ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【人類の旅路】難波先生より

2013-12-06 12:41:05 | 難波紘二先生
【人類の旅路】スペイン北部の洞窟から発見された40万年前のヒト科化石骨のDNAが、シベリアの化石骨DNAと一致したというニュースをGOOGLEで知り驚いた。数年前、ネアンデルタールと現生人類の間に「混血」があったと発表した研究グループの仕事らしい。
 日本語ニュースをいろいろ当たったが「読売」がいちばん詳しい。
 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20131204-OYT1T01610.htm?from=ylist
 が、これにも「5W1H」がちゃんと書いてない。核DNAなのか、ミトコンドリアDNAなのかも書いてない。


 NYTをみたら、実に美事な調査報道が載っている。
 http://www.nytimes.com/2013/12/05/science/at-400000-years-oldest-human-dna-yet-found-raises-new-mysteries.html?_r=0
 前はここはニコラス・ウェイド記者が担当していたが、今はCarl Zimmer記者に換わったようだ。
 1)スペイン北部に「Sima de los Huesos」(骨の坑)と呼ばれる洞窟がある、
 2)そこから40万年前のヒト科化石骨が見つかり、「ネアンデルタール人の祖先」と解釈されていた。
 3)マドリード大学の人類学者とドイツ、ライプチッヒのマックス・プランク研究所の共同研究により、シマ化石大腿骨からDNAを抽出して、10万年前のネアンデルタール人化石のDNAと比較したところ、両者は一致しなかった。
 4)ところがシマ化石のDNAはシベリアのデニソヴァ(Denisova)洞窟で、ロシアの科学者が2010年に見つけた、8万年前のヒト科化石骨から抽出したDNAとシマ化石骨のDNAとは一致した。これは少女の指の骨から抽出されたDNAである。
 5)以上の結果はネイチャー電子版に発表された。
 http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature12788.html


 NYT記事で落ちている重要な情報は「抽出・解析されたのがミトコンドリアDNAで、性染色体DNAやその他の常染色体DNAについては、解析されたかどうか不明である」ということ。
 シマ化石もデニソヴァ人も男だったか女だったか発表されていないから、性染色体DNAは決定不明に痛んでいたと思われる。


 これが「事実」、以下は私の「解釈」。
 まず問題の論文の投稿=発表過程をみると、
 Nature (2013) doi:10.1038/nature12788
Received 10 September 2013 Accepted 17 October 2013 Published online 04 December 2013
 となっており、9/10受付、10/17受理、電子版掲載12/4となっており、受付から掲載まで3ヶ月かかっている。
 マドリッド大の人類学グループとマックス・プランク研究所の化石人骨DNAグループは、2010年に「ネアンデルタール人と現生人類の間に混血があった」という、にわかには信じがたい報告を行っており、掲載が大幅に遅れたのは、この論文についてもレフェリーから深刻な疑問が出た可能性を示唆している。


 誰が何を分担したかを見ると、
Contributions
M.M. designed the experiments and analysed the data; Q.F. performed phylogenetic analyses; A.A., I.G. and B.N. performed the experiments; J.-L.A., I.M., A.G., J.M.B. and E.C. excavated the fossil and provided expert archaeological and anthropological information; J.-L.A. and S.P. were involved in study design; and M.M., J.-L.A. and S.P. wrote the manuscript.


 DNA抽出実験をやったA.A.=Ayinuer Aximu-Petri, I.G.=Isabelle Glocke, B.N.=Birgit Nickel はマックス・プランク研究所進化遺伝学研究部門所属。
 研究プランと原稿執筆に関与したのは、J.L.A.=Juan-Luis Arsuaga(マドリッド大比較人類遺伝学部門),M.M.=Matthias MeyerとS.P.=Svante Pääbo(ともにマックス・プランク研究所進化遺伝学研究部門)である。


 パーボのグループは、前に「ネアンデルタールと現生人類が混血した」という報告を発表している。これは更科功「化石の分子生物学:生命進化の謎を解く」, 講談社現代新書, 2012/7に書いてあるが、この1961年生まれ、東大教養学科卒、理学博士、「東大研究員」(実態はいろんな大学の非常勤講師)の本はデタラメで、主な研究者名も重要な参考書も科学論文も明示してない。


 パーボはヒト化石骨のDNAライブラリーを開発したので、今ではデータにかなり信頼性が出てきたが、これまで10万年前の化石骨だったものが、同じネアンデルタールでも今回は約40万年前に遡ったわけで、そのへんの信頼限界の問題は残っているだろう。
 (しかし、使用済み核燃料の保存にフィンランドが20万年貯蔵できる「地下保管庫」を建設中だが、20万年前には現生人類はいなかったのだ。たぶん20万年後にはまたいなくなるだろう。地球規模の時間とはそういうものだ。)


 パーボの大きな仮説は、「ネアンデルタール人がハイデルベルグ人に進化し、さらに9万年前にアフリカを出た現生人類とハイデルベルグ人の混血が起こり、白人=アーリア人が誕生した」というもので、ヒトラーの<アーリア人優秀説>の流れを汲むものだ。毛深いところをみると、ネアンデルタール人の血が入っているのかもしれないが。


 今回のデータはもし事実なら、9万年前にアフリカを出た人類は、すでに8万年前にシベリアまで達していて、西ヨーロッパにも広がっており、混血が起こったことを意味するのだろうか。
 それともデニソヴァ人は、ネアンデルタール人よりも古いホモ・エレクトゥスであり、ネアンデルタール人との混血が起こり、両者ともに絶滅した後に、現生人類が登場したことを意味するのだろうか?
 今後の研究が注目される。
 
 「ナショナル・ジオグラフィック」誌が「人類の旅路を歩く」という壮大な企画記事を始めた。ポール・サロペック記者とカメラマンが現生人類の出アフリカから南米の南端まで、3万3000キロ、5万5000年かかった旅路を6年かけて踏破するという。12月号に第1回の記事が載っている。


 いまエチオピアのアファール三角地帯からジブチまでを歩いているらしい。
 悲惨な写真が載っている。(添付A)
 ジブチのアデン湾に達する前日の光景だという。首都ジブチの中央市場の俯瞰写真が載っているが、このうえなく貧しい。広場は舗装もされていないし、地面を木枠で囲んだなかに、じかに商品が並べてある。敗戦直後の日本の闇市よりも貧しい。
 
 それにしてもこの少年の右大腿や首から前胸部にかけては、ハゲタカに食い荒らされている。これはハイエナなどの肉食獣のしわざではない。肉食獣ならまず腸から食う。それにこの溶岩地帯に入ったら、自分も死んでしまう危険性がある。空からの捕食者の仕業だろう。


 こういう写真を「良識ある」日本のメディアは掲載しない。真実を報道しないから、エチオピア、ソマリア、ジブチの人たちがいかに貧困に苦しんでいて、こういう生命の危険をおかして、あえて溶岩の不毛地帯を横断して、ジブチ港にたどりつき、そこから産油国に出稼ぎに行こうとしているかを、我々は知らされていない。


 空からみたソマリアは全土が半砂漠地帯で、きわめて不毛な大地だった。貧困があるから、内戦が起きる。宗教対立は二の次の問題だ。メディア報道は皮相で、原因と結果を逆に報じている。
 それにしても戦前の「朝日」も「毎日」、東京からロンドンまで無着陸で社機を飛ばしたり、戦後もロンドンから東京まで5万キロの自動車踏破をやったりと、「探険プロジェクト」報道があったものだが、いま新聞社はどんな「志」をもっているのだろう?
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