我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

1/1000 護衛戦艦ビスマルク(零くんさん試作モデル)

2021-03-28 17:05:24 | 1/1000 宇宙戦艦ヤマトⅢ 護衛戦艦


長年ガレージキットの原型を手掛けておられる零くんさんから、試作中の護衛戦艦ビスマルクをお借りしました(^^)
実は5年以上前から零くんさんはブログ上でビスマルクの立体化の取り組みを公開しておられまして、その頃からのご縁で今回試作モデルをお借りする運びとなりました(^^)



このビスマルクの試作品は、零くんさんが独自でモデリングされた3DデーターからNOVA3Dのプリンターで出力されたもので、材質はステレオレジン製ですね。



完成すると全長約34センチにもなる大型キットですが、内部は中空なので、ムクのガレージキットの感覚で手にすると驚くくらいに軽いです。
また、今回お借りしたのは黒色のレジン製でしたが、クリアーレジンで作ることも可能だそうで、その場合は電飾が非常にやり易くなると思います。
こうした点での選択肢の広さも3Dプリンタの大きな魅力ですね。

私はこの度初めて3Dプリントされたキットを作りましたので、あれこれネットで調べながら作業を進めていきました。
自分の備忘録を兼ねて以下に段取りを簡単に書いておきます。
まずはIPA(イソプロピルアルコール)でキットを洗浄します。


目的は脱脂(油分の除去)です。
ただ、IPAは母材であるレジンにもダメージを与えるので(最悪は割れたりします)、長時間の浸け置きは厳禁です。
百均のタッパを三つ用意して「IPA一次洗浄」→「IPA二次洗浄」→「水洗浄」の三段階で洗浄(タッパに薄く張った液に軽く浸けながら古くなった歯ブラシでゴシゴシする感じです)、最後にもう一度水道水(流水)で洗いました。
このプロセスは、材質が「水洗いレジン」でも同じで良いようです。
水洗いレジンは超音波洗浄機等を用いてしっかりと段取りを踏めば、文字通り水のみでも洗浄できるようですが、そうした道具を持っていない(使わない)場合は、通常のレジンと同様IPAで洗浄するのが確実ですね。



続いて艦橋部のサポート材を除去します。
3Dプリンター内で積層・形成された部品を保持しているものですね。
ニッパでパチパチと切っていく訳ですが、アンテナなどの細いパースのサポート材の切断には注意が必要です。
なんとなく、プラパーツをランナーから切り取る感覚で部品から少し遠い位置にニッパの刃を入れたら、パーツの方が折れてしまいました(^^;)
その後、色々と試した結果、切り取る時は思い切ってパーツの根元で切った方がむしろ折れにくいことが分かりました(当たり前と言えば当たり前なのですがw)
この反省は次回に活かしたいと思います(^^)



洗浄とサポートの除去から終わったら、3Dモデルに特有の積層痕(薄いレジンの層を塗り重ねていった痕)を処置します。
ヤスリでひたすらゴシゴシして部品表面を均していく訳ですが、この作業はスポンジヤスリがやり易かったです。



私の場合は3Mの四枚セットを買ってきて、オーソドックスにFine→Superfine→Ultrafine→Microfineの順にひたすらゴシゴシやってました。


実はその際、艦首のアンテナ一本をスポンジを引っ掛けて折ってしまうというミスが(;´Д`)
スポンジヤスリは使いやすいですが、細かいスポンジ孔に突起が引っかかりやすいので注意が必要ですね(^-^;

サフで表面状態をチェックして問題がなければ、そこから先は普通のプラモやガレージキットと同じです。
お借りしたキットは非常に精度が高く、特に主艦体を接合するダボの具合がいい塩梅でした。
なので、主艦体は接着せずに分解可能な状態で仕上げることにしました・・・・・・って、簡単に書いちゃいましたけど、それってすごいパーツの精度ですよね。



ゆる過ぎず、きつ過ぎずのクリアランスって、ものすごく狭い範囲でしか成立しないことですから、本当に驚きました。
それは前/後部甲板のパーツや艦橋、アンテナも同様でして、すこしだけの調整で簡単に着脱可能な仕様で仕上げることができました。
ただ、艦橋部の塗装の際に更にアンテナをポキっと(^▽^;)
結果論ですが、アンテナはサポート材から切り離す際に一旦切除して、塗装が終わってから取り付ける方が楽かもしれません(^^;)



さてさて、すっかりお話が長くなりましたが、ここからは完成したキットについてご紹介していきましょう。
本キットの面白く楽しい点は、艦首/艦尾の装備の状態を組み換えで変更できることですね。
艦首側は三種類、艦尾側は二種類のパーツがあります。



これは、零くんさんが独自に考察された本級のコンセプトに基づいています。
現在のドイツ(ドイツ連邦共和国)の状況からすると、たとえ200年近く未来であっても、あまりに禍々しい攻撃兵器満載の戦闘艦艇を積極的に保有することはないのではないか?というお考えや、WWⅠ以来の潜水艦大国というポジションから、直接的な戦闘能力以上に隠密性や防御力、速度性能に重点を置いた艦が目指されたのではないか?と考察され、それらを加味して3Dモデル化されています。
特にヤマトと並べてみると、漆黒の艦体に高さを抑えた艦橋構造物など、潜水艦的要素が際立ってみえますね。



そしてもう一つ重視されたコンセプトは、ドイツの国民性とも言われる合理主義の追求です。
具体的には、艦首の艦橋前ブロックは大胆にユニット化されていて、任務目的によって換装されるとされています。
数少ないヤマトⅢの劇中カットは、隠密性を重視したステルスモード、「探査戦艦モード」だったという解釈ですね。



第二の地球探索時には、ここに惑星探査(分析/解析)ユニットや探査機であるコスモハウンドを搭載していたりもしたのかもしれません。



そして「重戦艦モード」、正面きっての殴り合いに備えたスペックもおさおさ怠りなく、四連装四基十六門の強武装です。
無砲身タイプではありますが、リメイク世界ではこのタイプのショックカノンも開発されていますので、性能的には必要十分なものを備えていると思います。
堅実な設計に基づく作動性に優れた陽電子衝撃砲ながら、最新の収束圧縮型衝撃波砲並みの速射性能を誇る――なんてスペックがあっても面白いかもしれませんね。
艦首側砲塔群(A及びB砲塔)の高さは2段階で差し替え可能で、デザインバランスで言えば砲塔位置が低い方、私のようなAとD、BとC砲塔の高さは揃ってなきゃイヤだ!!なんてヘソ曲りのミリタリーマニアは砲塔位置が高い方を選ぶんじゃないでしょうか!?(^^)

兵装と言えば、艦首波動砲の解釈と造形も興味深いですね。


(この写真を撮るのには苦労しましたが、その甲斐はありました。見て下さい!この奥まった砲口の中に存在する連装波動砲を!)

零くんさん的にはその小口径を
 ・ステルス性
 ・非拡散型(収束型)
 ・速射性
の重視と解釈されていました。
そこに便乗させていただくなら、リメイク世界ではパトロール艦や護衛艦が小型波動砲(波動噴霧砲とする資料もあります)を装備していますので、戦艦用よりも小型のこちらを連装で備えていると想像するのも楽しいですね。



戦艦の大出力機関であればチャージ時間も短しでしょうし、サイズ的にも本級の特長である艦首側のペイロードを更に大きく稼げますから。
それに――“連装”ってのはイザという時には隠し玉にもなりそうでw

「探査戦艦モード」と「重戦艦モード」をご紹介しましたが、考えようによっては艦橋前ブロックを全て居住区や倉庫とした「輸送戦艦モード」やミサイル用VLSにした「ミサイル戦艦モード」とか、色々と妄想できますし、バリエーションで部品を自作するのも楽しいと思います



こうした楽しみ方は、予めその艦がどんな艦かを考察されてからモデリングに挑まれる零くんさんのモデルだからこそのものかもしれませんね。


こうして艦のコンセプトや運用思想を独自に解釈され、元デザインを3D化されるにあたっての参考にもされています。
零くんさん的には、ビスマルク級という艦を戦闘に特化した「戦艦」よりも「万能艦」という位置づけで捉えられており、その点でのコンセプトはヤマト型にも近く、艦首・艦尾の装備換装まで考え合わせると、その徹底ぶりはヤマト型以上と言えるかもしれませんね。



ここから先は私の勝手な想像ですが――リメイク世界でこうしたデザインやコンセプトのビスマルク級が具体化するのなら、そのルーツはドイツ版「イズモ計画艦」だったりとか。
もしそうなら、艦のコンセプトがヤマト型に似ている点や、主砲が無砲身式であることも納得しやすくなります。
ガミラス軍が跳梁する太陽系からの脱出において、威力不足が明らかな主砲火力よりも防御力(撃たれても簡単に沈まない)や速度(逃げ足)、ステルス性(非探知性)、ペイロード(たくさん乗れる/載せられる)を重視するのは、極めて合理的な判断と言えるでしょうし。
しかしヤマト計画の始動と、そこへのリソース集中が決定されたことで、ビスマルクの建造は中断を余儀なくされたのかもしれません。
ガミラス戦争後も、時間断層での大量・短期間建造方針からビスマルクは建造再開とならなかったものの、時間断層消失後になって既存リソースの活用や単能艦偏重への反省からようやく建造が再開、完成したりとか。
もちろん完成にあたっては、旧来型機関の次元波動エンジンへの更新に加えて各種新式装備の採用により、オールラウンダーという本級の特長には更に磨きがかかっており――なんて想像をしてしまいます。
こうした設定の妄想をソ連の護衛戦艦ノーウィックで考えたことがありましたが、あるいはビスマルクやアリゾナなどヤマトⅢの護衛戦艦たちは皆同じような出自を持っていたりすると考えるのも楽しいですね。



以前、アリゾナやPOWなどの護衛戦艦の妄想を書いていた際、ビスマルク級についても何か書いてというリクエストをいただいていたのですが、今一つしっくりくるシチュエーションが思い浮かばなかったのですが、実はこの記事を書いていた際、一つ思い浮かんでしまいましたw
太陽沖が片付いたら、いつかそちらにもチャレンジしてみたいですね(^^)



この度は零くんさんのご厚意で試作中のモデルをお借りすることができ、この二ヶ月間を本当に楽しく過ごさせていただきました。
今の時点ではあくまで試作モデルということですが、このままガレージキットとして販売しても全く問題のない完成度であるのは勿論、某B社のプラキットと言っても通用するくらいの非常に高いクオリティーのモデルだと思います。
版権が無事に降りて、イベント発売される日を楽しみにお待ちしております!!(^^)
零くんさん、この度は本当にありがとうございました!!m(__)m
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ライオン級護衛戦艦(改プリンス・オブ・ウェールズ級護衛戦艦)

2016-02-27 17:28:37 | 1/1000 宇宙戦艦ヤマトⅢ 護衛戦艦


 都合一二隻が建造されたプリンス・オブ・ウェールズ級(以降POW級)は、2210年頃まで各国で盛んに建造された護衛戦艦群の中でも“ベストセラー”と評し得る艦だった。当時、地球連邦構成各国が独自保有していた護衛戦艦の総数は三〇隻余りであり、実にその三分の一以上が本級で占められていたからだ。

 POW級が各国宇宙軍に評価され、多数が発注調達された理由は様々だが、その最大のものはやはり、必要十分な攻防走性能が比較的安価なコストで達成されているという点であろう。他国の護衛戦艦が、コストをある程度度外視してでも各国なりの『最強戦艦』を目指す傾向にあったのに対し、英王立宇宙軍の打ち立てた建艦コンセプトは単独・中長期の空間通商路保護任務への最適化であり、それは結果的に予算上の制約から国威や象徴性よりも実務ニーズを重んじざるを得ない中小国の国情に合致していたからだ。

