地裁判決(うち求刑死刑)
高裁判決(うち求刑死刑)
最高裁判決(うち求刑死刑)
17(2)
10(2)
9(2)
【最新判決】
氏 名
礒飛京三(44)
逮 捕
2012年6月10日(現行犯逮捕)
殺害人数
2名
罪 状
殺人、銃刀法違反
事件概要
住所不定、無職礒飛(いそひ)京三被告は2012年6月10日午後1時ごろ、大阪市中央区東心斎橋1の路上で、通行中だった東京都東久留米市に住むイベント会社プロデューサーの男性(当時42)の腹や首などを包丁で何回も刺して殺害。さらに犯行に気付き自転車を押しながら逃げていた大阪市中央区に住むスナック経営の女性(当時66)の背中などを複数回刺して殺害。その後、礒飛被告は男性の方にゆっくり歩いて向かい、倒れている男性に馬乗りになり、再び刺した。通行人の女性から「人が刺された」と110番があり、警察官が現場に駆け付け、そばにいた礒飛被告を殺人未遂の容疑で現行犯逮捕した。逮捕直後、礒飛被告は「人を殺せば死刑になると思ってやった。殺すのは誰でもよかった」と供述した。その後、「事件前夜から幻聴が聞こえ始め、仕事が見つからないこともあって不安になった。幻聴のままに包丁を買い、現場へ行った」とも供述した。
男性は自身が企画した音楽レーベルのライブツアーに同行するため、9日に名古屋市から車で大阪入りしていた。ライブは現場から約60mの会場で午後6時開始を予定しており、午後1時に近くのライブ会場で待ち合わせしていた。女性は自転車で近くを通りかかったところだった。二人は礒飛被告と面識はなかった。
礒飛被告は覚せい剤取締法違反罪で新潟刑務所に服役し、満期で5月24日に出所。保護観察所に紹介された出身地である栃木県内の薬物依存者の自立を支援する無料の民間施設に滞在。6月8日に本人の希望で施設を出て大阪に移動し、9日は知人男性とその知人ら数人と大阪市内などを観光し、酒を飲んだ後、夜遅くなってから同市中央区の男性宅に宿泊。事件のあった10日は昼前ぐらいに荷物を持って男性宅を出ていた。そしてコンビニで全財産である現金17万円を下ろし、すぐに百貨店で包丁を買っていた。
7月2日、大阪府警南署捜査本部は殺人容疑で礒飛被告を再逮捕した。大阪地検は鑑定留置を請求。約3か月半にわたって実施した精神鑑定では、鑑定医が「覚醒剤使用時のような精神状態だった」という趣旨の所見を示していたが、地検は、犯行前後の言動などを踏まえ、完全責任能力があったと判断し、11月8日、殺人容疑などで起訴した。
裁判所
最高裁第一小法廷 小池裕裁判長
求 刑
死刑
判 決
2019年12月2日 無期懲役(検察・被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
検察側は死刑を求め、弁護側は被告の責任能力を認めた二審判決の破棄などを求めていた。
判決で小池裕裁判長は「犯行態様は残虐で、刑事責任は誠に重大だ」とした。また、「無差別殺人は生命軽視の度合いが大きく、厳しい非難が向けられるが、その程度は事案ごとに異なる」として、死刑を適用するか否かは、死傷者の数や動機、計画性などの要素を総合的に考慮すべきだとした。そして計画性の程度が死刑適用の分かれ目であるかのように指摘した二審について「是認できない」と言及。しかし今回の事件について、覚醒剤中毒の後遺症による幻聴が犯行の一因だったことや、被告が犯行の約10分前に包丁を購入したことを踏まえると場当たり的で衝動的な犯行だったことがうかがえると指摘。「無差別殺人遂行の意思が極めて強固だったとは認められず、生命軽視の度合いも甚だしく顕著だったとはいえない」とした。また、死刑が究極の刑罰であり、その適用は慎重に行わなければならないという観点と公平性の観点を踏まえ、犯情を総合的に評価した結果、死刑を回避した二審判決については「著しく正義に反すると認められない」と判断した。裁判官5人全員一致の結論。
備 考
亡くなった男性は大阪市出身で、1996年にロックバンド「4-STiCKS」のボーカルとして、大手レコード会社からメジャーデビューをしていた。2012年10月に新宿区のライブハウス「新宿ロフト」で追悼ライブが開かれ、2013年以降もバンドのベーシストたちによって命日の6月10日に追悼ライブが開かれた。一審の裁判員裁判でも、この日前後の6日間は休廷になった。
2015年6月26日、大阪地裁(石川恭司裁判長)の裁判員裁判で求刑通り一審死刑判決。【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
