え ひ め 移 植 者 の 会
平成27年
(2015)
8月25日 会報61号
6月・松山で27年度総会開く
「最近の移植事情」テーマに
岡本先生(県立中央病院)がご講演
えひめ移植者の会の平成27年度(第26回)総会と記念講演会が6月28日(日)午後1時から、松山市若草町の市総合福祉センターで開かれました。会員ら20人余りが参加、総会では議案などを審議した後、修復腎移植推進の支援活動をはじめ、介護講習会や交流会の開催などを決めました。
講演会では顧問の岡本賢二郎先生(県立中央病院泌尿器科部長)が「最近の移植事情」をテーマに1)移植者が長いきするために 2)ドナーの臓器提供の影響 3)県立中央病院で実施した腎がんの生体腎移植-についてご講演されました。
また総会に先立ち行われた会員表彰では、次の3人の方々に記念品が贈られました。
井上さん(八幡浜)ら3人表彰
▼移植10年表彰(1004年4月~1005年3月に移植)
該当なし
▼移植15年表彰(1999年4月~2000年3月に移植)
河野 和博(松山市) 山下喜代子(松山市)
▼移植20年表彰(1994年4月~1995年3月に移植)
永井 治子(松前町)
▼移植25年表彰(1989年4月~1990年3月に移植)
井上 博幸(八幡浜)
記念講演要旨
最近の移植事情
県立中央病院泌尿器科部長 岡本賢二郎先生
腎移植をしてから、長生きするにはどうすればよいか。生体腎移植の場合、ドナーへの影響はどうか。最後に病気腎移植のことについて話してほしいという依頼があったので、それについても簡単にお話したい。
腎不全の治療は透析と移植があり、どちらかで人生を切り開いていかなくてはいけない。腎移植にはいろいろなよい面がたくさんある。QOL(生活の質)でみると、身体機能や体の痛み、健康感、脱力、いろいろな面で移植の方が優れている。移植をされている人は、身をもって体験されていると思う。
腎移植と透析で生活を続けた場合と、それぞれ、どんな病気で多く死んでいるのか。一般の人はがんや心疾患で半分以上が亡くなっている。透析の人は心不全、心臓血管系の病気で3分の1くらいの人が亡くなっている。移植した人は、心不全や心臓血管系の病気は少なく、免疫抑制剤を飲んでいる関係で、感染症と悪性腫瘍で亡くなる人が多い。したがって、これらの病気に対する注意が必要だ。移植した人は何に気をつければ長生きできるかということも見えてくると思う。また移植をすれば、透析をしているときと比べると、死亡率は劇的に改善する。それは統計的にもはっきりと表れている。
▼増える透析導入前の腎移植 講演される岡本賢二郎先生
最近は、透析を長く続けていると、移植をしたときにメリットが大きくないということが分
かってきている。透析期間が6カ月以内の人と2年以上の人の10年後の生存率を比べると、それがはっきりと出ている。原因は透析を続けていると、主に血管の石灰化によって心臓血管系の病気が起こりやすくなることだ。
したがって、透析期間が短いほど、血管へのダメージが少ないので長生きできるということになる。移植した皆さんの中でも、透析期間が長かった人は、心臓血管系の病気に関しては注意が必要だということを覚えておいてほしい。
ほとんど透析をせずに移植をした人の予後はどうか、ということで、一定期間、透析をした人の予後と比較すると、やはり透析をしていない人が一番成績がよいという結果が得られている。移植をする前の透析期間は短いほど予後がよい、ということも知っておいていただきたい。そのために、透析導入前の先行的移植が県立中央病院でもだいぶん増えてきた
以前の腎臓内科では移植対象の患者さんに、ある程度透析をしてから移植を紹介していたが、最近は透析をせず、早めに紹介するようになってきている。
先行的移植のメリットは、移植腎の生着、生存率が良好であること、拒絶反応も少なく、当然、予後も良好だ。子どもの場合は、早めに移植をすれば成長を阻害されず、身長も伸びやすいということが知られている。医療経済的にも移植はトータルでみると、透析よりも安上がりだということが知られている。
先行的移植は全国的に増えており、2013年には全体の30%にも上っている。県立中央病院でも同じ傾向だ。また移植する腎臓は、最近はほとんど全部、内視鏡で取り出している
▼悪性腫瘍へ対応定期検査を
移植後、長生きするためには悪性腫瘍への対応が大事になってくる。そのために定期検査を必ず受けること。県立中央病院では定期的にCTで検査をするようにしている。女性の場合は乳がん検診と子宮がん検診もする。
