こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めぐみ
12
ちょうどその頃。犬飼健太は、多摩川署で長い長い事情徴収を受けていた。
迷子犬ナナを探して玉川堤から尾山台まで犬道を辿って捜索していて、
大手商社の社宅団地の私有地に入り込んでそこの住人から警察に通報された
のが健太の不覚だった。
いつもなら自転車に乗ったお巡りさんが来て二言三言聞かれて終わりなのだが、
今回はどういうものか、迷子のペットを探していると言ってもなかなか解放
してくれず、とうとうパトカーが来て多摩川署まで連れて行かれてしまった。
捜索道具の地図やチラシやドッグフードなどをリュックから出して見せても
納得してもらえない。そのうちどうも今日は帰して貰えるのかどうか怪しくなって、
警視庁から別の刑事がくるまで小部屋で待たされるハメになった。
さすがの健太もこれは、何か別の事件の容疑がかかって疑われている
と思い直してきた。
夕方になって福田という若いサーファーみたいに色の黒い刑事が部屋に入って来た。
「いや、すいませんね。お引止めさせて。」
「ナンなんですか。これ。指紋までとられて。不法侵入って言っても管理人が
いなかったんで敷地の植え込みの犬道を見てただけです。」
「申し訳ないです。すぐ済みますから。ニュースなどでもうご存知だと思い
ますが、ちょっと昨日連続傷害事件がありましてね・・」
「何?それ。」
「昨日の九時ごろどうされていました?」
「だから、ぼくは、ペット探偵で依頼犬を探していたっつうて言っているでしょ。」
「どこで?」
「へーと、多摩川から等々力へ抜けていた頃かな。」
「歩いて?」
「ええ。・・・・ナンですか?その連続傷害事件って・・・」
「昨日等々力と二子玉川で二人の女のひとが男に襲われましてね。」
「それで、オレがやったっつうの?それを」
「いや、いや、そうじゃなくて、ただ参考に聞いているだけです。気を悪く
されたらごめんなさい。」
「こうしてこんな警察にいる間も迷子の犬を探している人は、必死なんだ。
迷子さがしは、最初の一日二日が勝負なんだよ。オレはそんな飼い主のつらさ
を解消するために働いて、お金を貰って生活してんだ。ふざけるな。」
健太は、顔を真っ赤にして捲し立てるとテーブルをドンと叩いた。
一瞬、取調室が凍りついた。
しかし福田刑事は、まったく表情ひとつ変えず静かに椅子の背もたれに深く
座り直した。
「ごめんなさいね。ご商売の邪魔をいたしまして。どうぞ、もう済みました。
お帰りになられて結構です。有難うございました。」
「ああ、帰るよ。帰りますよ。」
健太は、福田の方には目も向けずさっさとドアを開けて廊下へ出て行った。
「あのー、犬飼さん。ひとつだけ教えてください。」
健太は、面倒臭いそうにふりかえて、はいとため息まじりに返事した。
「犬飼さんの血液型を教えていただければ。」
「オヒトヨシのO型でーす。」
「今日は、本当にご協力有難うござました。」
無表情に福田は、言って頭をさげた。
健太の怒りは、次の日自由が丘デパートで春からバール男のことを聞いて
ますます沸点を超えてしまった。
健太の腹の虫が煮えくり返ったときは、プリプリ大声を出したりした後に
最後は、屋上の探偵事務所に行ってひとり不貞寝をしてしまうのが常で、
これは子供の頃から変わってない習慣みたいなものだった。
ただ春から迷子犬ナナを見たという情報をもらったことが何よりの慰めになった。
事務所の窓外に結わいつけたハンモックに寝そべりながら、イエローストーン
時代のオオカミの写真集をパラパラとめくって、そんなバカな、この日本に
オオカミなんか、まさしてやあの、ナナ公がオオカミなんて春も頭がおかし
いんじゃないか、動物かぶれも度を越してるぜ、せっかく可愛い顔してるのに・・
と独り言を呟いた。
するとポケットのケイタイが鳴って、見知らぬ番号からの電話が入った。
「はい。こちら、自由が丘ペット探偵局。」
「あの、佐藤といいます。二日前に自由が丘の写真屋さんであった・・・」
「・・・ああ、あの子犬を亡くした子供のお母さん!」
「はい。佐藤沙織です。あの、お金払いますから子犬を売ったブリーダーの
居場所を突き止めて欲しいんです。」
「はあ・・・でも手がかりがないなあー。」
「お友達が又知らずにあのワンニャン天国堂でプードルを買ってしまったんです。
今度会うので一緒に来ていただきたいんです。」
「まあ、お金貰えるならいいんですけど・・」
12
ちょうどその頃。犬飼健太は、多摩川署で長い長い事情徴収を受けていた。