2017年3月9日、大阪高裁で一審破棄、無期懲役判決。
氏 名
北嶋祥太(24)
逮 捕
2018年11月8日
殺害人数
1名
罪 状
強盗殺人
事件概要
石川県金沢市の無職、北嶋祥太被告は2018年11月8日午前9時半ごろ、自宅で同居する祖父(当時71)の首をひもで絞めて殺害した上、テレビなど家電製品3点(5万5千円相当)と現金約1万2千円を奪った。犯行後、祖父の軽トラックに乗ってテレビをリサイクルショップで換金し、能美市で11時の開店からパチスロをしていた。
北嶋被告は祖父と2歳下の弟の三人暮らし。北嶋被告は高校卒業後就職した2014年に友人に誘われてパチスロをし、その後は一人で行くようになった。21歳の時、母を亡くした。コミュニケーション障害の影響もあって相談相手を失った。パチスロなどに使う金が足りず、借金するように。2018年春ごろからは同居する祖父や弟のテレビなどを無断で持ち出し、換金を繰り返した。2018年5月末、無職になった。祖父に叱責され、8月末ごろには家を追い出され、敷地内の納屋などで暮らしていた。
同日午後5時ごろ、弟が仕事を終えて帰宅したが、祖父や被告の姿は見なかった。いったん外出後、午後8時ごろ帰宅し、祖父の姿を見つけ、警察に通報した。午後9時半ごろ、パチスロをしていた北嶋被告を捜査中の警察官が発見。事情を聴くと犯行を認めたため、緊急逮捕した。
裁判所
金沢地裁 大村陽一裁判長
求 刑
無期懲役
判 決
2019年12月3日 無期懲役
裁判焦点
裁判員裁判。
2019年11月25日の初公判で、北嶋祥太被告は「間違いないです」と起訴内容を認めた。
検察側は冒頭陳述で、北嶋被告が事件の前からパチンコに使う金を得る目的で祖父や弟のテレビなどを複数回にわたって換金していて、犯行時には手袋を着用しベルトで祖父の首を絞めるなど、一定の計画性が認められると主張した。弁護側は、北嶋被告はギャンブル依存症で、パチンコをしたいという強い欲求に支配され、心神耗弱の状態だったとして責任能力の有無を争う姿勢を示した。
28日の論告で検察はギャンブル依存症は動機には影響したが、現場に指紋が残らないようにゴム手袋などを準備していた北嶋被告の計画性を指摘。「物事の善悪を判断することができていて完全責任能力がある。確定的な殺意で首を絞め続けた卑劣な犯行だ」と述べた。
同日の最終弁論で弁護側は、北嶋被告が事件後、能美市内のパチンコ店に10時間以上も滞在していたことなどを挙げ、「殺人行為は、ギャンブル依存症が行動をコントロールする能力を著しく障害した結果だ」と説明。心神耗弱の状態であり、再犯の可能性も認められないとして懲役15年が相当と主張した。
判決で大村陽一裁判長は、「パチンコの資金を得るためという身勝手な動機で無防備な祖父の首を絞めて殺害したことは悪質だ」と指摘。減刑や酌量はふさわしくないとした。
備 考
氏 名
小林遼(25)
逮 捕
2018年5月14日
殺害人数
1名
罪 状
殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄、死体損壊、わいせつ目的略取、電汽車往来危険、児童買春・児童ポルノ禁止法違反
事件概要
新潟市の会社員、小林遼(はるか)被告は2018年5月7日午後3時過ぎ、下校途中で友人と別れ自宅から300m地点を一人で歩いていた小学2年生の女児(当時7)に軽乗用車をぶつけて車に乗せ、駐車場に止めた車内でわいせつな行為をした上、意識を取り戻した女児が大声を上げたため、首を手で絞めて殺害。遺体をJR越後線線路に遺棄し、電車にひかせた。
同日午後10時半ごろ、新潟市西区のJR越後線小針駅近くで、女児が列車にひかれた状態で死亡しているのが見つかった。新潟県警は殺人・死体遺棄事件として新潟西署に捜査本部を設置。近くに住む小林遼被告を5月14日に死体遺棄、同損壊容疑で逮捕し、6月4日に殺人容疑で再逮捕した。 他に、2017年11月27日にネットで入手した児童ポルノが入った携帯電話を所持したとされる児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪でも起訴されている。
裁判所
新潟地裁 山崎威裁判長
求 刑
死刑
判 決
2019年12月4日 無期懲役
裁判焦点
裁判員裁判。
2019年11月8日の初公判で、小林遼被告は「首を絞めたのは間違いないが、静かにしてもらうためで殺意はない」と述べ、殺意を否認。強制わいせつ致死罪についても「わいせつ行為はしておりません」などと述べた。死体遺棄、損壊やわいせつ略取の罪については認めた。
