ミセス・グロスマンのステッカーをコーディネートして作った、
ニューヨークの街です。
グロスマンのシールは、私が学生だった頃はソニープラザでよく売っていて
気軽に買えたのですが、最近ではソニプラであまり見かけなくなっていました。
可愛いグロスマンのシールが手に入らなくなり、淋しいなぁと思っていたら…
ありました!銀座・伊東屋のパピエリウム(紙類製品の専門部)にごっそりと!
そこで購入したシールを使って作ったのが、このニューヨークです。(注:一部、
ネット通販で購入したシールも使われています)
如何でしょうか、街の雰囲気出ているでしょうか…。
久々にグロスマン・シールと再会し、その種類の多さと可愛いらしいデザインに
とても感動したので、しばらく私の中のブームは続くと思います(笑)。
今回のようにステッカーを組み合わせて作ったカード作品を、不定期でまた掲載
したいと考えていますので、どうぞよろしく~。
ニューヨークの街です。
グロスマンのシールは、私が学生だった頃はソニープラザでよく売っていて
気軽に買えたのですが、最近ではソニプラであまり見かけなくなっていました。
可愛いグロスマンのシールが手に入らなくなり、淋しいなぁと思っていたら…
ありました!銀座・伊東屋のパピエリウム(紙類製品の専門部)にごっそりと!
そこで購入したシールを使って作ったのが、このニューヨークです。(注:一部、
ネット通販で購入したシールも使われています)
如何でしょうか、街の雰囲気出ているでしょうか…。
久々にグロスマン・シールと再会し、その種類の多さと可愛いらしいデザインに
とても感動したので、しばらく私の中のブームは続くと思います(笑)。
今回のようにステッカーを組み合わせて作ったカード作品を、不定期でまた掲載
したいと考えていますので、どうぞよろしく~。
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めぐみ
3
自由が丘デパートは、1953年に駅に隣接して線路に寄り
添うように建設され、大井町線と東横線のクロスする自由が丘
というターミナル駅の立地を生かして、地階から一階は手芸品
から鮮魚、金物、お茶、佃煮、印鑑、小物、洋品店など種々
多彩な店が軒を連ねている。二階三階は、飲食店が主に入って
その総数は百軒近くになる。
かつてこの自由が丘デパートの商店組合の理事長もやったこと
のある鶴見俊平ことツルさんも長年の知り合いのネコタ画材屋
さんの猫田半次郎のとこに年寄りと言っても女が訪ねてくる
ことなんかなかったなと思い返した。
「ネコタ画材店は、三階にあったけど、もうないよ。」
「そうですか。私が猫田さんの店に遊びに来ていたのは、もう
40年以上前ですから。無くなっても当然だわね。」
「ネコさんのお知り合いで?」
「古いお友だちです。」
小作りで、オカッパ頭はすっかり白髪だけどきれいな顔立ち
の水野ハルは、透き通るような声でしっかりと答えた。
ツルさんは、くるくるとバラの花束に贈答リボンを結び終える
と両手でハルに手渡した。
「亡くなりましたよ。二年前に。」
「・・・・・・」
「もうじき八十だったけどがんじゃね。」
「そうですかぁ・・・」
とバラの花束を抱きしめた。
「どうします?その花束。」
「はい?」
「ネコさんに渡すつもりだったら、無駄になるけど・・
お買い上げになりますか。」
「ええ。いただきますとも。」
「セールで2800円です。」
お金を渡しながらハルは、子供のようにチェっと舌を出した。
「もっと早く伺えばよかったわ。ドジね。私」
「でもね。お婆さん。三階の奥のネコタ画材店があったとこ
にお孫さんが新しく改装してカメラ屋さんを出したばかり
だから、行って見るといいよ。」
「ああ。そうですか。お孫さんが。」
「そこの階段の手前にエレベーターの小さいのがあるから
それに乗ると早いよ。」
「はい。有難う。階段で行きましょう。」
バラを抱えたハルは歩き出すと階段の手すりに掴まりながら
ゆっくりと上り始めた。
昔を懐かしんで思い出の道を辿るみたいに一歩ずつ足を進めた。
