【ダブル・スタンダード】
8/29(土)高松市で開かれた「第33回 中国四国臨床臓器移植研究会」に出席した。演題25と特別講演1があった。駅前の「JRホテルクレメント高松」の3F宴会場で開かれた研究会には70名くらいの参加者があった。共同通信神戸支局の岩村記者もいた。挨拶に来て「燃えています!」と言ってくれたので安心した。
No.17「当院で行った修復腎移植1例」という宇和島徳州会病院松本祐一医師の発表に、「それは(禁止されている)病気腎移植に当たらないのではないか?」という当番世話人の質問に、松本先生が立ち往生したので、見かねてついに発言した。
この症例は今年3月に実施された親族間腎移植3例目のケースで、兄に腎臓を提供しようとした妹が東京の大学病院の検査で小径腎がんの疑いがあり、「うちでは移植できない」として万波医師のところに紹介されたものだ。結果的にはAML(血管筋脂肪腫)という良性の病変だった。
2006年の「病腎移植」事件の時も、秋田大学で同じような例があった。あの時は、腎不全の息子に腎臓を提供しようとした母親に小径腎がんの疑いがあり、術後の病理検査で良性の腎細胞腫と確定した。この時、移植学会の幹部は「初めから移植目的であり、病気の治療のためのものではないから何ら問題がない」と強弁した。
腎臓に病変があるから「病気腎」とか「病腎」と病理学的にはいう。治療が直接の目的か移植が最終目的かで、腎臓の医学・病理学的意味が異なるわけがない。だからこれはダブル・スタンダードだと当時そう発言したし、高松でもそう意見を述べた。
ところが、その後、No.12「瀬戸内グループによる修復腎移植と渡航移植」という呉共済病院光畑先生の発表では、気負っているのは本人だけで、会場の雰囲気がどうも共感に満ちているのを感じ、だんだん自分の方に早とちりがあったことに気づいた。
閉会後に主だった方々とロビーで立ち話したが、みなさんとても友好的だった。
ところが1泊して日曜日の夕方帰宅したところ、NPO「移植への理解を求める会」の会報No.61がメールで届いた。(次項にて)
そこに今年の臨床腎移植学会で「修復腎移植」を公表した愛媛県立中央病院の岡本賢二郎部長の講演記録が掲載されていた。
<都道府県別の腎移植の最近の実施症例をみると、愛媛県は、万波先生が頑張っておられるので、年間75件あり、東北全体の数に匹敵する。中四国の合計が年間193件だから、その3分の1以上を愛媛で実施していることになる。
<病気腎移植に対する私の考えは、リスクはあると思うが、移植医療そのものが、いろいろなリスクを内蔵した医療なので、そのリスクを、もらう人(レシピエント)が納得できているのなら、発展する可能性は大きいのではないか―ということだ。
これはアインシュタインの言葉で、私の好きな言葉だ。「何も考えずに権威を敬うことは、真理に対する最大の敵である」。この言葉をお贈りして、話を終えたい。>
この文言を読めば、岡本先生のいわんとすることは明白だろう。
その後の質疑応答を読んで事情がすべて腑に落ちた。
<質問:先生が実施された病気腎移植は、通常の医療として保険申請されたと聞くが、厚労省のガイドラインに抵触しなかったのか。ほかの病院でも、同様の症例があると思うが、どうか。
先生:病気腎移植というのは、ある病気を治療するために摘出した腎臓を移植に使うというものだ。なので、今回のケースとはそれとは違うというふうに考えている。
例えば、腎癌を治療するために摘出したものを移植するのが、厚労省が言う「病気腎移植」。今回はドナーに小さな腎癌が見つかったのを、治療して移植したということだ。こういうケースは今後あり得ると思う。なので、これをどうするかということを含めて議論が必要だと思い、学会で報告させていただいた。
学会で発表すると、いろんな反応があり、驚いた。中には「よく発表してくれた」という先生もたくさんおられた。なので、おそらく多くの病院でこういうケースがけっこうあるのではないかと思う。だけど、今の各個の事情を反映して、みな黙っている可能性が高いと思う。>
<質問:学会で発表したときの反応は、賛成、反対どのくらいだったのか。
先生:実は座長が「この症例に対して賛成の人、反対の人」と言って挙手を求めた。すると、ちょうど半々だった。(会場どよめく)>
これで実際には「生体間腎移植」の場合、実質的な修復腎移植があちこちで行われていることがよくわかった。もっとある。初めから移植が目的だったなら「病気腎移植」にあたらないというのが、日本移植学会と厚労省が定めたガイドラインであれば、死体腎に見つかった小さな病変を取り除いて移植に使用するのは、何ら違法性がないということになろう。
高松の研究会で「マージナル・ドナー」という言葉がいろんな演者の口から出てきたが、現場ではもう修復腎移植があちこちで行われているのではないか?