 POW級が各国宇宙軍に多数が採用されたことは、英国の国家財政に少なくない良性の影響をもたらした。それは自国分(POW及びキング・ジョージV)を除く一〇隻のPOW級の建造費を外貨として英国にもたらしたのみではない。“護衛戦艦”というカテゴリーを法的に成立させている『星系間護衛艦艇調達助成制度』は、制度に適合した艦艇を保有した国家だけでなく、建造した国家にも一定の連邦負担金減免を約していたからだ。
 二〇世紀中盤以降、好意的に見ても『老成した旧大国』という地位に甘んじざるを得ず、工業製品においても軍民問わず確たる成功作に長らく恵まれなかった英国にとって本級は久方ぶりの“ヒット商品”であり、そこから更に大きな利益を得るべく官民挙げての努力が続けられることになる。

 軍艦のみならず、工業製品とはその健全性の維持に継続的な保守整備が不可欠であり、特にそれが複雑巨大、且つ繊細さすら有する“戦艦”ともなれば、その保守整備費用は膨大なものになる。一般的に、軍艦が建造から退役に至るまでに要する維持費は建造費の凡そ三倍とされていることからも、その額の大きさが理解できるだろう。
 また、軍艦整備にはコスト以外にもハードウェアとして艦の規模に合せたドックが必要であり、戦艦級艦艇が入渠可能なドックの数は地球圏全体を見渡しても極めて限られていた。英国はその数少ない所有国の一つであったから、自らが建造したPOW級の保守整備を一手に引き受けたいと考えるのも当然だった。
 だが、英国の努力はそうした維持管理面だけに留まらなかった。より大きな外貨獲得手段として、POW級の大規模改装計画を2208年、同級保有各国に提案したのである。



 各国で最も多数の護衛戦艦が建造された2203年から2204年という時期は、波動機関において一つの技術的革新が達成されたタイミングでもあった。
 『第三世代波動エンジン』と称される“スーパーチャージャー搭載波動エンジン”の実用化である。
 既存の高効率型波動エンジン(第二世代波動エンジン)に小型の予備炉心を増設し、ここで精製された高濃縮タキオンを状況に応じて主炉心へ強制チャージすることで、波動機関実用化後の悲願であった“連続ワープ”が遂に可能となった。そのメリットは計り知れず、空間規模での艦艇の戦略的機動性能が単純計算でも一挙に数倍化することと同義であったからだ。
 第三世代波動エンジンは偽装小惑星基地『イカルスII』で実施された宇宙戦艦ヤマトの第二次近代改装にてプロトタイプ実証が完了し、護衛戦艦/護衛巡洋艦の中では波動機関技術の先進国である米国のアリゾナ級及び日本のユウバリ級のみがその実用型を就役時から搭載していた(各国に多数輸出されたユウバリ級輸出モデルは、技術レヴェル的に他国での運用は未だ困難という理由で、従来型の第二世代波動エンジンを搭載している)。
 言い換えれば、“22世紀の建艦競争”と揶揄される程、各国で護衛戦艦/巡洋艦の建造が盛んだった2204年当時、第三世代波動エンジンを製造可能であったのは米国と日本国のみであり、その技術が普及・一般化するのはローマ級主力戦艦やアムステルダム級戦闘巡洋艦等の新世代艦艇の建造が世界各国で開始され、その核心技術が地球防衛軍艦政本部から各国に開示されるのを待たなければならなかった。
 英国がPOW級保有各国に提案した改装案も、この第三世代波動エンジンへの刷新を最大の目玉としている。だが、提案はそれだけにとどまらず、攻防走性能の抜本的強化も含めた大規模な改良・改善を以下の三つのフェーズに分けて提案していた。

 Phase1:第三世代波動エンジンへのアップグレード
     (戦略機動性能の飛躍的向上)
 Phase2:新型主砲搭への換装(主砲戦能力の極大化)
 Phase3:防御性能の強化(全主要部の対応防御達成)

 これらの提案にあたり、英国はPOW級保有国の国防関係者を英本国に招き、ドライドックに繋留された一隻の艦に引き合わせた。その艦は、遠目では見慣れたPOW級の一隻に思えたが、距離が近づくにつれ、招待客の多くもそれが只のPOW級ではないことに気が付いた。
 まるで槍衾のように林立する長大な一六インチ口径の主砲は実に一二門。従来の連装砲塔は全て新型の三連装砲塔に改められ、『護衛戦艦中最弱』とまで誹られたPOW級の面目を一新していた。また、WW1頃の英国巡洋戦艦を思わせたスマートで流麗なシルエットも艦尾を中心に無骨さを増し、増加した砲門数と合せて招待客たちに“凄み”すら覚えさせた。



 この艦こそ、英新鋭護衛戦艦『ライオン』であり、先に述べた改良・改善フェーズを全て網羅した改・POW級と呼ぶべき強化改修型であった。
 改修ベースとなったのは未成のまま放置されていたPOW級一三番で、ギリシャ共和国からの発注で建造開始したものの、同国の財政悪化から建造進捗度三五パーセントの段階で契約キャンセルとなり、以後、改めて英国艦として完成が目指されたという経緯を持つ。
 英国には、本艦をPOW、KGVに続く三隻目の純然たるPOW級として完成・保有するという選択肢はもちろん、既にギリシャからキャンセルフィーを得ていた為、そのまま破棄するという選択肢もあった(前述の通り、軍艦の保有と維持には少なくない費用を要する)。しかし、この際に英国が示した判断はより積極的なものであった。
 完成はさせるものの、それはオリジナル設計に基づいてではなく、当時の英国が有する先進・最新技術を徹底的に盛り込んだ“コンセプト・シップ”としての完成が目指されたのである。その目的はPOW級保有国に対する技術的なアピールとデモンストレーションであり、あけすけに言えば各国から高額な改装工事を請け負う為の先行投資であった。
 実際、2200年代という時代は黎明期を終えた次元波動技術の発展期にあたり、その技術発展のスピードは日進月歩という言葉そのものだった。建造から僅か数年の新鋭艦であっても部分的な陳腐化から逃れられず、特に第三世代波動エンジンは艦艇の持つ軍事的・経済的価値を一変させたことから、同時期、各国で機関換装計画が持ち上がっていた。
 英国から提示されたPOW級の改装案も、そうしたトレンドに合致したものであっただけに、提案当初からPOW級保有国から強い関心を得ることに成功している。



 改装の目玉である波動機関はヤマトの第二次近代改装時のような完全新造品ではなく、オリジナルの機関から概ね六〇パーセント程度を流用することで、比較的安価に第三世代化を図っている。増設される予備炉心のスペースを確保する為に、主炉心は若干容量を減じ、更にフェーズ2及びフェーズ3改装を行った場合、増設装備の出力負荷や増厚された装甲の質量増大から、最大戦術速度の低下を甘受しなければならなかった。
 より具体的には、フル・フェーズの改装が施されたライオンの場合、最大戦術速度は二九宇宙ノットにまで低下している(オリジナルのPOW級は三二宇宙ノット)。しかし、それでも未だ十分に“高速戦艦”として運用可能な俊足であり、運用上の悪影響は殆どなかったという。
 この点では、建造時に『オーバー・スペック』と誹られながらも、大容量・大出力機関の搭載に拘った英国の判断に先見の明があったと言えるだろう。技術進歩によって実用化された数々の新装備は、その稼働に大出力を要求するものが多く、各国で進められていた近代改装時のネックになっていたからだ。元が“中速戦艦”クラスの機関性能では、新装備搭載による出力負荷増大から、“低速戦艦”に落ちぶれてしまうのである。もちろん、第二次改装時のヤマトのように大出力の新造機関に完全更新を行えば、こうした問題は回避できるが、それには膨大な予算を要し、財政的余裕に乏しい各国政府が容易に下せる判断ではなかった。
 その結果、第三世代波動機関へのアップグレードに伴う各国護衛戦艦の改装は、ある程度の戦術速度低下に目を瞑り、既存機関に予備炉心を増設改造したものと、各種新型装備への刷新にも完全対応した新型機関への更新を含む大規模近代改装とに二分された。後者まで実施したのは比較的財政に余裕のある旧大国・先進国のみで、その費用は戦艦一隻を新造するのと大差ないのが常であった。
 これに対し、英国のPOW級改装計画は小規模/大規模いずれの改装ケースにも対応したものであり、更にどちらのケースであっても他国の改装事例よりも安価に実現可能という点が最大の魅力であった。特に、多数の同級艦が就役しているが故に、最も高価な波動機関関連部品に量産効果が見込める点が大きく、フル・フェーズの徹底改装が施されたライオンにしても、その改装コストはPOW級の新造時コストの四〇パーセントに収まった(フェーズ1のみであれば新造時の二〇パーセント程度)。



 フェーズ2とされた主砲の三連装化にも各国から意外なほど注目が集まり、その注目度の高さは提案した英国自身をも驚かせた。
 確かにPOW級の全主砲を三連装化した場合、砲門数は一二門にも達し、アリゾナ級に次ぐ門数となる。しかし、護衛戦艦という艦種が投入される戦術環境を考えれば、POW級の連装四基八門の主砲装備は必要十分というのが建造時に各種オペレーションリサーチから導き出された結論であった。しかし、軍事理論上は充分でも、人間――特に納税者の感情という不定形のファクター――に対して、八門という門数は些か力不足だった。
 特に、当時の地球では標準的な戦艦として認知されていたボロディノ級主力戦艦の三連装三基九門にも劣る連装四基八門の主砲門数は、市民レヴェルでの評価が低く、購入国の政治家が公の場で『こんな弱そうな戦艦の建造に多額の血税を投入する政府の神経が理解できない』とまで発言し、物議を醸したほどだった。
 もちろん、軍事と経済をある程度関連付けて考えることができる者達は本級の購入を『現実的選択』と評価したが、いつの時代もそうした“物の見える”者は少数派であり、結果としてPOW級は購入各国の市民レヴェルではあまり高い評価を得ることはできなかった。
 しかし、POW級主砲の三連装砲化は、そうした国民感情にマッチしたものであり、元々莫大な費用を要する波動エンジンの第三世代化の予算を獲得する上でも格好の方便になると考えられたのである。
 だが当然のことではあるが、一六インチという口径サイズを据え置いたまま連装砲を三連装砲化するのは簡単なことではなかった。寧ろ技術的ハードルは極めて高く、常識的には“不可能”というレヴェルの難題だった。



 幸い、当時量産が開始されたばかりの新世代主力戦艦『ローマ級主力戦艦』が装備する『Mk.3』 一六インチショックカノンの三連装砲は、将来的な搭載砲塔数の増加や被弾面積の低減を狙い、ボロディノ級の『Mk.2』をはじめとする従来型一六インチショックカノンから飛躍的な小型化を達成しており、POW級の改装では本砲を参考に更なる小型化を図ることでオリジナルの連装砲用バーベットに収めるべく開発が進められた。
 もちろん、本来は三連装砲に合せてバーベットごと換装するのが妥当であったが、POW級の艦幅では現状以上の径のバーベットを搭載するのは物理的に不可能で、よしんばそれが可能であったとしても、ヴァイタルパート全体の見直しが避けられず、予算・工期共に現実的な選択肢とはなり得なかった。
 しかし、開発の参考にされた『MK.3』ですら大幅な小型化を達成したばかりの新型砲であり、それを更に小型化するのは容易なことではなかった。結果、ここでも英国は思い切った手法を採用することになる。
 彼らの下した決断の一つは、砲塔の完全自動化(無人化)であった。砲塔内の砲術士室(主砲室)をはじめとする有人操作スペースを完全にオミットすることで、10%程度のスペース削減に成功した。
 砲塔の完全自動化はアンドロメダ級戦略指揮戦艦で初めて採用されたものの、被弾時のダメージコントロールや機能復旧に難があるとして、無人艦であるエクスカリバー級自動重戦艦を除き、以降の有人戦艦に採用されることはなかった(ローマ級の新型砲塔もヤマト以来の有人型である)。数発の大型ミサイル被弾で主砲戦能力を喪失したアンドロメダ撃沈時の状況があまりに広く知られてしまった為か、戦艦設計において砲塔の無人化は以後タブーとして強く戒められていたとすら言えるだろう。



