我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

地球防衛軍の航空機と空母機動部隊

2014-04-06 13:09:43 | 地球防衛艦隊2199


 ガミラス戦役中期以降、地球防衛軍の一線級航空(宙)機の主機には、一貫して低濃縮型波動機関の簡易型が採用されている。
 艦艇搭載の波動機関は、それがいかなる国家・勢力のものであれ、基本的にはタキオン粒子を常時捕集しながら機関内で濃縮し、恒星間航行を可能とする莫大なエネルギーを得ている。しかし、いかに宇宙エネルギーの一種であるタキオン粒子といえども、濃縮度の低い状態のままではワープ・ドライブを可能とするほどの出力を得ることはできない。故に、恒星間航行用艦船に用いられる波動機関は、より高いタキオン濃縮度が達成可能な『高濃縮型』か、タキオン濃縮度は低くとも特殊な触媒――波動触媒――との接触によって出力増幅を果たした機関が搭載されるのである(媒接触型の代表例として、ガミラシウムを用いるガミラス式波動機関やボラーチウム100を用いたボラー式波動機関等がある)。
 これに対し、短時間・短距離の戦術運用に特化した航空機用機関は、タキオン粒子の捕集や濃縮、触媒接触を行わないことで構造・規模共に大幅な小型化と簡略化を果たしている。
 しかし、機関の“燃料”たるタキオン粒子を、機外から低濃縮状態で供給する形式を採っている為、波動機関最大の特長である“無限機関”足り得なくなっている。また、供給されるタキオンエネルギーは高濃縮も触媒接触も行っていない為、機関の発揮出力には限界があり、ワープ航法は全く不可能であった。
 以上二つの制約から、同じタキオン粒子を用いる機関でも航空機用と艦艇用は区別され、航空機用は『タキオンエンジン』若しくは『コスモエンジン』と称されるのが一般的である(本稿では以後、艦艇用を『波動エンジン』、航空機用を『タキオンエンジン』と呼称する)。
 しかし、それらの制約を勘案しても尚、タキオンエンジンには確たる優位があった。
 まず、波動エンジン搭載艦船は、設置容積的に最低でも五〇メートル以上の船殻サイズが必要であるが、タキオンエンジン搭載機は十数メートル規模の小型機体でも十分に実現が可能である。また、前述した通りワープ航法こそ不可能だが、搭載機は亜光速域での戦闘行動に十分な加減速性能を有しており、外宇宙速度で航行中の波動エンジン搭載艦艇との共同行動はもちろん、対敵機動も可能であった。
 そして何より、艦艇用と比べて圧倒的に低コストで製造可能という点が、以上の優位に何倍もの価値を与えていた。
 艦船用の波動エンジンは、それが高濃縮型であれ低濃縮型(触媒接触型)であれ、大質量艦船の外宇宙速度航行に要する莫大な推力と、ワープ時の超々高出力エネルギーに対して継続的に耐久可能である必要があり、使用されている素材は勿論、基本構造からして堅牢でなくてはならない。しかし、発揮出力が極めて限られ、ワープ航法も行わないタキオンエンジンが要求する強度・耐久性は波動エンジンの数百分の一レベルに過ぎなかったからである。
 この点で最も恩恵を受けたのがガミラス戦役時の地球防衛軍であった。
 ガミラス戦役時、鹵獲したガミラス艦艇の波動エンジンを模倣することで、短期間での戦力化を企図した地球防衛軍であったが、ガミラスが一般的に使用している波動触媒――ガミラシウム――の入手や強度放射性物質であるが故の放射線遮断が壁となり、現実的な実用化は酷く難航した。
 また、辛苦多難の末になんとか模倣製造に成功した波動エンジンも、機関としての安定性こそ確保されていたものの、艦艇用として期待した出力には遠く及ばないのが実情だった。ある意味ではそれも当然で、地球人が製造した波動エンジンはガミラスのそれと同じくタキオン粒子を低い濃度でしか濃縮していなかった上に、機関に大幅な出力増幅をもたらす波動触媒との接触を行っていなかった(行えなかった)からだ。
 また、オリジナルと比して出力で大きく劣る地球製の模造品――モンキーモデルであっても、その製造にはコスモナイトをはじめとして、当時の人類には酷く入手が困難な(当時、既に地球の制宙権は地球―月近傍にまで追い詰められていた)希少金属が大量に必要である為、大量生産・配備も難しかった。
 しかし、そうした問題点を多数抱えたガミラス式波動エンジン模倣の過程で、一つの副産物が得られていた。ガミラス軍航宙機の機関コピーの成功である(コピー元となったガミラス機は、ガミラス艦よりも前に鹵獲されていた)。



 しかも、コピーに成功した航空機用機関は、オリジナルであるガミラス軍機のものと比較しても、性能的に極端な遜色はなかった。艦艇用の波動エンジンとは異なり、航空機用機関ではガミラスでも波動触媒との接触や高濃縮化といった高度な出力増幅措置が採られておらず、地球人類でも模倣のハードルが低かったのだ。また、製造に必要な部材や素材も、大半が地球で入手容易なもので代用可能であり、量産の観点での問題も艦艇用機関に比べて遥かに少なかった。
 以上の事実は、当時の地球人類と地球防衛軍にとって大きな福音だった。なぜなら、軍事力でも科学技術力でも圧倒する大ガミラス帝国軍に対し、地球人類が初めて同等に限りなく近い軍事技術の実用化に成功したからである。
 当然、以後の地球防衛軍は模倣機関の量産態勢確立と機関搭載機の開発、それらの実戦配備に全力を傾けた。そしてその努力は、人類史上初のタキオンエンジン搭載実用戦闘機である『九六式宇宙戦闘機“コスモ・タイガー”』として結実することになる。
 同機に搭載されたタキオンエンジンは、艦艇用波動エンジンと比べれば機能も構造も遥かに簡易であったが、それでもれっきとした波動機関の一種であり、運転稼働中は航宙機レヴェルとしては破格のエネルギーを生み出すことができた。それを用いることで、ガミラス軍機並みの高速戦闘を行っても搭乗員を保護可能な慣性制御装置(耐G装置)を装備している他、レーザー系火器や各種エネルギーシールドも、既存機とは比較にならないほど強力なものが装備可能となった。
 タキオンエンジンを稼働させるのは低濃縮状態のタキオン粒子(通称:タキオン燃料)であり、これを充填したものがタキオンタンクと称される。そして、このタンク容量がタキオンエンジン搭載機体の稼働時間(航続距離)を決定するのである。
 但し、タキオン燃料は波動エンジンからでなければ供給が不可能である為、九六式の配備と同時期に、タキオン燃料精製用の波動エンジンが大規模根拠地に設置された。この機関は前述したガミラス艦艇のそれをデッドコピーした低濃縮型/触媒非接触式であり、大質量の艦艇を高速で機動させるには全く出力が不足していたが、単にタキオン燃料の精製・供給用として考えるのであれば、十分な性能を有していた。しかし当時の地球に、機能と性能を可能な限り限定したとはいえ、艦艇用クラスの波動エンジンを大量生産する力は既になく、製造されたタキオン燃料供給用波動エンジンは僅か五基(地球に二基、月に一基、アステロイドベルト内防衛軍基地に二基)に留まった。
 その為、大規模根拠地で精製されたタキオン燃料は、宇宙空間では同時期に実戦配備が開始された簡易航空母艦とも言うべき『航空支援艦』内に設置された大型タキオンタンクに充填され、中規模以下の根拠地に供給する体制が採られた(地球上では既存の燃料給油機が大改造され、各地への供給を担った)。
 後の波動機関が一般化した時代と比較すれば、かなり非効率な燃料供給体制であったが、当時の地球防衛軍には否応も無かった。現時点で唯一大ガミラス帝国軍に対抗可能な軍事ファクターを切り捨てることなどできる訳もなく、以後も経済性を度外視した運用が続けられることになる。
 しかしそうした状況も、地球で本格的な波動エンジン搭載艦艇――宇宙戦艦ヤマトが登場したことで大きな転機を迎えることになる。波動エンジン搭載艦であれば、機関稼働中は常にタキオン燃料を精製しているのも同然である為、艦内に艦載機用燃料スペースを確保する必要が無かったからだ。ヤマトは、往復三〇万光年にも及ぶ航宙を単独で行わなければならない艦であり、艦内空間の確保と効率的使用は死活問題だった。その点、通常の液体や固体燃料を用いないタキオンエンジン搭載機は、イスカンダル往還を目指すヤマトにとって願ったり叶ったりの機材であった。
 その結果、ヤマトには九六式の後継機である『九九式宇宙艦上戦闘機“ブラック・タイガー”』及び『零式宇宙艦上戦闘機“コスモ・ゼロ”』が一個増強航空隊編成で搭載され、縦横無尽の活躍を示すことになる。



 ヤマトがイスカンダルから帰還し、ガミラス戦役が実質的な自然休戦を迎えた後、新たに設立した地球連邦政府は、戦役中に実用化された各種新技術を用いた軍事力の再建に乗り出した。勿論、その中にはタキオンエンジン搭載機によって編成された航空隊多数も含まれており。当面の主力機材はガミラス戦役時に開発された九六式と九九式が占めるが、新型機の開発と配備も急ピッチで進められていた。
 開発・採用年次的には未だ“新鋭機”と評し得る九九式や零式から、さほど間を置かない新型機開発には勿論理由がある。
 ガミラス戦役中に製造された地球製タキオンエンジンは、機関中枢に入手容易ではあるが、強度や耐久性に劣る素材をかなりの割合で採用せざるを得なかった。また、基礎技術力の乏しさから、エンジン補機類全般の性能もガミラス製と比べて明らかに劣っていた。
 その為、第一線の戦闘部隊で使用されるタキオンエンジンは、航続距離の低下や消耗部品の増大を覚悟の上で、かなりピーキーな(職人芸的整備でのみ実現可能な)セッティングで運用されることが多かった。だが、そうした努力を払っても尚、発揮出力はガミラス機と比べて不足気味であった為、九九式のパイロット達は過荷重となりかねない誘導弾の搭載を最小限に留めていたのが実情だった(そうした状況は当時の記録映像からも確認することができる)。
 しかし、ヤマトがガミラス帝国軍冥王星基地を破壊し、地球防衛艦隊が太陽系内制宙権を奪還して以降、コスモナイトをはじめとする各種の高機能性素材原料の入手状況は劇的に改善した。その結果、タキオンエンジンにもこれまでは入手困難であった希少素材を使用することが可能となり、従来と同一設計の機関であっても、かなりの性能向上が達成された。
 更に、高精度・高純度の素材が安定的に供給される目処が立ったことで、新開発の機関はより限界を突き詰めた設計が可能となり、ガミラス戦役末期から精力的に開発が進められていた。
 そして、そうした数々の努力の結晶が、遂に実動した地球防衛軍再建計画において実戦配備が開始された『一式宇宙艦上戦闘攻撃機“コスモ・タイガーⅡ”』である。



 ガミラス戦役中の傑作機(九六式)からペットネームを継承しているのは伊達ではなく、従来機と比しての性能向上は圧倒的だった。
 速度・運動性・航続距離・対弾性・ペイロード・生産性のいずれもが、非常に高い次元でバランスしており、その挑みかかるような精悍なスタイルも相まって、新時代の傑作機の名を欲しいままにした。もちろん、一部の性能に限れば、先発の零式が傑出する領域(運動性や航続距離)も存在したが、トータルバランスと取得コストでは比較にならなかった。
 また、本機用に開発された新型タキオンエンジンには十分な出力余裕があり、後の大きな発達余裕をも本機に約束していた。事実、その後の二〇年間で開発された本機のバリエーションやサブタイプは優に三〇種類を超える。特にガトランティス戦役後に配備が開始された二二型は、ハードポイントの増加やそれに伴う機体強度の改善により、マルチロール・ファイターとして完成の領域に達し、以後の本機の進化の方向性を決定づける役割を果たした。