感染症への対応については「発熱や下痢、せきが止まらないなどの症状が出た場合は、すぐに病院に来るように」と言っている。移植をした人は免疫抑制剤を飲んでいるので、感染症にかかるのはある程度、仕方がない。でも、それ以上、免疫を弱めないためには、生活習慣病にならないこと。糖尿病、高血圧、高脂血症などにならないように、日ごろから運動をして心配機能を鍛え、肥満にならないように注意することが大切だ。
都道府県別の腎移植の最近の実施症例をみると、愛媛県は、万波先生が頑張っておられるので、年間75件あり、東北全体の数に匹敵する。中四国の合計が年間193件だから、その3分の1以上を愛媛で実施していることになる。
人口比でみると、愛媛県は全国1位の実施県で、アメリカ並みになる。移植に関しては先進県と言えるのではないかと思う。
最近の腎移植の生着率をみると、以前に比べると、ずいぶんよくなってきた。いろいろな免疫抑制剤がよくなってきているためだ。10年後で8割は生着しているのではないかといったところだ。
▼ドナーを守るガイドライン
次にドナーについてのデータをみると、一般的には腎機能が下がるに従って、心血管系のトラブルや、入院する率が高くなる傾向がある。なので、腎臓を1個提供したドナーの健康状態は大丈夫か、という心配も当然出てくる。
最近のデータによると、一般の人とドナーを比べると、実はドナーの方が長生きしている。(生体腎の)ドナーは健康体であり、健康体でないと腎臓は提供できないからだ。
一方、(治療で)腎臓を摘出した人は、腎癌であったり、腎結石であったり、いろいろな病気で腎臓を摘出している。そういう人と比べると、(親族間のドナーは)長生きしている。
日本移植学会の生体ドナーのガイドラインによると、対象となる年齢は20歳から70歳までで、いろいろな病気を持っていない、がんもないということになっている。高血圧も肥満もない、タンパク尿がない、糖尿病も心臓疾患もないことが条件だ。
このガイドラインは、ドナーを守るために世界中の移植医がアムステルダムに集まって開いた「アムステルダム・フォーラム」でまとめられた指針に、日本移植学会が手を加えて作ったものだ。
移植の費用は最初の1、2年は透析とあまり変わらないが、移植後2年ぐらいたつと、透析より安くなる。なので厚労省も、やはり移植を進めようという機運が高まっている。
▼県立中央病院でがん切除移植
最近、県立中央病院でも、ドナーの腎臓摘出のときに小さな腎癌が見つかり、それを切除して移植した症例がある。
移植医療は他人の腎臓を植えるので、昔からドナー由来の悪性疾患の伝播がある。感染症と並んで潜在的なリスクとなっている。いろいろな感染症やウイルスも入ってきやすい。
今回の症例は術前検査で病変がはっきり分からず、手術のときに数ミリの腎臓がんが見つかり、それを移植した。今年の腎臓移植学会でも発表した。
実際、こうした小さな病変は(術前検査では)ほとんど見つからない。患者さんからは「何かあったら、全部お任せします」と私たちは言われているが、こういうケースでは麻酔がかかって寝ている患者さんを起こすわけにはいかない。どうしようかと迷ったが、結局、患者の娘さんと相談して手術をすることにした。
せっかく摘出した腎臓を捨てるのはもったいないし、万波先生が以前から病気腎の移植をされていて、この程度の腎がんなら(切除すれば)全然問題ないということをある程度、知っていたからだ。
判断の基準は、腎癌の場合、1センチ未満の場合なら、患者さんの同意が得られれば、手術をしてよい。2・5センチまでだったら、透析困難症で苦しんでいて、命にかかわりがあるようだったら、やってもよいのではないかと考えている。
腎癌がそれ以上の大きさになると、勧められないという皆さん(移植医)の意見が多い。リスクに応じて考慮するということが大事だと思う。
病気腎移植に対する私の考えは、リスクはあると思うが、移植医療そのものが、いろいろなリスクを内蔵した医療なので、そのリスクを、もらう人(レシピエント)が納得できているのなら、発展する可能性は大きいのではないか―ということだ。
これはアインシュタインの言葉で、私の好きな言葉だ。「何も考えずに権威を敬うことは、真理に対する最大の敵である」。この言葉をお贈りして、話を終えたい。
(講演後の質疑から)
質問 先生が実施された病気腎移植は、通常の医療として保険申請されたと聞くが、厚労省のガイドラインに抵触しなかったのか。ほかの病院でも、同様の症例があると思うが、どうか。
先生 病気腎移植というのは、ある病気を治療するために摘出した腎臓を移植に使うというものだ。なので、今回のケースとはそれとは違うというふうに考えている。
例えば、腎癌を治療するために摘出したものを移植するのが、厚労省が言う病気腎移植。今回はドナーに小さな腎癌が見つかったのを、治療して移植したということだ。こういうケースは今後あり得ると思う。なので、これをどうするかということを含めて議論が必要だと思い、移植学会で報告させていただいた。
