甘い、切ないピアノの調べ。
何だろうと散歩の寄り道。
可愛いうさぎちゃんがにっこり笑っていたよ。
くんくんご挨拶。
と、突然軽快な曲に変わって、うさぎのダンス。
いっしょにぼくも踊ったよ。
するとちびっ子ピアニストたちが
「せんせい。ありがとうございました」
って出てきて、
「わあ、変な犬が踊ってる。」
ぼく、恥ずかしくっておしっこしました。
ぼく、変わってるけど変じゃありません。
何だろうと散歩の寄り道。
可愛いうさぎちゃんがにっこり笑っていたよ。
くんくんご挨拶。
と、突然軽快な曲に変わって、うさぎのダンス。
いっしょにぼくも踊ったよ。
するとちびっ子ピアニストたちが
「せんせい。ありがとうございました」
って出てきて、
「わあ、変な犬が踊ってる。」
ぼく、恥ずかしくっておしっこしました。
ぼく、変わってるけど変じゃありません。
ねこ先生の病院に居るネコさん。
今回は、新型のエリザベスカラーをつけたよ。
すこし気分がいい。
ライフセーバーみたいで。
エリカラなネコ。
襟がからっとしてちょっと気持ちいいね。
なんか、これだったら寝るときもずっとつけていい、みたいな。
えりからノコ。
なんか、急に忍者みたいに襟からノコ出して
敵、バサって切る。格好いいか、悪いか微妙ね。
第一自分の首切りそうで、こわいね。
XXXXXXXXXXX
どうでもいいけどネコ関係なくなってない?
今回は、新型のエリザベスカラーをつけたよ。
すこし気分がいい。
ライフセーバーみたいで。
エリカラなネコ。
襟がからっとしてちょっと気持ちいいね。
なんか、これだったら寝るときもずっとつけていい、みたいな。
えりからノコ。
なんか、急に忍者みたいに襟からノコ出して
敵、バサって切る。格好いいか、悪いか微妙ね。
第一自分の首切りそうで、こわいね。
XXXXXXXXXXX
どうでもいいけどネコ関係なくなってない?
去り行く季節を惜しんで、今日は夏らしいカード2枚です。
上のカードは透かし模様のような貝殻のシールにマスキン
グ・テープを組み合わせました☆
下は海賊に変身したクマさん。波の向こうにはキラキラの
海賊船が浮かんでいます。
ちょっと宣伝…毎週日曜日はミセスグロスマンのステッカ
ーを使ったカードをご紹介しています。ブログ画面の左側
にあるカテゴリーで「食玩小物」をクリックすると、カー
ド紹介だけをピックアップしてご覧になれますので、どう
ぞご活用下さい。
上のカードは透かし模様のような貝殻のシールにマスキン
グ・テープを組み合わせました☆
下は海賊に変身したクマさん。波の向こうにはキラキラの
海賊船が浮かんでいます。
ちょっと宣伝…毎週日曜日はミセスグロスマンのステッカ
ーを使ったカードをご紹介しています。ブログ画面の左側
にあるカテゴリーで「食玩小物」をクリックすると、カー
ド紹介だけをピックアップしてご覧になれますので、どう
ぞご活用下さい。
青虫くん、鳥に食べられないように
葉っぱの色に似せてひっそり。
ちょっと形は、気持ち悪いけれど
立派な蝶々さんになって空を飛ぶんだね。
ぼくも、やんちゃでビビリーなふりして
きっと立派なチワワになってみせます。
気持ちだけでも・・・・はい。
(この蝶は、青虫とは別種類です)
葉っぱの色に似せてひっそり。
ちょっと形は、気持ち悪いけれど
立派な蝶々さんになって空を飛ぶんだね。
ぼくも、やんちゃでビビリーなふりして
きっと立派なチワワになってみせます。
気持ちだけでも・・・・はい。
(この蝶は、青虫とは別種類です)
地球岬 作者大隅 充
9
走ってみてわかった。オレの帰る場所はないのだとい
うことが。確かに地球岬へ行くと母の実家があって、親
戚の伯父さんがいるかもしれない。あるいはもういない
かもしれない。その伯父さんを刺してどうするのか。何
