【笄(こうがい)ビル】
11/25(火)の夜9時過ぎ、夕食のため母屋に戻ろうと入り口のドアを開けると、今夜はセンサーライトに照らされて、細い紐のようなものを認めた。ゆっくりと動いている。この前のクモと同様に(今度はスケールも忘れずに入れて)フラッシュで撮影した。(写真5)
(写真5)
背中が真っ黒で、わずかに三日月型の頭だけがやや茶色をしている。(写真6)
(写真6)
こんな妙な動物は見たことがなかったので、研究室にとって返し、水で壁面を濡らしたガラスコップとピンセットを用意し、虫体をコップに移し、上部を透明なビニールで覆い、精密機械用の細いプラス・ドライバーで通気口を開けた。
机の上に移し、LED読書灯で照明をあてて、よく観察してみた。
はじめミミズ(環形動物)かと思ったが、体節がはっきりしないし、黒い色素のない腹側を見ると、血液が赤くない(ヘモグロビンがない)。よって環形動物ではない。これは透明ビニールに粘着して腹を見せているところ。(写真7)
(写真7)
腹の中央を白っぽい条が、首から尻尾まで縦に走っている。頭の形はH.G.ウェールズの「宇宙戦争」に出てくる火星人にそっくりだ。
頭からマッチの軸状に飛び出した眼がないし、歩いた後に粘液の軌跡もできないから、ナメクジ(軟体動物)の仲間でもない。「ヤマビルかな?」と思ったが、ヒルも環形動物だし、図鑑を見ると体長20ミリとあり、ぜんぜんサイズが違う。
ふと、「プラナリアに形が似ているな」と思ったが、あれは顕微鏡がないと見えない水生動物(扁形動物)だ。陸生の扁形動物で大型のものを図鑑とバックスバウム(R. Buchsbaum)の「背骨のない動物(Animals without Backbones)
(Chicago U.)で調べたら、「陸生プラナリア(Land planaria = Bipalium)」というのがいた。体長が10~15センチになるという。
で、これは和名を「コウガイビル(Bipalium fuscatum, Stimpson」というらしい。「笄(こうがい)」はかんざしのことだ。
WIKIには茶色のものが載っているが、これは米国版からの転記だろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%93%E3%83%AB
ペンギン文庫版の「背骨のない動物」にはこのバイパリウムが、尻尾から出した粘液で枝からぶら下がり、クモみたいに地上に降りる図(p.152)が載っている。確かにコップのガラス壁を簡単に上り、覆いの透明ビニール袋に腹をつけて、逆さまにとぐろを巻いた。(写真8)
頭を胴の上に乗せて休んでいる。
(写真8)
尻尾のところには大量の粘液が付着している。これは前から照明をあて、コップの底をパソコンの画面に向け、片手で撮影したもの。コップの底が凹レンズになっているから、ワードの白紙画面だったのに、上手くハーフ・シルエットにならなかった。
本には、頭と尻尾の先端の中間に口があり、口と尻尾の前1/3のところに生殖口ある、と書いてあるが、いくらルーペで観察しても、それらしいものが見あたらなかった。あるいは粘液で隠れているのかも知れない。
ただこれはヒル(Leech)ではない。寄生虫の条虫(サナダムシの類)でもない。昔の人がヒルと混同していたのが、和名となって残っているのではないか、と思う。非科学的な話だ。
後日談:翌26日朝、仕事場に行って見ると、コップはもぬけの殻になっていた。(写真9)
(写真9)
この陸生プラナリアに眼があるとは思えなかったが、試行錯誤でビニールの被い頂上部にある、空気穴の作成時にできた、テープで接着した裂け目から脱出したようだ。まるで知性があるかのような行動を、結果としてとっている。
ベッドでいろいろ考えて、ホルマリンがないのでエタノールで虫体を固定し、USB顕微鏡を用いて顕微解剖をして、口と消化管、それに循環系がどうなっているか、調べようと思った。
消毒には50%エタノールを用いるが、固定だからもっと低濃度でも構わない。だったら「35%果実酒用甲類焼酎」が使える、と思い紙パックを持って来たのだが、ムダになった。
コウガイビルはどこに消えたのかわからない。仕事場の湿度は40%弱ときわめて乾燥しており、このバイパリウムは乾燥に弱い動物だから、室内のどこかで干物になっているだろう。
話は変わるが、前回の「見慣れぬクモ」について、小野先生から「シダグモではないか」というご指摘があった。それで図鑑のシダグモの絵の頭部をUSB顕微鏡で拡大撮影してみた。
(写真10)拡大しすぎて「網点」が出ているが、8眼あるうち、前列に一対があり、中列には後列から大きな2眼が下がっているので、4眼があり、後列には大きな眼が2個あり、クモが頭を前屈していた場合には、この一対のみがフランシュに反射して写ることがわかった。
(写真10)
クモの同定には眼の配列がきわめて重要なことを学んだ次第。小野先生、どうもご教示ありがとう存じます。
11/25(火)の夜9時過ぎ、夕食のため母屋に戻ろうと入り口のドアを開けると、今夜はセンサーライトに照らされて、細い紐のようなものを認めた。ゆっくりと動いている。この前のクモと同様に(今度はスケールも忘れずに入れて)フラッシュで撮影した。(写真5)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/04/99b4742dd79f38ad19af2d8a7a11d683.jpg)
背中が真っ黒で、わずかに三日月型の頭だけがやや茶色をしている。(写真6)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/05/734ae1672dbc434556d4d7b3d1216390.jpg)