 ガミラス戦役以来、地球防衛軍航空隊を悩ませた課題の一つに、対艦攻撃兵装の威力不足がある。機体の生産性確保と数の限られる搭乗員の有効活用を目的として、地球防衛軍の戦闘機と攻撃機(戦闘攻撃機)は、永らくコスモ・タイガーⅡ(CTⅡ)系列機で統一されてきた。しかし、CTⅡ系は艦載機、しかも格納庫容積の乏しい戦艦にも搭載可能な機体として原型が開発された為、機体規模が非常に限られていた。言い換えると、重防御且つ大質量の攻撃目標――大型戦艦――をも撃沈可能な大型対艦誘導弾を搭載するには、機体が小型過ぎたのである。
 その結果、地球防衛軍航空隊のタクティカル・ドクトリンは、永らく防空と偵察、そして近接航空支援(直掩)に特化せざるを得なかった。フェーベ沖会戦における大規模対艦攻撃のような例外もあったが、本会戦における母艦航空戦力の集中投入にしても、当時の地球防衛艦隊司令長官の“奇策”に過ぎず、体系化された戦策・戦術というには程遠かった。
 また、大戦果と引き換えに、ガミラス戦役以来のヴェテランパイロットの大半がフェーベ沖で喪われたことも、当面の航空隊編成に無視できない影響を残していた。長駆侵攻の上、敵防空網を突破、敵艦に対艦攻撃兵装を叩きつけるには、防空や近接支援とは比較にならない程の技量(と訓練時間)が要求されるが、そうした技量を持った搭乗員が一時的とはいえ、完全に枯渇してしまったからである。
 こうした状況にある程度の改善が見られるようになったのは、2205年頃であった。この時期、新型空母『キエフ級戦闘空母』が就役し、戦略指揮戦艦や主力戦艦に搭載される戦闘機隊の充足率もようやく八〇パーセントの大台を超えようとしていた。
 しかし、これらの航空隊にしても、キエフ級搭載部隊を除く大半が防空と近接航空支援に特化した部隊に過ぎなかった。ある意味、この時期の航空隊は多数配置された新人搭乗員の能力を極限まで限定することで、“促成栽培”と部隊としての定数確保を成し遂げていたと言えるだろう。
 しかし、その判断の正しさは疑うべくもなく、少なくとも頭数において十分な搭乗員が確保されて以降は、航空隊全体の練度向上も急速だった。勿論、太陽危機やディンギル戦役においても少なくない搭乗員が喪われていたが、それでも定数以上の搭乗員が余裕をもって確保されていたことが有効に機能し、こと航空隊に限っては両戦役後も比較的良好な状態が維持されていた
 その証拠に、ディンギル戦役以降、戦艦部隊に搭載された戦闘機隊(実質的には戦闘攻撃機隊)ですら、長駆しての制空権獲得任務や対艦攻撃任務が限定的ながら実施可能な部隊練度を有するようになっており、規模・練度共にガトランティス戦役直後の航空隊とは別次元の存在にまで成長していた。
 だが、搭乗員の面では今や質・量共に第一級戦力に成長した航空隊にも、未だ逃れられぬ“呪縛”があった。2201年以来、主力機材として運用を続けているCTⅡ系列機のペイロード不足である。
 タキオンエンジンの換装を含む度重なる改良により、CTⅡ系の機体性能はガトランティス戦役時の主力だった初期生産型(一一型)と比べれば隔世の感すら抱くほどに進化していた。しかし、機体寸法に起因する対艦攻撃兵装のサイズ的制約と、それに直結した威力不足ばかりは、如何ともし難かった。
 勿論、当時の航空隊の急速な陣容強化は、配備・運用機種をCTⅡ系一本に統一したことで成し遂げられたものであり、仮に大威力兵器を搭載可能な大型攻撃機などの機種を多種多様に開発・配備していた場合、度重なる戦役の混乱も相まって、未だ航空隊は深刻な機材と人員不足に悩まされていたであろうことは想像に難くなかった。
 ある意味、こうした状況は、人員機材の確保と育成を最優先事項としたこれまでの地球防衛軍の航空隊編成方針を維持している限り必然であり、その限界でもあった。航空隊自身もその点は重々承知しており、限りなく単能化された集団から、本来航空隊が有しているべき多能性と柔軟性に満ちた存在へと昇華すべき時だという声が、部内のみならず部外からも高まっていた。
 もちろん、航空隊とは対照的に度重なる戦乱によって艦艇と人員を消耗し続けている地球防衛艦隊の状況を思えば、航空隊の全面的なドクトリン刷新や陣容強化は、特に予算面で大きな困難が予想された。しかし、ディンギル戦役後の防衛軍内部で最も高い練度と分厚い陣容を有するのが航空隊である以上、その有効活用は組織論的にみても十分な説得力を持っていた。
 その結果、航空隊関連予算は2207年以降大幅に拡大され、技術部門の総本山とも言うべき航空本部の陣容も著しく強化された。そして、満を持してスタートした各種新型機開発計画の中で特に注目を浴びたのが、“ポスト・CTⅡ”とも言うべき『次期主力戦闘攻撃機(FA-X)』計画と、地球防衛軍初のカテゴリーとなる『大型攻撃機(A-X)』計画であった。前者は、これまでの航空隊方針からの決別を告げる象徴的な開発計画と捉えられ、後者は長年の懸案であった攻撃力不足を解消する決定打と考えられていた。
 だが、これらの計画は、スタートから一年も経ずに大幅な見直しを強いられることになる。2208年末、画期的な空対艦誘導弾用弾頭――通称『波動融合弾』と呼ばれる大威力弾頭が開発されたからだ。



 波動融合弾――2230年現在、地球防衛艦隊が主要装備として運用している実体弾頭の中では『波動カートリッジ弾』と双璧を為す存在であり、名称が近いこともあって混同されることも多いが、兵器体系的には別種の存在である。
 波動カートリッジ弾とは、空間磁力メッキを施した弾頭内に波動エネルギーを充填し、それを爆縮させることで波動砲と同種の大規模空間歪曲現象を局所的に発生させる兵器である。充填されるエネルギー量は戦艦級大型波動砲の1/100程度であり、威力係数もほぼそれに比例する。しかし、弾頭の起爆には波動エネルギーの最小臨界量以上のエネルギー量が必要であることから、一定以上の弾頭容量が必要であり、ショックカノン用であれば一六インチ以上、宇宙魚雷用でも同程度の容量を持つ大型弾頭でなければ成立要件を満たすことは不可能であった。
 波動カートリッジ弾実用化当初、本弾頭を空対艦誘導弾用弾頭に発展させる構想が持ち上がり、その実用化には航空隊関係者から大きな期待が寄せられた。だが、主砲弾や宇宙魚雷用と比べて遥かに小型・小容積の空対艦誘導弾の弾頭に、最小臨界量を超える波動エネルギーを充填することができず、開発はあえなく頓挫してしまう。
 しかしその後、デザリアム戦役において二重銀河を全面崩壊に導く一因となった、波動エネルギーに強い反応を示す星間物質――波動融合物質(通称:D物質)――の研究が進み、限定的ながら波動融合反応のコントロールが可能になったことから、停滞していた大威力弾頭の開発は一気に進捗した。
 具体的には弾頭を、波動エネルギーを充填した第一弾頭とD物質を充填した第二弾頭で構成される二重弾頭とし、命中と同時に第二弾頭が第一弾頭へ激突、任意に波動融合反応を発生させるのである(この弾頭構造は、ディンギル戦役において地球防衛艦隊を苦しめた“ハイパー放射ミサイル”の弾頭構造を参考にしたとも言われている)。
 波動融合反応における両物質の最小反応量は、波動エネルギー単独での最小臨界量と比べて遥かに少量であり、それ故に弾頭の小型化・小容量化が容易であった。事実、波動融合弾頭を実装すべく新規開発された『仮称(特)九式空対艦誘導弾』は、サイズと重量共にフェーベ沖会戦時の主力誘導弾『一式空対艦誘導弾』とほぼ同等であり、最新型のCTⅡであれば、最大四発の搭載が可能であった。
 四発同時命中時の威力係数は、一六インチショックカノン用波動カートリッジ弾一発の威力に相当するとされ、一個航空隊全力攻撃時(一八機)の威力は(あくまで算術上であるが)一六インチ砲搭載戦艦の波動カートリッジ弾射撃二斉発分にまで達した。
 この威力は、既存の航空隊の攻撃力を一挙に数十倍化させるものであり、全ての航空隊関係者を狂喜させたと言われている。
 しかし、当時の波動融合物質――D物質はウェポン・システムとして用いるには未だ不安定な部分を多々残しており、一夜にして地球防衛軍の航空機用兵備の全てを書き換えてしまうまでの存在にはなり得なかった。寧ろ、開発以後の完成と普及に至る道筋は辛苦多難の連続だった。

 最初にして最大の苦難は、(特)九式誘導弾の運用試験中に発生した。試験艦に指定されたローマ級主力戦艦“メイン”でD物質が引火・誘爆し、一瞬で爆沈するという大惨事が発生したのである。爆発の規模は凄まじく、試験データ採取の為に随伴していた戦闘巡洋艦までもが巻き添えの形で中破したほどだった。



 事故の原因は、実弾運用試験の為に格納庫に仮設されたD物質精製/充填装置からのリークと考えられた。
 D物質は非常に劣化しやすい性質を持ち、物質を弾頭に充填したまま長期保管することは、当時の技術では不可能であった。故に、使用時に初めて、精製されたばかりの『新鮮な』D物質を弾頭に充填しなければならなかった。
 その解決策として、D物質の精製/充填装置が“メイン”艦内に設置された訳だが、様々な形で波動エネルギーを常用している地球艦艇では、常に誘爆のリスクと隣り合わせの、あまりに危険なウェポン・システムと言えた。
 事後調査の結果、“メイン”の爆沈は、D物質充填時の安全対策の不備によって発生した“事故”と判定された。しかし、平時ですら安全確保が困難なシステムを戦時に、しかも被弾や損傷が当たり前の戦艦や巡洋艦に搭載する是非については、事故調査委員会からも強い指摘と問題提議が為された。
 最新鋭主力戦艦とその全乗員を一挙に失うという甚大な犠牲、そして事故調査会における糾弾から、波動融合弾は、一時は開発継続すら危ぶまれた。しかし、航空隊関係者の努力と融合弾の将来性に着目する防衛軍首脳部の理解により、辛うじて開発中止という最悪の事態だけは免れることができた。
 しかし、誘爆事故の影響はあまりにも大きく、艦の構造上、波動エネルギーと融合物質の完全な隔離が難しい中小艦艇は勿論、空間打撃戦を主任務とする大型艦艇(戦艦・戦闘巡洋艦)への融合弾配備まで断念せざるを得なかった。つまり、波動融合弾の搭載はアマギ級唯一の生き残りである“グローリアス”とキエフ級以降の戦闘空母群に限定されてしまったのである。
 だが、この決定に対し、最悪、開発の中止すら覚悟していた航空隊関係者は、寧ろ強く安堵したと言われている。彼らにとっても、主力戦艦一隻とその全乗員の犠牲は、それほどの重みがあったのだ。

 波動融合弾の配備により、地球防衛艦隊戦闘空母群の対艦攻撃力は、事実上一挙に数十倍化した。しかし、融合弾配備による影響はそれだけに止まらなかった。
 空母群の攻撃力向上は、即ち現行主力艦載機であるCTⅡの攻撃力向上に他ならず、開発がスタートしたばかりの新型機の必要性が著しく低下してしまったからだ。その結果、『大型攻撃機』計画は開発中止とされ、『次期主力戦闘攻撃機』計画も人員・予算が削減、開発ペースが大幅に落された。削減された予算は次年度以降、空母建造予算に充てられており、ここからも地球防衛軍の方針変更が見て取れる。
 空母群の増勢は、航空隊と母艦を“攻撃戦力”として評価するに至った防衛軍の変化が最も顕著に現れた結果であり、以後かなりの期間継続されることになる。更に、こうした評価の変化は母艦群の戦略価値の変化に他ならず、以後の地球防衛艦隊の艦隊編成と空母設計にすら影響を及ぼした。
 従来、地球防衛艦隊における空母運用は、一~二隻の空母に一個駆逐隊(三~四隻)程度の護衛戦力を付属させた“巡航空母戦隊”を基本単位としていた。戦艦に比べて建造優先順位に劣る各種空母は、建造隻数が少数であったこともあり、独立戦隊として束ねられ、必要に応じ各艦隊に派遣されるという編成方針が採られていたのである。
 派遣された空母戦隊の任務は、直掩と偵察に集約できた。ここでの直掩は敵の航空攻撃に対するエアカヴァーのみならず、艦隊戦闘時の近接攻撃支援も含まれる。しかし、これらの任務はあくまでも“支援”であり、攻撃戦力の中核を担うのは同じ艦隊内の戦艦や宙雷戦隊であった。また、偵察についても前路哨戒と共に弾着観測が同様の理由で重視されていた。
 こうした編成と運用は、洋上戦力として航空母艦の優越が証明される第二次世界大戦開戦前夜の、各国海軍の艦隊編成にも似ていた。
 二〇世紀の中盤まで、世界の海軍では戦艦部隊が質・量共に主力を占め、相対的に少数の空母部隊は搭載機の攻撃力の小ささもあって漸減・補助戦力として扱われていた。しかし空母が、搭載機と兵装の進化によって旧来からの海洋の女王――戦艦を撃沈可能なまでの攻撃力を有するようになり、それが現実の海戦で証明されると、その価値は激変した。元より有していた高い機動力、柔軟性と集中性に、他を圧倒する攻撃力が加わったことで、海洋における最強・至高の地位にまで一気に登りつめたのである。
 二百年以上の刻を経て、宇宙空間で起きた事象は一見するとその焼き直しにも見えたが、正確には異なる。
 確かに、波動融合弾配備によって劇的なまでの攻撃力向上を果たした空母は、常に艦隊の中心にあって、厳重に守護されるべき高価値対象(HVU)となった。だが、地球防衛艦隊においては未だ各種波動砲搭載戦艦が主力の立場を維持し、投入される防衛予算・人員もそれを裏付けていた。現実的に見て、空母はそれに準じる立場に過ぎないのが実情だったのだ。
 しかし、高い攻撃力の代償に、艦内に危険極まりない波動融合物質を搭載したことで付随的に発生した空母の極端な脆弱化が、こと艦隊運用においては空母に最も高い防護価値を与えるという皮肉な結果を与えてしまったのである。それは同時に地球防衛艦隊の“戦闘空母神話”の終焉をも意味した。



