【自然の実験】
「病気は自然の実験である」という文言は鹿鳴荘病理研究所メールのキャッチコピーである。これには二つの意味がある。
第一に、病気は自然が与えてくれた実験なのだから、いたずらに嘆かず悲しまず苦にせず、自己観察の機会としてとらえた方がよい、という意味だ。
正岡子規は「痰一斗へちまの水も間に合わず」と自分の肺結核を見つめて名句を残している。自分の状態を見つめて知性と理性を発揮すれば、糖尿病を「糖質制限食」によりコントロールしようとか、「うつ状態」が眼精疲労によるものだから、持続性睡眠薬を用いて睡眠時間を長くし、眼を使う時間を減らそうとか、いろいろ対処法が出てくる。
第二は、ひろく人間に起こる病気は自然が与えてくれた「貴重な実験」であり、その発生頻度、年齢・性別の頻度、地理学的分布、病因、病理発生、病態、予後を研究することは、有効な治療法の開発にもたいへん重要となるという意味だ。
実験用動物はほとんどが純系といって、遺伝子組成がほぼ同じである。そういうマウスやラットは20世紀の半ばになって確立された。だから移植拒絶反応が起こらないヌードマウス、特定の遺伝子が機能停止したノックアウトマウス、別の遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスなどは、一卵性双生児(この場合も免疫遺伝は異なる)以外は遺伝子がすべて異なる人間のモデルにはならない。
「がんもどき」論争にみられるように、多くの人は医者をふくめて「胃がん」、「大腸がん、「肝臓がん」があると思っているが、同じ胃がんでも多数の種類がある。何よりも重要なのは個人の遺伝子がそれぞれに、あまりにも異なっているので、あるのは「そのヒトにできた胃のがん」であり、他の人の「胃のがん」と同じではないということだ。つまり病気は個性のひとつなのだ。
これは「個人」は存在するが「人間」や「人類」は抽象名詞であり、概念だから実在しないと述べたアリストテレス以来、科学の基礎概念をなしている。
ジョン・ホーガンが『科学の終焉』(徳間書店, 1997)で指摘したように、科学研究を推進するには莫大な資金と人材が必要であり、投入すべきリソースと得られる成果との間には自然の閾値がある。宇宙科学がそうなったように、生命科学もやがてそうなるだろう。
科学研究に無限の研究費を投入できる国家などありえない。「科学が終わる」時がある。
「パナケイア(万病に効く特効薬)」がありえないように、「がんの特効薬」などあるはすがない。やがてそのことに気づいて、投資は減退するだろう。1980年代は「がんのミサイル療法」が流行し、今は「3Dプリンタで臓器製造」が流行しようとしているが、どれだけの治療法が実際にものになったのか…
<Dr.CKD:小保方論文をみて最初に思ったのは胃潰瘍→胃がんの発症との関連である。塩酸にさらされた胃は壁細胞の崩壊により粘膜筋板までがえぐられたUlcerを形成するが、慢性炎症、瘢痕と関連して悪性の胃がんを発症する事がある。ヘリコバクターも関連するので、刺激説はなおさら有力。そこで、分化粘膜上皮細胞がstem cellに戻り、ここから癌幹細胞にコンバージョンを受けたクローンが癌化するのではないかという考えと、小保方論文がリンクされる可能性があって大変興味を持った次第である。…
刺激によりレジデントな成熟分化細胞がSTAP現象によって癌幹細胞に変換し、癌悪性化に成功する、といったような事は十分ありうる>
http://blog.fujioizumi.verse.jp/?eid=247
という意見が述べられているが、ピロリ菌発見後にも発がんの「刺激説」を支持するとは…
では胃のMALTomaの発生をどう説明するのだろうか?
細胞分裂がさかんな細胞ほどがんになりやすいとすれば、セルサイクルが2日程度と短い骨髄細胞と口腔粘膜に骨髄性白血病や口腔がんが多発しなければならない。が、そういう事実はない。
強い刺激が発がん要因になるのであれば、皮膚癩患者の深部火傷に皮膚がんが多発するはずだ。が、そういう事実はない。
皮膚基底細胞がんはメラニンに乏しい白人に多発する。またDNA修復酵素に異常がある色素性乾皮症の患者にも多発する。いずれも紫外線によるDNA損傷とからんでいる。しかし太陽光線を「刺激」とはいわない。
一体「刺激(Stimulus)」という用語をどういう定義で用いているのだろうか…
「岩波生物学辞典」の定義=「生体に働きかけてそれに特異的な反応や行動の発現または増強を喚起・誘発するような外的作用(または作用因)」
「最新医学大辞典」(医歯薬出版)の定義=「生体に働いて生体特有の反応を惹起する要因」
これらの定義における「刺激」は、リガンドと受容体の結合に特異性があるから反応が惹起されることを内包している。小保方論文タイトル「Stimulus-Triggered…」というのは塩酸しかトライしていないから「刺激」とはいえない。塩酸でしか起こらないということの証明がない。酸の種類とpHという二つの変数があるのに、他の酸を調べないで「pH5.7」だけが原因だとする論理は科学的とはいえない。まあ、捏造と判明したのだから、今ではどうでもよいことだが。
たしかアイスランド政府は遺伝子解析会社と契約して国民の遺伝子情報を提供し、見返りに医療費の負担だったかをしてもらうことにしたと記憶する。国民の遺伝子は多種多様であり、その中にはきわめて貴重な遺伝子異常あり、それが多くの難病発症のカギを握っているかも知れない。
マウスの実験も大事だが、まず日本人の「ゲノム解析」を行うことが重要だろう。それが「自然の実験」を生かす第二の道だ。