移植学会で発表すると、いろんな反応があり、驚いた。中には「よく発表してくれた」という先生もたくさんおられた。なので、おそらく多くの病院でこういうケースがけっこうあるのではないかと思う。だけど、今の各個の事情を反映して、みな黙っている可能性が高いと思う。
質問 今回の手術をした後、厚労省からのリアクションはなかったのか。
先生 ない。先ほど説明したように、厚労省は、いわゆる病気腎移植とは違うと判断したのだと思う。実はこの症例を論文にして、移植学会の学会誌に発表することで編集者とやりとりしているところだ。論文を読んで好意的な人もいれば、あからさまにケチをつけてくる人もいる。
質問 学会で発表したときの反応は、賛成、反対どのくらいだったのか。
先生 実は座長が「この症例に対して賛成の人、反対の人」と言って挙手を求めた。すると、ちょうど半々だった。(会場どよめく)
質問 今後も同様のケースが出れば、手術をするか。
先生 リスクを考えると、若い人と年配の人で術後の影響が違うこともある。ケースバイケースだと思う。
おかもと・けんじろう 山口県出身。徳島大学医学部卒業、高知市民病院(現高知医療センター)、高知赤十字病院勤務などを経て、1998年から県立中央病院に勤務。同病院に赴任してから本格的に腎移植を手掛ける。
ニュース報道から
がん切除し腎移植
県立中央病院医師「病気腎とは異なる」
生体間腎移植で、ドナー(提供者)から摘出した腎臓に数ミリの小さな腎がんが見つかったものの、がん部位を切除して移植する手術が、県立中央病院(松山市)で行われていたことが28日、分かった。泌尿器科部長の岡本賢二郎医師が、松山市であった講演で紹介した。岡本医師は「病気腎(修復腎)移植ではないが、こういったケースはたびたび起こると思うので、議論していく必要がある」と問題提起している。
県内の腎移植を受けた人や家族らでつくる「えひめ移植者の会」(野村正良会長)の本年度総会で、同会顧問の岡本医師が講演し、最近担当した症例として紹介。レシピエント(被移植者)は60代で、手術後約3カ月で社会復帰して働いているといい、ドナーの腎臓のがんは、手術前検査では把握できなかった。手術の実施日や保険適用の有無は、講演では発表していない。手術の内容を日本臨床腎移植学会で発表している。岡本医師によると、学会報告後、座長が賛否を尋ねたところ半々だったという。
講演や質疑の中で、臨床研究以外での病気腎移植の禁止を盛り込んだ厚生労働省のガイドラインについて岡本医師は「病気腎移植とは病気の治療のため摘出した腎臓を移植に使うことで、今回は異なる」と強調した。
さらに「やったことは同じだが、移植のために摘出した腎臓にたまたま小さいがんが見つかった」と病気腎移植との違いを説明。腫瘍の程度やレシピエントの年齢など「リスクに応じて移植の是非を考慮することが大事」と述べた。(正岡万弥)
(2015年6月29日付・愛媛新聞)
親族間の修復腎移植4例目
宇和島徳洲会 第三者間含め16例目
医療法人徳洲会は8日、宇和島市住吉町2丁目の宇和島徳洲会病院で、臨床研究として進めている病気腎(修復腎)移植の親族間4例目の手術を実施したと発表した。親族間は3月以来。第三者間を含めた移植は16例となった。
同法人によると、生体腎移植の術前検査で小径腎腫瘍が見つかった東京都東村山市の男性(64)が、腎不全で人工透析を受けている妻(62)に腎臓を提供した。8日正午ごろから、同病院で万波誠医師らが執刀し、腎臓を摘出。腫瘍切除後に臓器を修復し、午後9時50分に移植を終えた。
長時間に及ぶ手術となったが、ドナー(提供者)、レシピエント(被移植者)ともに術後の経過に異常はないという。 (2015年7月9日付・愛媛新聞)
出 版
救える命見殺しにする移植学会
高橋幸春さん「だれが修復腎移植をつぶすのか」出版
NPO法人移植への理解を求める会の活動を全面的に支援し、修復腎移植推進のために精力的な執筆活動を続けている作家・高橋幸春さんが、このほど「だれが修復腎移植をつぶすのか~日本移植学会の深い闇」を、東洋経済社から出版されました。
修復腎移植を取り上げた高橋さんの著書は、医療ミステリー「死の臓器」(文芸社文庫、麻野涼=ペンネーム、2013年2月)、ノンフィクション「透析患者を救う~修復腎移植」(彩流社、同11月)に続いて3冊目です。
前著の「透析当患者を救う~」は修復腎移植の問題の背景と経過を資料を交えて詳述するとともに、修復腎移植にかたくなに反対する日本移植学会の理不尽さを浮き彫りにした書で、今回の「だれが~」はその続編ともいえる書です。
帯に「救える命を見殺しにする医療権力の正体」とあるように、幹部らが面子や既得権益維持などのために患者を見殺しにし、理屈抜きで修復腎移植を排除しようと暴走する学会の深い闇を鋭くえぐっています。