 充分な護衛艦に厳重に防御され、自ら行う直接砲雷撃戦は誘爆リスクの点から実質的に不可能となったことを思えば、それも当然だった。ならば、建造コストを高騰させるだけでなく、空母にとって何より重要な艦載能力を低下させることになる波動砲やショックカノン等の砲雷装備は全く不要であるという結論は容易に導き出された。
 幸い、この頃にはガミラス戦役後からガトランティス戦役勃発前の、極端な波動砲絶対信仰も大きく緩和されており、“非・戦闘空母”――本格空母建造に対する抵抗は殆どなかった。

 劇的な攻撃力向上を果たした空母群、そしてその周囲を固める分厚い陣容の護衛艦隊――新たに完成した地球防衛艦隊の戦闘単位『空母任務群』は、長年航空隊関係者が夢にまで見た“空母機動部隊”に他ならなかった。
 2210年、地球防衛艦隊は既存の戦闘空母で四つの空母任務群を編制し、更に2220年までに二個群の追加編成まで計画していた。この追加二個群用に建造されたのが、前述した地球防衛艦隊初の本格空母『ベアルン級宇宙空母』である。
 各空母任務群は中核である二隻の戦闘空母と護衛艦艇約二〇隻で構成される。一個任務群による全力攻撃時には、最大一〇〇機のCTⅡが波動融合弾頭装着対艦ミサイルを各四発抱えて出撃し、その威力係数は大型戦艦の波動砲射撃にも匹敵した。しかも、その威力投射を非常に柔軟性の高い戦力である航空機が担っている為、戦場における実際の威力は、面制圧効果の高い拡散波動砲に比べても数倍化すると評された。これは、発射後は射線が固定される波動砲と比べて、個別の航空機から任意ターゲットに向けて発射されるミサイルの方が、遥かに威力ロス(無駄撃ち)が少ない為だ。
 地球連邦を仮想敵国第二位(一位は言うまでもない)としているボラー連合軍(旧・ボラー連邦軍)も、地球防衛艦隊が新たに手にした長槍――空母任務群の動向を常に注視しており、これに対抗する形でボラー初の空母機動部隊の編制を開始した。
 また、天の川銀河のもう一方の雄――ガルマン・ガミラス帝国も地球の空母任務群に注目していた。但し、既に多数の空母機動部隊を保有し、積極的に活用していた彼らの興味の対象は、戦闘空母や波動融合弾といったハードウェアよりもソフトウェア――用兵思想の方であったとされる。
 地球人たちが波動エンジン実用化後一〇年近くをかけてようやく完成させた空母機動部隊が、従来のドクトリン(防空と近接支援)に対する反動故か、極端なまでに対艦攻撃能力を偏重した“決戦戦力”に仕立てられていたからだ。
 ガルマン・ガミラス帝国軍空母機動部隊も、規模の巨大さ故、相応の攻撃能力を持ち合わせていたが、寧ろあらゆる戦術状況に対応可能な汎用性こそが重視されていた。各任務に特化した豊富な専用機種のラインナップこそ、その象徴と言えるだろう。新編されたボラー連合の空母機動部隊にしても、規模や戦闘能力こそ異なるが、基本的なドクトリンはガルマン・ガミラスとほぼ同様であり、巨大星間国家が空母部隊に求める本質が共通することを示している。



 もちろん、未だ単一星系国家に過ぎなかった当時の地球に、二大国のような巨大な空母部隊や広範な機種ラインナップの整備は国力的に不可能であり、汎用性を犠牲にしてでも短期迎撃戦における瞬間的な破壊力と、平時における抑止効果を重視した空母部隊の建設に踏み切ったことは一つの見識であったと言える。しかしその代償として、地球防衛軍の空母機動部隊は2230年に至るも、攻撃力一辺倒のタクティカル・ドクトリンから未だ脱皮することができていないのもまた事実である。
 波動融合弾の配備によって開発計画がスローダウンした次期戦闘攻撃機“FA-X”は一八式宇宙艦上戦闘攻撃機“コスモ・パルサー”として2218年にようやく完成、配備が開始された。本機はコスモ・タイガーⅡのコンセプトを手堅く受け継いだマルチロール・ファイターであり、装備換装による汎用性は先代機以上と高く評価されている。また、機体規模もCTⅡ譲りのコンパクトさを維持しており、更に主翼の折り畳み機構などの格納効率向上に向けた取り組みも徹底されていた。
 しかし、そのコスモ・パルサーの高性能が、他の専用用途機の開発を実質的に阻害している点もまたCTⅡと同様であった。そして、どれほど汎用性に優れていようとも、用途に特化して開発された専用機には性能面で敵う訳もなく、その点で地球防衛艦隊の保有する空母は次なる進化への段階、本来あるべき空母の姿には未だ至っていないとされる。
 そしてその姿こそ、『護衛空母』『攻撃空母』の先にある『多目的(汎用)空母』であり、その進化形の整備と保有こそが、規模の拡大にも係らず未だ星系内防護艦隊の色合いを拭い切れない地球防衛艦隊が、真の外宇宙艦隊へと脱皮したことを証明する何よりの試金石になると主張する研究者は数多い。


――おわり――



さて、gooブログへ引っ越し後初の妄想設定となりますが、如何だったでしょうか?
実は昔からヤマト世界の航空機用機関は謎に思っていました。
今回の妄想で、ようやくそれに一区切りすることができまして、実は個人的な満足度は極めて高かったりします(^o^)

ちなみに、妄想を書き上げるにあたり、頭を悩ましたのは、以下二つの事象です。

 (1)波動機関搭載艦と同一の速度領域で戦闘行動が可能。
 (2)ヤマト発進前に既に量産機が実戦配備済み。

他にも色々とありますが、筆頭はやはりこの二つでしょう。
これが昨今の『2199』であれば、航空機は星系内速度で航行中の状態でしか運用できない兵器として割り切ってしまってもいい気がしますし、正直言ってその方が現実的だと思います。
でも、ウチは外宇宙も星系内も関係なしにコスモ・タイガーやコスモ・ゼロが元気に飛び回るオリジナル版準拠の世界観なので、外宇宙航行時であっても戦闘可能なように設定を都合よく弄り回しました(笑)
本来は、宇宙空母の前編や中編を書く前にこれを書かないといけなかったのですが、当時は頭の中で妄想が整理し切れず、結果的に航空機用機関については確たる考えを整理しないまま(あまりそれには触れないようにw)宇宙空母の設定妄想を書き始めてしまったのです(^_^;)
その結果、今回の設定妄想と宇宙空母の前編に書いた内容に矛盾が生じてしまったので、後日宇宙空母の方を修正する予定です。
その後で、やっとこさ宇宙空母の後編に取り掛かります。

ちなみに、文中で計画中止になった『大型攻撃機(A-X)』はPS2ゲームに登場した『中距離ミサイル爆撃機』をイメージしています。
ゲームをやり込んでいた当時から、この機体はデザインも機能も、オーパーツとしか思えなかったので、そういう扱いになりました(^_^;)
設定資料集のデザイン画を見ると、無茶苦茶カッコいいんですけどねぇ・・・・・・。
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『我が家』におけるヤマト世界艦艇の戦闘能力を指数化してみる

2013-10-25 13:01:37 | 地球防衛艦隊2199
現在、アキヅキ級宇宙駆逐艦の妄想設定後編を書いているところですが、ふと思いついて地球防衛艦隊艦艇の戦闘能力を指数化してみることにしました。
対象艦艇は以下の通りです(既に艦艇設定を書いた/書いている途中の艦はリンクを貼っています)。

 ・ヤマト型宇宙戦艦(建造時)
 ・ヤマト級宇宙戦艦(改装後)
 ・アルジェリー級宇宙巡洋艦
 ・ボロディノ級主力戦艦
 ・ボロディノ級主力戦艦(改装後)
 ・アンドロメダ級戦略指揮戦艦
 ・アンドロメダ級戦略指揮戦艦(改装後)
 ・アリゾナ級護衛戦艦
 ・プリンス・オブ・ウェールズ(POW)級護衛戦艦
 ・ビスマルク級護衛戦艦
 ・ノーウィック級護衛戦艦
 ・ユウバリ級護衛巡洋艦
 ・ローマ級主力戦艦
 ・アムステルダム級戦闘巡洋艦
 ・アキヅキ級宇宙駆逐艦

尚、戦闘能力を指数化するにあたっては、以下の要素は考慮外としました。

 ・波動砲
 ・搭載航空機
 ・各種キャラ補正(w)

あくまでカタログスペックの面からの、空間砲雷撃戦能力の数値化です。
より広義での『戦力価値』ではなく、あくまで『殴り合いでの強さ』を狭義的に数値化したということで御理解いただければと思います。
ちなみに『戦力価値』を数値化すると、スーパーチャージャーの有無で同じ規模・戦闘力の艦でも数値に数倍の差が生じてしまいます(^_^;)
尚、これから記す各数値は公式設定に基くものではなく、私の頭の中の箱庭世界でのみ成立しているものですのでくれぐれも御注意下さいませ(笑)
本当は無人艦隊大型艦と小型艦もこの中に加えたいところだったのですが、この二隻については、まだ頭の中でも設定がまとまっていないので、今回は割愛しました。
さてさて、まずは建造順に各艦の数値を並べてみましょう。



そして数値の大きい順に並べ替えたものです。



“改装後”とあるのは、『永遠に』でヤマトが受けた大規模近代改装と同レベルの改装を施された状態を想定しています。
この“改装”における重要要素は以下の二つですね。

 ・波動機関へのスーパーチャージャー(以降SCと表記)増設
 ・主砲エネルギーのカートリッジ化(波動カートリッジ使用可)

いずれの要素も、艦艇の攻防性能を大きく底上げすることになるでしょう。
波動カートリッジ弾が使用可能になる主砲のカートリッジ化は特に説明不要と思いますが、スーパーチャージャーも一種の機関出力アップ(厳密には違いますがw)ですので、ショックカノンの威力・射撃速度の向上やエネルギーシールドの出力アップに繋がります。
ボロディノ級にしてもアンドロメダ級にしても、Ⅲや完結編、それ以降の時代まで生き残った艦は、戦力価値を高める為にこうした改装が施される可能性は高いと思います。
本改装による戦闘能力値のアップは約25%としました。
ちなみに、ヤマトはボロディノ級二隻分、アンドロメダ級はヤマト二隻分の戦闘能力を持つことにしています。
本当は主砲口径が一ランク違えば、差はもっと大きくなるのが妥当と思いますが、それだと全体バランスが破綻してしまったので(ヲ)、今回は二倍差を採用しました。
あ、重ねて申し上げますが、主人公補正や“技師長”補正、“鬼竜”補正はありませんのでw
護衛戦艦の主砲は全て就役時からカートリッジ対応されていますが、就役時からSCまで搭載しているのはアリゾナ級のみです(ついでに言えば、ユウバリ級護衛巡洋艦も就役時からSCを搭載しています)。
SCを搭載した第三世代波動エンジンは当時の最先端技術ですので、地球防衛軍艦政本部を除き、宇宙艦艇建造における技術先進国である米国と日本国のみで実用化されているとしました。
他のPOWやビス、ノーウィックは就役時SC未搭載ですが、何年後かにはSC技術が普及することで、搭載改装が施されることになるでしょうね。
その場合、それぞれの戦闘能力指数は10%程度アップすることになります。
ボロディノ級並みの戦闘能力(+長期航宙能力)を安価に達成することを目的としたPOW級はともかく、ビスマルクやノーウィックは明らかにヤマトを意識して建造されますので、数値はヤマトに非常に近くなります。
ただ、SC技術を確立していないことが祟り、その能力は建造時のヤマト並み、改装後のヤマト以下という微妙な位置づけになります。
やはり各国護衛戦艦の中ではアリゾナ級がブッチ切りに強力ですw
何しろ『我が家』世界のアリゾナはアンドロメダ級と同じ波動エンジンを搭載している上に、SC搭載と主砲カートリッジ化まで果たしていますから。
でも、ギリギリで改装前のアンドロメダ級に及びません。
やはり、『星系間護衛艦艇調達助成制度』の縛りにより主砲を一六インチに抑えられたのが大きく響いています。
いかに収束率を増した新型砲を多数装備し、機関出力にモノを言わせた速射性能がずば抜けていても、所詮は一六インチです。
アンドロメダ級の膨大な出力を誇る大型波動機関を活かし切れていないということです。
仮にアリゾナがアンドロメダと同じ二〇インチショックカノンを連装五基とかで装備していたら、数値は大きく逆転し、改装後のアンドロメダとほぼ同等になっていたでしょうね。
最後の完結編の三艦級は、就役時から全てSCを搭載し、主砲もカートリッジ対応済みなので、どれも戦力指数は非常に高いです。
ヤマトという波動エンジン搭載艦艇の黎明期があり、『さらば/2』の普及期、『永遠に』『Ⅲ』の熟成・発展期を経ているだけに、完成度は非常に高い・・・・・・筈なんですけどねぇ(笑)