検察側は冒頭陳述で、勤務先を無断欠勤した小林被告が車を走行しながら下校中の女子児童を物色し、一人で歩いていた女児を見つけたと説明。女児は車内に連れ込まれた際、泣きながら「頭が痛い。お母さんに連絡したい」と訴えたとした。小林被告が女児の首を5分以上にわたって絞め続け、死亡後に救命措置を取らなかった点について「人を殺害する典型的な行動」とし、殺意があったと指摘。証拠隠滅のため、女児を電車にひかせたとして「一貫して被害者を物のように扱い、特異かつ冷酷非情」とした。
弁護側は車を女児に衝突させて連れ去り、2度にわたり首を絞めたことや遺体を線路に置いた事実は認めた。一方、首を絞めた行為について「女児に悲鳴を上げられたため、黙らせようと気絶させるためだった」と主張し、殺意やわいせつの意図はなく、傷害致死罪にとどまると主張。強制わいせつ致死罪も成立しないと訴えた。「(被告は)取り返しのつかないことをしたと反省している」とするとともに、小林被告には抑うつ障害などがあったと訴えた。
11日の第2回公判で女児の遺体を司法解剖した医師が「5分以上は首を絞められたと考えられる。殺意はあったと思う」と証言した。検察側の質問に対し、一般論として「呼吸を停止させるには短くても5分以上、意識がなくなってから2分以上首を絞める必要がある」と指摘。小林被告が捜査段階で「体感で5分以上絞めた」と供述したことについて「(矛盾は)特にない」とした。女児の首には圧迫された明らかな痕はみられなかったと明らかにした上で、「手などで絞めた場合は表面に痕が残りにくい」として、絞めた力が軽かった証拠にはならないと答えた。一方、弁護側が「法医学では殺意を認定できないのでは」と指摘すると、高塚医師は「(被告の内心については)専門ではない」と述べた上で、「5分以上絞めるのは、何らかの意思があったのではないか」と話した。
12日の第3回公判で小林被告の元同僚が証言台に立ち、仕事に対する姿勢について「真面目だった」と話した。一方で、「失敗があると嘘をつくなどプライドの高いところがあった」と証言した。小林被告が事件当日、会社を無断で休んだ理由について、検察官に人間関係の悩みがあったか聞かれると「なかったと思う」と答えた。また、往来の危険について証言したJRの運転士は、女子児童の遺体にぶつかった時「脱線の危険を感じた」と語った。
13日の第4回公判で女児の父親が出廷し、小林被告に対し「一切謝罪もない。更生や反省なんて軽々しく口にしてほしくない」と怒りをあらわにし、「死刑でも私たち家族の気持ちは収まらない」と語った。
14日の第5回公判で、弁護側の依頼を受けて4~7月、小林被告との面談などを実施した精神科医は、小林被告が事件について「反省心はない。裁判はどうでもいい。死刑でも構わない」と話したと証言。こうしたことについて精神科医は、小林被告が抑鬱障害のために自暴自棄になり、他人を殺害することに対する認識が希薄になっていた可能性があると指摘。動機などを解明するために正式な鑑定の必要性があるとした。また、解離性障害をめぐっては、小林被告が「5人くらいの男性の声が聞こえてくる」「(事件当時に)『やめようよ』という声と『やっちゃえ』という声の両方が聞こえた」などと話していたと証言。障害の影響で犯行時の記憶が一部欠けていることなどから、犯行の計画性に疑義を呈した。 一方検察側は、被告の精神科医に対する発言が捜査段階の供述内容と食い違うことを指摘。被告が自分に責任能力がないように見せかけるために嘘をついた可能性を指摘した。
18日の第6回公判における被告人質問で、弁護人から遺族に対する気持ちを聞かれると、小林被告はその場で立ち上がり、「私の身勝手な行動で(女児を)死なせてしまい、遺族の皆さまに癒えない傷と不自由な生活をさせてしまい、大変申し訳ありませんでした」と低い声で話し、頭を下げた。しかし、「気絶してもらおうと思い、首を絞めました」と、改めて殺意を否定するとともに、事件当日の行動について、一部を「覚えていません」などと話し、強制わいせつ致死罪についても「取調官の話に合わせてしまった」と捜査段階では認めていたとされる、わいせつ行為を否定した。
19日の第7回公判で被害者参加制度を利用して意見陳述した女児の母親は、「被告にふさわしいのは死刑しかない」と、涙で声を詰まらせながら極刑を求めた。
22日の論告で検察側は、わいせつ行為中に女児が泣き叫んだため殺害し、証拠隠滅のため遺体を電車にひかせるなど、「凄惨の極みだ」と非難。一貫して被害者の生命より自分の性的欲望を優先し、「被害者を物としか見ていない生命軽視の姿勢は明らかだ」と指摘し、被害者が1人でも死刑を回避すべき事情にはならないと強調した。
