一般にガミラス戦役は宇宙戦艦ヤマトの地球帰還によって終結したものと認識されているが、公式には異なる。
元々、大ガミラス帝国と地球連邦との間には外交関係は存在せず(戦役開始時の地球には未だ統一政体は存在していなかったが)、戦役は宣戦布告も無しに突然勃発し、停戦交渉といった外交プロセスの無いまま自然休戦に到っていた(公式な戦争状態の解消は2206年、地球―ガルマン・ガミラス帝国間で講和条約が締結されるのを待たなければならない)
終戦や停戦といった明確な線引きが無かった以上、ヤマト帰還後も地球連邦政府は長らく軍に臨戦態勢と警戒態勢を維持させ続けた。もちろんそこには――ガミラスに対する激しい恐怖があった。
何しろヤマトは、彼らの本星であるガミラス大帝星を殲滅していた。復讐の念に駆られたガミラスの大軍が怒涛のように侵攻してきたとしても何ら不思議はないと当時は考えられていたのである。
故に彼らは、満身創痍で帰還したヤマトの復旧作業と、戦時急造艦であるハント型フリゲートの量産を急いだ。幸い、直近の艦隊戦闘である『太陽系外縁会戦』の推移を見る限り、現在のハント型を主力とした地球防衛艦隊でも、運用によってはガミラスに対してかなりの戦力になると考えられた。
しかし、それには必須の条件があった。太陽系外周域まで網羅する早期警戒システムの構築である。
ガミラス艦隊の来襲を早期に把握し、万全の迎撃体制を整えた上でなければ、攻防性能のバランスに欠けるハント型を主力とした地球艦隊に勝ち目はない――当時はそう考えられていた。事実、太陽系外縁会戦において、土方竜提督率いる地球防衛艦隊(第一遊撃部隊)は圧倒的に優勢なガミラス親衛艦隊の殲滅に成功していたが、それはヤマトからの事前通報によってガミラス親衛艦隊の進攻時期・航路を正確に把握していたが故であった。会戦後の戦訓調査委員会の結論も、第一遊撃部隊勝利の第一要因として、来襲の早期把握による万全の艦隊布陣を挙げている。
それは軍事原則的には当然すぎる結論であったが、原則論故の問題もあった。早期警戒を成立させるに十分と考えられる警戒圏があまりにも広大になり過ぎることであった。
太陽系に敵性勢力が侵攻してくる場合、最終ワープアウトエリアは天体密度が増す『エッジワース・カイパーベルト』外側の『オールトの雲』内と考えられた。だが、『オールトの雲』の範囲は半径十万天文単位(一・五八光年)にも及び、電波や重力波を用いた既存の観測装置では伝達に要するタイムラグの点で現実的な警戒網構築は不可能であった。
幸い、ハードウェアに関しては既に解決の目処がついていた。当時、あらゆる科学分野において革命的な影響を及ぼしていたタキオン物理学に基づく索敵装置、通称『タキオンレーダー』である。
タキオン粒子の伝播効果を用いることで、距離による伝達タイムロスをほぼゼロとしたこの新型レーダーは、光速域での航宙とワープドライブが常態化するであろう今後の宇宙時代において必須の装備と考えられた。その実用第一号は(やはり他のタキオン関連装置と同じく)宇宙戦艦ヤマトに搭載され、ほぼ一年に及んだ地球―イスカンダル往復航宙において期待に違わぬ性能を示した。また、その間も地球において開発・改良は継続されており、小型化・高機能化が進んだ新型レーダーがハント型フリゲートにも搭載されている。
しかし、星系規模の警戒装置として最適と考えられたタキオンレーダーであったが、その能力は革命的ではあっても決して万能ではなかった。従来からの電波や重力波を用いた索敵装置と同様に、惑星や衛星などの物体背後(覆域)は走査不可能であったし、星間物質の密度や電磁波強度によっても探知精度は大きな影響を受けた。
こうしたハードウェア的限界を考えれば、たとえタキオンレーダーを用いたとしても、従来型の早期警戒システムと同様の多層的且つ多重的なシステム構築が不可欠であった。しかし、理想的なシステムが往々にしてそうであるように、太陽系全体を網羅する早期警戒システムも完成までに莫大な費用と労力、そして何より時間が必要であった。だが、現実問題として当時の地球に時間はなく、その結果、開発と配備に時間を要する恒久システムと平行して、比較的短期間で稼働可能な簡易システムの開発が進められることになる。
簡易システムは当面の“繋ぎ”ではあったが、恒久システム実用化以後もリロケータブルな補完システムとして運用されることが当初から想定されており、システムとしての汎用性・冗長性を可能な限り考慮するものとされていた。
