【肺移植】3歳の男児へ母親から右肺中葉を移植する手術が岡山大学病院で成功し、「世界初だ」と7/2付各紙が報道している。
ちょっと待ってもらいたい。「毎日」によれば、
<男児は白血病治療で骨髄移植を受けた後、移植された細胞が男児の肺を異物と認識する拒絶反応を起こし移植が必要な状態だった。>(五十嵐朋子、吉田卓矢・記者)という。
http://mainichi.jp/select/news/20130702k0000m040019000c.html
つまり患児は急性骨髄性白血病(AML)か急性リンパ性白血病(ALL)を発症し、小児科で治療を受けたが、寛解に至らず「骨髄移植(BMT)による治療を受けた、ということだろう。
骨髄のドナーは書いてないが、母親からでなければ肺移植の意味がない。(後述)
白血病だけでなく、がん治療の最後の方法としてBMTは最近よく行われている。今年2月に死去した歌舞伎の市川團十郎(血液型A型)は2008年、急性前骨髄球性白血病(APML)の治療のため妹(O型)からのBMTを受けた。團十郎の骨髄を薬剤や放射線で完全に殺し、妹の骨髄を移植して、植えた造血幹細胞が新たな骨髄を作ると、リンパ球まで妹のものになるため、「免疫系」が他者のものとなる。もちろん血液型もO型に変わる。
そこで移植された臓器(骨髄細胞)がレシピエントの臓器を攻撃し始める。この原理を使ってがん細胞(白血病細胞)を殺そうというのが、「がん治療目的でのBMT」(ミニ移植)である。
ただこの治療は、化学療法が失敗した場合の補足的、二次的な治療であり、はじめからBMTをする施設はない。どこの小児科で治療を受けたのかは報道ではわからないが、要するに一次治療が失敗に終わり、BMTを採用したものである。
BMTを実施した場合、1ヶ月以内に出現するのが「急性GVHD(移植片対宿主病)」で、皮疹、黄疸、下痢が主な症状である。
この患児の場合、「肺にGVHD反応」が起きて肺移植が必要になったとされているので、これは「慢性GVHD」で、肺に「閉塞性細気管支炎」が発生し、進行性の呼吸不全を生じたのであろう。これは骨髄の移植から3ヶ月以後に生じる。
「日本血液学会」は、ちゃらんぽらんな「日本移植学会」と異なり、日本で行われたBMTの全例を年齢に関係なく登録し、「BMTデータ一元化」を達成している。これは末梢血幹細胞採取時に造血幹細胞が増えるように薬物を投与するので、それにより「将来もしかしたら、ドナーの白血病発生率が高くなりはしないか」という懸念があり、それをモニターするためである。
東大血液・腫瘍内科の黒川峰夫教授(企画)「医学のあゆみ」2012/2/4号が「造血幹細胞移植の最新動向」という特集を組んでいるが、2009年の数値で、年間約400件の小児(14歳未満)BMTが実施されている。
肺のGVHDの治療についての森下剛久(よしひさ)論文(P.425-430)を読むと、ステロイド投与と「研究的治療」が挙げられている。つまり「手の打ちようがない」ということだろう。
つまり小児科が二度も治療に失敗した後、「研究的治療」によりドナーである母親の肺を移植したということだ。これなら肺GVHDは起こらない。移植した骨髄と肺は同一人のものだからだ。つまり肺移植は「研究的な」三次治療なのである。
しかし慢性GVHDは口腔・食道、眼球、肝臓、骨格筋などにも起こり、肺移植でこれらは防げない。
こういうことをどの新聞も報道しない。ちょっと文献を調べればわかることなのに…
ちょっと待ってもらいたい。「毎日」によれば、
<男児は白血病治療で骨髄移植を受けた後、移植された細胞が男児の肺を異物と認識する拒絶反応を起こし移植が必要な状態だった。>(五十嵐朋子、吉田卓矢・記者)という。
http://mainichi.jp/select/news/20130702k0000m040019000c.html
つまり患児は急性骨髄性白血病(AML)か急性リンパ性白血病(ALL)を発症し、小児科で治療を受けたが、寛解に至らず「骨髄移植(BMT)による治療を受けた、ということだろう。
骨髄のドナーは書いてないが、母親からでなければ肺移植の意味がない。(後述)
白血病だけでなく、がん治療の最後の方法としてBMTは最近よく行われている。今年2月に死去した歌舞伎の市川團十郎(血液型A型)は2008年、急性前骨髄球性白血病(APML)の治療のため妹(O型)からのBMTを受けた。團十郎の骨髄を薬剤や放射線で完全に殺し、妹の骨髄を移植して、植えた造血幹細胞が新たな骨髄を作ると、リンパ球まで妹のものになるため、「免疫系」が他者のものとなる。もちろん血液型もO型に変わる。
そこで移植された臓器(骨髄細胞)がレシピエントの臓器を攻撃し始める。この原理を使ってがん細胞(白血病細胞)を殺そうというのが、「がん治療目的でのBMT」(ミニ移植)である。
ただこの治療は、化学療法が失敗した場合の補足的、二次的な治療であり、はじめからBMTをする施設はない。どこの小児科で治療を受けたのかは報道ではわからないが、要するに一次治療が失敗に終わり、BMTを採用したものである。
BMTを実施した場合、1ヶ月以内に出現するのが「急性GVHD(移植片対宿主病)」で、皮疹、黄疸、下痢が主な症状である。
この患児の場合、「肺にGVHD反応」が起きて肺移植が必要になったとされているので、これは「慢性GVHD」で、肺に「閉塞性細気管支炎」が発生し、進行性の呼吸不全を生じたのであろう。これは骨髄の移植から3ヶ月以後に生じる。
「日本血液学会」は、ちゃらんぽらんな「日本移植学会」と異なり、日本で行われたBMTの全例を年齢に関係なく登録し、「BMTデータ一元化」を達成している。これは末梢血幹細胞採取時に造血幹細胞が増えるように薬物を投与するので、それにより「将来もしかしたら、ドナーの白血病発生率が高くなりはしないか」という懸念があり、それをモニターするためである。
東大血液・腫瘍内科の黒川峰夫教授(企画)「医学のあゆみ」2012/2/4号が「造血幹細胞移植の最新動向」という特集を組んでいるが、2009年の数値で、年間約400件の小児(14歳未満)BMTが実施されている。
肺のGVHDの治療についての森下剛久(よしひさ)論文(P.425-430)を読むと、ステロイド投与と「研究的治療」が挙げられている。つまり「手の打ちようがない」ということだろう。
つまり小児科が二度も治療に失敗した後、「研究的治療」によりドナーである母親の肺を移植したということだ。これなら肺GVHDは起こらない。移植した骨髄と肺は同一人のものだからだ。つまり肺移植は「研究的な」三次治療なのである。
しかし慢性GVHDは口腔・食道、眼球、肝臓、骨格筋などにも起こり、肺移植でこれらは防げない。
こういうことをどの新聞も報道しない。ちょっと文献を調べればわかることなのに…
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