「万波医師はなぜおとしめられたのか」「立ち上がる患者たち」「世界に広がる修復腎移植」「執拗な修復腎移植つぶし」「拡大する日本移植学会の矛盾」など、9章で構成。最新の情報も盛り込まれ、読みやすく、分かりやすい書となっています。1、500円+税
………………………………………………………………………………………………………………<内容紹介>「救える命」を見殺しにする医療権力の正体とは――。日経連載小説『禁断の
スカルペル』のモデルにもなった“医療界のタブー”に迫った本格的ノンフィクション。
1000例を超える手術実績、海外からも高く評価される修復腎移植の先駆的な技術を持ちながら、不当なバッシングにさらされ、保険医登録抹消寸前まで追い込まれた万波誠医師ら「瀬戸内グループ」の移植医療の真実の姿を、10年にわたる取材で詳細に明かす。
万波つぶしに狂奔し移植の機会を奪ったとして患者団体に訴えられた日本移植学会幹部への取材も収録。現在31万人を超え、年々1万人増加している透析患者(1人年間500万円を国が負担)による財政圧迫の問題、「2兆円市場」となった人工透析にからむ利権問題にもメスを入れる。
真に患者のQOL(生活の質)を優先する医療として世界的に評価される修復腎移植を世に問うとともに、日本の医学界のモラルと体質を厳しく追及する。 (Amazonのホームページから)
………………………………………………………………………………………………………………
たかはし・ゆきはる 1975年に早稲田大学第1文学部を卒業後、ブラジルへ移住。邦字紙勤務を経て1978年に帰国し、以後フリーライターとして活動。高橋幸春名でノンフィクションを執筆。1991年に「蒼氓の大地」(講談社)で第13回講談社ノンフィクション賞受賞。2003年、「国籍不明(上・下)」(ペンネーム麻野涼、講談社)が第6回大藪春彦賞候補。
「文藝春秋」2013年8月号で万波誠医師の手記「私はなぜ『臓器売買・悪徳医師』にされたのか」を取材・構成。大反響を呼び、同誌の翌9月号で「日本移植学会よ、驕るなかれ」(瀬戸内グループから学会への公開質問状)を発表した。 (「BOOK」データベースから)
NPO法人移植への理解を求める会ニュース
データ解析者を証人申請へ
修復腎移植訴訟第3回口頭弁論開く
高松高裁次回は10月16日開廷
修復腎移植訴訟控訴審の第3回口頭弁論が8月5日、高松高裁で開かれました。今回も愛媛をはじめ、広島や東京などから20人近くの方が傍聴に駆けつけてくれました。
口頭弁論では、高原被告(日本移植学会理事長)から提出された陳述書に対し、原告側が「高原被告は高原データに関する疑問にきちんと答えていない」として「本人に証人として出廷し、説明してもらいたい」と要請すると、被告側は「,データを分析したのは学会の担当チーム。本人はそれ以上は説明できない」と答えました。
原告側は、これまで、高原被告が自身の手で市立宇和島病院のデータを解析したものと認識していたので、予想外の説明に驚くとともに「それが事実なら、解析した者を明らかにしてほしい。その人に説明してもらいたい」と重ねて要請しました。
これに対し、裁判長は「解析したチームの担当者を、被告側が明らかにしたうえで、原告側は必要な証人申請をするように」と指示しました。そのうえで、次回口頭弁論を10月16日(金)午後1時半からとし、その場で証人の採否を判断すると述べました。
高原データの疑問解明のために、次回、証人尋問が採用されるかどうか、注目されます。
<高原データ>市立宇和島病院で行われた25例の修復腎移植のデータをまとめたもの。宇和島徳洲会病院などで行われた手術を含む全42例のデータをまとめず、たまたま全体的な成績が悪かった市立宇和島病院のデータだけを取り上げて生体腎移植と比較し、「病気腎移植は成績が非常に悪い」として、学会が修復腎移植反対の理由の一つに利用した。
元データはどういうものだったのか、解析方法はどうだったのかなど、不明な点が多い。さらに献腎移植ではなく、生体腎移植の成績と比較していることや、ドナー、レシピエントの年齢、移植回数なども考慮されていないなど疑問点も多い。
事 務 局 か ら
◎今年度総会の会員表彰では、移植25年を迎えた八幡浜市の井上さんら3人の皆さんが表彰を受けられました。おめでとうございます。奥さんとお二人で出席された井上さんに代表して「喜びの言葉」を述べていただきました。
◎岡本先生の最近の移植事情のお話は分かりやすく、耳新しいものばかりでした。会報に収録させていただきました。確認の意味で、目を通していただければ幸いです。
平成27年
(2015)
8月25日 会報61号