かが変わるのか。僅かばかりの金と包丁で世界を手に入
れたなんて甘いことをオレは、思っている。もしそんな
ことが実行できて何がしかの高揚があったとしてもそれ
で何が変わるのか。この世をオサラバするのに一人又道
連れができただけじゃないか。そんなことをしても顔も
知らずに死んでしまった母さんに会えるわけでもない。
よくよく考えてもしも地球岬にその家自体がなければ、
オレはどうする。こんな甘ちょろい計画なんか見事に打
ち砕かれて線路の雪みたいに姿形もなく溶けて冷たい風
に吹きさらされるだけだ。
オレは、ついに走るのをやめた。
すっかり太陽は、頭上にのぼり出して明るい光を投げか
けていた。その光に顔を向けると細胞の一つ一つがブド
ウの皮がむけるみたいにプチプチとはじけて無防備のオ
レ自身が無数にはい出してくるような奇妙な感覚になっ
た。オレは、帰る場所も眠る場所もない。
初めから死んでいる存在。夏の夜。小さな子供のときか
らときどき無償に悲しくなってひとりで泣いてしまうこ
とがあった。
泣き癖がついたのは、赤ん坊のころから。いつも枕に
涙のシミがあった。オレはついにその癖が治らずオヤジ
や漁師のオイちゃんにも悟られないように誰もいない時
にそっと泣いた。止めどなく流れる涙を唇を食いしばっ
て声を出さずに夜具の中でガマンして疲れるまで泣いた。
そしてぐっすりと眠るのが月に何回かあった。
いつも理由はない。
何もない真っ暗な宇宙にひとりぽっちで放り出されたよ
うなさみしさが突然襲ってくる。
それをオレは止めることはできなかったし、それをやる
のは、オナニーと同じくらい敗北の甘みがあった。
お兄ちゃん、なんで泣いてるの?
金網の向こうから幼稚園児の女の子がオレを見上げていた。
オレは、歩道の行き止まりに来ていた。
変だよ。みんな変な人がいる。
金網の中で雪だるまを作っていた幼稚園児がゾロゾロと
集まって来た。
ここは、幼稚園の庭だった。
オレは、何も言えず慌てて涙を拭いて立ちつくした。
どっと園児たちが笑った。
「みんな、何してるの。教室に入りなさい。早く手を洗
って上がりなさい。絵本の時間よ。」
若いピンクの前掛けをした顔の細い先生がサッシの窓を
開けて叫んだ。
もしかしたらオレと同じ年かもしれないそのピンクの前
掛けの可愛らしい先生は、優しそうに微笑んでオレにひ
とつ会釈すると園児たちを手招きで呼び集めた。
体の大きな男の子たちがわざとその先生のお腹へ頭から
ぶつかって駆けあがった。
先生は、馴れた仕草で男の子たちを受け止めて、顎や鼻
を摘んで教室の中へ振り分けた。
すると今度は、女の子の集団が後ろからピンクの前掛け
の紐や先生のスカートを握って、ぶら下がるように甘え
た。
先生は、一人ひとり名前を呼んで生みたての卵を選り分
けるように席へと子供たちを誘導した。
オレは、歩き出しながらあの、輝く笑顔の先生がオレの
かあさんとダブって何回も振り返った。
二十歳でオレを生んだかあさん。誰も何も教えてくれな
かった分オレの中でイメージがどんどん膨らんで優しい
若い母親になっていた。
オレは、タオルこ包んだ包丁を道端の集積ゴミの山に
投げ込んで襟を立てて線路沿いに又歩き出した。
さみしさは、大きな塊となってオレの背中に依然として
乗っかっていた。
やっぱり地球岬に行こう。
一度あの海を見ればいい。それだけでいい。
9
走ってみてわかった。オレの帰る場所はないのだとい
うことが。確かに地球岬へ行くと母の実家があって、親
戚の伯父さんがいるかもしれない。あるいはもういない
かもしれない。その伯父さんを刺してどうするのか。何
かが変わるのか。僅かばかりの金と包丁で世界を手に入
れたなんて甘いことをオレは、思っている。もしそんな