それはまるでこの階段は知っています、この手すりの手垢
も同じです、踊り場の窓ガラスも覚えています、とでも言う
ようにゆっくりと噛みしめる歩調だった。
三階のカレー屋や雀荘の並ぶ暗い廊下をまっすぐ歩くと
ネコタ画材店は、あった。
猫田春の祖父、猫田半次郎は、ここに半世紀以上画材店を
開いていた。
このデパートでも古株の人だった。本来画家志望だった
のか赤いベレー帽を普段から被っていた。
いつもニコニコして人畜無害な生き仏みたいな人だったと
ツルさんたち商店仲間はみんな思っていた。よく多摩美
の学生なんかの溜まり場にもなっていた。
二階から三階へ上がる階段でハルは、大きなため息
をついて座りこんだ。
半次郎さん、黙って行っちゃったのね。
あんなに強い人でも病気には勝てないのね。
ハルは、天窓から覗いている青空を見上げてツルさん
たちとは違った、激しくて情熱的なネコさんの姿を
思い出していた。
ちょうどその時窓の光を遮ったものがあった。
それは大きな額を両手に抱えた若い女だった。
「すいません。通ります。」
大きな体のわりに幼い顔の猫田春だった。
長いストレートヘアを振り乱して三段抜かしで階段
を駆け上って行った。
ハルは、階段の隅に身を寄せて、ごめんなさい、
と微かに声を出した。
そしてブラックジーンズに黒い綿シャツの若い春が
廊下の奥に消えていく足音を聞きながら、
やっぱり帰ろうかなぁ、とバラを壁に立てかけて縞の
着物の足を長く伸ばしたハルは長い深呼吸をして呟いた。
天窓から降り注ぐ陽光が眠ってしまいそうなくらい
ぽかぽかと暖かかった。
「すいません。今あけます。」
黒ずくめの春が滑り込むように祝開店の花束に入口が囲
まれた『写真館HAL』の表に駆けつけた。
「開店時間、間違えたかと思ったよ。」
若い母親と小学生の男の子が立っていて、制服を着た
その男の子が腕時計を見てそう言った。
「ごめんなさい。額ぶちを買っていたら、遅くって・・・」
ガチャガチャと大きな音を出しながら写真館扉の鍵を開けた。
「ようこそ、写真館HALへ。はじめてのお客様。」
店の中へ二人を誘導した。
「はい。これ。ギッズさんで服買ったらもらったんで・・」
ヤングミセスのスーツ姿の母親が券を差し出した。
「写真撮影半額券ー子供服キッズローブ」
と書かれていた。そのギッズローブの祝いの花がすぐ脇の
受付の前に飾られている。
「どうぞ、こちらのスタジオへ。」
春が白いドアを開けると中は、小じんまりとしたホリゾント
をめぐらしたスタジオになっていた。
制服姿の少年は、母親と手をつないでホリゾントの真ん中
に立った。
春は、袖を捲くって三脚に固定された6×6
のハッセルのビュアーを覗き込んだ。
「はあーい。自由が丘にぴったりの王子様!」
ライトの柔らかい光の中で少年が急に泣き出した。
3
自由が丘デパートは、1953年に駅に隣接して線路に寄り
添うように建設され、大井町線と東横線のクロスする自由が丘
というターミナル駅の立地を生かして、地階から一階は手芸品
から鮮魚、金物、お茶、佃煮、印鑑、小物、洋品店など種々
多彩な店が軒を連ねている。二階三階は、飲食店が主に入って
その総数は百軒近くになる。
かつてこの自由が丘デパートの商店組合の理事長もやったこと
のある鶴見俊平ことツルさんも長年の知り合いのネコタ画材屋
さんの猫田半次郎のとこに年寄りと言っても女が訪ねてくる
ことなんかなかったなと思い返した。
「ネコタ画材店は、三階にあったけど、もうないよ。」
「そうですか。私が猫田さんの店に遊びに来ていたのは、もう
40年以上前ですから。無くなっても当然だわね。」
「ネコさんのお知り合いで?」
「古いお友だちです。」
小作りで、オカッパ頭はすっかり白髪だけどきれいな顔立ち
の水野ハルは、透き通るような声でしっかりと答えた。
ツルさんは、くるくるとバラの花束に贈答リボンを結び終える
と両手でハルに手渡した。
「亡くなりましたよ。二年前に。」
「・・・・・・」
「もうじき八十だったけどがんじゃね。」
「そうですかぁ・・・」
とバラの花束を抱きしめた。
「どうします?その花束。」