「イスラエル・モデル」にならって、「ドナー登録をした人に優先的に臓器を配分する」と移植医療「ただ乗り」を排すれば、1000万人の糖尿病患者のいる日本では、一挙にドナー登録が増えるだろう
こうなると、もう先は見えてきたも同然だ。後は厚労省がいつ移植学会幹部を見捨てるかの問題だろう。やはり「ダブル・スタンダード」は自己破綻するものだと思う。高松高裁の裁判の行方も見えてきたようだ。
8/29(土)高松市で開かれた「第33回 中国四国臨床臓器移植研究会」に出席した。演題25と特別講演1があった。駅前の「JRホテルクレメント高松」の3F宴会場で開かれた研究会には70名くらいの参加者があった。共同通信神戸支局の岩村記者もいた。挨拶に来て「燃えています!」と言ってくれたので安心した。
No.17「当院で行った修復腎移植1例」という宇和島徳州会病院松本祐一医師の発表に、「それは(禁止されている)病気腎移植に当たらないのではないか?」という当番世話人の質問に、松本先生が立ち往生したので、見かねてついに発言した。
この症例は今年3月に実施された親族間腎移植3例目のケースで、兄に腎臓を提供しようとした妹が東京の大学病院の検査で小径腎がんの疑いがあり、「うちでは移植できない」として万波医師のところに紹介されたものだ。結果的にはAML(血管筋脂肪腫)という良性の病変だった。
2006年の「病腎移植」事件の時も、秋田大学で同じような例があった。あの時は、腎不全の息子に腎臓を提供しようとした母親に小径腎がんの疑いがあり、術後の病理検査で良性の腎細胞腫と確定した。この時、移植学会の幹部は「初めから移植目的であり、病気の治療のためのものではないから何ら問題がない」と強弁した。
腎臓に病変があるから「病気腎」とか「病腎」と病理学的にはいう。治療が直接の目的か移植が最終目的かで、腎臓の医学・病理学的意味が異なるわけがない。だからこれはダブル・スタンダードだと当時そう発言したし、高松でもそう意見を述べた。
ところが、その後、No.12「瀬戸内グループによる修復腎移植と渡航移植」という呉共済病院光畑先生の発表では、気負っているのは本人だけで、会場の雰囲気がどうも共感に満ちているのを感じ、だんだん自分の方に早とちりがあったことに気づいた。
閉会後に主だった方々とロビーで立ち話したが、みなさんとても友好的だった。
ところが1泊して日曜日の夕方帰宅したところ、NPO「移植への理解を求める会」の会報No.61がメールで届いた。(次項にて)
そこに今年の臨床腎移植学会で「修復腎移植」を公表した愛媛県立中央病院の岡本賢二郎部長の講演記録が掲載されていた。
<都道府県別の腎移植の最近の実施症例をみると、愛媛県は、万波先生が頑張っておられるので、年間75件あり、東北全体の数に匹敵する。中四国の合計が年間193件だから、その3分の1以上を愛媛で実施していることになる。
<病気腎移植に対する私の考えは、リスクはあると思うが、移植医療そのものが、いろいろなリスクを内蔵した医療なので、そのリスクを、もらう人(レシピエント)が納得できているのなら、発展する可能性は大きいのではないか―ということだ。
これはアインシュタインの言葉で、私の好きな言葉だ。「何も考えずに権威を敬うことは、真理に対する最大の敵である」。この言葉をお贈りして、話を終えたい。>
この文言を読めば、岡本先生のいわんとすることは明白だろう。
その後の質疑応答を読んで事情がすべて腑に落ちた。
<質問:先生が実施された病気腎移植は、通常の医療として保険申請されたと聞くが、厚労省のガイドラインに抵触しなかったのか。ほかの病院でも、同様の症例があると思うが、どうか。
先生:病気腎移植というのは、ある病気を治療するために摘出した腎臓を移植に使うというものだ。なので、今回のケースとはそれとは違うというふうに考えている。
例えば、腎癌を治療するために摘出したものを移植するのが、厚労省が言う「病気腎移植」。今回はドナーに小さな腎癌が見つかったのを、治療して移植したということだ。こういうケースは今後あり得ると思う。なので、これをどうするかということを含めて議論が必要だと思い、学会で報告させていただいた。
学会で発表すると、いろんな反応があり、驚いた。中には「よく発表してくれた」という先生もたくさんおられた。なので、おそらく多くの病院でこういうケースがけっこうあるのではないかと思う。だけど、今の各個の事情を反映して、みな黙っている可能性が高いと思う。>
<質問:学会で発表したときの反応は、賛成、反対どのくらいだったのか。
先生:実は座長が「この症例に対して賛成の人、反対の人」と言って挙手を求めた。すると、ちょうど半々だった。(会場どよめく)>
これで実際には「生体間腎移植」の場合、実質的な修復腎移植があちこちで行われていることがよくわかった。もっとある。初めから移植が目的だったなら「病気腎移植」にあたらないというのが、日本移植学会と厚労省が定めたガイドラインであれば、死体腎に見つかった小さな病変を取り除いて移植に使用するのは、何ら違法性がないということになろう。
高松の研究会で「マージナル・ドナー」という言葉がいろんな演者の口から出てきたが、現場ではもう修復腎移植があちこちで行われているのではないか?
「イスラエル・モデル」にならって、「ドナー登録をした人に優先的に臓器を配分する」と移植医療「ただ乗り」を排すれば、1000万人の糖尿病患者のいる日本では、一挙にドナー登録が増えるだろう
こうなると、もう先は見えてきたも同然だ。後は厚労省がいつ移植学会幹部を見捨てるかの問題だろう。やはり「ダブル・スタンダード」は自己破綻するものだと思う。高松高裁の裁判の行方も見えてきたようだ。
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