同日の最終弁論で弁護側は、女児の首を絞めたのは気絶させるのが目的と述べ、改めて殺意を否定。一部のわいせつ行為についても「あったとは言い切れない」と主張した。被告が精神的な障害・疾患を抱え、犯行に影響を与えた可能性があるとし、「必要なのは刑罰ではなく治療」と主張した。「障害のある人を死刑にすることが本当に正義にかなうのか」とも訴えた。被告に前科がなく、若いことから、「更生の可能性は高い」と検察に反論した。そして傷害致死を適用すべきで、懲役10年が相当とした。
小林被告は最終意見陳述で、「身勝手な思いで娘さんを死なせてしまい大変申し訳ない」と頭を下げた。
判決で山崎裁判長は、争点となった殺意の有無について、首を絞めたのは大きな声を出した女児を気絶させる目的だったと認定。だが、首を絞める行為は人が死ぬ危険性が高いことは子供でも分かると指摘し、被告が女児の呼吸や脈を確認しながらも救命措置をしていない点を挙げ、「死ぬかもしれないと認識していた」として殺意を認めた。また被告の捜査段階の供述や医師の証言、遺体の状況などから、強制わいせつ致死罪も成立するとした。量刑について、究極の刑罰である死刑の適用には慎重な判断が必要で、過去の裁判例との「公平性の確保」にも留意するとした最高裁の判断に沿って検討した。極刑を望む遺族の処罰感情に「できる限りこたえたい」としつつ、裁判員裁判で審理されたわいせつ目的の殺人では、死刑判決が出ていないことや、殺害に計画性が認められないことなどを重視。車を女児に衝突させたことや、遺体を線路に置いて列車にひかせたことは悪質だが、殺害行為そのものではないと指摘し、「何ら落ち度のない被害者が下校中に連れ去られ殺害された。結果は重大で、まれに見る凄惨な事件」と非難し、「遺族の悲痛な思いは察するが、慎重さと公平性は特に求められる」と述べ、同種事件に比べ際立って残虐とは言えず、無期懲役が相当とした。
判決後、山崎裁判長は「生きて罪を償うことになった以上、命が尽きるその瞬間まで一瞬たりとも謝罪の気持ちを忘れないでください」と小林被告に語りかけた。
備 考
政府はこの事件を受けて2018年6月、午後3~6時の下校時間帯の見守り活動を強化する「登下校防犯プラン」を新たに策定。新潟市教育委員会も自治体や保護者などで作る防犯マップを市内全学校で更新した。
氏 名
ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン(34)
逮 捕
2015年10月8日
殺害人数
6名
罪 状
強盗殺人、住居侵入、住居侵入
事件概要
2015年9月13日午後1時30分ごろ、外国人の男性から片言で金を無心されたと住民から相談を受けた熊谷市内の消防分署から、意味不明の言葉を話している外国人がいるとの通報があり、ペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告が熊谷署に任意同行された。ナカダ被告は署員に「母国のペルーに帰りたい」「姉が川崎にいる」と話した。
川崎市に住む姉と電話で話し、姉は「ストレスをためているようだ」と説明。さらに、姉はナカダ被告が帰国を希望していることを明かし、「飛行機代くらいは出す」と伝えてきた。ただ、ナカダ被告も姉も細かい日本語を理解できず、同署は通訳を要請。その間、ナカダ被告はたばこを吸いたいといって署内の正面玄関わきにある喫煙所で一服した後、付き添いの署員を振り切って逃走した。現金3,417円入りの黒革の財布と健康保険証、在留カード、パスポートなどの所持品を残していた。付き添いの警察官は交通量が多いと追わなかった。その後、署員5人が警察犬を連れて付近を捜索したが、見つからなかったという。午後5時9分、熊谷市石原の住宅の物置小屋に男が侵入していると住民から110番通報があった。午後5時34分ごろ、別の民家の敷地に男が侵入したと住民から110番通報があった。いずれも「カネ、カネ」と話していた。
ナカダ被告は9月14日午後5時ごろ、熊谷市内の夫婦(当時55、53)方に侵入し、奪った包丁で二人を殺害。乗用車とスマートフォン1台、現金約9,000円などを奪った。午後6時5分ごろ、妻の父親が二人の遺体を発見し、110番通報した。
15日、奪われた車が近くの駐車場で見つかった。熊谷署は、13日の住居侵入事件でナカダ被告の逮捕状を取った。熊谷署は防災無線による注意喚起を口頭で市教委に要請したが、防災無線による注意喚起は、所管する市安心安全課に文書で要請することになっていたたため、注意喚起は行われなかった。