「はい?」
「ネコさんに渡すつもりだったら、無駄になるけど・・
お買い上げになりますか。」
「ええ。いただきますとも。」
「セールで2800円です。」
お金を渡しながらハルは、子供のようにチェっと舌を出した。
「もっと早く伺えばよかったわ。ドジね。私」
「でもね。お婆さん。三階の奥のネコタ画材店があったとこ
にお孫さんが新しく改装してカメラ屋さんを出したばかり
だから、行って見るといいよ。」
「ああ。そうですか。お孫さんが。」
「そこの階段の手前にエレベーターの小さいのがあるから
それに乗ると早いよ。」
「はい。有難う。階段で行きましょう。」
バラを抱えたハルは歩き出すと階段の手すりに掴まりながら
ゆっくりと上り始めた。
昔を懐かしんで思い出の道を辿るみたいに一歩ずつ足を進めた。
それはまるでこの階段は知っています、この手すりの手垢
も同じです、踊り場の窓ガラスも覚えています、とでも言う
ようにゆっくりと噛みしめる歩調だった。
三階のカレー屋や雀荘の並ぶ暗い廊下をまっすぐ歩くと
ネコタ画材店は、あった。
猫田春の祖父、猫田半次郎は、ここに半世紀以上画材店を
開いていた。
このデパートでも古株の人だった。本来画家志望だった
のか赤いベレー帽を普段から被っていた。
いつもニコニコして人畜無害な生き仏みたいな人だったと
ツルさんたち商店仲間はみんな思っていた。よく多摩美
の学生なんかの溜まり場にもなっていた。
二階から三階へ上がる階段でハルは、大きなため息
をついて座りこんだ。
半次郎さん、黙って行っちゃったのね。
あんなに強い人でも病気には勝てないのね。
ハルは、天窓から覗いている青空を見上げてツルさん
たちとは違った、激しくて情熱的なネコさんの姿を
思い出していた。
ちょうどその時窓の光を遮ったものがあった。
それは大きな額を両手に抱えた若い女だった。
「すいません。通ります。」
大きな体のわりに幼い顔の猫田春だった。
長いストレートヘアを振り乱して三段抜かしで階段
を駆け上って行った。
ハルは、階段の隅に身を寄せて、ごめんなさい、
と微かに声を出した。
そしてブラックジーンズに黒い綿シャツの若い春が
廊下の奥に消えていく足音を聞きながら、
やっぱり帰ろうかなぁ、とバラを壁に立てかけて縞の
着物の足を長く伸ばしたハルは長い深呼吸をして呟いた。
天窓から降り注ぐ陽光が眠ってしまいそうなくらい
ぽかぽかと暖かかった。
「すいません。今あけます。」
黒ずくめの春が滑り込むように祝開店の花束に入口が囲
まれた『写真館HAL』の表に駆けつけた。
「開店時間、間違えたかと思ったよ。」
若い母親と小学生の男の子が立っていて、制服を着た
その男の子が腕時計を見てそう言った。
「ごめんなさい。額ぶちを買っていたら、遅くって・・・」
ガチャガチャと大きな音を出しながら写真館扉の鍵を開けた。
「ようこそ、写真館HALへ。はじめてのお客様。」
店の中へ二人を誘導した。
「はい。これ。ギッズさんで服買ったらもらったんで・・」
ヤングミセスのスーツ姿の母親が券を差し出した。
「写真撮影半額券ー子供服キッズローブ」
と書かれていた。そのギッズローブの祝いの花がすぐ脇の
受付の前に飾られている。
「どうぞ、こちらのスタジオへ。」
春が白いドアを開けると中は、小じんまりとしたホリゾント
をめぐらしたスタジオになっていた。
制服姿の少年は、母親と手をつないでホリゾントの真ん中
に立った。
春は、袖を捲くって三脚に固定された6×6
のハッセルのビュアーを覗き込んだ。
「はあーい。自由が丘にぴったりの王子様!」
ライトの柔らかい光の中で少年が急に泣き出した。
コーギー犬の絵本で有名な絵本作家ターシャ・テューダーは、
92歳の今もアメリカ・バーモント州で創作活動を続けています。
彼女は絵本を描きながら自宅の広大な庭でガーデニングを楽しみ、
生活のほとんどを手作りするというライフスタイルを守っています。
本展では絵本の原画の他に、手作りのキルトや衣服、彼女が愛用し
ている食器、生活雑貨など約150点を展示しています。