簡易システムの中核は単艦運用を前提とした『哨戒艦』であった。目玉である索敵装置は、恒久システムの主力となる警戒衛星のそれよりも高出力・高精度のタキオンレーダー複数を搭載し、全天域同時走査可能なスペックが要求された。同時に、敵性勢力による妨害を単独で排除可能な戦闘能力、空間障害物による覆域を自艦の機動によって解消できるだけの高い機動性能、そして中・長期の哨戒任務を可能とする良好な居住性等が合せて要求されていた。
当初、この哨戒艦は設計期間と建造期間を短縮する為に、ハント型の艦体と機関を流用した艦として計画される予定だった。新設計の専用艦を建造する余裕はまだ地球になく、当面の新造艦艇は可能な限りハント型のファミリー艦で対応することが当時の地球防衛軍の基本方針だったからである。事実、哨戒艦計画が立案される直前に建造可否が検討されたハント型の拡大強化版とも言うべき『大型戦闘艦』計画も、時期尚早として計画延期とされていた。
しかし、前述の要求性能を満たす艦を想定すると、ハント型の艦体規模では到底収まり切らないことは誰の目にも明らかだった。それでも、ハント型ファミリー艦という防衛軍全体の基本方針を覆すのは容易ではなく、一時は要求性能の引き下げや、単艦ではなく複数艦による任務分担まで検討されている。だが、いずれの検討においても、当初計画より遥かに多数の艦が必要となることが大きなネックとなった。
全天域同時走査を可能とする為には、戦隊規模のハント型改造艦それぞれに大出力タキオンレーダーシステムを搭載し、集中運用する必要があった。当然、故障や整備で欠員が出れば全天走査は不可能となるし、ハント型の機関能力ではレーダー波発振出力の点でも不安があった。また、ハント型の居住性はお世辞にも高いとは言えず、中・長期の航宙任務を担わせるのであれば、この点でも大規模な改善が必要と考えられた。
検討の結果、ハント型ベースの艦を哨戒艦として運用するには、武装の殆どを撤去し、浮いたリソースをレーダー出力向上と居住性改善に充当しなければ安定した艦の運用は不可能であり、それほどの努力を払っても尚、多数艦の同時運用でなければ有効なシステムと成り得ないと結論付けられている。この結論では、非武装の“哨戒戦隊”を護衛する戦力まで必要であり、費用対効果的には悪夢以外の何物でもなかった。
ここに至り、地球防衛軍もようやく重い腰を上げた。大型専用艦建造の決定である。
とはいえ、それは決して無分別なものではなく、コストコントロールには細心の注意が払われることになっていた。艦の規模は、ヤマトを除く当時最大の地球防衛軍艦艇であるカイザー型の建造ドックで建造可能な規模とされ、艦形は設計期間短縮の為、ハント型のほぼストレートな拡大版とされた。
この決定が伝えられると、艦政本部のとある設計部門で歓声が上がった。奇妙なことに、その部門は哨戒艦の設計担当では“なかった”。
彼らは、専用の大型艦として建造が決定した哨戒艦が、自らが設計していた艦と多くの点で類似していることに気付いていた。彼らが設計していたのは、当面は建造延期とされた『大型戦闘艦』――後のアルジェリー級巡洋艦であった。
この時点で、既に大型戦闘艦は設計作業がほぼ完了しており、建造可否の検討が再三に渡り繰り返されていた。だが前述の通り、当面の防衛軍方針はハント型のファミリー艦建造であり、担当部局の努力も空しく、この時点で建造許可は下りていなかった。しかし、彼らは自プランの承認を取り付けるべく数々の工夫を凝らしており、その中にはカイザー型建造ドックの活用やハント型の設計資産を直接的に活かすことも含まれていた。
更に、短期設計・短期建造による早期就役が当面の地球防衛軍の方針である以上、自身のプランも将来、各種ファミリー艦への派生が求められるであろうという予想の下、できるだけ大きな冗長性を持たせることも自主的な課題としていた。その背景には、防衛軍の方針にもかかわらず、ハント型があまりにも冗長性に乏しい艦であり、ファミリー艦の設計・建造に各部門が苦心を重ねていたという現実があった(とはいえ、それは当初からリソースを目一杯使った艦が求められた結果であり、ハント型自体の欠陥を示すものではない)
『大型戦闘艦としては(ハント型量産が優先されたことで)計画延期となっているが、汎用性・冗長性の高い大型艦“素体”としては既に設計が完了しており、哨戒艦計画にも即座に流用が可能』――それが大型戦闘艦設計部門の主張であった。