ことが実行できて何がしかの高揚があったとしてもそれ
で何が変わるのか。この世をオサラバするのに一人又道
連れができただけじゃないか。そんなことをしても顔も
知らずに死んでしまった母さんに会えるわけでもない。
よくよく考えてもしも地球岬にその家自体がなければ、
オレはどうする。こんな甘ちょろい計画なんか見事に打
ち砕かれて線路の雪みたいに姿形もなく溶けて冷たい風
に吹きさらされるだけだ。
オレは、ついに走るのをやめた。
すっかり太陽は、頭上にのぼり出して明るい光を投げか
けていた。その光に顔を向けると細胞の一つ一つがブド
ウの皮がむけるみたいにプチプチとはじけて無防備のオ
レ自身が無数にはい出してくるような奇妙な感覚になっ
た。オレは、帰る場所も眠る場所もない。
初めから死んでいる存在。夏の夜。小さな子供のときか
らときどき無償に悲しくなってひとりで泣いてしまうこ
とがあった。
泣き癖がついたのは、赤ん坊のころから。いつも枕に
涙のシミがあった。オレはついにその癖が治らずオヤジ
や漁師のオイちゃんにも悟られないように誰もいない時
にそっと泣いた。止めどなく流れる涙を唇を食いしばっ
て声を出さずに夜具の中でガマンして疲れるまで泣いた。
そしてぐっすりと眠るのが月に何回かあった。
いつも理由はない。
何もない真っ暗な宇宙にひとりぽっちで放り出されたよ
うなさみしさが突然襲ってくる。
それをオレは止めることはできなかったし、それをやる
のは、オナニーと同じくらい敗北の甘みがあった。
お兄ちゃん、なんで泣いてるの?
金網の向こうから幼稚園児の女の子がオレを見上げていた。
オレは、歩道の行き止まりに来ていた。
変だよ。みんな変な人がいる。
金網の中で雪だるまを作っていた幼稚園児がゾロゾロと
集まって来た。
ここは、幼稚園の庭だった。
オレは、何も言えず慌てて涙を拭いて立ちつくした。
どっと園児たちが笑った。
「みんな、何してるの。教室に入りなさい。早く手を洗
って上がりなさい。絵本の時間よ。」
若いピンクの前掛けをした顔の細い先生がサッシの窓を
開けて叫んだ。
もしかしたらオレと同じ年かもしれないそのピンクの前
掛けの可愛らしい先生は、優しそうに微笑んでオレにひ
とつ会釈すると園児たちを手招きで呼び集めた。
体の大きな男の子たちがわざとその先生のお腹へ頭から
ぶつかって駆けあがった。
先生は、馴れた仕草で男の子たちを受け止めて、顎や鼻
を摘んで教室の中へ振り分けた。
すると今度は、女の子の集団が後ろからピンクの前掛け
の紐や先生のスカートを握って、ぶら下がるように甘え
た。
先生は、一人ひとり名前を呼んで生みたての卵を選り分
けるように席へと子供たちを誘導した。
オレは、歩き出しながらあの、輝く笑顔の先生がオレの
かあさんとダブって何回も振り返った。
二十歳でオレを生んだかあさん。誰も何も教えてくれな
かった分オレの中でイメージがどんどん膨らんで優しい
若い母親になっていた。
オレは、タオルこ包んだ包丁を道端の集積ゴミの山に
投げ込んで襟を立てて線路沿いに又歩き出した。
さみしさは、大きな塊となってオレの背中に依然として
乗っかっていた。
やっぱり地球岬に行こう。
一度あの海を見ればいい。それだけでいい。
神社の山門でぐっすり寝ている。
近づいても起きない。
しっぽがときどき来るな! とプラプラ。
うーん。ネコさん、寝るのが仕事?
ネコのしっぽがそうさ、そうさ! と縦振り。
いいなあー。
うーん。ぼくは、吠えるのが仕事だーい。
これでドッグカフェが1つ、出入り禁止になりそうです。
すまんっス。
でも吠えるのって仕事なんだもの。
トホホホホホ・・・
近づいても起きない。
しっぽがときどき来るな! とプラプラ。
うーん。ネコさん、寝るのが仕事?