また、会場内には彼女の住まいや庭などを一部再現したコーナーもあります。
展覧会は大盛況で、かなり混雑していました。
私自身が犬好きなせいもあり、コーギー犬の絵本原画に釘付けでした。
コーギー達がクリスマスの飾り付けをしたり、料理を作ったりする姿
が実に愛らしく描かれていました。
会場の出口にはターシャ関連商品の売り場が設けられ、彼女の絵本は
もちろんですが、オリジナルのカードやスカーフやマグカップなど、
豊富なグッズが揃っていました。
グッズ売り場も大変な混雑でしたが、コーギービル・シリーズ以外
のレアなターシャ絵本を手に取って見られたのがラッキーでした。
この展覧会は、3月31日(月)まで銀座松屋にて開催しています。
92歳の今もアメリカ・バーモント州で創作活動を続けています。
彼女は絵本を描きながら自宅の広大な庭でガーデニングを楽しみ、
生活のほとんどを手作りするというライフスタイルを守っています。
本展では絵本の原画の他に、手作りのキルトや衣服、彼女が愛用し
ている食器、生活雑貨など約150点を展示しています。
また、会場内には彼女の住まいや庭などを一部再現したコーナーもあります。
展覧会は大盛況で、かなり混雑していました。
私自身が犬好きなせいもあり、コーギー犬の絵本原画に釘付けでした。
コーギー達がクリスマスの飾り付けをしたり、料理を作ったりする姿
が実に愛らしく描かれていました。
会場の出口にはターシャ関連商品の売り場が設けられ、彼女の絵本は
もちろんですが、オリジナルのカードやスカーフやマグカップなど、
豊富なグッズが揃っていました。
グッズ売り場も大変な混雑でしたが、コーギービル・シリーズ以外
のレアなターシャ絵本を手に取って見られたのがラッキーでした。
この展覧会は、3月31日(月)まで銀座松屋にて開催しています。
ドッグランより
友だちに会えて
落ち着くところは
6丁目のお店。
なぜか。
最近マスターのFさんがぼくの
マッサージしてくれるの。
ついつい気持ちよくなって
気がつくと
スリスリ甘えている。
絶対触れるって、気持ちを伝える初歩だよ。きっと。
友だちに会えて
落ち着くところは
6丁目のお店。
なぜか。
最近マスターのFさんがぼくの
マッサージしてくれるの。
ついつい気持ちよくなって
気がつくと
スリスリ甘えている。
絶対触れるって、気持ちを伝える初歩だよ。きっと。
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
第1話 春とハル
2
世界は、誰が何と云おうとたったひとつのモノからできている。
それは、孤独というエレメントだ。
これはとても単純なことなのだ。ウスウスそのことを感じている頭のいいひと
もその答えを云ってしまうと、世間のエッジに出てしまうのが面倒なだけで
黙っているに過ぎない。
微生物から人間まですべての生き物が一つの細胞核から分裂することではじまっ
ている。つまり宇宙のすべてのものは、分裂して別れることで生を得ている。
母親から子供。宇宙塵の衝突から隕石。そして生と死。
引きはがされる孤独からすべてがはじまっていると云っていい。
孤独からはじまっているから、生物は、愛を求めてつながろうとする。
特にひとは、孤独の反動で愛をまるで幻想を求めるように追い求める。
でもその幻想がパチンと破裂しても元は孤独なんだと判っていれば別に慌てる
ことはない。世界は、孤独から成り立っているのだから。
これは、犬飼健太の元にあの、ニホンオオカミを飼っていたというお爺さん
の手紙のコピーやキバとかいう怪しい犬の話なんか長々としたメールでアメリ
カから送りつけてくるイエロー・ストーン在住の生物学者のマリア・ニコライ
ビナ・ワタナベの自説で、これに関しては、頭の悪い健太も日頃からなるほど
と頷いて自由が丘のカフェ・バーなんかで女を誘うときの決まり文句として
犬飼ポケットの座右の銘リストに加えて、まるで自分で考えたみたいに
ケレン味たっぷりに捲し立てるのだから始末がわるい。
ただこの健太の殺し文句も猫田春には、何の役にもたたなかった。
細胞分裂したからどうしたっていうの。