6月・松山で27年度総会開く
「最近の移植事情」テーマに
岡本先生(県立中央病院)がご講演
えひめ移植者の会の平成27年度(第26回)総会と記念講演会が6月28日(日)午後1時から、松山市若草町の市総合福祉センターで開かれました。会員ら20人余りが参加、総会では議案などを審議した後、修復腎移植推進の支援活動をはじめ、介護講習会や交流会の開催などを決めました。
講演会では顧問の岡本賢二郎先生(県立中央病院泌尿器科部長)が「最近の移植事情」をテーマに1)移植者が長いきするために 2)ドナーの臓器提供の影響 3)県立中央病院で実施した腎がんの生体腎移植-についてご講演されました。
また総会に先立ち行われた会員表彰では、次の3人の方々に記念品が贈られました。
井上さん(八幡浜)ら3人表彰
▼移植10年表彰(1004年4月~1005年3月に移植)
該当なし
▼移植15年表彰(1999年4月~2000年3月に移植)
河野 和博(松山市) 山下喜代子(松山市)
▼移植20年表彰(1994年4月~1995年3月に移植)
永井 治子(松前町)
▼移植25年表彰(1989年4月~1990年3月に移植)
井上 博幸(八幡浜)
記念講演要旨
最近の移植事情
県立中央病院泌尿器科部長 岡本賢二郎先生
腎移植をしてから、長生きするにはどうすればよいか。生体腎移植の場合、ドナーへの影響はどうか。最後に病気腎移植のことについて話してほしいという依頼があったので、それについても簡単にお話したい。
腎不全の治療は透析と移植があり、どちらかで人生を切り開いていかなくてはいけない。腎移植にはいろいろなよい面がたくさんある。QOL(生活の質)でみると、身体機能や体の痛み、健康感、脱力、いろいろな面で移植の方が優れている。移植をされている人は、身をもって体験されていると思う。
腎移植と透析で生活を続けた場合と、それぞれ、どんな病気で多く死んでいるのか。一般の人はがんや心疾患で半分以上が亡くなっている。透析の人は心不全、心臓血管系の病気で3分の1くらいの人が亡くなっている。移植した人は、心不全や心臓血管系の病気は少なく、免疫抑制剤を飲んでいる関係で、感染症と悪性腫瘍で亡くなる人が多い。したがって、これらの病気に対する注意が必要だ。移植した人は何に気をつければ長生きできるかということも見えてくると思う。また移植をすれば、透析をしているときと比べると、死亡率は劇的に改善する。それは統計的にもはっきりと表れている。
▼増える透析導入前の腎移植 講演される岡本賢二郎先生
最近は、透析を長く続けていると、移植をしたときにメリットが大きくないということが分
かってきている。透析期間が6カ月以内の人と2年以上の人の10年後の生存率を比べると、それがはっきりと出ている。原因は透析を続けていると、主に血管の石灰化によって心臓血管系の病気が起こりやすくなることだ。
したがって、透析期間が短いほど、血管へのダメージが少ないので長生きできるということになる。移植した皆さんの中でも、透析期間が長かった人は、心臓血管系の病気に関しては注意が必要だということを覚えておいてほしい。
ほとんど透析をせずに移植をした人の予後はどうか、ということで、一定期間、透析をした人の予後と比較すると、やはり透析をしていない人が一番成績がよいという結果が得られている。移植をする前の透析期間は短いほど予後がよい、ということも知っておいていただきたい。そのために、透析導入前の先行的移植が県立中央病院でもだいぶん増えてきた
以前の腎臓内科では移植対象の患者さんに、ある程度透析をしてから移植を紹介していたが、最近は透析をせず、早めに紹介するようになってきている。
先行的移植のメリットは、移植腎の生着、生存率が良好であること、拒絶反応も少なく、当然、予後も良好だ。子どもの場合は、早めに移植をすれば成長を阻害されず、身長も伸びやすいということが知られている。医療経済的にも移植はトータルでみると、透析よりも安上がりだということが知られている。
先行的移植は全国的に増えており、2013年には全体の30%にも上っている。県立中央病院でも同じ傾向だ。また移植する腎臓は、最近はほとんど全部、内視鏡で取り出している
▼悪性腫瘍へ対応定期検査を
移植後、長生きするためには悪性腫瘍への対応が大事になってくる。そのために定期検査を必ず受けること。県立中央病院では定期的にCTで検査をするようにしている。女性の場合は乳がん検診と子宮がん検診もする。
感染症への対応については「発熱や下痢、せきが止まらないなどの症状が出た場合は、すぐに病院に来るように」と言っている。移植をした人は免疫抑制剤を飲んでいるので、感染症にかかるのはある程度、仕方がない。でも、それ以上、免疫を弱めないためには、生活習慣病にならないこと。糖尿病、高血圧、高脂血症などにならないように、日ごろから運動をして心配機能を鍛え、肥満にならないように注意することが大切だ。