迷子犬ナナを探して玉川堤から尾山台まで犬道を辿って捜索していて、
大手商社の社宅団地の私有地に入り込んでそこの住人から警察に通報された
のが健太の不覚だった。
いつもなら自転車に乗ったお巡りさんが来て二言三言聞かれて終わりなのだが、
今回はどういうものか、迷子のペットを探していると言ってもなかなか解放
してくれず、とうとうパトカーが来て多摩川署まで連れて行かれてしまった。
捜索道具の地図やチラシやドッグフードなどをリュックから出して見せても
納得してもらえない。そのうちどうも今日は帰して貰えるのかどうか怪しくなって、
警視庁から別の刑事がくるまで小部屋で待たされるハメになった。
さすがの健太もこれは、何か別の事件の容疑がかかって疑われている
と思い直してきた。
夕方になって福田という若いサーファーみたいに色の黒い刑事が部屋に入って来た。
「いや、すいませんね。お引止めさせて。」
「ナンなんですか。これ。指紋までとられて。不法侵入って言っても管理人が
いなかったんで敷地の植え込みの犬道を見てただけです。」
「申し訳ないです。すぐ済みますから。ニュースなどでもうご存知だと思い
ますが、ちょっと昨日連続傷害事件がありましてね・・」
「何?それ。」
「昨日の九時ごろどうされていました?」
「だから、ぼくは、ペット探偵で依頼犬を探していたっつうて言っているでしょ。」
「どこで?」
「へーと、多摩川から等々力へ抜けていた頃かな。」
「歩いて?」
「ええ。・・・・ナンですか?その連続傷害事件って・・・」
「昨日等々力と二子玉川で二人の女のひとが男に襲われましてね。」
「それで、オレがやったっつうの?それを」
「いや、いや、そうじゃなくて、ただ参考に聞いているだけです。気を悪く
されたらごめんなさい。」
「こうしてこんな警察にいる間も迷子の犬を探している人は、必死なんだ。
迷子さがしは、最初の一日二日が勝負なんだよ。オレはそんな飼い主のつらさ
を解消するために働いて、お金を貰って生活してんだ。ふざけるな。」
健太は、顔を真っ赤にして捲し立てるとテーブルをドンと叩いた。
一瞬、取調室が凍りついた。
しかし福田刑事は、まったく表情ひとつ変えず静かに椅子の背もたれに深く
座り直した。
「ごめんなさいね。ご商売の邪魔をいたしまして。どうぞ、もう済みました。
お帰りになられて結構です。有難うございました。」
「ああ、帰るよ。帰りますよ。」
健太は、福田の方には目も向けずさっさとドアを開けて廊下へ出て行った。
「あのー、犬飼さん。ひとつだけ教えてください。」
健太は、面倒臭いそうにふりかえて、はいとため息まじりに返事した。
「犬飼さんの血液型を教えていただければ。」
「オヒトヨシのO型でーす。」
「今日は、本当にご協力有難うござました。」
無表情に福田は、言って頭をさげた。
健太の怒りは、次の日自由が丘デパートで春からバール男のことを聞いて
ますます沸点を超えてしまった。
健太の腹の虫が煮えくり返ったときは、プリプリ大声を出したりした後に
最後は、屋上の探偵事務所に行ってひとり不貞寝をしてしまうのが常で、
これは子供の頃から変わってない習慣みたいなものだった。
ただ春から迷子犬ナナを見たという情報をもらったことが何よりの慰めになった。
事務所の窓外に結わいつけたハンモックに寝そべりながら、イエローストーン
時代のオオカミの写真集をパラパラとめくって、そんなバカな、この日本に
オオカミなんか、まさしてやあの、ナナ公がオオカミなんて春も頭がおかし
いんじゃないか、動物かぶれも度を越してるぜ、せっかく可愛い顔してるのに・・
と独り言を呟いた。
するとポケットのケイタイが鳴って、見知らぬ番号からの電話が入った。
「はい。こちら、自由が丘ペット探偵局。」
「あの、佐藤といいます。二日前に自由が丘の写真屋さんであった・・・」
「・・・ああ、あの子犬を亡くした子供のお母さん!」
「はい。佐藤沙織です。あの、お金払いますから子犬を売ったブリーダーの
居場所を突き止めて欲しいんです。」
「はあ・・・でも手がかりがないなあー。」
「お友達が又知らずにあのワンニャン天国堂でプードルを買ってしまったんです。
今度会うので一緒に来ていただきたいんです。」
「まあ、お金貰えるならいいんですけど・・」
ぼくは、何ができるのだろう。
ホッキョクグマさんにエサも持っていけない。
船にも乗れない。
ぼくひとりでは、焼け石に水・・・
何がクマさんを助けるためにできるか・・
わからず、
ただ歩いて・・・
それでも何ができるか・・
考えていたら
ホッキョクグマさんの親戚にあったよ。
ここにいて何ができるの?