だいたい孤独にすがろうなんてイジマしいと思うけど。
これで終りだった。
猫田春は、アメリカの国立公園イエローストーンからカメラひとつ持って
自由が丘に帰って来てまだ半年も経っていなかった。
健太が一年前雑誌の懸賞で特賞・アメリカ自然の旅「コヨーテと過ごす
イエローストーン」に当たって一週間過ごしたとき、オオカミ・トライアン
グルの出会いがすべてそろった。
健太は、この地をフィールド・ワークにしていたオールドミスのマリア・
ワタナベ教授に野生動物見学コースで調子よく話を合していてすっかり気
にいられ、「あなたは私の運命の人よ。」という南部訛りの日本語で告白
されたのをなんとか振り切って、旅の最終日のキャンプファイアで学生
写真家として大平原のオオカミの撮影をしていた留学生だった春と同じ
コテージの宿泊客同士として隣り合わせになり、今度は逆にもうアタッ
クして見事フラれた。健太にとって明暗の旅だった。
あれからちょうど一年たった。
まさかにその春に健太が自由が丘デパートで再会するという奇跡的な出来事を
予測できるものは、さすがに健太の座右の銘リストにもなかった。
「いらっしゃい。バラですか・・・?あれ、健ちゃん、珍しいね。花買うなんて」
畳三畳もない自由が丘デパートの花ツルミの店先で店主でハゲ頭の鶴見俊平こと
ツルさんがキャバリアの入ったケージを抱えた健太にニヤニヤしながら応対した。
「いいだろ。おいさん。その火曜特売のでいいから包んでくれよ。」
「さっきキッズローブの上田のユウちゃんもバラ特別贈答一万円の買って行ったよ」
「ふん。子供服店の若旦那の上田が。あのキザで有名な。ふん!オレはずーと
安いので」
「へい。へい。3500円のとこセールで2800円。」
「それ。それ。贈り物で。」
ツルさん、特売バラにラップを器用にくるくると包んで、
「どうしたん?又預かり犬逃がしたの?」
とつい口がすべった 。
「なんで!そんなわけないだろっ。おいさん。信用第一なんだからーこっちは。」
「ごめん。ごめん。またお詫びの挨拶かと・・つい。」
「いつの話だよ。5年も前の、それもたった一回のミスをよ。」
「ごめんって!健ちゃんが花なんて珍しいからよ。」
「だから年寄りは嫌いだよ。大昔のことすぐ昨日のことのように言うからよ。」
「年寄りでわるかったね。健ちゃん、よく幼稚園のときこの自由が丘デパート
の踊り場でションベン洩らしてたね。いつも拭いてやったのこのおいさんだよ。」
「また昔話。今を生きてよ。おいちゃんだって駅裏にできたキャバクラの開店
初日に女子大生ホステスのお尻触ったよね。」
「あれゃ、昔だろ。」
「数年前じゃん。おばさんに聞いてみようか。事実かどうか・・・」
ツルさん、バラを丁寧にリボンで結んで急に冷や汗をかき出した。
健太は、意地悪そうに廊下を挟んで斜め向かいの佃煮やで世間話している
ツルさんの女房の方に愛想笑いの目線を送った。
「わかったよ。親切安心のペットホテルで優秀なペット探偵さん!」
「わかりゃ、いいんだよ。いつもきれいで新鮮な、花屋のおいちゃん。」
健太はお金を渡して、右手に花束、左手に仔犬のケージを抱えてデパート
の階段へ上がって行った。
犬飼健太は、自由が丘で生まれ育った。
三十を目の前に犬飼ハウスクリーニングから何でも屋そしてペットシッターを経て、
自由が丘ペット探偵事務所の社長という肩書きで緑ヶ丘小学校の同窓会では、
いつも名刺交換で名刺が変わる度に社長の文字だけ大きくなっているので
みんなから、社員どのくらいいるの?って聞かれると、健太は、すかさず、
「5、6人かなあ。まあ、うちなんか零細企業だからよぉ。」
と遠慮がちに答えていたが実のところ一度も社員なんていたことがなく、
社長一人社員なしときどきアルバイトを雇うという形だけの有限会社だった。
そして社屋も自由が丘駅一分とチラシに謳っているがこれはウソではないのだけ
れど古くてアメ横か、中野ブロードウェーみたいな小さな二坪商店がごった
煮のように入っている自由が丘デパートの4階にあると書かれている場所に
確かに事務所はあった。