都道府県別の腎移植の最近の実施症例をみると、愛媛県は、万波先生が頑張っておられるので、年間75件あり、東北全体の数に匹敵する。中四国の合計が年間193件だから、その3分の1以上を愛媛で実施していることになる。
人口比でみると、愛媛県は全国1位の実施県で、アメリカ並みになる。移植に関しては先進県と言えるのではないかと思う。
最近の腎移植の生着率をみると、以前に比べると、ずいぶんよくなってきた。いろいろな免疫抑制剤がよくなってきているためだ。10年後で8割は生着しているのではないかといったところだ。
▼ドナーを守るガイドライン
次にドナーについてのデータをみると、一般的には腎機能が下がるに従って、心血管系のトラブルや、入院する率が高くなる傾向がある。なので、腎臓を1個提供したドナーの健康状態は大丈夫か、という心配も当然出てくる。
最近のデータによると、一般の人とドナーを比べると、実はドナーの方が長生きしている。(生体腎の)ドナーは健康体であり、健康体でないと腎臓は提供できないからだ。
一方、(治療で)腎臓を摘出した人は、腎癌であったり、腎結石であったり、いろいろな病気で腎臓を摘出している。そういう人と比べると、(親族間のドナーは)長生きしている。
日本移植学会の生体ドナーのガイドラインによると、対象となる年齢は20歳から70歳までで、いろいろな病気を持っていない、がんもないということになっている。高血圧も肥満もない、タンパク尿がない、糖尿病も心臓疾患もないことが条件だ。
このガイドラインは、ドナーを守るために世界中の移植医がアムステルダムに集まって開いた「アムステルダム・フォーラム」でまとめられた指針に、日本移植学会が手を加えて作ったものだ。
移植の費用は最初の1、2年は透析とあまり変わらないが、移植後2年ぐらいたつと、透析より安くなる。なので厚労省も、やはり移植を進めようという機運が高まっている。
▼県立中央病院でがん切除移植
最近、県立中央病院でも、ドナーの腎臓摘出のときに小さな腎癌が見つかり、それを切除して移植した症例がある。
移植医療は他人の腎臓を植えるので、昔からドナー由来の悪性疾患の伝播がある。感染症と並んで潜在的なリスクとなっている。いろいろな感染症やウイルスも入ってきやすい。
今回の症例は術前検査で病変がはっきり分からず、手術のときに数ミリの腎臓がんが見つかり、それを移植した。今年の腎臓移植学会でも発表した。
実際、こうした小さな病変は(術前検査では)ほとんど見つからない。患者さんからは「何かあったら、全部お任せします」と私たちは言われているが、こういうケースでは麻酔がかかって寝ている患者さんを起こすわけにはいかない。どうしようかと迷ったが、結局、患者の娘さんと相談して手術をすることにした。
せっかく摘出した腎臓を捨てるのはもったいないし、万波先生が以前から病気腎の移植をされていて、この程度の腎がんなら(切除すれば)全然問題ないということをある程度、知っていたからだ。
判断の基準は、腎癌の場合、1センチ未満の場合なら、患者さんの同意が得られれば、手術をしてよい。2・5センチまでだったら、透析困難症で苦しんでいて、命にかかわりがあるようだったら、やってもよいのではないかと考えている。
腎癌がそれ以上の大きさになると、勧められないという皆さん(移植医)の意見が多い。リスクに応じて考慮するということが大事だと思う。
病気腎移植に対する私の考えは、リスクはあると思うが、移植医療そのものが、いろいろなリスクを内蔵した医療なので、そのリスクを、もらう人(レシピエント)が納得できているのなら、発展する可能性は大きいのではないか―ということだ。
これはアインシュタインの言葉で、私の好きな言葉だ。「何も考えずに権威を敬うことは、真理に対する最大の敵である」。この言葉をお贈りして、話を終えたい。
(講演後の質疑から)
質問 先生が実施された病気腎移植は、通常の医療として保険申請されたと聞くが、厚労省のガイドラインに抵触しなかったのか。ほかの病院でも、同様の症例があると思うが、どうか。
先生 病気腎移植というのは、ある病気を治療するために摘出した腎臓を移植に使うというものだ。なので、今回のケースとはそれとは違うというふうに考えている。
例えば、腎癌を治療するために摘出したものを移植するのが、厚労省が言う病気腎移植。今回はドナーに小さな腎癌が見つかったのを、治療して移植したということだ。こういうケースは今後あり得ると思う。なので、これをどうするかということを含めて議論が必要だと思い、移植学会で報告させていただいた。