 だが、波動砲の装備形式において、独自の柔軟な発想で大幅なコストダウンを実現した英国人たちは、砲塔無人化に対しても独自の評価を下していた。
 彼らは、砲塔無人化はアンドロメダ級の改良システムがエクスカリバー級にも採用され、既に五年近い運用を経たことで被弾時の抗堪性やダメージコントロールも含め、実用技術として充分に確立されていると判断していた(それはある程度事実だった)。また、当時重視されていた前方指向火力に限れば、戦闘中の被弾によって一基の主砲塔が故障した場合でも未だ二基六門、オリジナルのPOW級と同等の前方指向火力が健在であることから、発揮火力の維持という点でも三連装化が(たとえ砲塔無人化と引き換えであったとしても)優越していると判定していた。
 更に、仮に従来通り砲塔内に人員を配置したところで、被弾により重度の損傷が発生してしまえば、それを戦闘中に復旧させることは、ヤマトのように経験豊富な熟練応急要員を多数擁してでもいない限り、現実的には不可能という割り切った判断もあった。また、無人化がタブー視される原因となったアンドロメダ撃沈時の経緯にしても、大型ミサイル被弾による機能喪失は、主砲システムのみならず航行系にまで及んでおり(アンドロメダ喪失の直接原因である都市帝国との衝突は、所謂“特攻”などではなく操舵不能の結果発生したアクシデントだった)、仮に主砲塔に砲術士が配置されていたとしても、その結果に変わりはなかったというのが英国人の下した評価だったのである。



 無人化以外にも、英国人たちの主砲塔小型化の努力は多岐に及んでいた。波動カートリッジ弾をはじめとする実体弾発射機構の限定もその一つだ。
 元々、オリジナルのバーベットでは強度的に実体弾の三門同時射撃(斉発)時の衝撃に耐えられない為、各砲塔の中央砲は実体弾射撃機構が省略された。その為、実体弾射撃時は右砲と左砲のみを使用する変則的な射撃となるが、弾庫スペースはオリジナルのままで搭載弾数も変わらない為、実質的な発揮火力は改装前と何ら変わらない。
 また、砲架についても三門の砲身を同一砲架に据え付けることで機構が大胆に簡略化され、砲身間の隙間を大きく狭めることができた。この構造では当時の艦艇としては当たり前の各砲毎の独立俯仰が不可能となるが、同一砲塔各砲毎の個別目標射撃を行わなければならない戦術状況など滅多にあるものではなく、実用上の問題はないと判断されている。
 同一砲架化における懸念は、砲身間隔を狭めたことによる砲撃時衝撃波の相互干渉による散布界の拡大であったが、ショック・カノンビームはビームそのものが収束特性を持つため元々この懸念には該当せず、実体弾射撃においても新型砲搭では中央砲を使用しないことが既に決定されており、実質的な砲身間距離はオリジナル砲塔時よりも拡大する結果となった。
 余談だが、新型砲塔の最初期案では中央砲にも実体弾射撃機構が設置される予定で、この時には散布界の拡大を抑制する為に日本国の有する『発砲遅延装置』がパテント購入の上、導入される予定であったという。

 こうした独自判断と数々の技術的研鑽を重ねてようやく完成した小型三連装砲塔であったが、ライオンの就役当初は故障が頻発し、安定運用に至るまでに一年以上の期間を要した。また、ようやく作動が安定したとされた後も、定期メンテナンス時に徹底したオーバーホールが不可欠であり、それを怠ると途端に不具合を起した。その結果、フェーズ2改装を選択した国家は本砲塔を指して『英国の集金マシン』『ブリティッシュ・タイマー』と皮肉交じりに渾名したこともあった。オーバーホールには高精度の専用部品が多数必要であり、その購入費用だけでもかなりの額になったからだ。
 しかし、充分な保守整備を受けて快調に動作した際の本砲塔は軽量・小型・高火力と三拍子揃った高性能砲であり、本砲塔に対する評価は保有国の保守整備に対する姿勢のパラメーターとも言われた。そこには――保守整備を当然のことと捉え、予算と手間をかけている国家にとっては“名砲”だが、保守整備に理解の乏しい国家には“ヘボ砲”にしかならない――という英国人らしい皮肉が込められているとされる。



 攻撃性能を底上げしたフェーズ2に対し、フェーズ3は建造時以来本級につきまとっていた防御面における“巡洋戦艦”というレッテルを英国人自らが払拭するものであった。
 比較的コンパクトな艦形に各国護衛戦艦中最速の戦術速度(三二宇宙ノット)を叩き出す大出力波動エンジンを採用したことで、POW級の機関は主艦体に到底納まり切らないサイズとなってしまった。その機関部全てを一六インチショックカノン対応防御とすることは艦の規模や建造コストの点で認められず、結果的に主艦体から大きく張り出した格好の機関部は比較的軽防御(一二インチショックカノン対応防御)とされた。そしてこの点を以って、速度性能を重視するあまり防御を軽視した悪しき意味での“巡洋戦艦”という評価が長らく本級にはつきまとっていたのである。
 もっとも、本級の攻防性能上のコンセプトは正対状態での対敵姿勢重視であり、その点でいえば艦後部が比較的軽防御なのはそのコンセプトからは逸脱しておらず、あとは用兵側で本級の運用環境は徹底すべしという割り切りで本級の性能は決定されていた。限られたリソースを攻・防・走の各性能に分配しなければならない戦艦設計においては、全てを重視するよりも余程現実的な選択と言えた。
 しかし、軍用艦艇が常に自らの想定した状況・環境下で運用されるとは限らないのも事実だった。有事下、それも戦況が劣勢であれば劣勢であるほど、イニシアティブを失った側は場当たり的な戦力投入を行わざるを得なくなるからだ。
 POW級のキーコンセプトは平時・戦時における空間通商路保護任務への特化であったが、戦時においては本級が大規模会戦に投入される可能性は決してゼロではなく、それどころか、これまで常に戦略的・戦術的劣勢下での戦争を強いられてきた地球軍事力を思えば、その可能性は寧ろ極めて高かった。
 実際、有事において各国の護衛戦艦は地球防衛軍(地球防衛艦隊)の指揮下に入らなければならないことが法制上定められており、そして地球防衛艦隊の戦時における基本方針は『使える物(者)は全て使う』という極めてシンプル、言い換えれば非常に苛烈なものだった。
 その原因は、戦策や戦技といった戦術的要因よりも、地球という未だ弱小国家故の戦略環境に起因するケースが多く、地球防衛軍は殆どの戦乱において自らよりも遥かに規模で優越する星間国家から先制攻撃を受ける形の戦争を余儀なくされてきたからだ(もちろんそこには、防衛軍自身の油断や予断が原因となったケースもあったが)。
 発展途上の単一星系国家故の貧弱な軍事力や情報収集能力では、その防衛行動は常に受動的にならざるを得ず、そして元々軍事的に劣勢な側が一たび受け身に回ってしまえば、投入できる戦力は更に限定されてしまうのは自明であった。その結果、全ての劣勢を一戦で解消するべく、稼働可能な戦力を根こそぎ動員し、それを敵のウィークポイントに叩きつけるような悲惨な戦闘を強いられてしまうのである。
 そうした現実をPOW級保有各国は過去の戦乱から体感としても十分に理解していた。だからこそ、投入される戦術環境をある程度限定することで高いコストパフォーマンスを達成したPOW級の戦時下の運用(否応なく苛烈な戦場に叩き込まれるであろう状況)に不安を抱いていたのだ。
 フェーズ3改装の目的はそうした保有各国の潜在的不安を解消することにあったが、英国人にとってそれは単なる防御力の強化を意味するものではなかった。彼らは、本改装によってPOW級をいかなる戦術環境にも適応可能な存在――戦略的戦術的劣勢下での大規模会戦に参加しても十分な生存性を担保可能な存在――にまで進化させようとしていた。
 つまり、英国人たちはPOW級の『高速戦艦化』を企図していたのである。



 高速戦艦――かつて洋上の女帝として君臨した『戦艦』という艦種が進化の末に到達した一つの頂点。
 それは単に速度の速い戦艦を意味するのではなく(単に高速の戦艦ということであれば、防御に難のある巡洋戦艦も含まれてしまう)、速力・攻撃力・防御力いずれの要素においても必要充分なスペックを有し、その優れたトータルバランス故に、あらゆる戦術環境に適用可能な至高の存在と定義される。それを成立させるに足る技術レヴェル、予算的ハードルの高さから、一九世紀末に登場し一〇〇隻以上が建造された各種の近代戦艦の中でも真の意味で『高速戦艦』と評し得る艦は極僅かしかない。
 “POW級の高速戦艦化”とは、本級をいかなる戦術環境に投入しても不安を覚えない存在へと昇華させることであり、その為に必須であったのが防御力の強化であった。そしてそのバーターとして、既に十二分とされていた速度性能がある程度犠牲にされたが、英国人たちは殆ど気にしなかった。
 本来、速度性能の低下は戦力的価値を著しく低下させる(古今を問わず、危急の戦場に間に合わない可能性のある“低速戦艦”の戦力価値は常に低い)ものであるが、POW級にその一般則は当てはまらなかった。
 なぜなら――元々本級が極めて高速だったからだ。
 その速度性能は、本級のスペック上の拡張性を非常に大きなものとし、最小コストでの改装を可能とした。直接防御を強化する際には不可避である乾重量の増加に対し、どうしても高額となる機関出力強化の必要性は他級と比べて明らかに小さかった。事実、英国はフェーズ1~3いずれのケースにおいても機関の基本出力は従来通りとしており、その点が本級の改装費用を安価とする上で大きな要因となっている。



 機関部の防御力強化にあたり、オリジナルの一〇インチ厚の装甲材は一二インチ厚にまで増厚され、更に装甲材そのものも表層のみらならず中間層にまで浸透帯磁処置を施した最新のクルップ・スペースインダストリー社製コスモナイト装甲(SKC装甲IV)を採用している。本装甲は、独ビスマルク級護衛戦艦の近代改装時に初めて採用された新型装甲で、重量比重は既存品と同等ながら対ビーム性能は旧来装甲と比較して四〇パーセント増しという破格の耐弾性能を誇る。当然、調達コストも極めて高価であったが、英国人たちは費用対効果の点で十分収支に見合うとして、本装甲の採用に踏み切った。
 その結果、フェーズ3改装を施したPOW級は全ヴァイタルパートにおいて対一六インチショックカノン対応防御を達成し、念願の『高速戦艦』化を果たしたのである。
 一般的に、フェーズ2に比べて“地味”とされるフェーズ3改装であるが、純粋な戦術上の観点で言えば、フェーズ3の効果はフェーズ2のそれを遥かに上回る。両フェーズを比較した場合、どちらがより、容易に投入し得る戦術状況・環境が拡大するかを考えれば、それも自明であろう。
 フェーズ2は既に必要十分なレヴェルにある攻撃能力の更なる強化に過ぎないのに対し、フェーズ3はトータルバランスでいえば明らかに不足している性能を大きく底上げするものだったからだ。兵器の戦力的価値は、対象の最も低い性能分野に影響されるという一般則に照らし合わせてみても、その優位性は明らかだった。
 結果もそれを裏付けている。その後10年間でのライオンを除く一二隻のPOW級の改装実績は以下の通りだ。

 フル・フェーズ:一隻
 フェーズ1のみ:三隻
 フェーズ1&2:二隻
 フェーズ1&3:四隻
 フェーズ2のみ:一隻
 フェーズ3のみ:二隻

 結果的に、就役済みのPOW級の実に半数以上(七隻)に何らかの形でフェーズ3改装が施されたのに対し、フェーズ2改装を実装したのは四隻に留まった。尚、英国が保有するPOWとKGVも、やはりフェーズ2改装は見送り、フェーズ1及び3のみを実施している。
 そして、以上の改装実績から読み取れるもう一つの事実が、POW級全艦が十年以内に英国で何らかの改装を受けたという事実だ。そこから直接的に得られた外貨、減免された連邦分担金の総額は極めて大きく、英国財政に長期に渡る恩恵をもたらした。
 それは、予算の限られる各国にフェーズを細分化した選択式改装メニューを提示した英国式ビジネスモデルの成功であったが、コンセプト・シップとしてのライオンの存在も極めて大きかった。どれほど仮想モデリング技術が発達しようとも、インパクトとプレゼンスの点で“本物”に勝る営業ツールは存在しないからだ。その点、満を持して各国の国防関係者に披露されたライオンの威力は絶大であり、各国の改装予算獲得にも多大な貢献を果たしたとされる。