ただ素人はそこになかなか辿り着けなかった。
つまり駅前の自由が丘デパートは、3階までしかなく、4階というのは、
つまりは、屋上のことだった。通風ダクトやエアコンの室外機の並ぶ防水
モルタルの上にプレハブ小屋が建っていて、入口に木彫りの犬飼自由が丘探偵局
と書かれた看板が架けられていた。
そこから駅のホームがすぐ手に取るように見えた。ときどき犬の鳴き声に驚いて、
朝の通勤ラッシュのサラリーマンが見上げて不思議そうに電車に乗る光景
がみられた。
健太は、登ってくるなり、玄関の傘立てに買ったばかりのバラを挿して、
ニンマリと眺めた。
ちょうど同じ頃。自由が丘デパート入口の花ツルミに又一人の和服の老婦人が
やってきた。
「そのバラをください。」
ツルさん、今日はよくバラが売れるなぁと心の中で呟いて前掛けのシワを伸ばして
元気よく言った。
「はい。贈り物ですか、ご自宅用ですか。」
「手土産です。」
「はい。こちら特売もので?」
「はい。あのー、ネコタ画材店は、何階でしたっけ?教えていただければ。」
「はあ、ネコタ画材店をご存知?」
「はい。」
「あの、どちら様で?」
「はい。水野ハルといいます。」
第1話 春とハル
2
世界は、誰が何と云おうとたったひとつのモノからできている。
それは、孤独というエレメントだ。
これはとても単純なことなのだ。ウスウスそのことを感じている頭のいいひと
もその答えを云ってしまうと、世間のエッジに出てしまうのが面倒なだけで
黙っているに過ぎない。
微生物から人間まですべての生き物が一つの細胞核から分裂することではじまっ
ている。つまり宇宙のすべてのものは、分裂して別れることで生を得ている。
母親から子供。宇宙塵の衝突から隕石。そして生と死。
引きはがされる孤独からすべてがはじまっていると云っていい。
孤独からはじまっているから、生物は、愛を求めてつながろうとする。
特にひとは、孤独の反動で愛をまるで幻想を求めるように追い求める。
でもその幻想がパチンと破裂しても元は孤独なんだと判っていれば別に慌てる
ことはない。世界は、孤独から成り立っているのだから。
これは、犬飼健太の元にあの、ニホンオオカミを飼っていたというお爺さん
の手紙のコピーやキバとかいう怪しい犬の話なんか長々としたメールでアメリ
カから送りつけてくるイエロー・ストーン在住の生物学者のマリア・ニコライ
ビナ・ワタナベの自説で、これに関しては、頭の悪い健太も日頃からなるほど
と頷いて自由が丘のカフェ・バーなんかで女を誘うときの決まり文句として
犬飼ポケットの座右の銘リストに加えて、まるで自分で考えたみたいに
ケレン味たっぷりに捲し立てるのだから始末がわるい。
ただこの健太の殺し文句も猫田春には、何の役にもたたなかった。
細胞分裂したからどうしたっていうの。
だいたい孤独にすがろうなんてイジマしいと思うけど。
これで終りだった。
猫田春は、アメリカの国立公園イエローストーンからカメラひとつ持って
自由が丘に帰って来てまだ半年も経っていなかった。
健太が一年前雑誌の懸賞で特賞・アメリカ自然の旅「コヨーテと過ごす
イエローストーン」に当たって一週間過ごしたとき、オオカミ・トライアン
グルの出会いがすべてそろった。
健太は、この地をフィールド・ワークにしていたオールドミスのマリア・
ワタナベ教授に野生動物見学コースで調子よく話を合していてすっかり気
にいられ、「あなたは私の運命の人よ。」という南部訛りの日本語で告白
されたのをなんとか振り切って、旅の最終日のキャンプファイアで学生
写真家として大平原のオオカミの撮影をしていた留学生だった春と同じ
コテージの宿泊客同士として隣り合わせになり、今度は逆にもうアタッ
クして見事フラれた。健太にとって明暗の旅だった。
あれからちょうど一年たった。
まさかにその春に健太が自由が丘デパートで再会するという奇跡的な出来事を
予測できるものは、さすがに健太の座右の銘リストにもなかった。
「いらっしゃい。バラですか・・・?あれ、健ちゃん、珍しいね。花買うなんて」
畳三畳もない自由が丘デパートの花ツルミの店先で店主でハゲ頭の鶴見俊平こと