移植学会で発表すると、いろんな反応があり、驚いた。中には「よく発表してくれた」という先生もたくさんおられた。なので、おそらく多くの病院でこういうケースがけっこうあるのではないかと思う。だけど、今の各個の事情を反映して、みな黙っている可能性が高いと思う。
質問 今回の手術をした後、厚労省からのリアクションはなかったのか。
先生 ない。先ほど説明したように、厚労省は、いわゆる病気腎移植とは違うと判断したのだと思う。実はこの症例を論文にして、移植学会の学会誌に発表することで編集者とやりとりしているところだ。論文を読んで好意的な人もいれば、あからさまにケチをつけてくる人もいる。
質問 学会で発表したときの反応は、賛成、反対どのくらいだったのか。
先生 実は座長が「この症例に対して賛成の人、反対の人」と言って挙手を求めた。すると、ちょうど半々だった。(会場どよめく)
質問 今後も同様のケースが出れば、手術をするか。
先生 リスクを考えると、若い人と年配の人で術後の影響が違うこともある。ケースバイケースだと思う。
おかもと・けんじろう 山口県出身。徳島大学医学部卒業、高知市民病院(現高知医療センター)、高知赤十字病院勤務などを経て、1998年から県立中央病院に勤務。同病院に赴任してから本格的に腎移植を手掛ける。
ニュース報道から
がん切除し腎移植
県立中央病院医師「病気腎とは異なる」
生体間腎移植で、ドナー(提供者)から摘出した腎臓に数ミリの小さな腎がんが見つかったものの、がん部位を切除して移植する手術が、県立中央病院(松山市)で行われていたことが28日、分かった。泌尿器科部長の岡本賢二郎医師が、松山市であった講演で紹介した。岡本医師は「病気腎(修復腎)移植ではないが、こういったケースはたびたび起こると思うので、議論していく必要がある」と問題提起している。
県内の腎移植を受けた人や家族らでつくる「えひめ移植者の会」(野村正良会長)の本年度総会で、同会顧問の岡本医師が講演し、最近担当した症例として紹介。レシピエント(被移植者)は60代で、手術後約3カ月で社会復帰して働いているといい、ドナーの腎臓のがんは、手術前検査では把握できなかった。手術の実施日や保険適用の有無は、講演では発表していない。手術の内容を日本臨床腎移植学会で発表している。岡本医師によると、学会報告後、座長が賛否を尋ねたところ半々だったという。
講演や質疑の中で、臨床研究以外での病気腎移植の禁止を盛り込んだ厚生労働省のガイドラインについて岡本医師は「病気腎移植とは病気の治療のため摘出した腎臓を移植に使うことで、今回は異なる」と強調した。
さらに「やったことは同じだが、移植のために摘出した腎臓にたまたま小さいがんが見つかった」と病気腎移植との違いを説明。腫瘍の程度やレシピエントの年齢など「リスクに応じて移植の是非を考慮することが大事」と述べた。(正岡万弥)
(2015年6月29日付・愛媛新聞)
親族間の修復腎移植4例目
宇和島徳洲会 第三者間含め16例目
医療法人徳洲会は8日、宇和島市住吉町2丁目の宇和島徳洲会病院で、臨床研究として進めている病気腎(修復腎)移植の親族間4例目の手術を実施したと発表した。親族間は3月以来。第三者間を含めた移植は16例となった。
同法人によると、生体腎移植の術前検査で小径腎腫瘍が見つかった東京都東村山市の男性(64)が、腎不全で人工透析を受けている妻(62)に腎臓を提供した。8日正午ごろから、同病院で万波誠医師らが執刀し、腎臓を摘出。腫瘍切除後に臓器を修復し、午後9時50分に移植を終えた。
長時間に及ぶ手術となったが、ドナー(提供者)、レシピエント(被移植者)ともに術後の経過に異常はないという。 (2015年7月9日付・愛媛新聞)
出 版
救える命見殺しにする移植学会
高橋幸春さん「だれが修復腎移植をつぶすのか」出版
NPO法人移植への理解を求める会の活動を全面的に支援し、修復腎移植推進のために精力的な執筆活動を続けている作家・高橋幸春さんが、このほど「だれが修復腎移植をつぶすのか~日本移植学会の深い闇」を、東洋経済社から出版されました。
修復腎移植を取り上げた高橋さんの著書は、医療ミステリー「死の臓器」(文芸社文庫、麻野涼=ペンネーム、2013年2月)、ノンフィクション「透析患者を救う~修復腎移植」(彩流社、同11月)に続いて3冊目です。
前著の「透析当患者を救う~」は修復腎移植の問題の背景と経過を資料を交えて詳述するとともに、修復腎移植にかたくなに反対する日本移植学会の理不尽さを浮き彫りにした書で、今回の「だれが~」はその続編ともいえる書です。
帯に「救える命を見殺しにする医療権力の正体」とあるように、幹部らが面子や既得権益維持などのために患者を見殺しにし、理屈抜きで修復腎移植を排除しようと暴走する学会の深い闇を鋭くえぐっています。