ネコのしっぽがそうさ、そうさ! と縦振り。
いいなあー。
うーん。ぼくは、吠えるのが仕事だーい。
これでドッグカフェが1つ、出入り禁止になりそうです。
すまんっス。
でも吠えるのって仕事なんだもの。
トホホホホホ・・・
アドベンチャー・コースみたいなモノレールに乗って
江ノ島へ行ったよ。
驚いたよ。にんげんの多さに。
長い橋をテクテク渡って、島に着いた。
どのお店も大繁盛。
御利益、御利益とみんなお参り。
ぼくは、ワンちゃん用のしらす丼を探したけれど
やっぱなかったよ。
で、最後に
やっぱり海に吠えたよ。
江ノ島へ行ったよ。
驚いたよ。にんげんの多さに。
長い橋をテクテク渡って、島に着いた。
どのお店も大繁盛。
御利益、御利益とみんなお参り。
ぼくは、ワンちゃん用のしらす丼を探したけれど
やっぱなかったよ。
で、最後に
やっぱり海に吠えたよ。
9月17日。「ウメ子死す」ニュース
小田原城址公園の最高齢ゾウ「ウメ子」死んだ。
人間だと100歳だったそうだ。
ところで最近読んだ本で江戸時代に象が最初に来た話があった。
川添裕著「見せ物探偵が行く」(晶文社)。
享保14年(1729年)にベトナムから来たオスの象が
長崎から江戸に出発して70日かけて江戸に入った。
当時の将軍吉宗の要望だった。
諸国を旅する象の一行は、各地でさぞ珍しがられただろう。
江戸では浜御殿で飼育した。今の浜離宮。
200両のえさ代に窮して将軍はすぐに飽きたそうで
翌年には貰い手を探したがいなかったらしい。
面白いのが2年後中野村の百姓3名が象の糞を貰いに来て
疱瘡の薬にして「象洞」という名で売り出した。
当然成功しなかったそうだ。
そして寛保元年(1741年)中野村へ移って翌年の12月に
喉を詰まらせて亡くなった。
享年21才だった。
まだ若かった。このベトナムから来た象の眼には、
当時の日本はどう映ったのだろうか。
小田原城址公園の最高齢ゾウ「ウメ子」死んだ。
人間だと100歳だったそうだ。
ところで最近読んだ本で江戸時代に象が最初に来た話があった。
川添裕著「見せ物探偵が行く」(晶文社)。
享保14年(1729年)にベトナムから来たオスの象が
長崎から江戸に出発して70日かけて江戸に入った。
当時の将軍吉宗の要望だった。
諸国を旅する象の一行は、各地でさぞ珍しがられただろう。
江戸では浜御殿で飼育した。今の浜離宮。
200両のえさ代に窮して将軍はすぐに飽きたそうで
翌年には貰い手を探したがいなかったらしい。
面白いのが2年後中野村の百姓3名が象の糞を貰いに来て
疱瘡の薬にして「象洞」という名で売り出した。
当然成功しなかったそうだ。
そして寛保元年(1741年)中野村へ移って翌年の12月に
喉を詰まらせて亡くなった。
享年21才だった。
まだ若かった。このベトナムから来た象の眼には、
当時の日本はどう映ったのだろうか。
地球岬 作者大隅 充
8
線路は、どこまでも走った。
このまま永遠につづいてこの先、終わりがないんじゃ
ないのかとレールの枕木と枕木を正確に踏んで足をス
イスイと前に出しながらオレは、不安に思った。よく
考えると線路がどんどんと走っているのではなく、走
っているオレが疲れをまったく感じずに走っているの
だった。簡単にいえば足が自然に動いていてオレは、
自分の走っている体からぽつんと切り離れている感じ。
周りの平原や畑は、白い雪の原なのに二本のレールだ
けは、雪が溶けていてはっきりとバラスの石粒が見える。
どのくらい走ったのか小さな駅舎が見えてきた。深夜
で人影もなくホームも待合室も静かに眠っていた。
オレは、この駅の外れに鉄塔に乗っかった重油タン
クの下に潜り込んで一度休むことにした。
そこでオレは、奪い取ったキーホルダーのすべての鍵
を金庫に試してみたがどれも役に立たなかった。両手
