ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【冬来たりなば】難波先生より

2013-02-11 12:54:15 | 修復腎移植
【冬来たりなば】春遠からじ、という。
 苦節、7年だ。2006年秋に日本初の臓器売買事件が摘発され、11月に宇和島徳洲会病院が「病腎移植(修復腎移植)」の公表に踏み切って以来、移植学会や透析で成り立っている学会や厚労省から徹底的に痛めつけられてきた。メディアの偏見と独断にも悩まされた。


 ここに来て良いニュースがいくつかある。
 1)万波誠の腎移植執刀症例数が、995例を超えた。今月中か遅くとも3月には、日本では前人未踏の「執刀千例」に達するだろう。
東京女子医大、名古屋第二赤十字病院のように施設としての移植例数が1000例を超えるところはあるが、チームワークのため一人の医師が腎移植の執刀医ではない。ひとりで1000例の腎移植の執刀医をつとめたのは、万波誠だけである。恐らくこの記録を破るものは出ないだろう。脳死臓器提供が飛躍的に伸びない限り。


 万波医師の腎移植第1例は、1977(昭和52)年12月21日、広島大学第2外科の応援をえて宇和島市立病院で行われた。もちろん四国では初めての腎移植である。あれから36年が経つ。彼も健康で、彼が作った「瀬戸内グループ」の医師たちも全員健在で、今でも緊密なチームワークで、互いに助け合って現役でいるのは「奇跡」としかいいようがない。


 2)東京西徳洲会病院顧問の小川由英先生の修復腎移植「臨床研究」に関する演題が、来る5月19日に「アメリカ移植学会(Am. Transplant. Congress)」で発表されることが決まった。すでに2011年、ピッツバーグ大移植外科のNalesnikやUNOSが「小径腎がんの移植リスクは0.1~1%」と数値評価を報告しており、今後、全米の修復腎移植実施にかかわる統計が出てくる可能性が高い。


 いずれにせよ、日本の「修復腎移植の臨床試験」結果は、つよい関心を集めることだろう。もちろんポジティブな評価だ。ピッツバーグのナレスニク教授も、フロリダのハワード教授も参加するだろう。ロンドンのニコル教授も来るかもしれない。
 アメリカ移植学会が評価して、日本の移植学会はしぶしぶ「四国の田舎もの」のイノベーションをやっと受け入れるという展開になるだろう。


 3)近藤先生の『極東のガラパゴス島で:慢性腎不全の医療人類学』は2月の企画会議をへて、正式出版の段取りになるだろう。
いまは一刻もはやく、透析医療の現状について、患者の苦しみと医療経済のひずみについて、多くの市民に情報を提供することが必要だ。


 4)そう思っていたら、麻野涼『死の臓器』(文芸社文庫)という生体腎移植をテーマにした「書き下ろし医療サスペンス」にめぐり逢った。著者はプロのノンフィクション・ライターである。非常によく勉強している。


 テレビ局の下請け会社でディレクターをしている沼崎恭太は、出版社で週刊誌の記者として働いていたときに、ある事件で手記を無理やり載せた若い女性がその直後に自殺した責任をとる形で退社したという過去をもつ。
 沼崎の取材チームが自殺の名所、富士山麓の青木ヶ原を訪れ、偶然に若い女性の自殺死体を発見したところから、全体のストーリーが始まる。死体は左の腎臓を摘出された跡があり、大量のハルシオンを服用し、凍死したものだった。


 事件は日本初の腎臓売買事件、それがきっかけで「修復腎移植例」の存在が公表される。場所は熊本県A市の「聖徳会日野病院」に置き換えられている。対立する「慈愛会病院」の太田有は分院を建てて、この病院から透析患者をうばい、資金を豊かにして代議士になることをねらっている。


 ある日、彼の病院に躁うつ病の女性患者柳沢裕子が来る。話を聴けば、「正徳会病院で、騙されて腎臓を取られた」という。この話を若い医師から聞いた太田は「私が処理するから、口外するな」と指示する。
 間もなく、正徳会病院の日野は警察から事情聴取を受けることになる。その間にも太田の新病院建設計画はすすむ。


 やがて慢性腎不全患者の奥村剛とその内妻が、柳沢裕子から腎臓を買ったとして逮捕される。場所は違うが、この後の展開はほぼ実際に起こったとおりである。狭い町におしかけるマスコミ、犯罪呼ばわりする日本移植学会理事長、日本透析医学会の理事として調査委員会にもぐり込む太田有。修復腎移植を声高に糾弾する地元選出の代議士上原宗助。


 上原の資金的バックには共健製薬が付いている。上原の右腕といわれた営業部の船橋甫が急に退社した。連絡も取れなくなった。上原はかつて身内の腎不全患者について日野に医の道に反する要望をして、にべもなく断られたことがあった。
 一方、修復腎移植についてのマスコミの一方的な報道に憤った沼崎は、青木ヶ原遺体について独自調査を開始する。摘出された腎臓は生体腎移植のためではなかろうか?沼崎には小学校長だった父親が、いじめ問題に対するマスコミの一方的報道により、勤務中の脳梗塞で倒れたという「メディア災害」の経験があった。それが彼を報道の世界に向かわせたのだった。


 厚労省の調査で過去2年間に聖徳会日野病院で実施された生体腎移植のドナーのうち、1例だけカルテが不明なものがあった。沼崎は樹海の凍死体とこの不明のドナーを結びつけ、「第二の臓器売買疑惑」というスクープを流してしまう。自分も加害者になったのだ。そこにかつて同じ出版社にいて恋人だった由香里が現れる。由香里は渦中の日野医師の娘だった。その手には行方不明のドナーカルテがあった。父親に頼まれ由香里が保管していたのだ。由香里は沼崎の誤報をはげしくなじる。


 それは暴力団の抗争事件で殺人の罪を犯して服役し、出所した男が妻とともに旧姓に戻った実の娘に腎臓を提供したものだった。そのことを知られたくない父は、極秘にしてくれるように日野医師に頼んだものだった。由香里は沼崎に、上原議員の後援会長が太田医師であること、上原の娘は慢性腎不全で透析を受けていることを告げる。


 上原の娘を取材した沼崎は、彼女が腎移植を上海で受けたことを知る。2年前だ。口ごもるように、適切な謝礼はしたが、脳死体からの腎臓移植だと弁解する。会社に連絡し、急きょ上海虹橋空港に飛んだ沼崎には、思いもよらぬ局面が待ち構えていた。
 (ここから先は、本を買って読んで下さい。720円です。)




 帯のキャッチコピーに<医学界激震!神の手か!移植マニアか?、医学界のタブーを徹底した取材で描いた、社会派ミステリー>とある。
 唯一名前が出て来る日本の作家が、松本清張であり、実際に起こった事件をノベライズした非常にスケールの大きい、緊迫感のあるミステリーである。同時にこれは、「修復腎移植」への応援歌である。できるだけ多くの方々に読んでいただきたいと思う。私も10冊ほど買って、友人たちにプレゼントします。


 やはり春は遠くないと思う。
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