こんな妙な動物は見たことがなかったので、研究室にとって返し、水で壁面を濡らしたガラスコップとピンセットを用意し、虫体をコップに移し、上部を透明なビニールで覆い、精密機械用の細いプラス・ドライバーで通気口を開けた。
机の上に移し、LED読書灯で照明をあてて、よく観察してみた。
はじめミミズ(環形動物)かと思ったが、体節がはっきりしないし、黒い色素のない腹側を見ると、血液が赤くない(ヘモグロビンがない)。よって環形動物ではない。これは透明ビニールに粘着して腹を見せているところ。(写真7)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/90/b80a56e1f3730a7cdcffc745d75ec6b8.jpg)
腹の中央を白っぽい条が、首から尻尾まで縦に走っている。頭の形はH.G.ウェールズの「宇宙戦争」に出てくる火星人にそっくりだ。
頭からマッチの軸状に飛び出した眼がないし、歩いた後に粘液の軌跡もできないから、ナメクジ(軟体動物)の仲間でもない。「ヤマビルかな?」と思ったが、ヒルも環形動物だし、図鑑を見ると体長20ミリとあり、ぜんぜんサイズが違う。
ふと、「プラナリアに形が似ているな」と思ったが、あれは顕微鏡がないと見えない水生動物(扁形動物)だ。陸生の扁形動物で大型のものを図鑑とバックスバウム(R. Buchsbaum)の「背骨のない動物(Animals without Backbones)
(Chicago U.)で調べたら、「陸生プラナリア(Land planaria = Bipalium)」というのがいた。体長が10~15センチになるという。
で、これは和名を「コウガイビル(Bipalium fuscatum, Stimpson」というらしい。「笄(こうがい)」はかんざしのことだ。
WIKIには茶色のものが載っているが、これは米国版からの転記だろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%93%E3%83%AB
ペンギン文庫版の「背骨のない動物」にはこのバイパリウムが、尻尾から出した粘液で枝からぶら下がり、クモみたいに地上に降りる図(p.152)が載っている。確かにコップのガラス壁を簡単に上り、覆いの透明ビニール袋に腹をつけて、逆さまにとぐろを巻いた。(写真8)
頭を胴の上に乗せて休んでいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/e6/3ac789556074a6b385ae0349b862d3d6.jpg)
尻尾のところには大量の粘液が付着している。これは前から照明をあて、コップの底をパソコンの画面に向け、片手で撮影したもの。コップの底が凹レンズになっているから、ワードの白紙画面だったのに、上手くハーフ・シルエットにならなかった。
本には、頭と尻尾の先端の中間に口があり、口と尻尾の前1/3のところに生殖口ある、と書いてあるが、いくらルーペで観察しても、それらしいものが見あたらなかった。あるいは粘液で隠れているのかも知れない。
ただこれはヒル(Leech)ではない。寄生虫の条虫(サナダムシの類)でもない。昔の人がヒルと混同していたのが、和名となって残っているのではないか、と思う。非科学的な話だ。
後日談:翌26日朝、仕事場に行って見ると、コップはもぬけの殻になっていた。(写真9)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/72/25350a3d60ae37a844e487454804e956.jpg)
この陸生プラナリアに眼があるとは思えなかったが、試行錯誤でビニールの被い頂上部にある、空気穴の作成時にできた、テープで接着した裂け目から脱出したようだ。まるで知性があるかのような行動を、結果としてとっている。
ベッドでいろいろ考えて、ホルマリンがないのでエタノールで虫体を固定し、USB顕微鏡を用いて顕微解剖をして、口と消化管、それに循環系がどうなっているか、調べようと思った。
消毒には50%エタノールを用いるが、固定だからもっと低濃度でも構わない。だったら「35%果実酒用甲類焼酎」が使える、と思い紙パックを持って来たのだが、ムダになった。
コウガイビルはどこに消えたのかわからない。仕事場の湿度は40%弱ときわめて乾燥しており、このバイパリウムは乾燥に弱い動物だから、室内のどこかで干物になっているだろう。
話は変わるが、前回の「見慣れぬクモ」について、小野先生から「シダグモではないか」というご指摘があった。それで図鑑のシダグモの絵の頭部をUSB顕微鏡で拡大撮影してみた。
(写真10)拡大しすぎて「網点」が出ているが、8眼あるうち、前列に一対があり、中列には後列から大きな2眼が下がっているので、4眼があり、後列には大きな眼が2個あり、クモが頭を前屈していた場合には、この一対のみがフランシュに反射して写ることがわかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/0b/20a95fd48dd862bff753204276c61d05.jpg)
クモの同定には眼の配列がきわめて重要なことを学んだ次第。小野先生、どうもご教示ありがとう存じます。
http://blog.goo.ne.jp/motosuke_t/e/6872343012cbe5bf1d01922ddab640eb
また、プラナリアは肉眼で見えますよ。体長はおおよそ1cm弱だと思います。
クモの分類は難しいですね。専門外のことに口を出してしまったのが間違いでした。反省。
心身粘り強い生物ですね。
湿度40%は難波先生ご自身も乾燥しませんか。医者の不養生、ご自愛ください。