 就役後のライオンは、外宇宙での単独任務に就くことが多く、英王立宇宙軍旗艦といった華やかな任務には無縁であった。しかし2205年以降、勢力圏拡大と共に重要性と多様化が増大する一方の地球連邦の外宇宙活動において、防衛艦隊の任務を補佐すると同時に英国のプレゼンスを発揮する貴重な存在として確固たる活躍を示した。
 特に2210年、ボラー連邦が新共和政体『ボラー連合』へと再編された際の混乱――所謂『一三月動乱』――時に果たした役割は極めて大きく、後にガルマン・ガミラス帝国からも総統特別勲章が授与されている。


――『一三月動乱』へつづく



さて、以前『“我が家”におけるヤマト世界艦艇の戦闘能力を指数化してみる』で軽くネタ振りをしていました各国護衛戦艦の『スーパーチャージャー』搭載改装について一本書いてみました。
あの記事は2013年10月にアップしたものですから、2年以上経ってようやく伏線を回収することができた訳ですw

スーパーチャージャー搭載改装以外にも主砲の三連装化とか、防御力強化とか思いついたネタをあれこれと詰め込みまして、ほぼ当初思い描いていた内容に仕上がったのですが・・・・・・読み返してみると、今一つパンチに欠けるというか面白みに欠けるなぁと感じ、もう少しネタを追加してみたくなりました。
それが最後に予告しました『一三月動乱』です。
既に一ヶ月ほど前から書き始めているのですが、毎度毎度のことながら文章が伸びに伸びて収束がつかなくなった為(爆)、結局は別記事化することにしました。
多分、三月末から四月初旬頃に公開できると思います。
グローリアス級の後編はその後になりますので、御期待くださっている方には申し訳ございませんm(__)m

今回の画像モデルは『岡山のプラ板使い』さんの1/1000ガレージキット『プリンス・オブ・ウェールズ』です。
以前公開しました『POW級護衛戦艦』で大隈さんから画像をお借りしたキットと同じものです。
大隈さんのPOWは砲塔・砲身の可動を重視されていましたが、私の方は他の同スケール・コレクションとの親和性を重視しました。
“我が家”の設定的には、POW級はさらばの主力戦艦や完結編戦艦と同じ一六インチ主砲を連装で備えているのですが、キットの主砲搭と砲身が思ったよりも大型(大口径)で、『これを主力戦艦と同じ径の砲身に替えたら、三連装砲化できるんじゃないか・・・・・・?』という思いつきを検討いただいたところ、御覧の通りの違和感ゼロの仕上げと相成りましたw
三連装砲塔が三基もズラリと並んだ姿は、ネーミング的にはPOWやライオンよりも、ネルソン、ロドネーの方が相応しい気もしますね。
また、今回のライオン級の立ち位置として、WW2後に完成した英戦艦ヴァンガードをイメージしている部分が少しありまして、艦名としてもその方が相応しいのですが、ヴァンガードという艦名はグローリアス級のネタで使ってしまっていた為、最終的にKGV級の後継艦という位置付けながら未成に終わった『ライオン』に落ち着いたという経緯があります。

最後になりましたが、今回の『ライオン級護衛戦艦』は宇宙戦艦ヤマトⅢに登場した『護衛戦艦プリンス・オブ・ウェールズ』をベースに勝手に創作したもので、原作本編にこんな艦は全く登場しませんので念のため(もちろん、宇宙戦艦ヤマト2199にも登場しません。でも、続編に登場してくれたらいいなぁw)
では次回、『一三月動乱』でお会いしましょう。
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アリゾナ級護衛戦艦

2013-03-17 13:20:25 | 1/1000 宇宙戦艦ヤマトⅢ 護衛戦艦


×勝てる気がしない ○勝てない by ボラー連邦



すみません(笑)
いきなり冗談から入りましたが、本キットは『岡山のプラ板使い』製1/1000ガレージキットです。。。って、既に勘のお気づきの方も多いと思いますが、このアリゾナは大隈さんのブログで公開されていた“あのアリゾナ”です。
この度、諸事情で大隈さんがオークションに出品されたところ、運良く落札することができました。
大隈さんにとって、出品は断腸の極みだったと思いますが・・・・・・末永く大切に致しますm(__)m



手元に届いて最初に驚いたのはそのサイズですね。
全長約29センチとお聞きしていましたが、33センチ強の2199ヤマトと比べても殆ど遜色ないです。
オリジナル版の1/1000キットは2199版に比べるとどうしても小ぶりに見えてしまうのですが、ことアリゾナに関しては例外のようです。



より正面側から並べると、この二隻の根底に流れている技術思想が共通のものであることが仄かに感じられて興味深いです。
以前書いた設定妄想では、アリゾナはデザリアム戦役後の合衆国軍が新たに設計した『超ヤマト級戦艦』としましたが、ほぼ同サイズの2199ヤマトと並べてみるとまた別の妄想が浮かんできますね。



端的に言えば『合衆国版ヤマト』『在り得たかもしれないもう一隻のヤマト』です。
ヤマトと同時期に建造が進んでいた地球脱出用戦艦で、完成直前にガミラスに破壊されてしまいましたが、後に修復、更に完成にあたってはデザリアム戦役後の最新技術でアップデートされている。。。そんな感じでしょうか。



このアリゾナについて驚いたことといえば、もう一つありました。
これは元のデザインではなく、キットを製作された『岡山のプラ板使い』さん独自のデザインコンセプトだと思うのですが、ものすごくパースが利いたデザインにアレンジされてるのですよ。
↑の画像が比較的分りやすいと思いますが、艦首側がものすごく長いですw



その分、この画像や一枚目の画像のように艦首側から煽りで撮ると、恐ろしいくらいハッタリの利いたカッコいい写真になるのですが、その分、痛し痒しなところもあります。
ヤマト世界の艦艇の『顔』といえば、艦橋と艦首の波動砲口だと思いますが、この両者が離れすぎていて、両方にピントを合わせるのが至難です(^_^;)
ウチの型落ちミラーレスでは絞りに絞ってもコレが限界でしたが、もっといいカメラで撮ったら、このカッコ良さが更に化けるでしょうね(^▽^;)



あとは艦中央部にもうちょっと幅方向の厚みが欲しいかなぁ・・・・・・などと生意気にも思ったりもしました。
ただ、このあたりは完全に好みの問題でして、スレンダーでスマートな艦体ラインを望まれる方には、このアリゾナはベストプロポーションだと思います(^_^)
マッシブでグラマラスなアリゾナについては。。。いつか実現されるであろうSOY-YA!!さんの1/700キットに期待したいと思いますw



さて、再びのお約束で、三艦並べてみました(^_^)
この三隻が舳先を並べて戦う2210年頃が舞台の続編とか、いつか見てみたいですねぇ~♪
ボラー連邦にしてみれば、『これ何て無理ゲー』的な凶悪艦リストかもしれませんがw



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ヤマトⅢの“護衛戦艦”を箱庭の中で妄想してみる③

2012-08-07 14:38:41 | 1/1000 宇宙戦艦ヤマトⅢ 護衛戦艦
さて、最終回である第三回はPOW編ですね。
アリゾナ編は感情(感傷?)過多でしたので、POW編は努めて冷静にいきますw
デザイン的な特徴が非常に多く、自分が勝手にイメージした艦としての基本コンセプトに、それらを無理やり(笑)コジ付けていく作業が楽しかったです。


(注:本記事内の画像は『大隈雑記帳』大隈様より御了承いただき、転載させていただいたものです。無断転載等は之を固く禁じます)

【プリンス・オブ・ウェールズ級護衛戦艦】



 英国が建造した『プリンス・オブ・ウェールズ級護衛戦艦(以下POW級護衛戦艦)』は、当時各国で競い合うように建造されていた『星系間護衛艦艇調達助成制度』適用艦の中でも、他とは大きく異なるコンセプトで建造されたことで知られている。
 他国の『護衛戦艦(第一種艦)』『護衛巡洋艦(第二種艦)』の大半が程度の差こそあれ、その国が建造し得る“最強の艦”として完成が目指されたのに対し、POW級はその対極ともいうべきコンセプトで以って完成が目指されたからである。


 本級が目指したものは、第一に経済性、第二に性能最適性の追究であったとされる。これをやや大げさに言い換えれば、『“護衛戦艦”に必要とされる最適性能(最低限度の性能)を明確化し、それを最も高い費用対効果で(安価に)達成し得る艦』となる。
 “安価”を示す一つの基準として、本級の乾重量は護衛戦艦(第一種艦)の最低基準として定められた四万トン丁度を目標とすることが計画開始当初から決められていた。
 また、“最適性能”についても、ガミラス戦役から直近のデザリアム戦役に至る全宇宙戦闘記録が徹底的に見直され、再評価されただけでなく、恒星間航路護衛任務の実体把握も急がれた。とはいえ、当時の恒星間航路は精々一〇光年内外の短距離航路ばかりであったから、一〇〇光年・一〇〇〇光年規模の長距離航路護衛については地球人類全体でも実績・経験共に皆無だった。その為、宇宙戦艦ヤマトのイスカンダル往復や太陽系外周第七艦隊のデザリアム帝国本星遠征時の記録を元に、現在基準の延長線上でシミュレーションを繰り返し、長距離護衛任務において発生するであろう問題点と課題を一つ一つ検証していくしかなかった。
 ひどく手間がかかる割に、効果と結果が見出しにくいその検討は“画餅”などとも一部で揶揄されたが、二三世紀のジョン・ブルたちは全く斟酌しなかった。
 当時は、“護衛戦艦”というカテゴリー(艦種)そのものが全く未知の存在であり、まずはその定義付けこそ必須であると彼らは確信していたからだ。その点、嘗て世界の七つの海に覇を唱えたロイアルネイヴィーの末裔たちは、どこまでも原理原則に忠実だった。そしてそれは、本制度の意図を理解せず(あるいは意図的に無視して)、無邪気に“最強戦艦”建造へと突き進んだ各国との“格”の違いを見せつけるものでもあった。
 将来、POW級として完成することになる護衛戦艦の基本設計案がまとまったのは、各国の中でも最も遅い時期だった。しかも、英国設計案は、既に公表されていた合衆国のアリゾナ級や独国のビスマルク級等と比べても特徴に乏しく、注目されることすら稀だった。某国の高官などは非公式の談話として『今が一八世紀か一九世紀なら、上には(自国政府には)絶対に欺瞞情報だと報告している』と失笑を交えて語ったほどだ。
 もちろん、こうした評価にも、少数ではあるが例外も存在した。一つは地球防衛艦隊の空間航路護衛部門、そしてもう一つは(やや意外なことに)日本国であった。英国が執拗とも取れる熱意で取り組んでいた遠距離航路護衛研究そのものに興味を抱いていた防衛艦隊航路護衛部門はともかく、日本国が英国建造艦に強い関心を抱いていたのには理由がある。
 実は、日本国建造艦もカテゴリーこそ違えど、英国艦に類似したコンセプトで以って計画と建造が進められていたからだ。日本国が建造していたのは、より小型の第二種艦(護衛巡洋艦)であり、英国艦以上に世界からの注目は薄かった。建造計画発表当時、日本はヤマトの存在があるが故に、第一種艦建造を手控えたのだと各国関係者から論評されたほどだった。
 しかし、実態はそれほど単純ではなかった。日本も英国とほぼ同じ思考プロセスを経て、中型護衛艦艇における経済性の追求と、最適性能の見極めを行おうとしていたからである(それ故か、日本建造艦の乾重量も第二種艦としては最低条件の二万トン厳守を目標としていた)。嘗て隆盛を誇った海洋帝国・海洋国家が偶然とはいえ、同様の建艦方針に辿り着いたのは、やはり歴史的経緯に起因する通商路喪失に対する根源的恐怖だったとも言われている。
 余談だが、後に日本国建造艦は『ユウバリ級護衛巡洋艦』として完成し、更に後年、地球防衛艦隊における標準艦艇の一つ、『アキヅキ級宇宙駆逐艦』の原型にもなっている。