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続・地球防衛艦隊2199 後編

2012-08-19 13:49:19 | 地球防衛艦隊2199
【続・地球防衛艦隊2199 後編】



 五月三日、地球軌道上で集結を完了した地球船団“ミッキーマウスII”は、一路タイタンへ向けての航宙を開始した。
 船団隊列は、最前方にピケット艦(前路哨戒艦)として改カゲロウ型一隻を配し、他の同型艦五隻が四隻の輸送船の直衛(直接護衛隊)、一一戦隊は更にその後方を不揃いな陣形で追随していた(間接護衛隊)。




 一一戦隊各艦は航宙の間、頻繁に小刻みな軌道修正を繰り返し、しかも僅かずつ船団本体から遅れ始めた。木星軌道を過ぎる頃にはその傾向は一層顕著となり、がっちりと密集隊形を取っていた“ミッキーマウスI”船団とは対照的に、“ミッキーマウスII”船団の隊列は前後に長く伸びていた。
 ようやく特設指揮艦から隊列修正の命令が下り、ピケット艦が速力を落そうとした時――“彼ら”は突如として現れた。

 その第一撃は、凄まじいばかりのバレージジャミングだった。ピケット艦、特設指揮艦共に、全レーダーが完全にホワイトアウト、懸命な対抗措置――ECCMも全く効果が無かった。
 しかし、船団に向けられた悪意と害意はまだ序の口だった。ガミラス軍フェーザー砲にのみ許された力強いオレンジ色の光芒が、直前までピケット艦が存在していた虚空を薙ぎ払ったからだ。
 幸いピケット艦“アウダーチェ”は事前の取り決めに従い、ジャミング感知と同時に緊急回避機動(あまりに突然且つ急激であった為、艦内負傷者すら出した)を取っていた為、一先ず虎口を脱することができた。しかしその背後を、フェーザー砲を連射しながら一隻のミザイラー級が喰らいつき、そのまま二隻はまるでドッグファイトのような機動戦に突入する。
 そして、前衛を排除された船団本隊にも危機が迫っていた。
 熱感探査と僚艦からの通報によって、本隊に迫る艦影が確認されていたのである。“熱紋”解析によって判明した敵艦級はミザイラー級二隻、クルーザー級一隻、そして最も恐るべき――デストロイヤー級戦闘艦一隻であった。



 デストロイヤー級戦闘艦は地球防衛艦隊にとって、常に恐怖の象徴だった。より巨大且つ強力な旗艦級戦闘艦も存在が知られていたが、こちらは滅多に戦場に姿を現すことはなく、しかも大抵は戦場後方に位置し、戦闘正面にまで出てくることは殆どなかった。
 しかし、デストロイヤー級は違った。一〇隻を超えるような艦隊であれば必ず一隻以上が含まれていたし、砲撃力・防御力も他級より高いことから積極的に戦闘前面に押し出してきた。
 “デストロイヤー”というあまりに直截的過ぎるネーミングこそが、人類、いや、地球防衛艦隊が本級に対して抱いた恐怖を最も切実に表した結果なのかもしれない。
 本級最大の恐怖は、他級とは異なり、地球防衛艦隊が誇る宇宙魚雷でも“一発”では撃沈することができなかったことだ。 『命中には、天文学的確率を乗り越えられるだけの幸運が必要』とまで言われる宇宙魚雷一発では撃沈できない――言いかえると、撃沈はほぼ不可能ということになる。事実、地球防衛艦隊が長いガミラス戦役の中で本級を撃沈できたのは僅か一度、『“静かの海”直上会戦』において、ガミラス艦隊の混乱に乗じる形で放たれた宇宙魚雷が二本同時に命中した際のみであった。

 デストロイヤー級戦闘艦が存在する――地球船団全体に強い戦慄が走った。それは彼らにとって、本作戦前に無数に想定した戦術状況の中でも最悪の事態だったからだ。
 ガミラス残存艦隊にデストロイヤー級が含まれているか否かは、ヤマトが太陽系を旅立った後の地球防衛艦隊にとり最大の関心事であり、最優先確認事項とされていた。しかし――存在ヲ確定スル兆候無シ。サレド最悪一隻ヲ含ム可能性ハ否定デキズ――という不確か極まりない判断しか得られていなかった。
 その“最悪”が、今や現実の存在となって地球船団に牙を剥こうとしていた。
 しかも、船団隊列が伸び切った瞬間を狙い澄ましたような奇襲、電子戦による索敵装置の無効化、前衛(ピケット艦)の排除、間髪入れない本隊強襲――腹立たしいほど堅実で、それ故に隙のない戦術構成。間違いなく、目前のガミラス軍は“本気”だった。
 ピケット艦を追尾中の一隻を除く四隻のガミラス艦は、早くも船団本隊に対する砲撃を開始していた。地球艦のそれに比べて圧倒的に長射程のガミラス軍フェーザー砲であっても未だ有効射程圏外であり、完全な牽制砲撃だった。その目的が、地球駆逐隊の宙雷突撃阻止であるのは言うまでもなく、実際に駆逐隊は船団本隊に釘付けにされていた。
 突撃動作に入るには、さすがにガミラス艦隊との間合いが遠過ぎた。今この瞬間に突撃を開始しても、敵の有効射程内に飛び込んだ瞬間、狙い撃ちにされるのがオチであり、駆逐隊としては、ビーム擾乱剤を封入したロケット弾を船団周囲に間断なく放ちながら、突撃のタイミングとチャンスをひたすら待つしかなかった。
 当然、ガミラス艦隊も事態を十分に承知していた。彼らの接近は急速であったが、慎重さまでは失っていなかった。その艦隊進路は船団に対して反航しつつも、絶妙な半弦曲線を描いていたからだ。それは、自艦の有効射程までは急ぐが、地球艦に“短剣”を振るわせてやるほどには決して深入りしないというガミラス艦隊指揮官の意思の表れでもあった。




 後に、この瞬間こそが“ミッキーマウスII”最大の危機であったとされる。
 前衛を務めたピケット艦は未だミザイラー級に追い回されており、完全に戦力外。本隊直衛の駆逐隊は遠距離からの牽制射撃で自慢の脚を封じられ、“本命”であるはずの第一一戦隊はこの時、船団後方からようやく速度を上げ始めたところであった。
 地球艦艇が唯一ガミラス艦に打撃を与え得る宇宙魚雷の特性と射程を考えれば、この瞬間の地球艦隊は完全に分断され、各個撃破される脆弱な対象でしかなかった――あくまでガミラス側の視点では。
 ガミラス艦隊はクルーザー級のフェーザー砲有効射程に船団を捉えたところで、速度を二〇宇宙ノットに落とした。最低限度の即応性を維持しつつ、腰を据えた砲撃戦を行うには最適な速力だ。未だ船団を有効射程に捉えていない二隻のミザイラー級は周囲に漂わせておくしかないが、唯一の脅威である敵駆逐隊の突出に対する牽制と備えであると考えれば、決して遊兵ではない。
 この時、船団後方から(ガミラス艦隊にとっては正面から)第一一戦隊がようやく脅威対象と認識される距離に達しつつあったが、その距離は未だ船団本隊よりも遥かに遠く、ガミラス軍フェーザー砲の(もちろん、より短射程の地球側艦砲・宇宙魚雷にとっても)完全な射程圏外だった。それこそ、彼らの本拠地と親部隊である太陽系侵攻艦隊を殲滅した“謎の地球戦艦”でもなければ、何ほどの脅威にもならない距離だった。
 それに現在は最大出力でジャミングを実施中。もちろん熱感知などのパッシブ観測は可能だが、地球艦が精密射撃を行うには必須のアクティブな電波兵器に関しては、完全に耳目を奪っている。
 接近中の艦が過去データにない“新型艦”であることは、地球船団が木星圏に至るまでの偵察活動とその後の分析で判明していた。しかし、艦の規模は既存の“短剣の使い手”突撃駆逐艦をやや大きくした程度であり、“謎の地球戦艦”のような異常に強力な砲装備を有しているとはとても考えられなかった。また、航宙過程における新型艦の挙動が明らかな訓練不足、もしくは機械故障を感じさせる安定を欠いたものであったことも、彼らの軽視を一層助長していた。
 その結果、一一戦隊の現時点における脅威度評価は突撃駆逐艦程度とされ、少なくともこの時点では無視されていたのも同然だった。
 しかしその“無視”を、第一一戦隊は強烈極まりない“自己主張”で吹き飛ばすことになる。
 最初の兆候は極めてささやかなものだった。デストロイヤー級の逆探知装置が捉えた敵性エネルギー波の感知情報。しかし、それは電波ではなかった。極めて指向性の強いタキオン波、ガミラス軍の基準でも充分な精度で射撃管制が行えるであろうほどの――。
 次の瞬間、真正面からするすると伸びてきた野太く青白い光芒が、ガミラス艦隊を掠めて後方へと飛び去っていった。それも、拡散限界に達して消滅寸前のような弱々しい光などではなく、触れた瞬間、問答無用にエネルギー流に呑み込まれてしまいそうな獰猛極まりない蒼光の奔流。それが四本、内一本は光弾がうねるような螺旋を描いており、直径も最大だった。
 幸い、“蒼い光弾”は一本たりとて命中コースを辿っておらず、ガミラス艦隊に実害はなかった。しかし、それがもたらした衝撃はあまりに鮮烈だった。
 彼らは冥王星から脱出したガミラス艦艇の僅かな生き残りであり、“謎の地球戦艦”の放つ主砲射撃をその目で目撃していたからだ。今、彼らに向けられているのが、まさに“それ”であり、これを喰ったガミラス艦は、クルーザー級であれデストロイヤー級であれ、一撃で爆沈しかねないことを彼らは“知って”いた。
 しかも、地球人たちは“タキオン・レーダー”まで実用化し、それを射撃管制用レーダーとして用いている。
 ガミラス艦隊の判断に誤りはなかった。今、彼らに対して放たれている蒼い火矢は、“謎の地球戦艦”と同種・同径のエネルギー兵器だった。




 一八インチ・ショックカノン――地球防衛艦隊が新たに手に入れた火矢はそう呼ばれていた。第一一戦隊を構成する四隻のハント型フリゲートは、この砲を二門並列に“元”波動砲口内に設置、艦首軸線砲として運用していた。
 宇宙戦艦ヤマトの主砲と全く同径ながら、軸線砲という特徴を活かしてヤマト以上の砲身長を誇り、威力・射程共にヤマトのそれすら上回る。当然、その有効射程は本会戦におけるガミラス艦艇中最大のデストロイヤー級フェーザー砲の二倍以上であり、現在の状況は完全な“アウトレンジ”だった。
 また、ここまでの航宙では、その存在を気取らせない為に、一度も“火を入れなかった”タキオン・レーダーも今や全力で稼働、精度の高い敵性情報を射撃管制システムにリアルタイムで送り続けていた。ガミラス艦隊のジャミングはあくまで電波や電磁波に対してのものであり、タキオン・レーダーまでは考慮されておらず、少なくとも現時点では一一戦隊の射撃管制に全く影響を与えていなかった(そして、射撃管制用の指向性の強い高出力タキオン波は、その性質上、ガミラス軍でさえ妨害困難であった)。

 しかし、ガミラス艦隊に“ミッキーマウスI”時のような恐慌は発生しなかった。寧ろ、戦意を掻き立てられたように全艦が一斉に速力を上げた。デストロイヤー級は最大戦術速度である三〇宇宙ノットで第一一戦隊への接近軌道を取り、単縦陣を組んだクルーザー級とミザイラー級は三五宇宙ノットで先行、適宜ランダム回避を織り交ぜつつ、一一戦隊への距離を急速に詰め始めた。