で力の限り抉じ開けようともしたがビクともしなかった。
すると顎から鼻の頭からポトポトと汗が大粒で落ちて
きた。立っている足の脹脛が重く引きずられるような
痛みが甦ってきた。
横腹がナイフで刺され、口と鼻を抑えつけられたよう
に息が苦しく胸がえぐられるように痛くなった。今ま
で感じていなかった疲れが一気に噴き出した。もうオ
レは、立つどころか呼吸もできなくなり四つん這いに
なってタンクの真下で蹲った。白い息があの王子製紙
ののっぽ煙突から出ていた煙みたいに口から出てきて
睫毛に引っ掛かっては凍った。
オレは、ジャンパーの襟を立てて顎の下までジッパー
を押し上げて風が入らないようにすると床に畳まれて
いたブルーシートを広げてその中へ潜って眠った。
気が付いたら朝日がスノーダストを高い空にきらき
らと輝かせていた。
ガタンガタンガタンと激しい線路を噛む列車の車輪の
音が耳を劈いている。貨物列車が体のすぐ脇を通り過
ぎて行った。
ブルーシートから抜け出してオレは、鉄塔の下の誰に
も踏まれていないキレイな雪を口に入れてガシガシと
噛んで歯を磨いた。
そして列車の通った線路へと走った。
線路も周りの平原もうっすらと朝霧が立ち籠めていた。
そしてちょうど駅ホームから30メートル手前の標識の
ところでバラバラになった簡易金庫を見つけた。
昨日重油タンクの鉄塔に潜り込んで完全に眠る前に一
度抜け出してパチンコ屋から盗んだ金庫を線路に置い
ていたものだった。
見事に真っ二つに千切れて中の一万円札と千円札が散
らばっていた。
オレは、急いで破れていようがいまいが札という札を
拾い集めた。70枚までは数えたが後は面倒臭くて紙袋
にとにかく押し込んだ。
駅の待合室で一番きれいな千円札で立ち食いそばを
食べて、券売機で7時発の室蘭行きの切符を買った。
ホームのベンチにはすでに登校中の高校生が集団で座
っていて座る場所はなかった。オレは、仕方なく先頭
の屋根の切れた電柱に寄り添って立った。
金は手に入れた。誰にも負けない包丁も持っている。
もうすぐ地球岬だ。オレがこの世で最後に見る場所ま
であと数時間。何も怖いものなんかない。もしあの景
品所の用心棒が仕返しに来ても、誰にも邪魔されない
ぞ。オレは、完璧な力を持っている。望む場所に行く
金と自由を手に入れた。邪魔する奴はみんなズタズタ
にしてやる。
電車が入ってくるまで後10分。オレは、朝の駅の雑踏
の中で奇妙な興奮にひとり包まれて危なくチビリそう
だった。
とその時。目の前を笑いながらショートヘアの女子
高生が走り抜けて来た。赤いマフラーがかすかにオレ
の鼻先を掠って行った。レモンの匂いがした。つづい
てニキビ面の学生服の男子が追いかけて来てオレの後
ろで女子高生の前で止まった。
二人は、見詰め合って赤い顔で黙った。
そして「これ、あげる。」と女の子は赤いマフラーを
男の子の首にかけた。
「向こうの大学に行っても私のこと忘れないでね。」
「なんで。斎藤こそ忘れるなよ。オレのこと。」
オレは、電柱を背にして真剣な高校生のカップルの、
その純粋さに心がクラクラした。
オレに一度もなかった世界だった。
女の子は、泣いている。男の子は、我慢して女の子の
手を握っている。
オレは突然走りだした。あれだけ完璧な力をもってい
たオレがまったく裸になってただただ改札を出て線路
沿いの道を走った。
8
線路は、どこまでも走った。
このまま永遠につづいてこの先、終わりがないんじゃ
ないのかとレールの枕木と枕木を正確に踏んで足をス
イスイと前に出しながらオレは、不安に思った。よく
考えると線路がどんどんと走っているのではなく、走
っているオレが疲れをまったく感じずに走っているの
だった。簡単にいえば足が自然に動いていてオレは、
自分の走っている体からぽつんと切り離れている感じ。