 そうした外部からの評価はともかく、公表されたPOW級の性能に取り立てて特徴が無いのは事実だった。
 主戦装備は、ボロディノ級主力戦艦と同じ五〇口径一六インチショックカノンを連装形式で四基八門装備、決戦兵器もボロディノ級と同クラスの拡散波動砲一門を搭載しているだけだった。その他は、各種誘導弾やパルスレーザー砲をはじめとした近接防御兵装が精々で、多少目新しいところでも、亜空間攻撃が可能な波動爆雷専用VLSの装備くらいであった。
 これでは、他国がPOW級の戦闘能力をボロディノ級にすら劣ると評価したのも無理はなかった。特にショックカノン装備数に着目すれば、そうした判定も妥当と思われた。一部では、独国のビスマルク級と同様に発射速度で門数の不足を補っているのではないかという観測もあったが、実態は異なり、発射速度もボロディノ級のそれと大差なかった。
 しかし、当の英国人たちは大きな問題を感じていなかった。確かに、POW級の性能指標決定においてボロディノ級は非常に大きな位置を占めていたが、それは決して“凌駕すべき”対象としてではなかったからである。
 徹底的な過去の戦訓分析から、英国人たちはボロディノ級主力戦艦の戦闘能力は、“戦艦”として必要十分なものであると判定していた。より積極的に言えば、ボロディノ級は“戦艦”として充分に強力であり、それ以上の能力付加は、費用対効果に見合わない過剰能力になる可能性が高いという判断であった。
 もちろん、アンドロメダ級やヤマト級、アリゾナ級のような、より強大な戦闘能力を有していなければ打破できない戦術状況も確かに存在する。しかし、常識的に考えて、そのような状況が本級の建造目的である“航路護衛任務”において発生する確率が万に一つ以下にすぎないのもまた事実であった。
 英国は、POW級に“常識的”航路護衛任務に不要・過剰な装備を施す意図は全くなく、砲装備についてもボロディノ級に伍することができれば充分と判断していた。しかし、ならば尚の事、ボロディノ級と同様の三連装三基九門装備が必須ではないかという思考もあったが、今度はPOW級に課せられた現実がそれを許さなかった。POW級は四万トンという乾重量の中で五万トン級のボロディノ級に匹敵する戦闘能力と、ボロディノ級には存在しない長期・長距離航宙任務用の各種装備を搭載しなければならなかったからである。
 確かに、ボロディノ級主力戦艦は将来の発達改良を見越した冗長性と拡張性に秀でた設計で知られていたが、さすがに一万トンを超えるような余剰マージンまでは存在せず、加えて長期航宙用装備の重石まで抱えるとなれば、何らかの取捨選択は避けられなかった。
 その為に、主砲戦能力については、“艦首対敵姿勢における戦闘時に限り”ボロディノ級と同等とすることが指標とされた。当時は、ようやく戦艦級艦艇においても前方指向火力重視の姿勢が強まっており、POW級が掲げた、投入される戦術局面を限定した能力設定は、当時最新の空間打撃戦思想を可能な限り反映した結果と評せなくもなかった。
 その結果、POW級は連装砲塔四基の装備ながら、前部甲板に三基六門、後部甲板に一基二門装備という(かつての水上艦艇設計思想からすれば)やや変則的な砲塔配置が行われることになる。しかし、本配置を採用することで、少なくとも前方指向火力はボロディノ級と同等となり、若干ではあったが艦体重量の低減(三連装三基九門搭載時に比べて)にも成功している。
 尚、前方指向火力をボロディノ級と同等とする為に前部甲板主砲塔を三連装砲塔二基とする案も当然ながら検討されていた。だが、砲一門あたりの砲塔重量効率では有利と分っていても、連装砲塔採用時より艦幅を増す必要があったこと、また本級独自の波動砲搭載形式の決定により、前部上甲板のレイアウトが(特に全長方向に)余裕が得られることが判明した為、三連装砲塔案は不採用とされている。


 艦体設計についても本級は大きな特徴を有していた。特異な建造経緯を持つソヴィエト連邦のノーウィックを除き、各国の護衛戦艦が軒並みボロディノ級やアンドロメダ級と同様の直胴箱型艦体を採用していたのに対し、POW級は巡洋艦クラス以下の艦艇で多用されていた紡錘型艦体を部分的に採用していた。
 その理由は、本級の目指した速力性能にある。英国人たちは速力性能に関しては一切の妥協を見せず、各国護衛戦艦中最速の三二宇宙ノットを最大戦術速力として計画していた。
 彼らが想定する航路護衛任務において、戦略・戦術共に優れた速力性能は必須であった。航路上の要救援船(艦)の下へ急行するにも、直衛中の護衛対象に害を為さんとする敵性勢力の阻止・妨害にも速力性能は極めて重要であり、本級の“護衛戦艦としての価値”をコストやカタログスペック以上に高めてくれるものと判断されていた。
 世界で初めて『巡洋戦艦』『高速戦艦』というカテゴリーを創造した英国人らしく、彼らは“速力”というファクターが他では代替の利かない戦術・戦略要素であることを知り尽くしていた(過度に重視し場合の危険性も含めて)。故に、艦体設計においても、速力性能達成を重視した特異な形状が採用されることになった。




 スマートな箱型の艦体主要部に、巡洋艦のそれを思わせる巨大な紡錘型機関部を接続するというPOW級の外観形状は、こうして決定された(艦首側上方から俯瞰した際の特異な形状故に、就役後の本級には“万年筆〈fountain pen〉”という愛称が奉られることになる)。
 之は、求められた高い速力性能を達成するには、波動機関をできるだけ大型化する必要があり、主要部からそのまま延長した箱型の艦尾構造では到底納まり切らなかった為だ。
 もちろん、より大直径化した箱型機関部を艦尾に接続するという選択肢もあり、“戦艦”として考えるのであれば、防御要件上は寧ろその方が望ましかった。しかし、大型の機関部まで一六インチショックカノン対応防御の箱型構造としてしまえば、防御装甲も含めて著しい重量増加は避けられず、最終的にはやや軽防御(一〇インチショックカノン対応防御)の紡錘型が採用されている。
 その結果、紡錘型の艦後部(機関部)は本級の防御上のウィークポイントとされ、その点を以って本級を悪しき意味での『巡洋戦艦』と評する声もある。しかし、本級は大規模宇宙会戦における本格的な殴り合いを想定した艦ではなく、また、その戦闘能力についても艦首対敵姿勢での戦闘 (敵艦に対して艦尾は晒さない) を前提としていた為、投入すべき戦術局面を攻守に渡り極めて明確にした(割り切った)艦と言えなくもなかった。
 実際のところ、本級は護衛戦艦として長期に渡り運用が続けられることになるが、防御上の欠点を指摘する用兵側の声は殆どなく、寧ろ、発生するあらゆる局面に“間に合う”健脚こそが高く評価されている。




 これに対し、機関部を除く艦の主要部は一六インチショックカノン対応防御が施された六角形箱型構造が採用されており、その“上部”と“下部”でも大きく様相が異なる。より目を惹くのは下部構造で、波動砲口と星間物質(タキオン粒子)収集口が一体形状で設置されていた。二つの機能を一体化させることでの重量軽減はもちろん、省スペース化によって各種長期航宙用機材の搭載空間を確保することも目的としていた。
 また、波動砲口が艦首先端部に存在しないのも、地球艦としては初めての試みであり、本級最大の特徴とされている。
 之には二つの理由がある。一つは純粋な建造コスト削減、そしてもう一つは、“護衛戦艦”として本級が搭載を義務付けられていた各種設備の搭載スペース確保の為であった。
 建造コスト的には、コスモナイト合金をはじめとする高価な希少金属を大量に要するエネルギーパイパスの距離(機関部から波動砲口への伝導管総距離)は短いほど望ましい。しかし、従来の地球艦艇においては“波動砲口は艦首に存在する”のが常識であり、この距離を縮めるということは、艦中央から艦首にかけての長さ(空間)を短縮することと同義であった。しかし、それでは本級が搭載しなければならない長期航行用装備の搭載スペースまで著しく圧迫してしまうことにもなり、相反する二つの要因を抱え込むことになった船殻設計部門は大いに頭を悩ますことになった。
 最終的に設計部門が弾き出した結論は、艦体の上部と下部で目的を明確に二分するという方法であった。上部は、各種装備の設置を目的として、できるだけ(艦としてのバランスを崩さない範囲で)延長する。これに対し、下部は星間物質収集機能と波動砲関連設備に特化し、砲口までの距離が最短となるよう設計する。
 言うまでもなく、過去に例をみない大胆且つ野心的な設計であり、しかしそれだけに、解決すべき課題も多かった。最大の問題は、投射の際に波動砲の射線“の上”に位置することになる上部艦首下面側の防護措置であった。波動砲の放つエネルギー流は、実用化初期の頃には“宇宙規模”とまで評されたほどの凄まじいものであり、それに直近で“舐められる”ことになる上部艦首の下面には厳重な防護対策が必要であった。
 最も直接的な解決方法は、伝導管などにも用いられている特殊素材の使用であったが、それでは砲口位置を移動したことによるコストメリットが完全に失われてしまう(寧ろコスト増となる)為、当初から案として取り上げられることはなかった。
 設計陣が採用したのは、アリゾナ級の波動砲口に採用されたものと同じデザリアム帝国の遺産――超重力技術であった。アリゾナ級が砲口部に超重力フィールドを展開したのに対し、POW級では波動砲発射時にエネルギー流に炙られる艦首部下面側にフィールドを展開することで影響を回避していた。
 実際、波動砲口の移動というコロンブスの卵的発想は、建造コスト低減にかなりの効果があった。伝導管総距離はボロディノ級に比べて三〇パーセント以上も短縮され、それがほぼストレートに高価な希少素材費や高い精度を要求される精密加工費の低減に繋がったからである。しかし、大きなコストダウンを達成した本級の波動砲設置形式が、それ以降の地球艦艇に採用されることは遂になかった。
 理由は幾つかある。
 最大の問題は、超重力フィールドが波動砲に及ぼす影響であった。フィールドは確かに、艦体に及ぼす様々な悪影響を無効化していたが、それと同時に、投射された波動砲エネルギー流にも影響を与えていることが明らかになったからである。影響は、非常に僅かながらも射線の振れや、拡散点(爆散点)のずれとなって表れた。
 同じ技術を用いたアリゾナ級は、波動砲口全周にフィールドを展開するという方式であった為、その中心を貫く格好になるエネルギー流への干渉も均一で、こうした悪影響は発生しなかった。しかしPOW級の場合、エネルギーへの干渉が艦首下面一方からのみである為、射線への影響が避けられなかったのだ。
 それは、単艦戦闘レベルであれば全く問題のない程度の影響であったが、艦隊規模の統制波動砲戦を金科玉条の決戦戦術とする地球防衛艦隊にとっては違った。戦術構成上、看過し得ない重大な問題として認識されてしまったのである。
 しかし現実問題として、本級の搭載形式に起因する波動砲への影響が実際的な不利や不便を生じさせるかと言えば、その評価には疑問を覚えざるを得ない。判明時点ですら、その影響は極めて僅かであったし、フィールド出力を最小に抑えるといった技術的努力や、影響そのものを照準計算に織り込むといった運用上の工夫が継続して行われたことで、長い現役期間の中でも、本級の実運用者側から不満が述べられることはなかったからだ。
 ある意味、地球防衛艦隊に深く根強いた、半ば病的なまでの“波動砲絶対(潔癖)主義”の壁が、本級の画期的な波動砲搭載形式の普及や発展を妨げてしまったと評するべきなのかもしれない。
 しかし、本級の波動砲搭載形式に対する懸念は他にあり、波動砲発射時に超重力フィールド発生に何らかの問題が生じてしまえば、実質的に波動砲が使用不可能となってしまうという指摘等は、地味ながらも現実的な問題点として認識されていた(もっとも、それはアリゾナ級も同様であったが)。
 結果的に、コスト削減には大きな成功を収めつつも、本級の波動砲搭載形式は以後の艦に採用されることはなかった。その事実を以って、波動砲搭載形式が本級の数少ない欠点とする指摘もあったが、英国政府及び軍は一度としてそれを公式に認めていない。
 やはり――彼らは“ジョン・ブル”であった。