 ガミラス艦隊が本会戦で示した各種の戦術判断や艦隊運動は、彼らの士気と練度の高さを窺わせるに十分なもので、第一一戦隊を指揮していた土方竜提督をして、“あいつらなら、俺の下でもやっていけるぞ”と会戦中に呟かせたほどだった(戦隊砲術参謀の回想)。
 これに対し、一一戦隊の砲撃には、後の“太陽系外縁会戦”で魅せるような鮮やかさはどこにもなく、その第一〇射まで、一発たりとてガミラス艦を捉えることはできなかった。しかも、並列二門を一斉に放つ“斉発射撃”を行っていた三番艦『エクスモア』は、本型最大の欠点である小さな艦サイズに起因する蓄熱容量の限界に達し、早くも砲撃停止を余儀なくされてしまう。他の三艦は、並列二門を交互に放つ“交互射撃”であった為、未だ砲撃戦の継続が可能であったが、タイムリミットが近づいているという事実に変わりはなかった(三番艦の斉発射撃は艦独自の判断ではなく、斉発と交互、それぞれの砲撃効果を比較する為、戦隊命令にて実施されていた)
 それは明らかな練度・錬成不足がもたらした結果であったが、決してそれだけでもなかった。戦隊には、遠距離精密砲撃に不可欠な各種データが圧倒的に不足していたからだ。
 この時まで、一一戦隊は満足な一八インチ・ショックカノンの“実”砲撃訓練を行っていなかった。ガミラス軍からその存在を秘匿する為、砲撃は地球大気圏“内”から無人の地表に向かって僅か数度行われたのみであり(しかも最低出力で)、全力砲撃、それも戦隊全力の砲撃など、これが完全に初めてであった。
 訓練制限は、確かにガミラス軍にショックカノンの存在を悟らせなかったという意味では非常に効果的であったが、こと砲撃効果に関しては完全に逆効果であった。一一戦隊は連続砲撃によって発生する“熱”による照準への影響、その照準修正データすら満足に準備できないまま、この超遠距離砲撃戦を継続していたからである。
 しかし、彼らにも意地があった。艦への習熟度はともかく、基本技量に関しても、できるだけ多くのヴェテランを選抜したメンバーだけに、十分以上のものを有していた。
 故に――ガミラス艦隊の先陣を切るクルーザー級が一一戦隊を搭載フェーザー砲の有効射程に捉える直前、その第一一射が遂に有効弾となった。
 記念すべきハント型フリゲート初の命中弾は四番艦『キリサメ』が達成、クルーザー級の艦首を直撃したショックカノンは、命中部周辺を大きくひしゃげさせつつ艦内へ浸透を継続、そのまま一気に艦尾までを刺し貫いた。そして次の瞬間、蒼い光芒に串刺しにされたクルーザー級は内側から無残に弾け飛んでいた――爆沈、である。
 まさに“剛槍”一閃、しかし命中の瞬間を目撃した『キリサメ』艦橋内に歓声は上がらなかった。むしろ半ば呆然と、自らが達成した眼前の光景に魅入られていた。
 その光景は、彼らにとって八年間越しの願望であり、胸を削られるような切望であり、血を吐くような渇望の筈だった。いや、“半ば以上諦めていた”という点に於いては、最早“夢”や“幻”という次元にまで至っていたかもしれない。特に、この甘美極まりない光景を遂に目にすることなく、無念の内に逝ってしまったあまりにも多くの戦友たちのことを想えば――。

『――次弾、まだか』

 そんな艦橋要員たちを我に返らせたのは、『キリサメ』女性艦長が発した、低くも鋭い声だった。それは、彼女一流のプロフェッショナリズムが発せさせたものであったが、そんな彼女自身も、その美しい唇の端を凄愴に――実に魅力的に歪めていた。
 しかし、プロ意識という点で、彼女の更に上を行く人物が戦隊に存在していたのも事実だった。この時、既に旗艦『ハント』から戦隊砲撃目標の変更を告げる命令が発せられていたからだ。

――戦隊砲撃目標デストロイヤー級ニ変更。各艦、腰ヲ据エテ撃テ――

 命令の後半部分は明らかな“叱責”だった。そして“鬼竜”の“叱責”に恐怖を覚えない者など、この戦隊には只の一人も存在しなかった。
 まさに人馬一体、三隻のハント型のショックカノンが俄然として吠える。仕切り直しの第一射はまたしても全弾空振りであったが、目標変更直後の一射目にしては、測的は悪くなかった。しかも、この砲撃はデストロイヤー級の接近速度を低下させるという結果をももたらした。これまでは砲撃を受けていなかった気楽さで、最短コースを直進してこられたものが、ランダム回避を行う必要が生じたからである。
 ミザイラー級二隻は無視する格好になるが、ここが我慢のしどころというのが一一戦隊を率いる土方の判断だった。ミザイラー級の無力化に拘っている間に、デストロイヤー級の大口径フェーザー砲射程にまで捉えられてしまえば、お世辞にも防御力が高いとは言えない一一戦隊にも確実に喪失艦が発生してしまう。デストロイヤー級はアウトレンジで確実に仕留め、接近を許すことになるミザイラー級にしても二隻程度ならば――。
 土方に他隊(駆逐隊)の支援を受けるつもりは毛頭なく、むしろ未だ格闘戦じみた戦闘でミザイラー級一隻を拘束し続けている(追い回され続けている)ピケット艦の救援に、至急一個駆逐隊を向かわせるよう特設指揮艦に意見具申していたほどだった。
 そして遂に、一一戦隊の第一八射がデストロイヤー級を捉えた。
 命中は、土方の“気合”が最も強く入った(本人が乗艦しているのだから当然だ)戦隊旗艦『ハント』だった。しかし、クルーザー級とは異なり、デストロイヤー級はショックカノン一発では屈しなかった。被弾直後に、未だ有効射程外と理解しつつも、大型フェーザー砲の一斉射撃を行ったほどだ。だが、続く第一九射が二発同時に直撃したことで、嘗ての地球防衛艦隊の恐怖の対象――デストロイヤー級の抵抗も遂に潰えた。
 しかし、今度もまた一一戦隊に歓喜する暇は与えられなかった。放置したミザイラー級二隻は既に至近にまで迫り、この時、地球のものより大型の宇宙魚雷計八本が発射された直後であったからである。更に、ミザイラー級自身も一一戦隊に対する斜行突進を継続、近接砲戦を挑んできた。




 之に対し、一一戦隊は艦首ショックカノンによる特別砲撃を停止、即座に通常砲戦態勢へと移行した。艦首を宇宙魚雷に正対させつつ、本来の主砲である五インチ・ショックカノンをミザイラー級に向ける。だが、それらが火を噴くよりも早く、艦後部に設置された三インチ・ショックカノン連装四基八門、戦隊全体で実に三二門に達する副砲群が一斉に火蓋を切った。
 その威力は艦首の一八インチに比べれば非力極まりないが、それでも従来の地球艦フェーザー砲よりも格段に強力であり、何より発射速度が尋常ではなかった。各砲が毎秒一発以上のペースで極小サイズの空間歪曲現象を吐き出し続ける。正にガントレットとも言うべきキルゾーンに飛び込んだ八発の宇宙魚雷は、いずれも一一戦隊に達することなく砕け散った。
 そして最後の脅威、二隻のミザイラー級は――実にしぶとかった。戦隊四隻から雨霰と浴びせられる五インチ・ショックカノンを巧みにかわしつつ、嫌になるほど的確にフェーザー砲を撃ち込んでくる。
 一一戦隊にも被弾が相次ぐ。しかし、彼女たちが従来の地球艦のように一撃で爆沈することはなかった。各部の艤装品が次々に吹き飛び、全身傷だらけになりながらも、戦隊は驚くほど頑強に砲火を放ち続けた。
 この時、第一一戦隊は姿勢制御ロケットによる回避運動以外の推進機動を停止しており、全力運転中の波動機関が絞り出す出力は、全てショックカノンへの供給とエネルギーシールド展開に振り向けられていた。未だ一一戦隊に致命傷が生じていないのは、最大出力で展開したエネルギーシールドの効果と、開隊以来、何よりも優先して(砲術訓練以上に)錬成が急がれたダメージコントロールの賜物だった。艦首の四連装発射管内にあった中型宇宙魚雷などは、ミザイラー級からの初弾飛来と同時に、半ば投棄同然に発射されたほどで、その被害極限対策は徹底していた。
 ハント型フリゲートの設計時点における能力目標は、ガミラス・クルーザー級戦闘艦を単独“砲撃戦”によって撃破可能というものであったから、より戦闘能力に劣るミザイラー級、しかも数においても二対一の優勢であれば、決して撃ち負けない筈であった――それを操る者達が、艦のスペックを十全に発揮できさえすれば。
 そして、自艦のフェーザー砲の威力をシールドによって減殺され、宇宙魚雷も全弾射耗という手詰り状況の中で、冴えに冴えていたミザイラー級の操艦機動にも遂に息切れが生じた。ほんの僅かな時間許した直線機動――その瞬間を一一戦隊の全力砲撃が押し包んだ。
 それは、一八インチ・ショックカノンによるものとはまた別種の“死”であった。一八インチ・ショックカノンによるものが、大型肉食獣による豪快な捕食行為であったとすれば、五インチ・ショックカノンによるそれは、ピラニアの群れに食い荒らされる大型魚のような無残さがあった。
 ミザイラー級二隻は、既に亡きデストロイヤー級やクルーザー級のように爆沈することこそなかったが、その艦首から艦尾までを原型を留めないまでにズタズタにされ、虚空を空しく漂っていた――無残な死骸として。

 後に第三次木星沖会戦とも呼ばれる戦いはこうして終結した。勝者は、戦略的にも戦術的にも間違いなく地球艦隊であった。
 しかし、それは決して“完勝”ではなかった。会戦初頭に奇襲してきたミザイラー級一隻を会戦終盤まで拘束し続けたピケット艦『アウダーチェ』が失われていたからだ。その復仇は、本隊から急行した駆逐隊が果たしていたが、ラテン的陽気さで八年以上にも及ぶ戦役をしぶとく生き抜き、本作戦における最も危険なポジションであるピケット艦任務にも自ら志願したヴェテラン・イタリア人艦長とそのクルーたちの死は、勝者である筈の地球艦隊に暗い影を落とした。
 しかし、彼らがその場に立ち止まり、頭(こうべ)を垂れることはなかった。彼らの使命、“ミッキーマウスII”の完遂が為されるまでは、それは絶対に封印されなければならかった。
 なぜなら、それは艦隊全乗員が固く心に誓っていたからだ――仮に自らが、愛すべき『アウダーチェ』乗員たちと同じ運命を辿ったとしても、生き残った僚艦乗組員たちに対して同じ振る舞いを求める――と。

 “オレら(あたしら)の時も、そうしろよ(そうしてよ)”

 その想いは、実の言葉としては一度たりとも発せられたことは無かったかもしれない。しかし、その誓いの存在を疑う者は地球防衛艦隊という組織に名を連ねた男女の中には一人として存在しなかった。

 ――数十年後の未来、大規模な戦乱がすっかり遠くなった時代、この時代の防人たちの気概を指して、『長く続いた苛酷な戦役の中、兵士たちは自暴的狂気に魅入られていた』『そうした狂気に陶酔することで、辛うじて自身を律していた』と評した者がいた。確かに、それはある一面では事実であったかもしれない。しかし同時に、極めて独善的且つ偏狭な評価であるとも言わざるを得ない。
 その時代、その場にいなければ、決して到達することができない境地が存在する――たったそれだけのことを認める“謙虚さ”を失った時点で、その人物こそが偏狭な自意識の虜囚と化していることは明らかだからだ。

 そして、“自暴”や“狂気”という言葉から縁遠いという意味では、ガミラス艦隊もまた同様だった。少なくとも彼らは、最後の一隻が殲滅されるその瞬間まで、決して自棄を感じさせるような振る舞いを見せなかった。
 一発でも喰らえば轟沈必至と理解しながら、突撃の先頭に立ったクルーザー級。ショックカノンの青い業火に砕かれ、焼かれながらも主砲を放ったデストロイヤー級、自艦に残された火器では有効打足りえないことを既に理解しつつも、それでも絶妙且つ執拗な襲撃運動を繰り返し続けた二隻のミザイラー級。
 ミザイラー級には、確かに撤退するという選択肢もあった。しかし一一戦隊から距離を取った瞬間、あの強烈極まりないショックカノンで背後から狙い撃ちされると分っている以上、現実的選択としてはあり得なかっただろう(実際は、一一戦隊によるこれ以上の特別砲撃は蓄熱容量的に困難であったが)。寧ろ、自らを生き残らせる確率としては、目前の敵を殲滅する方が高い――たとえそれがどれほど困難で、数パーセントにも満たない低確率であったとしても。
 そうしたガミラス艦隊の姿から汲み取れるのは、どこまでも純粋な戦意と、緻密で冷徹な戦術判断だけ。所属本隊も根拠地を失い、敵勢力内に孤立した彼らの内面に、恐怖や絶望が無いわけがなかった。あるいは狂気すら忍ばせていたかもしれない。しかし、ガミラス人たちは最後の最後まで、決してそれを地球人たちに窺わせなかった。
 侵略者にかける情けなどない、それは確かだ。しかしそれでも、地球艦隊の人々の一部は、自らが葬ったガミラス艦隊にも敬意を払った――喪われた『アウダーチェ』乗員たちに手向けたものと同等の敬意を。

 隊列を組み直した“ミッキーマウスII”船団が船足を上げた。目指すはタイタン。そして、母なる地球。
 船団全艦から次々に放たれる艦砲の眩い煌めき。戦闘艦艇だけでなく、守られるべき存在である輸送船ですら防塵カバーを取り払って特設砲を撃ち放つ。しかし――それは決して“弔砲”ではない、あくまでも“訓練射撃”であった。
 そしてその最中、第一一戦隊 『キリサメ』から“艦内持込禁品”の艦外廃棄が艦長命令で実行された。
 地球防衛艦隊内の愛飲家(酒豪)の間では、 “手に入れるのはガミラス艦を沈めるより難しい”とまで言われるほどの貴重品――2125年物の“バローロ・ブルナーテ”。
 この、イタリア・ピエモンテ州産ワインを艦内に持ち込んでいたのは――他ならぬ『キリサメ』女性艦長、その人であった。

