カジュアル・アミーガ         本ブログの動画、写真及び文章の無断転載と使用を禁じます。

ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー若葉のころ12

2010年04月16日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
      12
 真っ暗な八戸自動車道でフィットを走らせて私
は、ハルカの夕食を早く帰ってつくってやらなく
ちゃという罪悪感よりも、あの青いコートの女が
輪竹と名乗ったことの方が気になって何度かアク
セルを踏みすぎてスピードオーバーになった。
 あの輪竹由香という女は、龍彦さんと何か関係
があるのだろうか。どう考えてもやはり龍彦さん
が宿泊していた第四埠頭に来て泣いていたことか
らしてもこの同じ名前であるという偶然は、どう
にも無関係とは思えないわ。
 しかしそれを一言聞く前に婦人警官といっしょ
に相談室に入ってしまったし、私は私で事情をす
っかり話して、簡単な書類にサインして「ではこ
の人をよろしく」と警官に挨拶をして出口へもう
向ってしまって引き返さなかった。
 警察署の表に出て、駐車場で車に乗り込むまで
戻って相談室の中の彼女に駆け寄って、「あの、
もしかしてあなたは輪竹龍彦さんという人をご存
知ですか」と聞きたくて仕方なかった。それがそ
うできなかった原因はもしそうですと返事されて、
で、私は龍彦さんとどういう関係だと言えばい
いのかしっくり来る回答が見つけられなかったと
いう心の未整理が大きかった。私は、結局逃げる
ように八戸警察署を後にして帰路についた。
 単なる偶然でしょ。たまたま通りかかって暴漢
事件に遭遇してしまった。私とは何の関係もない
こと。そう渦を巻いている私の胸に言い聞かせな
がら、八戸市街のインター入り口近くのスーパー
で肉や野菜とシチューの材料を急いで買い込んで
八戸自動車道路をフィットで飛ばす。途中ノソノ
ソ走っている年寄りの乗用車を追い抜いて、南郷
のインター・チェンジで降りると395号線へ乗
り換え、猿越峠まで来ると少しほっとした。
 ペンションに辿り着いて、夕食を慌ててつくろ
うと荷物をダイニングに運んでみたがハルカは、
出迎えるでもなく食事が遅いと文句を言いに来る
でもなく2階の自分の部屋にいて出てこない。
「ごめんね。おそくなって」階段の中ほどから私
が声をかけたら「うん。もうご飯食べた」とドア
越しに返事が帰って来る。
 小学校5年生から6年生になったある時からハ
ルカは、ガラリと変わった。一人っ子ですぐに甘
えて洗濯していても背中に乗って来たり、夫のカ
ズマが山に山菜採りに行くと言えばすぐに愛犬マ
ローズといっしょについて行ったものだったけれ
ど、金田一温泉駅前の英語塾に旅館モミジの同級
生のシオンちゃんと週二で通うようになった6年
生の夏休みから特に親との行動を一緒にしなくな
り、夕食を食べたらあれだけ好きだったお笑いコ
ンビ・オードリーの出ているテレビも見ずに自分
の部屋へ上がって行ってしまう。別に反抗期でも
ないのだけれどハルカはハルカなりの世界をもつ
ようになったのだと思う。
 だからこの日八戸での暴漢事件で夕食が遅くな
っても、ケイタイで連絡入れるとハルカは、「わ
かった。遅くなるのね。いいよ」と抑揚のない声
で言うとあっさりと電話を切った。
 その大人になりつつあるハルカの部屋のドアは
私の目の前にあり、待っても一向に開く様子がな
い。
「デザートがあるわよ。降りてらっしゃい」
そう言ってダイニングに戻ってみるとキッチンテ
ーブルの上にカップラーメンと野菜サラダを食べ
た跡が残っている。小松菜とカリカリベーコンの
サラダだけ自分でつくったのだ。小学生三年生の
ときに覚えたハルカ自慢のサラダ。もうこの子は
一人前だ。
中学生のブレザーの制服を初めて着た姿を先週の
学校指定の洋品店で見た時にうれしくて少し寂し
かった。
 ハルカのことに一生懸命だった今までの自分が
急に人間として女として顕になったようで心細く
なってきたのは確かだ。
 私は、南郷のインター・チェンジ脇のケーキ屋
でハルカの大好きなショートケーキを買って来て
いたのでお湯を沸かしてケーキを皿に盛るとラウ
ンジでココアと紅茶のカップを並べる。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 番外編~TARLUM駒沢店のバンダ... | トップ | Daydream Believer »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

投稿連載」カテゴリの最新記事