聞いたら、
何も答えてくれなかったよ。
とりあえずぼくは、ゲップを減らそう。
牛のゲップに含まれるメタンカスは、二酸化炭素の23倍
ホッキョクグマさんにエサも持っていけない。
船にも乗れない。
ぼくひとりでは、焼け石に水・・・
何がクマさんを助けるためにできるか・・
わからず、
ただ歩いて・・・
それでも何ができるか・・
考えていたら
ホッキョクグマさんの親戚にあったよ。
ここにいて何ができるの?
聞いたら、
何も答えてくれなかったよ。
とりあえずぼくは、ゲップを減らそう。
牛のゲップに含まれるメタンカスは、二酸化炭素の23倍
NHKスペシャル「北極大変動/氷が消え悲劇が始まった」
昨日夜テレビでホッキョクグマのことをやっていたよ。
ウトウトと眠りながら見ていたら
北極の氷が例年なら凍る時期でも凍らず
30年前とくらべて40%以上も北極の氷がなくなっているんだって。
にんげんが出すCO2が原因なんだって・・さぁ。
オンダンカってよくにんげんは、言っているけれど
今、こんなになっているなんてびっくり。
氷がなくなると、アジラシくんがいなくなり、
アザラシくんがいなくなると
それを餌にしていたホッキョクグマが餓死する。
テレビでは発信器をつけてホッキョクグマの母子を
ずっと追いかけていて
ついに去年の9月以降発信器からの信号が動かなくなったよ。
ホッキョクグマの母子さんたち生き残れなかった・・・
こんな、たいへんな事になっているなんて。
毎日ドッグフードをもらえるぼくは、つらくて悲しくて、
まきまきチキンだろうが、Hillsだろうが、食べられる物を
みんな背中にしょってホッキョクグマさんのとこへ
持って行きたくなったよ。
昨日夜テレビでホッキョクグマのことをやっていたよ。
ウトウトと眠りながら見ていたら
北極の氷が例年なら凍る時期でも凍らず
30年前とくらべて40%以上も北極の氷がなくなっているんだって。
にんげんが出すCO2が原因なんだって・・さぁ。
オンダンカってよくにんげんは、言っているけれど
今、こんなになっているなんてびっくり。
氷がなくなると、アジラシくんがいなくなり、
アザラシくんがいなくなると
それを餌にしていたホッキョクグマが餓死する。
テレビでは発信器をつけてホッキョクグマの母子を
ずっと追いかけていて
ついに去年の9月以降発信器からの信号が動かなくなったよ。
ホッキョクグマの母子さんたち生き残れなかった・・・
こんな、たいへんな事になっているなんて。
毎日ドッグフードをもらえるぼくは、つらくて悲しくて、
まきまきチキンだろうが、Hillsだろうが、食べられる物を
みんな背中にしょってホッキョクグマさんのとこへ
持って行きたくなったよ。
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めぐみ
11
息ができなくなって春の両手が首にめり込んだバールを握りしめて激しく
もがいていると、菜の花とは違うナマ臭い匂いがしてうううっとケモノの
唸り声を春は確かに聞いた。
次の瞬間。男はバールを投げ出すと狂ったように暴れ出して、春の体が急
に自由になった。
春が立ち上がって目にしたものは、野犬に腕を噛まれて逃げ惑っている長身
の男の姿だった。春の胸に垂れた血は、その男のものだった。
野犬は腕から離れると、男と対峙してはげしく吠え立てた。
まるでオオカミのような長く鋭い牙とブルーに輝く三角の瞳を恐ろしく光らせてー。
野生の本当の姿というのは、こういう緊張感一色に一瞬にして塗りつぶされる
動物の意志の力を言うのだろうか。夜闇の乱れた黄色い菜の花畑が死という
ものの恐怖に隅から隅までひんやりと支配されている。
男は、咄嗟にバールを拾おうとすると野犬の牙に阻まれて慌てて車の方へ走り去った。