――おわり。


さて、如何でしたでしょうか?
・・・・・・我ながら・・・・・・恐ろしく地味ですね、何と言いますか“肉の入っていないスキ焼”のような有様w
登場する艦艇はガミラス艦三兄弟、地球艦は所謂“古代艦(2199では磯風型)”と護衛艦(さらば/2)、民間輸送船と、その輸送船に“毛”の生えた特設指揮艦・・・・・・以上オワリ(汗)
最大規模の艦艇がガミラスのデストロイヤー級(2199ではデストリア級)で、しかもそれが地球防衛艦隊にとっての『恐怖の象徴』。
太陽系に侵攻したガミラス艦隊の規模にしても、元々が『2199』世界の三分の一程度(四〇隻)しか存在しなかったという独自世界なので、その残存艦隊同士の戦いともなれば、一〇隻以下の小部隊同士の戦いになってしまう訳で、貧乏くさい事この上ない・・・・・・(^_^;)
でも多分・・・・・・私はそういう、地味で貧乏くさいくらいの状況が好きみたいです。
“追い詰められた者たちの必死さ、気魄”みたいなものが地球防衛艦隊だけでなく、残存ガミラス艦隊の方にも感じていただければ本当に嬉しいのですが。

えーーー、第一一戦隊四番艦『キリサメ』の女性艦長は、もちろん“あの方”をイメージしています。
死んでしまったイタリア人艦長も大の酒豪(外観:典型的陽性中年、赤ら顔、出っ張った腹、ぶっとくて毛深い腕、制服は常に腕まくりw)で、そのイタリア人気質から、酒保(PX)で偶然後ろを通りかかった某女性艦長に口笛とか吹いてみたものの、その後当然、マダオさんからエライ目に遭わされたりとか、でもその後は“最悪から〇番目”などと呼ばれる飲み友達になったりとか・・・・・・そんなことも考えていました。
“我が家世界”にて、女性艦長が二番艦ではなく四番艦の艦長に抜擢されたのも、このイタリア人艦長が少なからず関係しているのかもしれません。元々、四番艦艦長に選ばれていたのはこのヴェテラン・イタリア人艦長でしたが、『長官、新しい艦(フネ)は、若い元気なモノに任せるべきでしょ』とか言って。
女性艦長が自分ではあまり呑みそうにない超貴重な赤ワインを用意していたのも、それを知っていたからかもしれません。
“鬼竜”の異名と合せて、またも、お借りしてしまいました、EF12様m(__)m
お借りして文章を書くのは、すっごく楽しいのですが、でも・・・・・・私が書いてもキャラが全然魅力的にならないんだよなぁ・・・・・・(-ω-;)ウーン
コメント (7)
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続・地球防衛艦隊2199 前編

2012-08-16 14:59:52 | 地球防衛艦隊2199
【前書き】
以下の文章は、1974年にテレビ放映が開始された『宇宙戦艦ヤマト』及び1978年放映開始『宇宙戦艦ヤマト2』の設定をベースにしています(『宇宙戦艦ヤマト2199』の設定には基づいていません)。
また、かなりの部分で独自設定が入り混じっており、その世界観を御理解いただく為に(たいした世界観でもありませんが)、前作『地球防衛艦隊2199』を先にご覧いただいた方が良いかもしれません。


【続・地球防衛艦隊2199 前編】



 勃発から実質的終結まで凡そ九年を要したガミラス戦役において、科学技術的にも軍事的にも終始圧倒され続けた地球防衛艦隊が、それでも最後まで抗戦を継続することができた理由や原因は、それこそ無数に存在する。
 しかし、その理由の一つに、当時の地球防衛艦隊が金科玉条としていた『宇宙魚雷戦術』『空間宙雷戦術』を挙げるのは極めて妥当と思われる。なぜなら、“圧倒的”という言葉ですら不足するほど強力な大ガミラス帝国宇宙軍艦艇に、地球人類が唯一突き立てることが可能であった“牙”が、この宇宙魚雷だったからだ。

 “宇宙魚雷”の実態は、当時最新の核融合反応弾頭――純粋水爆弾頭――を装着した、直径二〇インチ以上の超大型誘導弾である。その威力は凄まじく、人類側の放つフェーザー砲にはほぼ無敵のガミラス軍クルーザー級やミザイラー級でも一撃で撃沈、より大型のデストロイヤー級戦闘艦であっても中破以上の損害を与えることが可能であった。

 但し、それには条件があった――命中させる、という最難事が。

 ガミラス戦役時の地球防衛艦隊において、宇宙魚雷戦術の担い手は“カゲロウ型突撃駆逐艦”であった。しかし、当時の防衛艦隊最速艦でもあった本型にしても、最大戦術速力は一五宇宙ノットが精々であり、三〇宇宙ノット以上の快速で巧みな艦隊運動を行うガミラス艦隊が相手では、“頭を抑える”どころか追尾すら非常に困難、言い換えれば、殆ど不可能だった。
 確かに、未だ人類が母星の海洋上で覇権争いをしていた頃の水雷戦術と、対異星人戦争における宙雷戦術とでは多くの点が異なる。しかし、決して変わらない原則もあった。たとえば、目標対象の直近にまで肉薄しなければ必中至難という嘗ての水雷戦の原則は、その最たるものと言えるだろう。
 しかし当時の人類には、ガミラス艦へと詰め寄る手段(脚)がなかった。最大戦術速力に、実に二倍以上もの開きがあっては如何ともしがたく、正攻法では必殺の宇宙魚雷を投じえないのは誰の目にも明らかであった。
 その現実故、2195年以降の地球防衛艦隊が選択した戦術はある意味極端だった。それを極論すると、以下の二つになる。

 “囲む”か“待伏せる”か。

 追いつけない以上、逃げられないように包囲するか、向こうから近づいてくるのを待つ、という訳だ。至極簡単に聞こえるが、現実はそれほど甘くも無かった。
 囲んだ相手が自らより強力であれば、逆に分散した状態で各個撃破されてしまうし、待伏せるにしても、敵が“運よく”そこを通りかからなければ、自らを遊兵化してしまう――戦術的イニシアティヴを最初から放棄しているも同然だったからである。
 その為、地球防衛艦隊司令部は、『落伍した独航艦を狙う』『攻撃は戦術的奇襲が成立する状況に限る』という原則を麾下部隊に徹底させることで、この困難な状況に現実を適合させようとした。しかし、その実行には多くの時間と労力が必要だった。
 “地球防衛艦隊”と名乗ってはいても、その実態は各国宇宙軍(それも、長期に渡る戦役を生き残った残余)の寄せ集めに過ぎず、それらを統一指揮することが法制上定められた防衛艦隊司令部とて、発足から未だ間がなく、各部隊(旧各国軍部隊)との信頼関係も著しく不足しているのが実情だった。また、装備面での圧倒的劣勢、打ち続く損害、日々荒廃していく母星――そんな生き地獄のような状況においても、ガミラス戦役は紛れもない“祖国防衛戦争”であるだけに、防人(さきもり)たちの士気が非常に高かったことも、原則を徹底させる上では寧ろ障害になった。
 それでも、防衛艦隊司令部の定めた原則に従った部隊が、確実に戦果を(しかも自らの損害は最小に留めて)挙げていくことで、この原則は徐々に各隊に浸透し、2196年を迎える頃には、完全に防衛艦隊の常套戦術として定着することになる。また、この結果を受けて、防衛艦隊司令部と各部隊の信頼関係も醸成されるという副産物まで得られた。
 その後、2197年の『“静かの海”直上会戦』、2199年の『冥王星会戦』という二つの“決戦”が生起した結果、地球防衛艦隊は奮戦空しく遂に壊滅する。会戦の結果は、いずれも地球艦隊の完敗(少なくとも戦術的には)であった。
 しかしそれでも、地球艦隊の放つ宇宙魚雷という名の“牙”はその鋭さを失わず、地球側の英雄的活躍やガミラス側のミスといった僥倖が重なって命中を果たしたならば、どのような状況であろうとも確実にガミラス艦を引き裂いた。
 事実、後のヤマト型宇宙戦艦――宇宙戦艦ヤマトの登場まで、大ガミラス帝国が地球側装備において唯一脅威と見なしていたのは、この宇宙魚雷のみであった。後のガルマン・ガミラス帝国との交流によって開示された当時のガミラス軍の記録には、地球艦の放つ宇宙魚雷は“野蛮な短剣”としばしば表現されていた。之は“懐に飛び込まれて繰り出されれば、致命傷足り得る”ということをガミラス側も十分に理解していたが故の表現であったと思われる。




 悪戦の末の壊滅、その終末的状況に変化が訪れたのは2199年9月以降のことだった。遠くイスカンダル王国からの技術供与によって画期的機関技術――波動エンジン――が実用化されたことにより、地球防衛艦隊を取り巻く状況は一変する。
 その筆頭は、言うまでもなく『宇宙戦艦ヤマト』であった。しかし彼女は就役(進宙)と同時にイスカンダルへの長期航宙を開始し、大ガミラス帝国軍冥王星基地の壊滅と在太陽系ガミラス艦隊主力の殲滅という空前の大戦果を残して、外宇宙へと旅立っていった。
 そしてその戦果に後押しされるように、太陽系に残る地球防衛艦隊も、再建への道を歩み出す。その端緒の一つは、数少ない残存艦への波動機関(機能を限定した簡易型)搭載改装であった。
 その効果は劇的、いや、長年その艦に乗り続けた防人たちにしてみれば、最早一つの奇跡だった。
 これまでは延々と加速を継続しても一五宇宙ノットが精々だったカゲロウ型突撃駆逐艦の速力が、何の苦も無く(それこそ慣性制御による耐Gを考慮しなければならない程の勢いで)一気に三〇宇宙ノットを超えたのだ。その“感動”は、滅多に感情を表さないことで有名だった、とある英王立宇宙軍出身士官が『我らの愛すべき“農耕馬”が“駿馬”へ生まれ変わった』と声を震わせて評した程だった。
 波動機関は、初起動時の立ち上げにこそ外部からの膨大な電力供給(日本人たちはそれを“呼び水”と称した)を必要としたが、製造された簡易式波動機関はヤマトのそれに比べれば遥かに小型小容量であり、各行政管区単独の電力供給能力でも辛うじて立ち上げ可能であった。また、最初の一基の立ち上げにさえ成功してしまえば、後はその一基の発する電力で以って後発機を立ち上げることもできた。
 更に、一度立ち上がった波動機関は即席の“無限発電機”としても非常に有用だった。事実、最初期に製造された簡易式波動機関の内の二基は“波動発電機”として、深刻なエネルギー不足に喘いでいた地球の電力事情改善に貢献している。実際のところ、地球上(しかも地下都市内)に設置された波動機関は、宇宙空間を航行する艦船に比べてタキオン粒子の収集効率が著しく劣る為、極めて非効率という側面もあったが、それでも発揮される電力は当時の地球にしてみれば破格の大出力であり、慈雨以外の何物でもなかった。

 波動機関という新たな心臓と“健脚”を手に入れ、極めて小規模ながらも再建された地球防衛艦隊は、2200年に入って活動を再開する。
 当時、冥王星基地と侵攻艦隊主力を失ったことで、太陽系内における大ガミラス帝国の活動域は著しく縮小、それどころか殆ど観測されなくなっていた。少なくとも、火星軌道より内側にガミラス艦艇が侵入してくることは皆無となり、地球―月―火星間の連絡・交通線は、ほぼ完全に復活(自然回復)していた。
 しかし同時に、様々な観測と分析によって、木星圏以遠にはガミラス艦隊残存戦力が分散、潜伏していることも確認されていた(具体的な艦数は一〇隻以下と推測)。また、木星以遠の各惑星やその衛星群にも未だ小基地・拠点が存在し、残存艦への補給支援等の活動を継続しているものと推測された。
 つまり、ガミラス軍は活動域を自ら大きく後退・縮小させただけであって、仮に人類が木星圏以遠にまで足を踏み込めば、相応のリアクションを呼び込むであろうことが確実視されていた。
 しかも残存勢力は、現在こそ作戦能力を低下させているものの、仮に太陽系外から増援や支援が得られた場合、当然その活動が再開・活発化するであろうことも想像に難くなかった。故に地球防衛艦隊としては是が非でも、太陽系外ガミラス軍による増援・支援が行われる前に、太陽系内残存勢力を各個撃破する必要があった。
 2200年初頭に取り急ぎ再建された地球防衛艦隊の戦力は、波動機関を搭載したことで『改カゲロウ型』に改称された突撃駆逐艦が二個駆逐隊(六隻)であった(後に、同じく改装に伴って『アドバンスド・カイザー型指揮戦艦』へと改称された“エイユウ”と“ジョゼッペ・ガリバルディ”の二隻が加わる)。
 しかし、当面の戦力強化が、この二個駆逐隊で打ち止めであるのも事実だった。
 地球―月―火星の連絡交通線が復活し、各種資源の確保や流通の部分的回復、更に“波動発電機”の稼働で電力事情にも多少の安定が得られるようになった為、特に各種工業生産については半年前とは比べ物にならないほど状況は改善していた。にもかかわらず、地球防衛艦隊の戦力強化は停止を余儀なくされていた。
 肝心要の波動機関製造に必要な希少鉱物資源がこの時点でほぼ払底し(完全にゼロではなかったのが、残分は“新型艦艇用”に割り当てられていた)、既存戦力を利用した戦力強化が不可能になっていたのである。
 件の鉱物資源は『コスモナイト』と呼ばれる高機能特殊合金の原料であり、その最終製錬物は、高圧高濃縮下のタキオン粒子にも耐久し得るほどの耐熱性と耐食性を有する――高濃縮型波動機関製造には不可欠のものであった。しかし悩ましいことに、太陽系広しといえど、コスモナイトの存在が確認されていたのは土星の衛星『タイタン』のみであった。
 つまり、これ以上の戦力強化にはタイタンでのコスモナイト回収が必須であり、それは同時にガミラス軍勢力圏への侵入を意味していた。
 その為の戦力が僅か二個駆逐隊、たった六隻の突撃駆逐艦。非常にささやかな、一年前であれば、投入するよりも“逃げる”か“隠す”ことを考えなければならないほどの小戦力であった。しかし――“彼ら彼女ら”の考えは、一年前とは一八〇度異なっていた。