この、ある種傲慢ではあるが理に適った提案を受け、艦政本部内で早速調整が行われた。当然、横槍を入れられた格好の哨戒艦設計部門は怒り狂っていたが、艦政本部上層部にとっては早期に実現可能という点で、確かに魅力的な提案だったからだ。
調整の結果、大型戦闘艦計画と哨戒艦計画、それぞれを担当していた設計部門の統合が決定された。設計期間を短縮する為、大型戦闘艦設計部門が艦体設計と武装を含む汎用艤装品の選定を行い、哨戒艦設計部門がタキオンレーダーを含む探査システムの取りまとめを行うという作業分担も、この際に取り決められている。
部門統合当初こそ、不平不満続出の哨戒艦設計部門だったが、その声は作業進展と共に急速に小さくなっていった。それほどまでに、大型戦闘艦設計部門が提示した “素体”が優秀だったからだ。予定されていた各種索敵・探査装置をフルに搭載し、新たに考案された情報表示システムまで搭載しても尚、艦体には充分な武装を施す余地があった。もちろん、防御性能や機動性能、居住性能も悉く要求基準を満たしており、設計・建造作業は驚くほど順調に進んだ。
そして2200年12月、一番艦『オマハ』が完成に至る。正式な艦級名は『オマハ級哨戒巡洋艦』に決定した。
そのスタイルは、ハント級護衛艦(同月、艦類別規定の改定により改称)をベースにしていることは一目瞭然であったが、全体から受ける印象は大きく異なっていた。ハント級に見られた、およそ息の抜ける部分のない緻密感や凝縮感は影を潜め、全体的に余裕を感じさせる艦容に仕上がっていたからだ。これは、素体となった大型戦闘艦計画が再三の差し戻しを受けたが故に基本設計の熟成と洗練に時間をかけられたこと、更にヤマト級やハント級建造時には不足していた(と言うよりも殆ど手探り状態だった)各種装備の基礎データが充分に集積されていたことが大きかった。
結果として本級は技術的冒険には無縁の艦となったが、それ故に非常に完成度の高い艦として竣工することができた。
本級の要たる索敵装置は三基の大出力タキオンレーダーだった。設置場所は艦橋トップ、艦底、艦尾であり、死角の無い全方位走査が可能である。
また、その先鋭的な姿から艦橋後方で一際目を引く三本の大型マストアンテナは、タキオン波・重力波・電磁波等の各種エネルギー波を検出可能な複合型逆探知装置であった。三本の主アンテナ(及び三本の副アンテナ)を使用することで、発信源の概略位置測定が可能であり、二隻以上でデータリンクを行えば精密測定すら可能であった。
他にも、艦橋トップの主レーダーには四基の次元震動検出機が併設されており、本級の建造目的を如実に示す外観を形作っている。ワープアウト反応の検出に用いられる次元震動検出機は、その特徴的な外観から様々な呼び名があり、日本地区ではもっぱら“パトライト”と称されていた。奇妙なのは日本以外の地区での呼称で、“KANZASHI”と呼ぶのが一般的だった。これは、二十世紀の日本水上艦艇研究家でもあった、とある英国出身の宇宙軍提督がそう呼んだことが起源とされている。
以上のような各種索敵・探査装置から得られた膨大な量の情報を、タキオン物理学の応用によって著しい進歩を遂げた高速量子電算機が統合処理することで、新型の情報表示装置『全天球レーダーシステム』が初めて実用化された。
本システムは球状の専用室(全天球レーダー室)の内壁そのものをデータ表示装置として使用するのが特徴で、情報統制官(システムオペーレーター)は室内を自在に遷移可能なフレキシブルアーム上の専用席から擬似ビジュアル化された各種宙域データを監視することになる。
これまでの端末型表示装置に比べると、複数のメンバーでチームを組むことになる当直オペレーター間の連携と情報共有が行い易く、長時間の連続監視作業でも疲労度が小さいことから、ヒューマンエラーの発生確率も大きく減少した。また、各種電子情報が疑似とは言えビジュアル的に表示されることで、直感的な状況判断を下しやすいと実運用者であるオペレーター達の評価も上々であった。
本級の早期警戒能力の高さは、レーダー設置数や発振出力はもちろんだが、得られた情報を迅速・的確に判定可能なシステムによって裏打ちされていたと言っても過言ではない。そしてそのコンセプトは、将来的には哨戒艦のみならず他の艦艇においても普遍的に適用可能であった。
事実、この全天球レーダーシステムは決して安価なシステムではなかったが、初の戦略指揮戦艦であるアンドロメダ級や第二次改装後のヤマト、第二世代主力戦艦(ローマ級)及びその候補艦たちにも軒並み採用されている。だが、それはまだ未来に属する話であり、少なくとも就役時点のオマハ級は地球防衛艦隊最高の探知・探査性能を誇る“哨戒艦”であった。