9月15~16日、ナカダ被告は最初の殺人現場から約1km離れた独り暮らしの女性(当時84)方に無施錠の1階窓から強盗目的で侵入し、1階和室で女性の腹部を数回、突き刺すなどして殺害し、新たに包丁を奪ったほか、遺体を風呂場の浴槽に入れ、蓋などをかぶせて隠した。
16日、熊谷市の会社員方に無施錠の1階窓から侵入、1階トイレで妻(当時41)の胸を包丁で数回、突き刺すなどして殺害して、敷毛布をかけて1階クローゼットに隠す一方、学校から帰宅した小学5年の長女(当時10)、小学2年の次女(当時7)を2階寝室で切りつけて殺害、2人の遺体を2階クローゼットに隠した。
16日午後4時半ごろ、三番目の犠牲者方に訪れた女性の義理の娘が、「家の中に血痕があり、義母の姿が見えない」と110番通報。駆けつけた警熊谷署員が浴室で女性の遺体を発見した。この事件で周辺の聞き込みをしていた捜査員が午後5時半ごろ、西に約100m離れた民家の扉が開いたままで中に声をかけても返答がなかったため、裏に回り込んだところ、2階の窓から顔を出し、自分の腕を刃物で刺しているナカダ被告を見つけた。ナカダ被告は間もなく2階の窓から飛び降り、頭の骨を折るなどの一時意識不明の重体となって深谷市内の病院に運ばれた。捜査員はこの家の屋内3人の遺体を発見した。
ナカダ被告は2005年4月にペルーから入国。在留資格はあった。父が日本人、母がペルー人の日系2世で姉2人と兄2人が日本で暮らしている。その後、派遣会社などに登録し、関東や関西、九州、東海など各地の食品工場を転々としていた2015年7月30日からは埼玉県の工場で働いていたが、「作業があわない」と本人から申告があり、8月15日からは伊勢崎市の工場で働いていた。しかし9月12日、「背広を着た人に追われ、工場に戻れないので辞めます」と人材派遣会社の担当者に電話をかけ、そのまま姿を消していた。
ナカダ被告は入院から約1週間後に意識を回復。医師の許可が出たため、県警は10月8日、夫婦に対する殺人と住居侵入容疑でナカダ被告を逮捕した。しかしナカダ被告は頭痛がすると言い、15日に再入院。髄膜炎などのおそれがあるとして22日に頭部の手術を受けた。23日、さいたま地検は勾留の執行停止をさいたま簡裁に請求し、認められた。地検は29日、執行停止を取り消すよう申し立て、30日、簡裁は決定を出した。
弁護団は10月30日付で、証拠保全のための精神鑑定をさいたま簡裁に請求した。後日、同簡裁は「現時点では必要ない」などとして却下していた。
11月25日、県警は親子3人の殺人容疑でナカダ被告を再逮捕した。
ナカダ被告は12月8日から2016年5月13日まで鑑定留置された。さいたま地検は5月20日、責任能力が認められると判断して、強盗殺人と死体遺棄、住居侵入容疑で起訴した。
裁判所
東京高裁 大熊一之裁判長
求 刑
死刑
判 決
2019年12月5日 無期懲役(一審破棄)
裁判焦点
2019年6月10日の控訴審初公判にナカダ被告は出廷し、開廷前には両隣の刑務官に盛んに話しかけていたが、開廷後はうつむいたままで、人定質問にも答えなかった。
弁護側は公判で「被告は統合失調症に罹患し、犯行時は心神喪失状態だった」と改めて無罪を主張した。検察側は控訴棄却を求めた。
弁護側の依頼で精神鑑定をした医師が出廷し「被告が事件前から統合失調症を発症していたのは間違いない」と一審同様に証言。「(何かを命令されるような)幻聴を聞いていてもおかしくない」とも述べた。
8月1日の第2回公判で、ナカダ被告の訴訟能力の有無について調べる被告人質問が行われ、被告は「私を殺せばいい」などと供述する一方で、事件とは無関係の発言や質問とかみ合わない回答を繰り返した。
9月10日の第3回公判で、妻と2人の娘を亡くした男性が意見を陳述。「控訴審での被告は、言葉数も多く、『なぜこんなに元気なんだ』とむなしさと怒りが込み上げた。妻と娘は生き返らないのに、これほどの理不尽はない」と憤りを示し、「私の望みはただ一つ、被告人が死刑になることです」とはっきりとした口調で述べた。
同日の弁論で弁護側は、「被告は実効的なコミュニケーションを取ることができず、利害を弁別し自身を防御することもできない」と被告の訴訟能力を否定。責任能力についても「各犯行に統合失調症の妄想が大きく関係している」とした上で、「ただちに無罪を言い渡すか、公判手続きを停止するべき」と主張した。検察側は、一審判決に事実誤認があるなどとする弁護側の主張を否定。「事実誤認はなく正当。弁護側の主張はいずれも失当である」として、完全責任能力を認めた一審死刑判決の維持を求め、結審した。