 敵に先んずることができる“脚”がある。しかも、敵はまだそれを“知らない”。

 すなわち、ガミラス戦役勃発後初めて、戦術的イニシアティヴを握ることができるかもしれないという期待と確信はそれほどのものだった。そして、常に絶対的劣勢下での戦闘を強いられ続けた(そして生き残ってきた)彼ら彼女らにとっては、それだけで充分だった。侵略者どもが“野蛮な短剣”と恐れる彼らの“牙”は――変わらずそこにあるのだ。




 2200年1月、六隻の突撃駆逐艦と二隻の中型輸送船からなる小規模な地球船団は、土星の衛星タイタンを目指す航路を進んでいた。
 作戦名称は『ミッキーマウス』。
 作戦目的は、波動機関及びその関連設備の製造に不可欠な希少鉱物資源(コスモナイト)の回収と輸送。
 その航宙速度は、中型輸送船の空荷時巡航速度に合わせた五宇宙ノット。現在の視点に立てば、情けなくなるほどの低速であったが、非波動機関の民間徴用バルクキャリア―(バラ積み運搬船)ではこれが限界だった。
 しかし、ほぼ同速力で並進しながら護衛を続ける駆逐隊側に焦りの色は全くなかった。さすがに緊張の色は隠すべくも無かったが、そこには悲嘆も絶望もなく――寧ろ皆、祭りの前日のように嬉々として“その瞬間”を待ち侘びていた――と、後にある駆逐艦乗員が自らの著作の中で述懐することになる。

 そして遂に、待望の“瞬間”がやってきた。

 船団が、タイタンへと至る最終軌道調整を完了した直後の地球標準時一月二九日二〇時〇二分。その兆候を最初に捉えたのは、船団中央に位置した輸送船の一隻“パサディナ・スター”であった。
 大型レーダーシステムと指揮区間を増設し、広域索敵兼指揮艦として臨時改造された特設艦である。もちろん、充分な資材も時間も無い中、無理やり仕立てられた艦であるだけに、一たび攻撃を受ければ生存性など皆無であったが、乗員の士気は駆逐隊と同様に高かった。
 本来ならば、指揮艦としては前述したアドバンスド・カイザー型指揮戦艦を編制に加えたいところであったが、ヤマトに比べればささやかとは言え、仮にも戦艦級艦艇の波動機関の製造と換装には、本輸送任務の成功による希少資源の大量確保が絶対に必要だった。また、オリジナルの状態で出撃させるという選択肢もあったが、“エイユウ”“ガリバルディ”共に損傷と消耗がひどく、一度徹底した修理かオーバーホールを行った後でなければ、足手まといにしかならないとして断念されている。
 “パサディナ・スター”の増設レーダーが捉えたのは、大ガミラス帝国宇宙軍主力軽艦艇――ミザイラー級戦闘艦二隻からなる小部隊であった。ガミラス軍艦艇としては最小クラス、しかも僅か二隻とはいえ、彼我の個艦戦力差と最終軌道調整完了直後というタイミング(つまり逃げられない)を思えば、絶望を覚えさせるに充分な状況であった――もしそこにいたのが、一年前の彼ら彼女らであったなら。
 ミザイラー級二隻は、船団に対するレーダー妨害すら行わず、二五宇宙ノットという速度で側面から船団に接敵しようとしていた。最速三五宇宙ノットを叩き出す快速艦を操りながら、何故そのように中途半端な速度で接近を図ったのかは分からない。油断があったのか、あるいは冥王星基地壊滅によって補給と整備を絶たれ、艦の機能に不調があったのか――しかしそれは永遠の謎となった。
 “パサディナ・スター”から、二隻のミザイラー級以外に後続する敵戦力が存在しないという戦術情報と共に、開隊から僅か数年で早くも地球防衛艦隊の伝統となった感のあるシンプル極まりない突撃命令――全軍突撃セヨ――が下された瞬間、機関換装を悟られないよう機関出力を絞りに絞っていた駆逐隊が一斉に動いた。
 まるで、ロールを打った軽戦闘機のような小気味良い転舵と同時に、弾かれたように加速を開始した改カゲロウ型の速力は、瞬く間にミザイラー級の最大戦術速力すら凌駕する三七宇宙ノットにまで達した。
 嘗ての所属軍も艦齢も全く異なる六隻の突撃駆逐艦は、それぞれが別個のコースを取りつつ、しかし完璧に調和の取れた六つの光跡を閃かせ、その名が示す通りの“突撃”を敢行していた。




 目前で展開されている異常極まりない(信じ難い)光景へのあまりの驚愕故か、ミザイラー級二隻は対応機動すら見出せないまま、闇雲にフェーザー砲を閃かせたものの、その照準計算は従来のカゲロウ型の機動性能データ(最大一五宇宙ノット)を元に算出されたものであり、その二・五倍もの速力を突如として発揮されては、命中弾など発生する訳がなかった。
 そして襲撃機動最終段階に入った六隻の駆逐艦は、各駆逐艦長が自ら信じる必中距離とタイミングで宇宙魚雷を撃ち放った。高度な宙雷撃戦管制機能を有するカイザー型が存在すれば、完全な統制宙雷撃戦が可能であっただろうが――少なくとも本会戦における結果に変わりはなかった。
 至近距離から発射された宇宙魚雷は各艦二発、計一二発。内三発が機能不全で脱落したものの、残る九発が僅か二隻のミザイラー級に襲い掛かった。それでも混乱の中、近接対空防御で四発の宇宙魚雷を叩き落としたガミラス軍将兵の技量こそ賞賛すべきかもしれない。しかし、残る五発は悉く命中(一番艦に二発、二番艦に三発)、核融合反応の純白のヴェールが消え去った後には、それが嘗てガミラス艦であったことを感じさせる存在は皆無であった。

 ――四八時間後、徴用輸送船、特設指揮艦(輸送船を小改装した艦である為、十分な積載能力がある)、そして六隻の突撃駆逐艦に至るまで、希少鉱物資源を詰め込めるだけ詰め込んだ(さすがに駆逐艦だけは艦内積載ではなく輸送用コンテナを曳航した)輸送船団はタイタンを後にした。懸念されたガミラス艦隊の追撃も遂になく、船団は一隻も欠けることないまま未だ赤い地表を晒し続けている地球へと無事帰還を果たす。
 無傷で帰還した船団の姿と『ミッキーマウス作戦』成功の報は、未だ高濃度放射能の脅威に苛まれ続けている全人類に対して大々的に宣伝された(二隻ほぼ同時に爆沈するミザイラー級の光学映像すら公開された)。

 本作戦の名称に“ミッキーマウス”を提案したのは、防衛艦隊司令部付の若い女性士官であったという。実は、作戦立案時に実施部隊から提案された“別の”作戦名称がほぼ内定していたのだが、作戦成功後の市井に対する宣伝効果を考えれば本名称の方が相応しいとして、作戦実動直前に急遽変更が行われたという経緯があった。
 結果的に、その変更は英断となった。作戦結果と世界的に有名なキャラクター名への親しみやすさから、“ミッキーマウス作戦”は世界各地の地下都市で逼迫を続ける市民たちの士気高揚にも大いに貢献したからである。
 だが、あまりにメディアで“ミッキーマウス”が連呼されたため、一時は著作権者(企業)から地球防衛軍に対して法的クレームと無許可名称使用に対する賠償請求が行われた。しかし、その事実が明るみ出るや、今度は市民側から企業に対して凄まじいほどの非難が殺到、慌てた企業が急いで告訴を取り下げ、“地球防衛軍に対してのみ”名称の無許可使用を認めて謝罪する騒ぎにまで至っている。
 それは、種としての滅亡すら目前に迫った戦時であっても、そこに人間が集団で存在し、社会生活が営まれている限り、“日常”は存在し得るということを示す何よりのエピソードであったのかもしれない。
 尚、“ミッキーマウス”作戦の改称前の名称は“ネズミ輸送”であったという。その名称を提案した、ある女性駆逐艦長は作戦開始直前の名称変更と新作戦名を知らされると、天を仰いで軽く嘆息し――自艦の主計士官に、規定量以上の宇宙魚雷の確保を指示したとされる。

 2200年1月はミッキーマウス作戦の成功以外にも、新たな兆し(きざし)があった。
 土星圏で地球駆逐隊が初めてガミラス艦を正面から粉砕していた頃――地球軌道上では待望の新造艦艇の公試が行われていた。小粒ながらも地球防衛艦隊の切り札として完成した“ハント型フリゲート”である。




 人類初の波動機関搭載艦である宇宙戦艦ヤマトの完成、カゲロウ型突撃駆逐艦の簡易波動機関換装工事、そして火星に不時着したイスカンダル王室専用船の調査分析を経て建造が開始された、初の量産新造艦艇であった。何より特筆すべきは、設計時点から波動機関の搭載が考慮された初めての宇宙艦艇であるという点だ(“あの”ヤマトですら、建造中艦艇に波動機関を強引に搭載したのが実情であり、設計時から考慮されものではない)。
 完成に至るまでには様々な苦難・苦闘があったが、公試において一番艦『ハント』は目標を上回る性能を発揮、関係者全員を安堵させた。また、第一ロットとして並行建造されている二番艦から四番艦も既に竣工直前であり、新編が決定した戦隊司令・司令部スタッフはもちろん、各艦艦長や幹部乗員の選抜も最終段階に至っていた。

 ミッキーマウス作戦に続く、『ミッキーマウスII』は本型四隻の就役を待つ形で2200年5月の実施が決定された。
 参加戦力は前回のものに加えて、第一一戦隊と命名されたハント型フリゲート四隻、そして輸送力として民間徴用貨物船が更に二隻加わっていた(アドバンスド・カイザー型は未だ波動機関及び主兵装換装工事中であった為、本作戦にも不参加)。
 新編の一一戦隊については、訓練期間の点で未だ完熟には程遠い状態であったが、宇宙戦士訓練学校長から同戦隊司令に転じた土方竜提督が、自らの異名である“鬼竜”の名に恥じない猛訓練を麾下部隊に課すことで、辛うじて戦力化に成功していた。
 尚、本作戦は地球防衛艦隊(地球防衛軍)の上部組織である国際連合から、より早期の発起が希望されていた。しかし、防衛艦隊司令部がこれに強く反対し、この時期まで作戦開始を引き延ばした経緯があった。
 地球防衛艦隊司令部にしてみれば、“たかが”一度の小さな勝利で浮かれるつもりは毛頭なかった。八年にも渡り戦い続けているガミラス軍は確かに強大であったが、同時に狡猾でもあった。『ミッキーマウスI(ミッキーマウスII実施が確定した時点で、前作戦名には“I”が冠せられた)』における地球艦艇能力の“激変”は、既に残存ガミラス軍内で周知されているものとして行動すべきだった。
 事実、“ミッキーマウスI”において撃沈されたミザイラー級は、その断末魔に地球艦艇の機動性能データを最大出力で発信していたし、土星圏のガミラス基地も観測した戦術データを残存戦力間で共有を図っていた。
 だからこその第一一戦隊参加であり、更に地球防衛艦隊司令部はこの作戦によって太陽系内に潜伏するガミラス残存艦隊を可能な限り誘出、まとめて殲滅する意図であった。
 もちろん、おびき出した敵戦力が予想より遥かに巨大であった場合、逆にこちらが殲滅されてしまうリスクもあったが、元々の在太陽系ガミラス艦隊の規模(各種戦闘艦約四〇隻)と、ヤマトから報告のあった戦果報告を照らし合わせれば、その可能性は極めて低いと判断された。
 残存ガミラス艦隊は、“ミッキーマウスI”実施以前ですら一〇隻以下という判定評価であったし、それらにても一箇所に集結している訳ではなく、整備能力の限界から拠点ごとに分散展開しているものと見られていた。
 故に、“ミッキーマウスI”立案時には、残存ガミラス艦隊が全力で迎撃に出ることはないと判断された。補給にも支援にも事欠く孤立した状態で、戦力の過剰投入を行うなど、戦力の経済的運用と戦術原則の徹底ぶりでは地球防衛艦隊司令部以上とまで評されるガミラス軍が行う訳がない――そう考えられたからだ。
 その点で言えば、“ミッキーマウスI”において襲撃してきたのが“僅か”二隻のミザイラー級であったのは、決して偶然や僥倖ではない。過去の地球艦隊との戦闘結果、それに基づく戦力評価からすれば、ミザイラー級二隻は極めて妥当な戦力投入量だった(もし地球駆逐隊が従来のままの能力であれば、ミザイラー級は無傷の内に地球船団を全滅させていたであろう)。
 しかし、この“ミッキーマウスII”では状況が大きく異なる筈だった。
 地球艦艇の“激変”を考慮した戦力の再評価が為されていることは最早必至であり、更に地球艦隊が前回以上の戦力(戦闘艦艇一〇隻)で出撃すれば、必ずガミラス軍も稼働全戦力(最大でも八隻程度)を投入してくるものと予想された。
 著しく強化された地球艦隊を完全に殲滅するには、未だ個艦戦闘能力では確実に優越するガミラス艦艇を以ってしても、それだけの数が絶対に必要であったし、また、補充が期待できない状況下では、投入戦力量を最大化することで相対的に損害を最小化させる必要もあった。
 もちろん、残存ガミラス軍指揮官が戦力の保全を図り、迎撃そのものを断念するという可能性もゼロではなかったが、それならば“ミッキーマウスII”は何の障害もなく無事に完遂されることになり、回収した資源を活かした更なる戦力強化後に、改めて討伐作戦を実施すれば良い――。
 ともかく今は、ガミラス軍にとっては未知の存在であるハント型フリゲートを投入することで確実に得られるであろう衝撃力(奇襲効果)を、最大まで引き出す作戦構想が必要だった。
 これから始まる戦いのリングに上がる両者は、どちらも“後”が無かった。一方は母星ごと滅亡寸前にまで追い詰められ、もう一方はその国是的価値観――勝利か、然らずんば死か――から撤退・帰還を許されない者たちであった。
 地球艦隊、ガミラス艦隊共に敗北によって戦力を失ってしまえば、それが補充される望みは限りなくゼロであり、故に両者は戦闘前から知力を絞り、その準備に死力を尽くした。
 その点で言えば、既に戦(いくさ)は始まっていた。それぞれの根拠地で、工廠で、補給処で、司令部で、限られた物資とエネルギー・人員をやり繰りし、出撃する艦の整備と維持に全力を注ぎ、敵戦力の分析に寝食を忘れて没頭する――そんな後方要員同士の戦いはとっくに開始されていたからだ。