春は、畑をごろりと転がってぐちゃぐちゃになった菜の花の折れ曲がった茎の
ジャングルジムの隙間から恐る恐る格闘の現場を覗いた。
沿道の並木の間に黒い筋肉隆々の野犬が一匹立っていた。ちょうど男のミニワゴン
車が走り去るときヘッドライドがその野犬の全身を闇の中で煌々と浮かび上がらせた。
それは、誰が見ても野犬というより精悍で威厳に満ちた若いオオカミだった。
春は、強力な磁石に引き寄せられたようにそのオオカミを見つめた。
おそらくほんの一瞬車の光に照らされて、すぐに闇の中へ姿を消したのが現実
なのだろうが春の心の印画紙には、その凛々しい野生の生き物の姿が深く焼き
ついて何時までも残った。
あれは、何?
あの、私を救ってくれた若いオオカミは、何者?
春は、泥を振り払い立ち上がって、生まれて初めて本能というものに触れて涙が
溢れてくるのをどうすることもできなかった。
* * *
次の日。二子玉川の住宅街で32才の飲食店勤務の女性がミニワゴン車に
乗った暴漢に襲われて怪我をしたというニュースが流れた。
犯行時間からすると、春が襲われた三時間後の深夜二時だった。金品を盗られた
という訳でもなく強姦されたというものでもなかった。ただバールで首を絞めて、
女性の長い首に噛みついたり舐めたりしたというものだった。
だから新聞やテレビだと小さな地方ニュースでしか扱われなかったが、春が多摩川
署に被害届けを出したときに、応対した刑事に三ヶ月前に大田区でも中学生の
女の子がやはりバールを持った男に首を舐められたと聞かされて、同じ連続犯の
仕業の可能性が高いと言われた。それから春のシャツについた犯人の血を採取する
ということで警察に提出することになった。帰り際廊下で見送っていたその刑事
が甲高い声で春を呼び止めた。
「ちょっとそのまま。振り返らないで。」
春は、何なのかわからず前を向いたまま立ち止まった。
「あなた、首が長いですね。・・襲われた人はみんなきれいな長い首をしてる。」
「はあ?」
春が自分の首を触りながら、何か言おうとすると刑事は、両手を振って、どうぞ気に
せず行かれてください。有難うございました。と春を送り出した。
午後遅いカメラ店の開店になって、シャッターが三時過ぎに開けられた。
「ナンだ。そりゃ。首の長い女性ばかり襲う変態か。」
右足を引きずる春をカメラ店の待合ソファに座らせて上田祐二が言った。
「でも怖かった。まだバールで打たれた右足のフクラハギが痣になって痛むもん。」
「いや、だから昨日ぼくが家まで春ちゃんを車で送ればよかったんだ。自転車を駅に
置いてても無理でも送ればよかった・・・」
「私が自転車があるからいいって言ったから仕方なかったよ。まさかあんな男に会う
なんて思ってもみなかったんだもの。」
「いや。悪かったね。ぼくの方が・・・」
「いや、そんなことないよ。」
「それにしても首ナメ変態野郎、捕まえたらただじゃおかないっ。」
「でもあのオオカミがいたから助かったのよ。私。」
「そう、そう。さっきから聞いてるけど、それって何?犬?」
「あんなきれいで凛々しい犬なんて見たことない。きっとオオカミよ。」
「オ、オオカミ?」
「まだ若かったけど、イエローストーンで見たシンリンオオカミに近かった。」
「日本にオオカミが放し飼いでウロチョロしてるワケないじゃん。」
「ううん。あれ、絶対犬じゃないわ。」
「またまた、春ちゃんったら・・」
と瞳を輝かせている春を受け流してカバンから迷子犬のポスターを取り出した。
「これ、健太さんに頼まれたんだよ。どっか貼ってぇ。」
「・・・・・・」
「どうしたん?」
「これ!これよ!」
「何が?」
「このポスターの犬に似てる。私を助けてくれたオオカミ。」
「えええー。」