ツルさんがキャバリアの入ったケージを抱えた健太にニヤニヤしながら応対した。
「いいだろ。おいさん。その火曜特売のでいいから包んでくれよ。」
「さっきキッズローブの上田のユウちゃんもバラ特別贈答一万円の買って行ったよ」
「ふん。子供服店の若旦那の上田が。あのキザで有名な。ふん!オレはずーと
安いので」
「へい。へい。3500円のとこセールで2800円。」
「それ。それ。贈り物で。」
ツルさん、特売バラにラップを器用にくるくると包んで、
「どうしたん?又預かり犬逃がしたの?」
とつい口がすべった 。
「なんで!そんなわけないだろっ。おいさん。信用第一なんだからーこっちは。」
「ごめん。ごめん。またお詫びの挨拶かと・・つい。」
「いつの話だよ。5年も前の、それもたった一回のミスをよ。」
「ごめんって!健ちゃんが花なんて珍しいからよ。」
「だから年寄りは嫌いだよ。大昔のことすぐ昨日のことのように言うからよ。」
「年寄りでわるかったね。健ちゃん、よく幼稚園のときこの自由が丘デパート
の踊り場でションベン洩らしてたね。いつも拭いてやったのこのおいさんだよ。」
「また昔話。今を生きてよ。おいちゃんだって駅裏にできたキャバクラの開店
初日に女子大生ホステスのお尻触ったよね。」
「あれゃ、昔だろ。」
「数年前じゃん。おばさんに聞いてみようか。事実かどうか・・・」
ツルさん、バラを丁寧にリボンで結んで急に冷や汗をかき出した。
健太は、意地悪そうに廊下を挟んで斜め向かいの佃煮やで世間話している
ツルさんの女房の方に愛想笑いの目線を送った。
「わかったよ。親切安心のペットホテルで優秀なペット探偵さん!」
「わかりゃ、いいんだよ。いつもきれいで新鮮な、花屋のおいちゃん。」
健太はお金を渡して、右手に花束、左手に仔犬のケージを抱えてデパート
の階段へ上がって行った。
犬飼健太は、自由が丘で生まれ育った。
三十を目の前に犬飼ハウスクリーニングから何でも屋そしてペットシッターを経て、
自由が丘ペット探偵事務所の社長という肩書きで緑ヶ丘小学校の同窓会では、
いつも名刺交換で名刺が変わる度に社長の文字だけ大きくなっているので
みんなから、社員どのくらいいるの?って聞かれると、健太は、すかさず、
「5、6人かなあ。まあ、うちなんか零細企業だからよぉ。」
と遠慮がちに答えていたが実のところ一度も社員なんていたことがなく、
社長一人社員なしときどきアルバイトを雇うという形だけの有限会社だった。
そして社屋も自由が丘駅一分とチラシに謳っているがこれはウソではないのだけ
れど古くてアメ横か、中野ブロードウェーみたいな小さな二坪商店がごった
煮のように入っている自由が丘デパートの4階にあると書かれている場所に
確かに事務所はあった。
ただ素人はそこになかなか辿り着けなかった。
つまり駅前の自由が丘デパートは、3階までしかなく、4階というのは、
つまりは、屋上のことだった。通風ダクトやエアコンの室外機の並ぶ防水
モルタルの上にプレハブ小屋が建っていて、入口に木彫りの犬飼自由が丘探偵局
と書かれた看板が架けられていた。
そこから駅のホームがすぐ手に取るように見えた。ときどき犬の鳴き声に驚いて、
朝の通勤ラッシュのサラリーマンが見上げて不思議そうに電車に乗る光景
がみられた。
健太は、登ってくるなり、玄関の傘立てに買ったばかりのバラを挿して、
ニンマリと眺めた。
ちょうど同じ頃。自由が丘デパート入口の花ツルミに又一人の和服の老婦人が
やってきた。
「そのバラをください。」
ツルさん、今日はよくバラが売れるなぁと心の中で呟いて前掛けのシワを伸ばして
元気よく言った。
「はい。贈り物ですか、ご自宅用ですか。」
「手土産です。」
「はい。こちら特売もので?」
「はい。あのー、ネコタ画材店は、何階でしたっけ?教えていただければ。」
「はあ、ネコタ画材店をご存知?」
「はい。」
「あの、どちら様で?」
「はい。水野ハルといいます。」
いよいよ洋菓子の本格派登場。
場所こそ世田谷でもバスでしかいけないとこにあるのに
いつもお客が絶えない。
なぜか?