判決で大熊裁判長は、ナカダ被告の精神障害が犯行に及ぼした影響を直近の状況のみで検討した一審判決について、「精神鑑定の評価に看過しがたい誤りがあって是認できない」と指摘。「妄想上の追跡者から身を隠すために被害者方に侵入し、被害者を追跡者とみなしたか、警察に通報されると考えて殺害に及んだ可能性があり、統合失調症の影響が非常に大きかったことは否定できない」とした。一方、遺体を隠したり、血を拭き取るなど証拠隠滅と受け取れる行動を繰り返していたことから、「自発的意思も残されており、違法性も理解していた。犯行は妄想や精神的な不穏に完全に支配されていたとは言えず、心神耗弱の状態だった」と認定した。その上で「強固な殺意に基づく残忍な犯行で、6人の命が奪われた結果は誠に重大。責任能力の点を除けば極刑で臨むほかない。心神耗弱による法律上の減軽をした上で無期懲役が相当」と述べた。
備 考
ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告の兄の一人は、ペルーで2005~2006年、拳銃で17人を殺害したとして、2006年に逮捕され、2007年に禁錮35年の刑を言い渡されていた。実際には25人を殺害したと供述していた。妄想型統合失調症と診断され、医療刑務所に収監されている。
埼玉県警は2015年10月29日、反省点と今後の取り組みをまとめた報告書を公表した。住民への注意喚起が不十分だったとされた点を検討。積極的な注意喚起が必要とし、今後の取り組みとして「『戸締まりをしてください』『不要な外出を控えてください』など具体的な措置を示すよう努める」ことを盛り込んだ。また「高齢世帯にも確実に情報が届くよう、メール以外の情報発信を活用する必要がある」とし、地元密着型のローカルテレビなどとの連携▽自治会、町内会などのネットワークの活用▽防災無線の積極的な活用――を進めるとした。他に、外国語に通じた警察官の育成や、民間の嘱託通訳人の拡充を図るとした。県警が直轄警察犬を保有しておらず、署から逃走したナカダ容疑者の捜索のために民間の嘱託警察犬を手配した際、約3時間がかかったことを踏まえ、直轄警察犬の導入や犬舎の整備を急ぐとした。
埼玉県警の報告書公表にあわせ、警察庁は29日、連続発生の恐れのある凶悪事件が起きた場合の対応強化を求める通達を全国の警察本部に出した。発生直後に事件の性質がはっきりしない場合でも、連続して被害が出る可能性を前提に初動捜査を行うとともに、住民に情報を提供することを求めている。
2015年12月、市と警察署と自治会連合会の三者によって結ばれた不審者・犯罪情報提供をめぐる協定「熊谷モデル」が締結された。生命身体への危険などを基準に情報を3段階に分類し、防災無線、市のメール、自治会連絡網を積極的に利用する。また、三者の連絡窓口を一本化し、防災無線の依頼手順などを明記。情報交換を年1回以上行う三者間協議会を設置する-などが内容。熊谷市を皮切りに、2016年6月までに県内全39警察署と全63市町村で協定が締結された。
2018年3月9日、さいたま地裁(佐々木直人裁判長)の裁判員裁判で求刑通り死刑判決。
【2019年度 これまでの無期懲役判決】
氏 名
池田徳信(31)
逮 捕
2016年7月9日(死体遺棄容疑)
殺害人数
1名
罪 状
強盗殺人、死体遺棄、死体損壊、住居侵入
事件概要
東京都世田谷区の無職、池田徳信(やすのぶ)被告は2016年6月20日ごろ、世田谷区のマンションの2階の部屋に忍び込もうとベランダから上ったが、鍵が閉まっていたため、一つ上の3階に住む無職の女性(当時88)の部屋の窓の鍵が開いていたため、侵入。寝ていた女性が驚いて大声を出したため、首を絞めるなどして殺害し、現金約35万円を奪った(ただし現金を奪ったことは裁判で認められなかった)。さらに、室内にあった包丁で女性の遺体を浴室で切断。一度帰宅した後、翌21日に忍び込み、遺体を持出し区立碑文谷公園内の池に遺棄した。
池田被告は当時、女性のマンションから約500メートルのマンションに母親と二人暮らしだった。
6月23日午前10時半ごろ、公園の清掃作業員の男性が切断された一部が池に浮いているのを見つけた。その後の捜索で首や腰、両手足などが見つかった。捜査本部は7月3日に池の水を抜いて約50人態勢で大規模な捜索をした。
池田被告が女性のマンションに出入りする姿や、公園近くにいる姿が防犯カメラに映っていたことや、池田被告の足跡などが見つかったことから、警視庁碑文谷署捜査本部は9日、池田被告を死体遺棄容疑で逮捕した。8月2日、強盗殺人容疑で再逮捕した。遺体は8月17日、すべての部位が見つかった。