ビックリしてポスターを蛍光灯にかざして祐二は、見た。
11
息ができなくなって春の両手が首にめり込んだバールを握りしめて激しく
もがいていると、菜の花とは違うナマ臭い匂いがしてうううっとケモノの
唸り声を春は確かに聞いた。
次の瞬間。男はバールを投げ出すと狂ったように暴れ出して、春の体が急
に自由になった。
春が立ち上がって目にしたものは、野犬に腕を噛まれて逃げ惑っている長身
の男の姿だった。春の胸に垂れた血は、その男のものだった。
野犬は腕から離れると、男と対峙してはげしく吠え立てた。
まるでオオカミのような長く鋭い牙とブルーに輝く三角の瞳を恐ろしく光らせてー。
野生の本当の姿というのは、こういう緊張感一色に一瞬にして塗りつぶされる
動物の意志の力を言うのだろうか。夜闇の乱れた黄色い菜の花畑が死という
ものの恐怖に隅から隅までひんやりと支配されている。
男は、咄嗟にバールを拾おうとすると野犬の牙に阻まれて慌てて車の方へ走り去った。
春は、畑をごろりと転がってぐちゃぐちゃになった菜の花の折れ曲がった茎の
ジャングルジムの隙間から恐る恐る格闘の現場を覗いた。
沿道の並木の間に黒い筋肉隆々の野犬が一匹立っていた。ちょうど男のミニワゴン
車が走り去るときヘッドライドがその野犬の全身を闇の中で煌々と浮かび上がらせた。
それは、誰が見ても野犬というより精悍で威厳に満ちた若いオオカミだった。
春は、強力な磁石に引き寄せられたようにそのオオカミを見つめた。
おそらくほんの一瞬車の光に照らされて、すぐに闇の中へ姿を消したのが現実
なのだろうが春の心の印画紙には、その凛々しい野生の生き物の姿が深く焼き
ついて何時までも残った。
あれは、何?
あの、私を救ってくれた若いオオカミは、何者?
春は、泥を振り払い立ち上がって、生まれて初めて本能というものに触れて涙が
溢れてくるのをどうすることもできなかった。
* * *
次の日。二子玉川の住宅街で32才の飲食店勤務の女性がミニワゴン車に
乗った暴漢に襲われて怪我をしたというニュースが流れた。
犯行時間からすると、春が襲われた三時間後の深夜二時だった。金品を盗られた
という訳でもなく強姦されたというものでもなかった。ただバールで首を絞めて、
女性の長い首に噛みついたり舐めたりしたというものだった。
だから新聞やテレビだと小さな地方ニュースでしか扱われなかったが、春が多摩川
署に被害届けを出したときに、応対した刑事に三ヶ月前に大田区でも中学生の
女の子がやはりバールを持った男に首を舐められたと聞かされて、同じ連続犯の
仕業の可能性が高いと言われた。それから春のシャツについた犯人の血を採取する
ということで警察に提出することになった。帰り際廊下で見送っていたその刑事
が甲高い声で春を呼び止めた。
「ちょっとそのまま。振り返らないで。」
春は、何なのかわからず前を向いたまま立ち止まった。
「あなた、首が長いですね。・・襲われた人はみんなきれいな長い首をしてる。」
「はあ?」
春が自分の首を触りながら、何か言おうとすると刑事は、両手を振って、どうぞ気に
せず行かれてください。有難うございました。と春を送り出した。
午後遅いカメラ店の開店になって、シャッターが三時過ぎに開けられた。
「ナンだ。そりゃ。首の長い女性ばかり襲う変態か。」
右足を引きずる春をカメラ店の待合ソファに座らせて上田祐二が言った。
「でも怖かった。まだバールで打たれた右足のフクラハギが痣になって痛むもん。」
「いや、だから昨日ぼくが家まで春ちゃんを車で送ればよかったんだ。自転車を駅に
置いてても無理でも送ればよかった・・・」
「私が自転車があるからいいって言ったから仕方なかったよ。まさかあんな男に会う
なんて思ってもみなかったんだもの。」