その答えは、食べたらわかります。
そして洒落たホームページの高木さんのプロフィールを見れば、
納得するでしょう。
TAKAGIホームページ>
チューリップは、今TAKAGIの店先で咲いているものです。
場所こそ世田谷でもバスでしかいけないとこにあるのに
いつもお客が絶えない。
なぜか?
その答えは、食べたらわかります。
そして洒落たホームページの高木さんのプロフィールを見れば、
納得するでしょう。
TAKAGIホームページ>
チューリップは、今TAKAGIの店先で咲いているものです。
雨降りで散歩がいやだあ、
と窓を眺めていたら
ぽっぽ通信のハト爺さんがやって来て
悲しい顔して言ったよ。
首に針金が食い込んだままのワンちゃんが
19日昨日福岡の鞍手町で保護されたんじゃ。
2才ぐらいというから子犬のときに首に針金を巻き付け
られたようだな。そりゃ野良犬だって成長していくんじゃから、
みるみる食い込んで首の血管や筋肉の成長が妨げられとったそうじゃ。
めんみたいなのほほんな飼い犬には、わからんじゃろが
野良犬は、毎日が生きることで精一杯で警戒心が極めて強いんじゃ
二年も捕まらなかったのは、針金のせいでさらに警戒心が
強かったからなんじゃね。
まあ、全国から貰いたいと引き合いがあるそうじゃから、
いいひともいるってことじゃな。
ハト爺さん、大きなため息ついて又言ったよ。
まあ、針金犬は、助かったが、海の向こうのチベットじゃ
同じように首輪されたお坊さんらが何百人もどこかに連れて行かれて
拷問されようとしているんじゃから・・・
これからが心配じゃよ。
そういって雨の中飛んでいったよ。
「針金犬保護さる」毎日ニュース
と窓を眺めていたら
ぽっぽ通信のハト爺さんがやって来て
悲しい顔して言ったよ。
首に針金が食い込んだままのワンちゃんが
19日昨日福岡の鞍手町で保護されたんじゃ。
2才ぐらいというから子犬のときに首に針金を巻き付け
られたようだな。そりゃ野良犬だって成長していくんじゃから、
みるみる食い込んで首の血管や筋肉の成長が妨げられとったそうじゃ。
めんみたいなのほほんな飼い犬には、わからんじゃろが
野良犬は、毎日が生きることで精一杯で警戒心が極めて強いんじゃ
二年も捕まらなかったのは、針金のせいでさらに警戒心が
強かったからなんじゃね。
まあ、全国から貰いたいと引き合いがあるそうじゃから、
いいひともいるってことじゃな。
ハト爺さん、大きなため息ついて又言ったよ。
まあ、針金犬は、助かったが、海の向こうのチベットじゃ
同じように首輪されたお坊さんらが何百人もどこかに連れて行かれて
拷問されようとしているんじゃから・・・
これからが心配じゃよ。
そういって雨の中飛んでいったよ。
「針金犬保護さる」毎日ニュース
ぼくがもしネコちゃんだったら
夜窓からそっと抜け出して
誰もいない公園へ遊びに行ったり
車のない広い道を走り回ったり
したいなぁ。
ぼくがもしにんげんだったら
夜何をするだろう?
ロミオとジュリエットのように
好きなチワワ子ちゃんの窓辺に
花を届けるだろうか?
縫いぐるみに恋して取り上げられて
しまってからというもの、
闇夜は、ぼくの夢の自由区に
なっているよ。
こんなぼくのこと、
にんげんだったら思春期っていうんだってさ。
思春期って何? 春が近いってこと?
夜窓からそっと抜け出して
誰もいない公園へ遊びに行ったり
車のない広い道を走り回ったり
したいなぁ。
ぼくがもしにんげんだったら
夜何をするだろう?
ロミオとジュリエットのように
好きなチワワ子ちゃんの窓辺に
花を届けるだろうか?
縫いぐるみに恋して取り上げられて
しまってからというもの、
闇夜は、ぼくの夢の自由区に
なっているよ。
こんなぼくのこと、
にんげんだったら思春期っていうんだってさ。
思春期って何? 春が近いってこと?