周りの平原や畑は、白い雪の原なのに二本のレールだ
けは、雪が溶けていてはっきりとバラスの石粒が見える。
どのくらい走ったのか小さな駅舎が見えてきた。深夜
で人影もなくホームも待合室も静かに眠っていた。
オレは、この駅の外れに鉄塔に乗っかった重油タン
クの下に潜り込んで一度休むことにした。
そこでオレは、奪い取ったキーホルダーのすべての鍵
を金庫に試してみたがどれも役に立たなかった。両手
で力の限り抉じ開けようともしたがビクともしなかった。
すると顎から鼻の頭からポトポトと汗が大粒で落ちて
きた。立っている足の脹脛が重く引きずられるような
痛みが甦ってきた。
横腹がナイフで刺され、口と鼻を抑えつけられたよう
に息が苦しく胸がえぐられるように痛くなった。今ま
で感じていなかった疲れが一気に噴き出した。もうオ
レは、立つどころか呼吸もできなくなり四つん這いに
なってタンクの真下で蹲った。白い息があの王子製紙
ののっぽ煙突から出ていた煙みたいに口から出てきて
睫毛に引っ掛かっては凍った。
オレは、ジャンパーの襟を立てて顎の下までジッパー
を押し上げて風が入らないようにすると床に畳まれて
いたブルーシートを広げてその中へ潜って眠った。
気が付いたら朝日がスノーダストを高い空にきらき
らと輝かせていた。
ガタンガタンガタンと激しい線路を噛む列車の車輪の
音が耳を劈いている。貨物列車が体のすぐ脇を通り過
ぎて行った。
ブルーシートから抜け出してオレは、鉄塔の下の誰に
も踏まれていないキレイな雪を口に入れてガシガシと
噛んで歯を磨いた。
そして列車の通った線路へと走った。
線路も周りの平原もうっすらと朝霧が立ち籠めていた。
そしてちょうど駅ホームから30メートル手前の標識の
ところでバラバラになった簡易金庫を見つけた。
昨日重油タンクの鉄塔に潜り込んで完全に眠る前に一
度抜け出してパチンコ屋から盗んだ金庫を線路に置い
ていたものだった。
見事に真っ二つに千切れて中の一万円札と千円札が散
らばっていた。
オレは、急いで破れていようがいまいが札という札を
拾い集めた。70枚までは数えたが後は面倒臭くて紙袋
にとにかく押し込んだ。
駅の待合室で一番きれいな千円札で立ち食いそばを
食べて、券売機で7時発の室蘭行きの切符を買った。
ホームのベンチにはすでに登校中の高校生が集団で座
っていて座る場所はなかった。オレは、仕方なく先頭
の屋根の切れた電柱に寄り添って立った。
金は手に入れた。誰にも負けない包丁も持っている。
もうすぐ地球岬だ。オレがこの世で最後に見る場所ま
であと数時間。何も怖いものなんかない。もしあの景
品所の用心棒が仕返しに来ても、誰にも邪魔されない
ぞ。オレは、完璧な力を持っている。望む場所に行く
金と自由を手に入れた。邪魔する奴はみんなズタズタ
にしてやる。
電車が入ってくるまで後10分。オレは、朝の駅の雑踏
の中で奇妙な興奮にひとり包まれて危なくチビリそう
だった。
とその時。目の前を笑いながらショートヘアの女子
高生が走り抜けて来た。赤いマフラーがかすかにオレ
の鼻先を掠って行った。レモンの匂いがした。つづい
てニキビ面の学生服の男子が追いかけて来てオレの後
ろで女子高生の前で止まった。
二人は、見詰め合って赤い顔で黙った。
そして「これ、あげる。」と女の子は赤いマフラーを
男の子の首にかけた。
「向こうの大学に行っても私のこと忘れないでね。」
「なんで。斎藤こそ忘れるなよ。オレのこと。」
オレは、電柱を背にして真剣な高校生のカップルの、
その純粋さに心がクラクラした。
オレに一度もなかった世界だった。
女の子は、泣いている。男の子は、我慢して女の子の
手を握っている。
オレは突然走りだした。あれだけ完璧な力をもってい
たオレがまったく裸になってただただ改札を出て線路
沿いの道を走った。