「いや。悪かったね。ぼくの方が・・・」
「いや、そんなことないよ。」
「それにしても首ナメ変態野郎、捕まえたらただじゃおかないっ。」
「でもあのオオカミがいたから助かったのよ。私。」
「そう、そう。さっきから聞いてるけど、それって何?犬?」
「あんなきれいで凛々しい犬なんて見たことない。きっとオオカミよ。」
「オ、オオカミ?」
「まだ若かったけど、イエローストーンで見たシンリンオオカミに近かった。」
「日本にオオカミが放し飼いでウロチョロしてるワケないじゃん。」
「ううん。あれ、絶対犬じゃないわ。」
「またまた、春ちゃんったら・・」
と瞳を輝かせている春を受け流してカバンから迷子犬のポスターを取り出した。
「これ、健太さんに頼まれたんだよ。どっか貼ってぇ。」
「・・・・・・」
「どうしたん?」
「これ!これよ!」
「何が?」
「このポスターの犬に似てる。私を助けてくれたオオカミ。」
「えええー。」
ビックリしてポスターを蛍光灯にかざして祐二は、見た。
こちらのお菓子、製造は名古屋の会社ですが、購入したのは谷中の
ねんねこ家というお店です。
かわいい猫グッズのお店で、猫の置物やオリジナルのイラスト入り
バッグやTシャツを始めとして、今回の猫型マドレーヌや最中なども
販売しています。
店内では喫茶も出来て、運が良ければ店飼いの猫にも会えますよ☆
ねんねこ家というお店です。
かわいい猫グッズのお店で、猫の置物やオリジナルのイラスト入り
バッグやTシャツを始めとして、今回の猫型マドレーヌや最中なども
販売しています。
店内では喫茶も出来て、運が良ければ店飼いの猫にも会えますよ☆
東京ディズニーランドは開園25周年のイベントで大盛況。
開園当時のチケットや包装紙をデザインした記念グッズが売られていたりして、
とても懐かしかったです。
今回特に気に入ったのは、『カリブの海賊』横のロイヤルストリートに出来た
「パーティグラ」というお店。
ニューオーリンズの有名な祭り「マルディグラ」をイメージしたグッズショップで、
ピエロのようなマルディグラ衣装を着たミッキーやミニー、カラフルなビーズ装飾品、
コーヒーなどが売られています。
ちなみにマルディグラとは…カトリックの年中行事・謝肉祭で、パレードや仮面
舞踏会が行われます。
パレードではフロートと呼ばれる山車が通りに出て、観衆に向かってカラフルな
ビーズやコインが投げられます。
マルディグラにはテーマカラーがあり、紫は正義、緑は信頼、金は力…
となっているそうです。
確かにパーティグラのミッキー&ミニーも、この三色の衣装を着ています♪
仮面舞踏会のマスクやビーズ細工が飾られ、ちょっと異国情緒が漂う
パーティグラは、ニューオーリンズの街並みを再現したロイヤルストリートに
ぴったりマッチした素敵なお店でした☆
ぼくは、街に出て考えた。
あしたは、いつ来るの?
きょうは、きのうのあした。
あしたになると、もうきょう。
きのうの、ぼくは知っているけど
あしたのぼくは、わからない。
でもあしたは、きっと来る。
ついぼくは、きょうのおやつや散歩のことで
頭がいっぱいになるよ。
あしたのこと、忘れちゃう。
あしたは柔らかい手をしてる。
あしたは新鮮なミルクの匂い。
何にでもなれる柔らかいあしたへ。
ぼくは、ぼくの希望をさがそう。
あしたは、いつ来るの?
きょうは、きのうのあした。
あしたになると、もうきょう。
きのうの、ぼくは知っているけど
あしたのぼくは、わからない。
でもあしたは、きっと来る。
ついぼくは、きょうのおやつや散歩のことで
頭がいっぱいになるよ。
あしたのこと、忘れちゃう。
あしたは柔らかい手をしてる。
あしたは新鮮なミルクの匂い。
何にでもなれる柔らかいあしたへ。
ぼくは、ぼくの希望をさがそう。