裁判所
最高裁第二小法廷 山本庸幸裁判長
求 刑
無期懲役
判 決
2019年1月8日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
備 考
目黒区は事件後、警察捜査と園内の整備に伴い、一部を除き区立碑文谷公園を閉鎖していた。2016年9月15日、公園の利用を10月3日に再開すると発表した。園内の防犯対策に向けた整備が終了したためで、同日再開式も行う。また、池のボートは10月8日に再開した。
2017年9月29日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2018年4月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。
氏 名
ランパノ・ジェリコ・モリ(37)
逮 捕
2017年9月2日
殺害人数
1名
罪 状
殺人、強姦致死
事件概要
フィリピン国籍のランパノ・ジェリコ・モリ被告はフィリピン国籍の少年2人(事件当時19、18)と共謀。2004年1月31日午前0時から6時半ごろまでの間、茨城県阿見町の路上で、散歩で通りがかった茨城大農学部2年の女子学生(当時21)の腕をつかんで車に連れ込み、美浦村舟子の清明川に向かう車内で暴行を加え、手などで首を絞めた。さらに、清明川の河口付近で首を刃物で複数回切るなどして殺害した。 ランパノ被告は母親らと2000年に入国。事件当時、ランパノ被告は土浦市内に住み、美浦村内の電器部品加工会社に勤務していた。女子学生と面識はなかった。
遺体は31日の午前9時半ごろ、発見された。
ランパノ被告や共犯の2人は2007年にフィリピンに出国するも、ランパノ被告は再び日本に入国。2010年からは岐阜県瑞浪市に母親や妻、子供らと住み、工場に勤めていた。
茨城県警は交友関係を中心に調べるもトラブルは無く、犯人につながる手掛かりが乏しく捜査が長期化。県警は殺人罪などの公訴時効が2010年に撤廃されたことを受けて、未解決事件に専従する捜査班を翌年に設置した。新たな情報提供を呼びかけるなどした結果、2015年に情報が寄せられ、ランパノ被告が捜査線上に浮上。捜査を続けた結果、ランパノ被告が友人らに対し、事件への関与をほのめかしていたことが判明。遺体に付着した微物のDNA型がランパノ被告のものと一致した。茨城県警は2017年9月2日、岐阜県瑞穂市で工員として働いていたランパノ・ジェリコ・モリ被告を強姦致死と殺人の疑いで逮捕した。また県警は同日、ランパノ被告の妹と日本人の夫について偽装結婚したとして電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で逮捕、さらに夫と同居するタイ国籍の飲食手順従業員の女性を入管難民法違反(不法在留)容疑で逮捕している。
9月5日、茨城県警はフィリピン国内にいると思われる共犯2人の逮捕状を取り、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配した(なお1人についてはフィリピンで日本の取材に応じている)。ただし日本とフィリピンとの間には事件捜査の協力を要請できる「刑事共助協定」がなく、容疑者の身柄引き渡しに関する条約もないため、フィリピン政府に引き渡しを求めることができない。
裁判所
東京高裁 栃木力裁判長
求 刑
無期懲役
判 決
2019年1月16日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
2018年12月12日の控訴審初公判で、弁護側は、一審判決が重すぎると主張。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。被告人質問でモリ被告は「被害者に申し訳ない。罪を償い、社会に出られたらきちんと生活したい」と述べた。
判決で栃木裁判長は、モリ被告は、女性に乱暴し口封じのため殺害することを、事前に他2人と話し合って事件を起こしたと指摘。通りすがりの被害者を暴行し、発覚を防ぐため殺害したと認定し、「被害者の人格を踏みにじる卑劣な犯行で、殺害態様も残虐。被告が反省していることを踏まえても、無期懲役が相当だ」とした一審判決は適切と判断した。
備 考
2018年7月に改正刑法が施行され、強姦罪は「強制性交罪」に変わり、法定刑が引き上げられた。ただ今回の事件は2004年に発生しており、改正前の刑法が適用された。