 もちろん、英国人たちがコストと重量の低減に注いだ努力はそれだけではなかった。戦艦級艦艇としては非常に簡素にも見える艦橋構造物もその一つである。事実、その艦橋内容積は後のアムステルダム級戦闘“巡洋艦”よりも小さかった。
 これは、従来の艦橋機能と配置人員の多くを、ヴァイタルパート内部の戦闘指揮所(CIC)に移した為であり、機能そのものを艦から削減した訳ではない。艦橋は、ヤマト以降の艦艇設計において、最も重防御が要求される部位として認識されており、重量軽減に血道を上げるPOW級にとって、その小型化は避けて通れない道であった。
 元々、CICはヴァイタルパート最深部に設置されており、これを従来より大型化するのは、空間確保はともかく、大きな重量増には繋がらなかった。また防御面では、艦の頭脳ともいうべき重要部が最も重防御で守られることにもなり、機能を分散した艦橋にしても、被弾面積が確実に減少することから、発想としても合理的だった。
 但し、従来艦の設計では、艦橋とCICに重要機能が分化されることで、被害極限や代替機能が確保されていたのも事実であり、ダメージコントロールの専門家の中でも本級の設計思想については意見が分かれている。
 また、艦橋サイズ上、どうしても小型化が避けられなかった艦橋トップの主レーダーシステムについては、艦体各部に設置されたフェイズドアレイ式レーダーで補うものとされた。


 英国艦としての本級の建造は、ネームシップとなった『プリンス・オブ・ウェールズ』と『キング・ジョージⅤ』の二隻であった。二隻同時の建造開始であり、英国政府は、より安価な建造費で完成した艦をネームシップとして採用すると通達、建造を担当する工廠間の競争すら煽った(もちろん、不正防止の為に、各種検査作業は厳重且つ厳密に実施された)。
 その結果、プリンス・オブ・ウェールズが建造コストのみならず建造期間でも優越し、晴れてネームシップの栄冠を勝ち得ている。
 尚、建造艦をあえて“英国艦”と限定したのは、本級が他国からの発注によって多数追加建造されたからだ。
 やはり旧来からの繋がりの強い旧英連邦諸国が多く、インド、カナダ、オーストラリア、マレーシア、南アフリカが各一隻を購入、しかしそれ以外でもブラジル、オランダ、インドネシア、サウジアラビア、アルジェリアが各一隻を発注している。自国艦も合せれば、実に一二隻もの大量建造であり、本級が“ベストセラー”と称される所以である。
 本級がベストセラー化した最大の要因は、やはり建造単価にあった。本級の最終的な建造コストは、各国護衛戦艦中最大最強と称されたアリゾナ級の四分の一(乾重量は二分の一弱)に過ぎず、英国が本級のコスト低減に投じた努力の大きさを窺い知ることができる(もちろんそこには、結果として多数艦建造となったことによる量産効果も含まれる)。
 但し、それほどの努力を払っても尚、建造当初から目標とされた乾重量四万トン丁度を達成することだけは遂に叶わなかった。
 2208年度版ジェーン宙軍年鑑に記された本級の乾重量は、『四万四千トン(公称)』であった。


 その特徴的な艦容から『ジョン・ブルの万年筆』とも称されたPOW級護衛戦艦は、同級艦多数が就役していたこともあって運用コストも良好で、恒星間航路の護衛・保安戦力の中核として長きに渡り運用された。アリゾナ級のような輝かしい戦果・戦歴にこそ無縁であったものの、遭遇した戦闘局面はかなりの数に上る。
 その中には、ボラー連邦正規軍との偶発的戦闘をはじめ、半ば宙賊化していたデザリアム帝国残党やディンギル帝国残党との交戦もあった。しかし本級が戦闘能力の点で敵性勢力に遅れを取ることは一度としてなく、戦没艦も発生しなかった。


 本級に投ぜられた数々の新機軸は、決して奇をてらったものではない。求められたスペックを達成する為に、時に必然として、時に苦難の末に生み出された技術や発想ばかりだった。それが画期的であったのは、単なる結果論にすぎない。
 残念ながら、それらの技術全てが後年において正当に評価されたとは言い難かったが、それら全てを一つにパッケージングしてみると、本級が極めて正統的且つ健全な“護衛戦艦”であったという事実が明らかになる。それは、地球連邦よりも遥かに経済・予算規模が限られるが故に、費用対効果に対してよりシビアな各国宇宙軍に本級が多数採用されたことでも間接的に証明されている。
 そしてそれは、時に頑迷とまで評される英国人たちこそが、“護衛戦艦”というカテゴリーについて、最も正しく(制度を創設した地球連邦よりも)理解していたことの何よりの証左であったのかもしれない。


―――おわり。

やっぱりアリゾナほどには文章量が伸びませんでしたーーー。
てか、アリゾナが伸びすぎなんだよー(^_^;)
それにしても、“ジョン・ブルの万年筆”とか勝手に名づけてしまって、画像をお借りした大隈さん、もしお気を悪くされておられましたら、本当に申し訳ありませんm(__;)m
そういう異名があった方が、より“らしい”かなぁーとか思ってしまって悪ノリしました (汗)
それと、大隈さんのブログでの御説明を拝読する限り、ボロディノ級が五万トンクラスでPOW級が四万四千トンって模型サイズ的には合致していない気もしています(むしろPOWの方が重量ありそうかも?)。
しかも、アリゾナの半分とかまで言ってるし・・・・・・(;´Д`A ```
ま、でも、そこは・・・・・・妄想上の“過剰演出”ってことで、目をつぶってやって下さいましm(__;)m

今回の妄想を通じての私のPOW評は『清く正しい護衛戦艦』『金持ちども(連邦とかアンクル・サム)にはコイツのすごさが分らんのです』ですw
『さすがはロイアルネイヴィー!!』という極めて妥当な(必要十分な)性能設定と、それを実現する為に取り入れられた数々の革新設計。残念ながら地球防衛艦隊の保守性や時勢によってメジャー化しそびれて・・・・・・そんなイメージでしょうか。
その点、『殴り合い上等!!目指すはとにかく最強戦艦!!』として妄想したアリゾナとは、上手く差別化できたんじゃないかなぁ・・・・・・と自画自賛してみたり(^_^;)
うん、フネとヒコーキの違いはありますし、深い考えがあっての意見でもありませんが、ラプターとタイフーンの関係みたいな感じもありますかね?(違っ)
私、タイフーン好きですよ、空自がFXで採用したら、欧州機運用の大変さはもちろんあるでしょうけど、すぐに調達できる状態で、それなりの数を調達できる価格で、必要最低限の性能もしっかりと持っている、しかも、交渉によってはライセンス生産もOK・・・・・・一体、どこに文句があるというのだ?w
ま、結局この国では“有事”という言葉は存在しても、基本的には絵空事、『明日起きるかもしれない』という緊張感が皆無なので、いつちゃんと売ってくれるのかも分らないモノを気長に待てるのかも。
等とグチってはみたものの、どうだろうなー。欧州機運用の大変さって、実際にやってみないと本当のところは分からないですし、でも、もしF-35がちゃんと実用化されたとしても、かつてのF-15みたいな抑止力になるのかなぁ・・・・・・うーん、難しい問題だなぁ。

すんません、激しく脱線しました(汗)
POW妄想の唯一の心残りは、艦底部の前後に長く走ったフィン(?)の目的と理屈がどうしても思いつけなかったことですかね。
軽量化するのなら真っ先に削除されそうなので、何ら重要な目的や理由がきっとある筈・・・・・・うーん、何かオプション装備がブラ下げられるレールとか?え?惑星破壊ミサイル?いやいやいやw

でも、本当に書いてて楽しかったですね、今回の護衛戦艦ネタ。
このブログを始めた頃は、『護衛戦艦』なんて“取ってつけたような(失礼)”カテゴリーは無かったことにして、何やらもっと特殊そうでカッコ良さげ艦種名称をデッチ上げるつもりだったのですが・・・・・・今やすっかり無視できなくなりましたよ、護衛戦艦w
あれこれと思いを馳せていると、“ビスマルク”までカッコ良く見えてくるんだから、この世は不思議です(爆)
それと、護衛戦艦の妄想を通じて、これまであまり妄想の対象にしてこなかった (1/700模型もないし)完結編艦艇の妄想に使えそうな材料を幾つか思いつくことができたことも収穫でしたね。

さて、三回に渡った長文に、最後までお付き合いいただきました皆様、本当にありがとうございましたm(__)m
細かいことですが、第一回記事のタイトルに使用した“総論”が、ちょっと大げさ過ぎて恥ずかしくなってきたので、“小論”に変更しました(^_^;)
そして大隈さん、大隈さんのブログでアリゾナとPOWを拝見してなければ、この護衛戦艦妄想が文章になることはなかったと思います。
改めてお礼申し上げますと共に、今後とも宜しくお願いしますm(__)m
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ヤマトⅢの“護衛戦艦”を箱庭の中で妄想してみる②

2012-08-04 11:55:08 | 1/1000 宇宙戦艦ヤマトⅢ 護衛戦艦
では、矢継ぎ早ではありますが、『護衛戦艦妄想』の第二回『アリゾナ編』いきます。
いやはや、本当にアリゾナってカッコいいです。
ストーリー上、沈まないといけなかったにしても、せめてこんなドラマが欲しかった・・・・・・とばかりに(個人的に)かなり駄文にも力が入りましたw
このアリゾナって、2199の出渕総監督デザインなんですよね?
いや~、あっちでもこっちでも楽しませていただいています、総監督w
でも私、1/700アリゾナが心の底から欲しいのです、総監督(泣)
今回も画像は大隈さんから1/1000アリゾナをお借りしましたが、我が家にも1/700アリゾナが欲しくて欲しくて・・・・・・いや、だって、うらやましい・・・・・・(´・ω・`)


(注:本記事内の画像は『大隈雑記帳』大隈様より御了承いただき、転載させていただいたものです。無断転載等は之を固く禁じます)

