は日本ー朝鮮経由で喫煙の風習を取り入れており、清朝は禁煙令は出さなかった。)


 中国に阿片の需要が高いことを知った英国は、茶の輸入代金を銀で決済せず、インドから運んだ阿片で決済する「物物交換」を行った。インドから阿片を広東に輸送し、陸揚げした後に茶を積んで本国に帰るという「三角貿易」である。これに対して清朝政府が英国の阿片を没収し、焼き捨てたことから二度にわたる「阿片戦争」が起き、負けた中国は多額の賠償金と香港の割譲を認めさせられ、植民地化の道を歩むことになった。
 つまり中国は、明朝の時代に「禁煙令」出したために阿片の流行を引き起こし、そのつけを清朝になって支払わされたわけである。


 ニコチン、モルヒネ、カフェインだけでなく、植物アルカロイドが動物の脳あるは他の細胞に受容体を持っているというのは、まことに不思議な現象だが、もともとこれは植物毒で、植物が身を守るために発達させてきたと考えれば説明がつく。害虫や葉を食べる草食動物や実を食う鳥などから、自己を防御するのに、これらのアルカロイドが役立っている。事実タバコの吸い殻の水抽出液(ニコチン溶液)は、つよい殺虫作用をもっている。
【参考文献】
 1)T.スタンテージ:「世界を変えた6つの飲み物」, インターシフト, 2007
 2)P.ルクター, J.バーレサン:「スパイス、爆薬、医薬品:世界史を変えた17の化学物質」, 中央公論新社, 2011
 3)宇賀田為吉:「タバコの歴史」, 岩波新書, 1973
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