2018年7月25日、水戸地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定。
清野敬史(44)
逮 捕
2018年4月5日(窃盗容疑で逮捕済み)
殺害人数
1名
罪 状
殺人、現住建造物等放火、準強制性交、昏睡強盗、窃盗、住居侵入
事件概要
上越市の介護職員、清野敬史被告は、次の五つの事件を起こした。
2005年1月12日、上越市の当時50代の男性方に侵入し、2階の寝室のタンスから現金約4万円を盗んだ後、タンス内の衣類にライターで火をつけて、室内の一部を焼損させた。
2017年12月24日から27日の間で、新潟県妙高市の一般住宅に窓を割って侵入し、タンスなどを物色した。
2018年1月28日、妙高市内の80代女性宅を訪れ、女性に睡眠導入剤を混ぜたココアを飲ませて昏睡状態にさせ、ネックレス1本(時価5,000円相当)と睡眠導入剤28錠を盗んだ。
2018年2月18日午後4時過ぎ、新潟県上越市のアパートに住む一人暮らしの顔見知りの女性(当時70)に睡眠導入剤を入れたココアを飲ませて抵抗できない状態にし、性交等を行った。証拠隠滅のため、女性が寝ていたベッドや玄関に散乱させたチラシなどにサラダ油をまいてライターで火をつけて一部を焼き、女性を一酸化炭素中毒で死亡させた。
火災は午後4時40分頃に発生し、同5時に鎮火した。居室で心肺停止状態の女性が発見され、搬送先の上越市内の病院で死亡が確認された。発見時に手を縛られているなど不審な点があったことから、県警が捜査を始めた。
残り1件は不明。
清野被告は2017年12月の事件において、住居侵入と窃盗未遂容疑で2018年3月16日に逮捕された(4月5日、住居侵入と窃盗で起訴)。3月末、退職。4月5日、殺人、放火などの容疑で再逮捕された。5月31日、2018年1月の昏睡強盗容疑で再逮捕。ほかの事件も自供し、2005年1月の事件で7月9日に再逮捕。
逮捕後の余罪捜査で清野被告は2004年~2018年にかけて、現住建造物等放火が7件(うち1件は未遂)、建造物等以外放火が1件、住居侵入・窃盗が5件、邸宅侵入(空き家)未遂が1件を自供した。これらは送検されたが、一部を除いて起訴されていない。
裁判所
新潟地裁 山崎威裁判長
求 刑
無期懲役
判 決
2019年3月11日 無期懲役
裁判焦点
裁判員裁判。
2019年2月25日の初公判で清野敬史被告は、起訴内容をおおむね認めたが、放火について部屋にサラダ油をまいた点については否認した。
検察側は冒頭陳述で、清野被告は殺意を持って女性の下腹部にサラダ油をまき、枕元など3カ所にライターで火をつけたと主張。計画的で悪質、残忍な犯行だと訴えた。
弁護側は、殺意については争わない構えを示した。ただ清野被告が「(女性が)死んでしまってもやむを得ない」と考えて女性の下腹部にサラダ油をまいたことは認めた一方、部屋にはまいていないと一部を否認した。また窃盗など一部の事件では示談が成立していることや、一つの事件については「清野被告がすすんで自分の罪について話したため、自首が成立する」と主張し、情状酌量を求めた。
3月1日の被告人質問で、清野被告は犯行の動機について「自分の性欲を満たすためだった」と、放火については「女性の記憶や現場に残った自分のDNAを消したかった」と理由を語った。遺族に対しては「どんな判決が出ても控訴しない。それが女性に対する償いだと思っている」と述べた。この日は女性の長男の意見陳述も行われ、長男は「一番重い刑に処してほしい」と訴えた。
4日の論告で検察側は、清野被告が事前にガムテープや睡眠導入剤を用意するなど暴行は計画的であり、女性に睡眠薬を飲ませて昏睡させた上で性的暴行し、犯行の発覚を恐れて証拠隠滅のため部屋に火を放った際には、女性が死亡することを十分に認識していたと指摘。「きわめて残虐。動機や経緯全体が被告の身勝手な欲望で埋め尽くされており、人の道を大きく外れた所業だ」と非難した。そして殺害行為の残虐性などを示し、「極めて強い非難が妥当だ」と訴えた。
同日の最終弁論で弁護側は、女性の身体にまいたサラダ油に直接火をつけたわけではなく、焼き殺すつもりはなかったなどと主張。「清野被告が心から反省している」と主張。更生の可能性があるとして、懲役15年以下が妥当と訴えた。
最終意見陳述で清野被告は、「これからの刑務所生活で自分を見つめ直し、償っていきたい。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。