【アリゾナ級護衛戦艦】



 『アリゾナ級護衛戦艦』は、まさしくアメリカ合衆国が自らの威信をかけて建造した大型戦艦であった。その建造背景には、公にこそされなかったが、何度となく地球を救う活躍を示した宇宙戦艦ヤマトに対する“復讐”の念があったと言われている。
 ヤマトやノーウィックなど、ガミラス戦役時のアーク・シップ建造計画において、スターシャメッセージ到着直前まで最も建造が進捗していたのはアメリカ合衆国建造船であり、その船は完成の暁には“アリゾナ”と命名される予定であった。
 だが、ハワイ諸島・旧真珠湾軍港跡の極秘ドックで建造されていた彼女は、不幸にもスターシャメッセージが届く僅か数ヶ月前にガミラス軍によって発見され、修復不可能なほどにまで破壊されてしまう。その結果、人類初の波動エンジン搭載艦としての栄誉と苦難は、アリゾナに次ぐ建造進捗状態であった日本国建造船『やまと』――後の宇宙戦艦ヤマトに変更されることになった。
 その経緯と悔恨を誇り高き新大陸人たちは忘れていなかった。建造プロジェクトチーム立ち上げの会議において、プロジェクトリーダーは第一声としてこう言い放ったという――『我々が建造するのはただ一つ、“スーパー・ヤマトクラス”だ。他の“ザコ”には目もくれるな』と。
 彼らの異常なほどの熱意は、建造予算と規模にもストレートに反映されていた。建造艦は初期設計案ですら乾重量九万トンにも達し、そのサイズは各国で同時期に建造が進められていた『星系間護衛艦艇調達助成制度』適用艦の中でも最大であった。
 波動機関には、アンドロメダ級戦略指揮戦艦と同型機関が採用され、更にヤマトにおいてプロトタイプ実証が完了したばかりのスーパーチャージャーも建造時から装備している。それでも、高度な戦略指揮システムを満載したアンドロメダ級より実質的に一〇パーセント以上軽量で、後述する砲装備の違いやスーパーチャージャーの恩恵まで得られた結果、その機動性は戦術的にも戦略的にもアンドロメダ級のそれを完全に凌いでいた。
 当然、主砲についても、アンドロメダ級と同等の(そしてヤマトを凌ぐ)二〇インチ砲搭載をプロジェクトチームは強く希望していた。しかし、助成制度において定められた装備仕様規定から、一六インチ砲搭載に甘んじなければならなかった。
 これは、当時実用化されたばかりの『波動カートリッジ弾』及び『コスモ三式弾』の安定供給と統一運用を考慮してのことで、本制度適用下で建造される『第一種艦(護衛戦艦)』の主砲口径は全て一六インチに統一されることが厳しく定められていた。また、過去の戦役における戦訓から、地球艦艇のショックカノンの威力は列強でも随一であり、戦略指揮戦艦やヤマトのような装備実験艦を兼ねた特殊艦艇でもない限り、一六インチ砲装備で十分と考えられていたことも一因だった。
 デザリアム戦役においては、デザリアム帝国大型艦艇や機動要塞に搭載された超重力シールドによってショックカノンを無効化されてしまうという局面も生じていたが、それは一八インチ砲を搭載するヤマトであれ、二〇インチ砲を搭載するマルスやネメシスであれ同様であったから、シールドを物理的に打ち破ることが可能な実体カートリッジ弾が実用化された現在においては、大きな懸念とはされなかった。




 念願の二〇インチ砲搭載こそ断念せざるを得なかったものの、設計・開発陣は許容された仕様規定内でベストを尽くした。搭載された一六インチ砲は新開発の六〇口径砲身を採用し(ボロディノ級主力戦艦は五〇口径)、収束率向上に伴って射程と貫通力が著しくアップした。搭載門数も、地球戦艦としては初めて主砲の舷側装備を実現、三連装五基一五門もの砲門数を誇る。舷側装備のメリットは大きく、全砲門数はボロディノ級の九門に対し一・七倍弱ながら、前方指向火力はボロディノ級六門に対して一二門と二倍にまで達した。
 また、搭載機関が二〇インチ砲一二門装備に対応したアンドロメダ級の改良型であった為、三門多いとはいえ一六インチ砲へのエネルギー供給能力としては過剰な程であり、全門斉発時においても、まるで速射砲のような高速集中射撃が可能であった。
 その凄まじいばかりの砲威力は、本級完成後に地球防衛艦隊とアメリカ合衆国軍が共同で実施した戦術研究会において、遺憾なく発揮されることになる。本研究会最大の注目は、大規模に近代化された第二次改装後の宇宙戦艦ヤマトと最新鋭護衛戦艦アリゾナの戦術戦闘シミュレーションであった。
 電算機上のシミュレーションとはいえ、その過程と結果はあまりに凄絶だった。急速接近を図るアリゾナに対し、舷側を向けることで全門斉発態勢を整えたヤマトは、口径に勝る優位と高い砲術技量を活かした先制主砲射撃を開始。これに対し、アリゾナはヤマトに対して正艦首を向けた進路・態勢を変更することなく接近機動を継続、やや遅れて主砲射撃を開始した。
 ヤマトの一八インチショックカノン九門に対し、アリゾナが艦首方向に指向可能な一六インチショックカノンは一二門、砲口径の差異を考慮すれば、寧ろヤマトが有利にすら思える戦術状況だった。しかし――実際の戦闘推移は全くの正反対だった。
 アリゾナの主砲発射速度はヤマトの実に二倍、つまり実質的には一八インチ砲九門対一六インチ砲二四門の殴り合いであり、単位時間あたりの投射エネルギー量に換算しても、アリゾナの圧勝だった。更に、ヤマトは自らの攻撃力を最大とする為に、アリゾナに対し舷側を向けるという戦術行動を選択していた。だがそれは、自らの被弾面積をも最大化する諸刃の戦術であった。これに対し、アリゾナはヤマトに対し常に正艦首を向けた状態――前方投影面積を最小にした状態を維持して砲撃戦を継続していた。
 結果はあまりにも無残であった。命中率に優れる(シミュレーションにあたっては、乗員技量に至るまで、できる限り忠実に再現される)ヤマトの一八インチショックカノンは、前方投影面積最小という悪条件下でも、アリゾナより先に複数の命中弾を発生させていた。しかし、その巨躯にアンドロメダ級と同等の防御力(二〇インチ砲対応防御)を有するアリゾナは、一八インチ砲数発程度の被弾では屈せず、距離を詰めることで自らも遂に命中弾を発生させた。そして一たび命中弾が発生してしまえば――あとは総投射エネルギー量で圧倒するアリゾナの独壇場であった。
 一八インチショックカノンに対応した直接防御力と、地球艦艇中最良と評される優れたダメージコントロール能力を持ったヤマトに対し、いくら収束率が向上した新型砲身とはいえ、一六インチショックカノンでは確かに威力不足は否めなかった。しかし、ごく短時間の内に一〇発単位の被弾が集中して続けば、多少の威力不足など吹き飛んでしまう。
 事実、ヤマトの初弾発射から僅か一〇分程度の交戦で、五〇発以上の一六インチショックカノンを被弾したヤマトは右舷側(アリゾナに舷側を向けた側)に指向可能な全兵装使用不能、機関損傷、遂には撃沈認定されてしまう。これに対し、アリゾナの被弾数もかなりの数(一一発)に上ったが、目立った損害は第二主砲が基部への直撃によって使用不能になったくらいで、損害判定は中破であった。
 “もはや別物”と評されるまでに進化した筈の第二次改装後のヤマトが、アリゾナ級の一六インチショックカノンの高速斉射で滅多打ちにされていく姿に、防衛艦隊側参加者は恐怖感すら抱いたとされる。彼らの恐怖は根拠のないものではなかった。ヤマトとの戦闘結果を見る限り、彼らがその性能に絶対的自信を持っていたアンドロメダ級戦略指揮戦艦ですら、アリゾナ級の常軌を逸した高速斉射に耐久し得るとは思えなかったからだ。
 その為、防衛艦隊側は合衆国側からアンドロメダ級との戦闘シミュレーションを申し入れられた際には、防衛機密を盾に辞退する腹積もりであったとされる。だが、それは杞憂に終わった。合衆国側からは一言たりとて、アンドロメダ級との戦闘シミュレーションを求める要求・要請は上がらなかったからである。
 つまり――地球防衛艦隊自慢の戦略指揮戦艦アンドロメダ級とて、ヤマトへの復仇に燃える合衆国人たちにとっては“雑魚(ザコ)”に過ぎなかったのだ。


 更に、通常外砲戦能力――波動砲――においても、本級には過去にない新たな取り組みが行われていた。従来、アンドロメダ級の波動機関において出力一二〇パーセント出力で波動砲投射を行う場合、波動砲門数は二門が必須であると考えられていた。これは、アンドロメダ級の大型波動機関から放出されるエネルギー量があまりに莫大であった為、一門で発射した場合、最もエネルギー接触負荷の大きい砲口部が、強度的にも耐食的にも維持できないのがその理由であった。しかし、合衆国プロジェクトチームは、この問題を新技術の投入によって解決していた。
 投入された新技術とは、デザリアム帝国の誇る先端技術――超重力制御技術であった。具体的には、波動砲発射直前の砲口部に超重力フィールドを形成、砲口部のみを超重力でコーティングするように保護した上で、波動砲投射を行うのである。
 二門に分散させていたエネルギーを同口径の一門に絞って発射することで、エネルギー圧密度は飛躍的にアップし、射程・威力の劇的な向上が期待された。しかし、実際の発射実験においては、開発者たちですら予想もしていなかった結果を引き起こしてしまう。
 同級に搭載されていた波動砲は、いわゆる収束型であった(あえて収束型が選択されたのも、やはりヤマトが搭載する新・波動砲への対抗意識故と思われる)。波動砲投射時、波動エンジンから一門の砲口へと強制的に供給された波動エネルギー流は、砲口部で密度的な収束限界に達し――予想外の特性逆転現象を発生させた。砲口から放出された波動エネルギーは、“収束”から“拡散”へと逆転現象を起こしている過程にあり、その光芒は人類が初めて目にする軌跡と結果を残したのである。
 発射実験後の評価において、その実質有効射程は第二次改装後のヤマトの新・波動砲を更に五〇パーセント近くも上回っていた。そして、真に驚くべきは被害有効直径であった。
 本級の、収束から拡散への逆転過程にある波動エネルギー流は、オリジナルの拡散波動砲のような爆発的“拡散”現象を起こさず、緩やかな“拡大”現象を維持しながらひたすら延伸していったのである。さすがに、拡散波動砲ほどの広域破壊効果は望むべくもなかったが、従来型の収束波動砲に比べれば最終有効直径は六倍にまで達していた。また、威力的にも拡散波動砲のエネルギー爆散流(波動爆散弾)とは比較にならないほど強力であり、拡散波動砲では撃破困難な超大型艦艇や宇宙要塞級のターゲットに対しても致命的打撃を与え得ると評価された。
 半ば偶然に近い形で確立された本級の波動砲は、地球防衛軍艦政本部並びに防衛艦隊でも大きな驚きをもって迎えられた。その後、防衛艦隊所属艦艇を用いた再現実験も実施され、効果と安全性が確認されると、地球防衛軍正式装備化に向けての調整と交渉が行われることになる。後に、『拡大波動砲』と命名されることになる新型波動砲誕生の瞬間だった。
 尚、アメリカ合衆国に対しては、地球防衛軍の将来装備開発に対する貢献大として、今後十年間の連邦分担金の一時引き下げが実施されている。


 “ヤマトを超える大戦艦”“スーパー・ヤマトクラス”として計画された本級は、名実共にそれを具現化した戦艦として完成した。これほどの大戦艦を建造する技術や予算を持たない国々の一部からは“遅れてきた大戦艦”“足りないのは戦果だけ”などと揶揄する声もあったが、合衆国人たちは気にも留めなかった。
 冠せられた艦名については、三つの候補があったと言われている。具体的には『アリゾナ』『アイオワ』『モンタナ』である。其々に相応しい所以と背景があったが、最終的には建造プロジェクトチームの総意として『アリゾナ』が強く推されたことが決め手となり、本級は『アリゾナ級護衛戦艦』と称されることが決定した。


 本級はその戦闘能力の高さから、“各国護衛戦艦中”最強という評価が定説である。しかし、その評価は正確であっても、必ずしも適切ではない。なぜなら、地球が保有する“全戦艦”に枠を広げても、彼女とその妹は間違いなく最強級の存在であったからだ。
 幾度となく地球の危機を救った伝説の宇宙戦艦、二〇インチショックカノンを槍衾のように備えた戦略指揮戦艦とその拡大改良型、機能性と量産性を兼ね備えた次世代の主力戦艦群、それらの存在と比較しても、彼女たちの戦闘能力は劣らないどころか、部分的には確実に優越していた。
 より穿った見方をすれば、アリゾナ級を“護衛戦艦”と称することそのものが適切ではないのかもしれない(艦種類別上は正確であっても)。彼女たち程、空間打撃戦(本気の殴り合い)に特化して設計・建造された宇宙戦艦は、全地球戦艦を見渡しても極めて稀であり、“護衛戦艦”という分類など、寧ろ方便に近かった。だが、そうまでして仕立てられた打撃戦能力は筋金入りであり、本級が2200年代の地球が建造した幾多の宇宙戦艦の中でも最強の一角を占める存在――最強戦艦の一隻であったのは間違いなかった。