武装としては八インチショックカノンを連装三基六門搭載。この砲は波動機関搭載改装後のカイザー型が搭載した同径砲とは異なり、純然たる新型砲だった。六五口径もの長砲身を誇り、資源状況の改善と治金技術の向上によって初めて製造・配備が可能となった。決戦距離でガミラス・デストロイヤー級戦闘艦を射貫可能な高い収束率が最大の特徴で(アドバンスド・カイザー型搭載砲では、中距離以遠では着弾箇所によっては弾かれることがあった)、後の中規模艦艇多数に同型砲や改良砲が採用されている。
更に中型宇宙魚雷、パルスレーザー、近距離用誘導弾等の各種兵装を過不足なく搭載することで、単艦任務にも耐え得る汎用性を獲得するに至った。
そしてその艦首には、当然のように四〇インチ口径の波動砲(収束型)が搭載されていた。ヤマトに比べれば小口径であり、新型の波動現象増幅装置の恩恵を受けても尚、威力と射程は劣った。しかし、太陽系内での使用を考えれば、ヤマトクラスの波動砲では付随的被害への懸念から運用が限定されることも予想され、むしろ手ごろな威力の中規模波動砲と言えなくもなかった。
本級の艦体容積と機関出力からすれば、更に砲装備を増強することも可能であったが、それはあえて控えられ、従来の地球防衛軍艦艇では等閑に付されることが多かった居住性の改善に大きくリソースが割かれている。この分野での研究や技術蓄積は、これまで地球防衛軍にそんな余裕が無かったこともあって非常に乏しかったが、ヤマトの航宙記録と運用データが得られたことで、急速に進展した。
一年間にも及ぶ実践的なデータは非常に有効で、それをフィードバックすることで単位空間あたりの活用効率が大きく上昇した。また、イスカンダル遠征中にヤマトの補給科・衛生科等から上申された居住性に係る改善提案は実に数百件にも及び、人間工学的な観点も加えつつ官給備品の改良や設置レイアウトが大きく見直された。それらの努力の結果、乗員一人あたりの専有容積こそヤマト級を下回るものの、中期間(二~三ヶ月間)に限っての居住性でいえばヤマト級と同等以上とまで評価されるに至った(年単位では、より大規模な娯楽設備まで備えるヤマトに軍配が上がる)。
これら居住性に係る改善努力は、今後の新造艦のみならず既存艦艇でも容易に適用可能なものも多く、地球防衛軍艦艇全般の居住性の底上げにも貢献している。
――つづく
はてさて、今回はパトロール艦妄想の第一回(前編)です。
回を重ねる度に原作無視の創作が増加の一途を辿っているような気がしますが、今回も同様ですw
全天球レーダー搭載のくだりや、建造ペンディングになっていた巡洋艦プランとの統合などは、真っ赤な創作ですので念のため(^^;)
後編は落とすところは落としつつ(てか、落とさざるを得ない)、バリエーション展開に踏み込むつもりでして、今回の作例もバリエーションの一例という扱いになると思います。
で、今回の作例はいかがでしょう?♪o(゜▽゜=o)♪
どうも、パト艦の丸っこいブリッジとブリッジ両側のお花のようなアンテナが昔から苦手でして、作例では巡洋艦のそれに置き換えています。
主砲は巡洋艦の三連装砲からの流用です。残念ながら、艦底砲塔だけは三連主砲が足りなくて断念しましたが(ノ△・。)
あとはスーパーチャージャー搭載改装後の姿ということで、機関部を増設しています。
設定としては、突撃駆逐艦で構成される宙雷戦隊旗艦・嚮導艦といったところでしょうか。
詳細は後編で、、、ちゃんと語れるといいなぁ(^^;)
実のところ、毎回書き上がるまで不安で一杯なんですよ、これでもw
書きますよぉ~♪とフロシキ広げたはいいけど、ホンマに書き上がるんかいな・・・・・・とか、途中で行き詰って投げ出したらどないしょ・・・・・・とか(汗)
でも、あと一週間ほどで2199も始まりますし、それを見たら気持ちも盛り上がって頑張れそうな気がします(^_^;)
早いもので、公開までもう一週間ほどですねぇ~♪
私は13日に京都で見る予定ですが、皆さんはいつ御覧になられます?
今回から作例撮影に使うデジカメラと背景(紙→布)を変えてみました。
ISO100で取ったのですが・・・・・・200くらいの方がいいかな(^^;)
まだまだ試行錯誤が続きそうですw
それと、ハント級護衛艦②の記事で一部写真を差し替えましたので、是非是非(^_^)