「万波医師はなぜおとしめられたのか」「立ち上がる患者たち」「世界に広がる修復腎移植」「執拗な修復腎移植つぶし」「拡大する日本移植学会の矛盾」など、9章で構成。最新の情報も盛り込まれ、読みやすく、分かりやすい書となっています。1、500円+税
………………………………………………………………………………………………………………<内容紹介>「救える命」を見殺しにする医療権力の正体とは――。日経連載小説『禁断の
スカルペル』のモデルにもなった“医療界のタブー”に迫った本格的ノンフィクション。
1000例を超える手術実績、海外からも高く評価される修復腎移植の先駆的な技術を持ちながら、不当なバッシングにさらされ、保険医登録抹消寸前まで追い込まれた万波誠医師ら「瀬戸内グループ」の移植医療の真実の姿を、10年にわたる取材で詳細に明かす。
万波つぶしに狂奔し移植の機会を奪ったとして患者団体に訴えられた日本移植学会幹部への取材も収録。現在31万人を超え、年々1万人増加している透析患者(1人年間500万円を国が負担)による財政圧迫の問題、「2兆円市場」となった人工透析にからむ利権問題にもメスを入れる。
真に患者のQOL(生活の質)を優先する医療として世界的に評価される修復腎移植を世に問うとともに、日本の医学界のモラルと体質を厳しく追及する。 (Amazonのホームページから)
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たかはし・ゆきはる 1975年に早稲田大学第1文学部を卒業後、ブラジルへ移住。邦字紙勤務を経て1978年に帰国し、以後フリーライターとして活動。高橋幸春名でノンフィクションを執筆。1991年に「蒼氓の大地」(講談社)で第13回講談社ノンフィクション賞受賞。2003年、「国籍不明(上・下)」(ペンネーム麻野涼、講談社)が第6回大藪春彦賞候補。
「文藝春秋」2013年8月号で万波誠医師の手記「私はなぜ『臓器売買・悪徳医師』にされたのか」を取材・構成。大反響を呼び、同誌の翌9月号で「日本移植学会よ、驕るなかれ」(瀬戸内グループから学会への公開質問状)を発表した。 (「BOOK」データベースから)
NPO法人移植への理解を求める会ニュース
データ解析者を証人申請へ
修復腎移植訴訟第3回口頭弁論開く
高松高裁次回は10月16日開廷
修復腎移植訴訟控訴審の第3回口頭弁論が8月5日、高松高裁で開かれました。今回も愛媛をはじめ、広島や東京などから20人近くの方が傍聴に駆けつけてくれました。
口頭弁論では、高原被告(日本移植学会理事長)から提出された陳述書に対し、原告側が「高原被告は高原データに関する疑問にきちんと答えていない」として「本人に証人として出廷し、説明してもらいたい」と要請すると、被告側は「,データを分析したのは学会の担当チーム。本人はそれ以上は説明できない」と答えました。
原告側は、これまで、高原被告が自身の手で市立宇和島病院のデータを解析したものと認識していたので、予想外の説明に驚くとともに「それが事実なら、解析した者を明らかにしてほしい。その人に説明してもらいたい」と重ねて要請しました。
これに対し、裁判長は「解析したチームの担当者を、被告側が明らかにしたうえで、原告側は必要な証人申請をするように」と指示しました。そのうえで、次回口頭弁論を10月16日(金)午後1時半からとし、その場で証人の採否を判断すると述べました。
高原データの疑問解明のために、次回、証人尋問が採用されるかどうか、注目されます。
<高原データ>市立宇和島病院で行われた25例の修復腎移植のデータをまとめたもの。宇和島徳洲会病院などで行われた手術を含む全42例のデータをまとめず、たまたま全体的な成績が悪かった市立宇和島病院のデータだけを取り上げて生体腎移植と比較し、「病気腎移植は成績が非常に悪い」として、学会が修復腎移植反対の理由の一つに利用した。
元データはどういうものだったのか、解析方法はどうだったのかなど、不明な点が多い。さらに献腎移植ではなく、生体腎移植の成績と比較していることや、ドナー、レシピエントの年齢、移植回数なども考慮されていないなど疑問点も多い。
事 務 局 か ら
◎今年度総会の会員表彰では、移植25年を迎えた八幡浜市の井上さんら3人の皆さんが表彰を受けられました。おめでとうございます。奥さんとお二人で出席された井上さんに代表して「喜びの言葉」を述べていただきました。
◎岡本先生の最近の移植事情のお話は分かりやすく、耳新しいものばかりでした。会報に収録させていただきました。確認の意味で、目を通していただければ幸いです。
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