「病気は自然の実験である」という文言は鹿鳴荘病理研究所メールのキャッチコピーである。これには二つの意味がある。
第一に、病気は自然が与えてくれた実験なのだから、いたずらに嘆かず悲しまず苦にせず、自己観察の機会としてとらえた方がよい、という意味だ。
正岡子規は「痰一斗へちまの水も間に合わず」と自分の肺結核を見つめて名句を残している。自分の状態を見つめて知性と理性を発揮すれば、糖尿病を「糖質制限食」によりコントロールしようとか、「うつ状態」が眼精疲労によるものだから、持続性睡眠薬を用いて睡眠時間を長くし、眼を使う時間を減らそうとか、いろいろ対処法が出てくる。
第二は、ひろく人間に起こる病気は自然が与えてくれた「貴重な実験」であり、その発生頻度、年齢・性別の頻度、地理学的分布、病因、病理発生、病態、予後を研究することは、有効な治療法の開発にもたいへん重要となるという意味だ。
実験用動物はほとんどが純系といって、遺伝子組成がほぼ同じである。そういうマウスやラットは20世紀の半ばになって確立された。だから移植拒絶反応が起こらないヌードマウス、特定の遺伝子が機能停止したノックアウトマウス、別の遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスなどは、一卵性双生児(この場合も免疫遺伝は異なる)以外は遺伝子がすべて異なる人間のモデルにはならない。
「がんもどき」論争にみられるように、多くの人は医者をふくめて「胃がん」、「大腸がん、「肝臓がん」があると思っているが、同じ胃がんでも多数の種類がある。何よりも重要なのは個人の遺伝子がそれぞれに、あまりにも異なっているので、あるのは「そのヒトにできた胃のがん」であり、他の人の「胃のがん」と同じではないということだ。つまり病気は個性のひとつなのだ。
これは「個人」は存在するが「人間」や「人類」は抽象名詞であり、概念だから実在しないと述べたアリストテレス以来、科学の基礎概念をなしている。
ジョン・ホーガンが『科学の終焉』(徳間書店, 1997)で指摘したように、科学研究を推進するには莫大な資金と人材が必要であり、投入すべきリソースと得られる成果との間には自然の閾値がある。宇宙科学がそうなったように、生命科学もやがてそうなるだろう。
科学研究に無限の研究費を投入できる国家などありえない。「科学が終わる」時がある。
「パナケイア(万病に効く特効薬)」がありえないように、「がんの特効薬」などあるはすがない。やがてそのことに気づいて、投資は減退するだろう。1980年代は「がんのミサイル療法」が流行し、今は「3Dプリンタで臓器製造」が流行しようとしているが、どれだけの治療法が実際にものになったのか…
<Dr.CKD:小保方論文をみて最初に思ったのは胃潰瘍→胃がんの発症との関連である。塩酸にさらされた胃は壁細胞の崩壊により粘膜筋板までがえぐられたUlcerを形成するが、慢性炎症、瘢痕と関連して悪性の胃がんを発症する事がある。ヘリコバクターも関連するので、刺激説はなおさら有力。そこで、分化粘膜上皮細胞がstem cellに戻り、ここから癌幹細胞にコンバージョンを受けたクローンが癌化するのではないかという考えと、小保方論文がリンクされる可能性があって大変興味を持った次第である。…
刺激によりレジデントな成熟分化細胞がSTAP現象によって癌幹細胞に変換し、癌悪性化に成功する、といったような事は十分ありうる>
http://blog.fujioizumi.verse.jp/?eid=247
という意見が述べられているが、ピロリ菌発見後にも発がんの「刺激説」を支持するとは…
では胃のMALTomaの発生をどう説明するのだろうか?
細胞分裂がさかんな細胞ほどがんになりやすいとすれば、セルサイクルが2日程度と短い骨髄細胞と口腔粘膜に骨髄性白血病や口腔がんが多発しなければならない。が、そういう事実はない。
強い刺激が発がん要因になるのであれば、皮膚癩患者の深部火傷に皮膚がんが多発するはずだ。が、そういう事実はない。
皮膚基底細胞がんはメラニンに乏しい白人に多発する。またDNA修復酵素に異常がある色素性乾皮症の患者にも多発する。いずれも紫外線によるDNA損傷とからんでいる。しかし太陽光線を「刺激」とはいわない。
一体「刺激(Stimulus)」という用語をどういう定義で用いているのだろうか…
「岩波生物学辞典」の定義=「生体に働きかけてそれに特異的な反応や行動の発現または増強を喚起・誘発するような外的作用(または作用因)」
「最新医学大辞典」(医歯薬出版)の定義=「生体に働いて生体特有の反応を惹起する要因」
これらの定義における「刺激」は、リガンドと受容体の結合に特異性があるから反応が惹起されることを内包している。小保方論文タイトル「Stimulus-Triggered…」というのは塩酸しかトライしていないから「刺激」とはいえない。塩酸でしか起こらないということの証明がない。酸の種類とpHという二つの変数があるのに、他の酸を調べないで「pH5.7」だけが原因だとする論理は科学的とはいえない。まあ、捏造と判明したのだから、今ではどうでもよいことだが。
たしかアイスランド政府は遺伝子解析会社と契約して国民の遺伝子情報を提供し、見返りに医療費の負担だったかをしてもらうことにしたと記憶する。国民の遺伝子は多種多様であり、その中にはきわめて貴重な遺伝子異常あり、それが多くの難病発症のカギを握っているかも知れない。
マウスの実験も大事だが、まず日本人の「ゲノム解析」を行うことが重要だろう。それが「自然の実験」を生かす第二の道だ。
じっと手をみる。