 一番艦アリゾナ就役とほぼ時を同じくして、ガルマン・ガミラス帝国軍の惑星破壊ミサイル誤爆を原因とした太陽異常膨張事件――所謂“太陽危機”が発生した。
 地球防衛艦隊所属艦では長距離・長期航宙に豊富な経験と実績を持つ宇宙戦艦ヤマトや、大改装によって長期航宙機能を実験的に付加されたグローリアス級宇宙空母等が所謂“第二の地球探し”へと慌ただしく旅立っていった。
 だが、当時の防衛艦隊所属艦艇において、そうした単独・長距離調査任務に耐え得る艦は、非常に数が限られていた(艦隊・戦隊規模の派遣は支援艦艇数の限界から、更に困難だった)。その結果、地球連邦政府は構成各州への十分な根回し後に、順調に就役が進んでいた各国“護衛戦艦”“護衛巡洋艦”に対して出動要請を行うことを決定する。
 要請は、防衛艦隊への編入という形ではなく、あくまで連邦から各州・各国への任務委託という体裁が採られた(故に、任務に要する費用は全額地球連邦政府が負担するものとされた)。
 この要請に対し、主に旧大国を中心とした国家複数が応じ、調査専用船と就役したばかりの護衛戦艦・護衛巡洋艦を組ませた小規模な探査船団が、其々の担当宙域に向かって順次出航していった。最初期に地球を後にした護衛戦艦の中には、就役後半年にも満たないアリゾナの姿もあった(二番艦“ペンシルバニア”は未だ艤装中であった為、地球に残留)。


 太陽危機発生当時、銀河系ではボラー連邦とガルマン・ガミラス帝国が文字通り銀河を二分する大戦争(第一次銀河大戦)を繰り広げており、地球を発った探査船団はこの戦乱の影響をまともに被ることになった。
 当初は、開拓進むアルファ星へ攻撃をしかけてきたガルマン帝国が交戦国として認識されていたものが、本帝国が嘗ての大ガミラス帝国の後継国家(ガルマン・ガミラス帝国)であることが判明、国家元首であるデスラー総統との電撃和解が成立したことによって、自動的に敵手がボラー連邦へと切り替わってしまったのである。
 尚、ボラー連邦と地球連邦が交戦状態に陥ってしまったのは、地球がガルマン・ガミラス帝国の友邦国家であると認識されてしまったことが主たる原因とされている。しかし、これには異論もあり、探査活動中の宇宙戦艦ヤマトがボラー連邦所属惑星を訪問した際、ヤマト艦長の示した国際常識を無視した独善的対応が原因だとする主張もある。
 原因はともあれ、交戦国の急激な変転は、ヤマトを含む探査艦、探査船団に多大な影響を与えた。探査活動中の船団に、ボラー連邦軍が政治的意図に基づいた攻撃を企てたからである。最初に攻撃ターゲットとされたのは、偶然ボラー連邦軍の哨戒網に捉えられた北アメリカ州の探査船団、地球連邦呼称“NA-01”であった。
 “NA-01”探査船団は、護衛戦艦アリゾナと非武装の惑星探査船・航路調査船各一隻の計三隻で編成されており、当時は担当宙域であるスカラゲック海峡星団を探査中であった。そこに地球船団襲撃を命じられたボラー連邦第一二打撃艦隊が突如として襲い掛かった。
 ボラー艦隊の総数は一〇〇隻を遥かに超えており、ボラー艦隊接近を探知した“NA-01”船団指揮官(アリゾナに座乗)は即座に、船団に対し緊急ワープによる宙域離脱を命じる。しかし運悪く、長期に渡る探査活動でオーバーワーク気味だった探査船が機関不調をきたしてしまう。
 機関修理に要する時間は最低三〇分。船団指揮官は探査船と調査船に対し修理完了後の速やかな離脱を命じると、次席指揮官(探査船に座乗)に以後の船団指揮権を委譲した。そして、事態を悟った次席指揮官の制止のコールを無視し、アリゾナに対してはボラー艦隊迎撃と探査船死守を命じたのである。もちろん、指揮権を委譲した“前”指揮官はアリゾナに座乗したままであった。
 ヤマトとの戦闘経験によって、地球艦艇が搭載する決戦兵器――波動砲の恐ろしさを知るボラー艦隊は、急迫によって近距離戦闘に持ち込み、数の優位で一気に探査船団を揉み潰す策だった。その意図は半ばまで成功し、船団のワープトラブルに係る混乱によって貴重な迎撃準備時間を失ったアリゾナは、新型波動砲の発射態勢を整えることができなかった。
 しかし、アリゾナの極限まで研ぎ澄まされた“牙”は波動砲だけではなかった。最大戦速で突進してきた大小一五〇隻にも及ぶボラー艦隊に対し、アリゾナは敢然と艦首を向けると、前方指向可能な一二門のショックカノンを用いた全力主砲射撃を開始したからである――。




 ――二八分後、機関修理が完了した探査船と調査船は緊急ワープによって宙域を逃れた。非武装船であることを示す二隻の純白の船体には被弾の跡一つ、焦げ跡一つ存在しなかった。それは、アリゾナとそのクルーたちが、軍艦・軍人としての誓約を見事果たした何よりの証であった。
 アリゾナ最期の様子は、後に着底した亡骸が同星団β星において発見され、回収された航宙・戦闘記録から詳細が明らかになった。


 ――ボラー連邦艦艇一五三隻中、撃沈確実三四隻、不確実二〇隻以上。戦闘開始から二九分後、探査船の離脱と本艦任務完遂を確認。されど、本艦は機関部損傷大にて離脱は叶わず。残存兵装も僅かにて、これ以上の交戦は不可能と判断。全通信手段を用いて降伏の旨打診するも、交戦勢力は断固として之を拒否。誠に遺憾なれど、本艦総員、全力抗戦を以って己が誓約を果たさんとす――。

 ボラー連邦第一二打撃艦隊が護衛戦艦アリゾナの撃沈を確認したのは交戦開始から地球時間で八四分後。その時には、一五〇隻を超えていたボラー艦隊は半数以下にまで撃ち減らされていた。艦隊旗艦の相次ぐ喪失によって指揮権を継承していたボラー艦隊指揮官代行(それも四人目の)も三日後には任を解かれ、本国へと強制送還されている。
 更に、アリゾナが残した戦果はそれだけにとどまらなかった。ただ一隻の戦艦を撃沈する為だけに完全編成の打撃艦隊を実質壊滅させられてしまったボラー連邦軍上層部が、その事実に震撼したからである。
 しかも、彼らが最も恐れる連邦首相からは、早くも本戦闘結果に対する責任の追及と、地球探査船団に対する更なる攻撃を求める強い命令が発せられていた。責任の追及については、生き残った艦隊最上位者の首を(物理的に)差し出すことで解決できると思われたが、より切実なのは“更なる攻撃”の方であった。
 完全編成の一個打撃艦隊を繰り出し、戦力半減以上の大損害と引き換えの戦果が戦艦一隻では、さしもの大国ボラーであっても、軍事的にも政治的にも許容できる限界を遥かに超えていた。もちろん、より大規模な戦力を繰り出せば、相対的に損害は抑えられるかもしれないが、本来の主敵であるガルマン・ガミラス帝国の存在を思えば、それも容易ではなかった。
 元々、今回の一個打撃艦隊派遣にしても、ベムラーゼ首相からの厳命に基づくものであり、軍上層部としては対ガルマン・ガミラス戦闘正面からの戦力引き抜きとイコールである艦隊派遣には非常に消極的だった(反対とまでは主張できなかったところに、当時の首相と軍の力関係が表れている)。
 更なる地球探査船団攻撃を実施するとなれば、辛うじて均衡状態を維持している最前線からの兵力引き抜きは避けられず、かといって、中途半端な戦力で攻撃を仕掛ければ、損害よりも恐ろしい敗北の覚悟が必要だった。仮に敗北ともなれば、部隊指揮官の更迭程度では済まされず、軍への更なる影響力拡大を狙うベムラーゼ首相の指導によって、軍上層部の責任まで追及されてしまうことは確実だった。
 ボラー連邦軍上層部は、八方ふさがりという他ない状況に追い込まれていた――たった一隻の地球戦艦がその身に代えて果たした戦果によって。
 皮肉だったのは、彼らが“偶然”発見し、最初の獲物として攻撃を加えたその戦艦は、数ある地球戦艦の中でも最強級の一隻であり、他の探査船団にこれほど強力な戦艦は殆ど随伴していなかった。つまり、ボラー連邦軍が恐れた自軍の損害予想は、明らかに過大だったのだ。
 それに気づかぬボラー連邦軍上層部は、苦慮の末に以下のような一般命令を発した――地球船団襲撃艦隊の被害甚大。以後の地球艦索敵・発見報告にあたっては以上を考慮の上、細心の注意を以って遂行のこと――。
 官僚的国家に特有の冗長で掴み処のない命令であったが、それ故に政治的に敏感な部隊指揮官達は誤解しなかった――軍上層部は地球艦船の発見も交戦も望んでいない、と。
 その結果、偶発的戦闘や、上層部の命令意図を理解できなかった愚直な指揮官に率いられた艦隊との戦闘といった極少数の例を除き、地球探査船団はボラー連邦軍による大規模襲撃を回避することができた。
 それは紛れもなく、短命で果てることを余儀なくされた護衛戦艦アリゾナが成し遂げた最大の戦果であり、その戦果は“ただ一艦で強大なボラー連邦軍を震撼させた宇宙戦艦”として長く語り継がれることになる。


 ――2211年、スカラゲック海峡星団β星を非武装の地球船団が訪れていた。ボラー連邦との協定に基づき、短期間の滞留が認められた船団は速やかに課せられた任務を達成すると、協定期間の終了を待たず、星団を後にした――。

 翌年、アメリカ合衆国アリゾナ州において、特別式典が開催された。式典は非常に大規模なもので、合衆国のみならず連邦構成五州、そして地球連邦政府・防衛軍からも多数の列席者を迎えて盛大に行われた。
 式典の中心に存在したのは、スカラゲック海峡星団β星から六年ぶりに回収された護衛戦艦アリゾナの威容であった。戦闘により激しく損傷し、異星上に長年放置されたことで各部の風化も進んでいたが、一年がかりで丹念に状態保存処理を施されたその姿は、たとえ傷だらけであっても“ヤマトを超える大戦艦”と称された頃の威容を失っていなかった。
 式典は慰霊でも告別でもなく、各国宇宙軍並びに地球防衛艦隊の慣習に則った“帰還式典”とされ、終始賑わいだ雰囲気の中で執り行われた。宇宙戦闘における“戦死”は遺体が回収できないケースが圧倒的であり、回収することができた遺体は“帰還”として祀られるのが各国共通の慣例だったからだ。
 もちろん、式典の開催にあたっては、十分な事前説明により遺族団体からの全面的賛同が得られていた。しかし、それでもなお、遺族感情を懸念する声が一部に存在したのも事実である。
 しかし、式典最後に行われた合衆国代表のスピーチが、そうした負をも含めた全ての人々の感情を昇華させることになる。
 スピーチを行ったのは、アリゾナに座乗した船団指揮官から指揮権を委譲され、探査船と共に難を逃れることができた“NA-01”探査船団の次席指揮官だった。彼は、一部の思慮も無ければ心も無い者たちからの“仲間を見捨てて逃げた”という批判にも動じることなく、自らの強い希望で壇上に登っていた。


『“リメンバー・アリゾナ”
 我々はこの言葉と共に、彼女とそのクルーたちが示した献身を、気高さを、そして優しさを決して忘れません。
 今日、彼ら彼女らは我らの下へ、この愛すべき故郷へと帰還しました。
 我らが大宇宙というフロンティアに飛翔を続ける限り、我々はこれからも幾多の困難に見舞われるでしょう。しかし――我らは必ず還らなければなりません。
 たとえ幾年の刻を要しようとも、たとえどのような障害が目前に立ち塞がろうとも、愛する者たちの処へ、愛する故郷へ、還らなければならないのです。今日ここに帰還した護衛戦艦アリゾナと、その勇敢な戦士たちと同じように。
 だからこそ我々も、今日還った彼ら彼女らに心から告げようではありませんか――おかえりなさい、と』


――つづく。

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