 これから起きる戦い――ミッキーマウスII作戦――は、後に地球防衛艦隊が戦うことになる幾多の大規模会戦に比べれば非常に小規模なものであった。参加艦艇数や艦の規模で言えば数一〇分の一、いや、百分の一にも満たない、極めてささやかな戦いであった。
しかし、互いの存亡を賭けているという点では――紛れもなく“決戦”であった。




――つづく。

えーーー実は、この文章の元々のタイトルは『リヴァモア級突撃駆逐艦』でした。
はい、“我が家”世界における『さらば/2』の“駆逐艦”です。
地球防衛艦隊宙雷戦術の申し子のような艦ですから、やっぱりガミラス戦役時の駆逐艦の活躍から触れなければいかんよなぁ・・・・・・と思って書き始めてみれば・・・・・・止まらない止まらないガミラス戦役・・・・・・(;´Д`A ```
気が付けば“ミッキーマウス作戦”とか名づけて悦に入り、しかも“Ⅱ”ってどうなんよ・・・・・・(汗)
で、結局『リヴァモア級突撃駆逐艦』用妄想としては完全ボツとなり(そちらは改めて書きます)、この『続・地球防衛艦隊2199』に生まれ変わった(?)訳ですw

先日の予告の際には『戦術局面にまで踏み込んで・・・・・・』と書いておきながら、今回の前編はほぼ情勢説明に終始してしまいました(唯一の戦闘局面は突撃駆逐艦のダイブだけ^^;)
次回後編はほぼ一〇〇パーセント戦術状況で行きますので・・・・・・どうかもう少しだけお付き合いください(^_^;)
後編の公開は、日曜日の予定です。
それでこの入院中に書き溜めた文章はカンバンです、はい。

ところで昨夜のNHKスペシャル「終戦 なぜ早く決められなかったのか」は非常に考えさせられる番組でしたね。
『組織』というものが根源的に持っている危うさと、それに呑まれてしまった『個人』がいかに愚劣足り得るのかということを非常に際立たせる内容でした。
そしてそれは、悪し様に言われることの多い軍部のみならず、文民組織である外務省とて同じことでした。
もちろん私は『組織』というものを否定する者ではありません。
いつ登場するか分らない天才に頼らずに、常人だけで社会を健全に維持していく為には『組織』は不可欠なものです。
ただ、『そこには常に危うさが潜んでいる』ということを認識できているかいないかで、『組織』構成員たる『個人』は随分と変わってくると思います。
昨晩あの番組を見て、自らが所属する組織のことのみを考え、決断を先延ばしにし続けた軍人や政治家、外務官僚の姿に、震災後の原発に係る政府や某電力会社の対応を重ねてしまった方も多いのではないでしょうか?
少なくとも私はそうでした。
その点、この国は本当に歴史の教訓を活しているのか?と思い知らされた夜でありました。
いや、もちろん『NHKという“組織”にそんなことを言う資格があるのか』という、いつもながらの御意見もあるでしょうが、それはまた別次元の話だと思いますねw

本当はもっと言及したい事件があるんだけどなぁ・・・・・・でも、それはまた後日にします。

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地球防衛艦隊2199

2012-01-04 20:55:40 | 地球防衛艦隊2199


 ガミラス戦役勃発後、国連安保理決議により結成された国連軍、その基幹戦力として地球防衛艦隊は設立された。
 とはいえ、その成立と実働に至る道は決して平坦なものではなかった。開戦当初は主要各国の宇宙戦力が豊富であったことに加え、人類初の対異星人戦争に対する見解と姿勢も様々であり、開戦から一年ほどは国連加盟国間の足並みが全く揃わなかったからだ。
 各国宇宙軍事力の効率的運用と統一指揮を目的として、安保理下に『国際宇宙軍参謀委員会』が発足したものの、各国に戦力を供出させるような実質的権限に乏しく、当初の実体は有名無実に近かった。
 加えて、更に大きな問題があった。国連軍構成国の中で最も強大な宇宙戦力を持った二国――アメリカ合衆国と中華連邦――が軍・政共に全く協調できなかったことは、この時期の地球人類全体にとって致命的な問題であった。全地球軍事力の実に七割を占めるこの二国は、各国政府と国際宇宙軍参謀委員会の権限なき反対の下、文字通り争うように独自の軍事行動を推し進めていった。ある意味喜劇的であったのは、二国の対立と行動の原因が『ガミラス戦役“後”を見越した国際社会における主導権争い』であったことだ。
 だが敵手たる大ガミラス帝国軍にしてみれば、こうした地球内国家間の対立に起因した個別アクションは、単なる各個撃破の好機でしかなかった。
 当時、地球の科学技術力がガミラスに圧倒的なまでの差をつけられていたのは事実であったが、全くの無力というわけでもなかった。『宇宙魚雷』と称された(直径二〇インチ以上の誘導弾を“魚雷”、それ以下を“ミサイル”と分類)当時最新の熱核兵器弾頭搭載誘導弾は、直撃すればガミラス艦艇であっても十分に撃破可能な威力を秘めていたし、航空機(航宙機)の能力では部分的にガミラス軍のそれに匹敵する機体も開発されつつあったからだ。事実、徹底した隠遁戦術(小惑星帯や暗礁宙域での待ち伏せや奇襲)でガミラス軍に出血を強い、遂には撤退にまで追い込んだ事例も少数ながら存在していた。

 『防御側の優位を活かした内線防御であれば、勝てないまでも負けることはない』

 後に救国の英雄となる沖田十三提督(当時の日本国航宙自衛隊 第二空間護衛隊群司令)はそう主張し、米・中艦隊の単独出撃を思い止まらせようと日本政府に強く意見具申したと言われている。
 どの国家においても宇宙軍は最も新しい軍種だけに比較的リベラルな者が多く、それは特に将官クラスにおいて顕著だった(最初期の各国宇宙軍は保安・軍事組織というよりも学術研究組織としての側面が強かった)。事実、米・中すら含む宇宙軍提督の多くが自国政府に沖田と同様の主張や具申をしていたことは後の時代にもよく知られている。
 だが、あくまでも従来からの国際政治の延長線上でしか事態を捉えられない米・中政府首脳の決定が覆ることは遂になく、開戦初頭にして地球は最精鋭の航宙艦艇と練度の高い将兵多数を一挙に失うことになってしまう。
 それは、地球にとって単なる正面戦力の喪失という事実以上の意味を含んでいた。開戦と同時に開始されたガミラス宇宙軍による遊星爆弾攻撃を防ぐに足る機動戦力の喪失をも意味していたからである。
 その点で、国威発揚・国際政治における主導権獲得といった矮小な目的の下、貴重過ぎる戦力を無為に失う結果を招いた当時の米・中政府首脳の責任は厳しく指弾されなければならないだろう。そして皮肉なことに、彼らに対する懲罰は速やかに為された――人類自身の手によってではなく、他ならぬ侵略者の魔手によって。
 米・中艦隊壊滅からまもなく、大規模遊星爆撃が北米地域と中華地域を集中して襲った。地球で最も有力なエリアが判明した以上、ガミラス軍にしてみれば当然の行動であった。そして宇宙戦力の主力を失った地球にこれを阻止する力はなく(当時、充分な数の機動艦艇があれば、遊星爆撃阻止は決して不可能ではなかった)、投下された六〇パーセント以上の遊星爆弾の落着を許してしまう。
 これにより、遊星爆弾が直撃した中華連邦の政府中枢は完全に消滅、元より反乱・造反を極度に恐れる政治風土から非常時の代替政府機能の準備に乏しかったことも災いし、これ以降、事実上の国家崩壊・無政府状態に陥ってしまう。
 これに対し、アメリカ合衆国の状況は多少ましであった。政府機能が一時的に消滅し、市民全体に制御不能のパニックが発生したところまでは中華連邦と同様だったが、入念に準備されてい政府機能維持システムが辛うじて作動、臨時政府によって戦役終結まで国家機能と体裁を保つことになる。
 断末魔にのたうつ二大国はともかく、それ以外の国々も確実に追い詰められつつあった。米・中以外の国家の宇宙艦隊を総動員しても、質・量共にかつての米・中いずれかの艦隊にも到底及ばなかったからだ。
 だが、米・中の影響力低下と各国の危機感の高まりが、各国宇宙軍の指揮権統一と一元化をようやく現実のものとした。これにより、遂に実質的な意味での『地球防衛艦隊』が成立することになる。
 実に五〇億もの地球人類の生命と全宇宙艦艇の六割を犠牲にした後で――。




 ようやくのことで全地球的視野に立った活動を開始した地球防衛艦隊。しかし、その前途はあまりに多難であった。
 大ガミラスとの圧倒的なまでの科学技術力の差、絶望的なまでの戦力不足、人類を足下から揺るがしつつある高濃度放射能の脅威――困難を挙げればきりがなかった。
 そんな状況の中、国際宇宙軍参謀委員会から再編されて新たに発足した『地球防衛艦隊司令部』は一つの戦略方針を示した。

 徹底した『守勢防御』である。

 当時、ガミラス軍の最有力拠点が冥王星に存在することは判明していたが、あらゆる意味で攻略作戦など不可能だった。科学技術力に劣る側から仕掛けた安易な攻勢がどのような結果を招くかは、米・中艦隊の末路を見るまでもなく明らかであったからだ。出撃時点からガミラス艦隊のマークを受けていた米・中艦隊は、撤退不可能な宙域にまで誘引された上で攻撃を受け、徹底的に殲滅されていた。
 地球防衛艦隊司令部と英国出身の初代司令長官ジェレミー・マウントバッテン大将が執った具体的な戦術は、アステロイドベルトや暗礁宙域を拠点とした遊撃戦術であった。更に攻撃は、奇襲が成立する場合か、相手が単艦である場合にのみと厳しく制限された。仮に戦術的奇襲が成立しない状況であれば、たとえ目前のガミラス艦隊に地球の有力拠点が攻撃を受けることが確実であっても、攻撃は中止されなければならなかった。
 当然、この方針について強い反対を示す一線部隊もあった。しかし、地球防衛艦隊司令部は反対する部隊には再三に渡り司令部参謀、場合によっては司令長官自身が足を運び、方針説明と説得に努めた。

 また、この頃ようやく長きに渡る解析努力が実り、太陽系に存在するガミラス艦隊の規模と活動サイクルが把握されるようになった。解析によると、ガミラス艦隊の戦闘艦総数は四〇隻程で(個艦識別は『熱紋』と呼ばれるエンジン部からの熱放射パターンの分析によって行われた)、一度の出撃・帰還から次回の出撃に至るまでの期間は凡そ三ヶ月であった。
 この分析結果は関係各部門に驚きをもって迎えられた。ガミラス軍が予想以上に小兵力であったからだ。
 三交替のローテーション(三グループが交替で出撃・待機・休養/整備を行う)で運用されていると考えれば、ガミラス艦隊が一度に動かせる戦力は精々十数隻、無理をしても二グループ二五隻程度が限界の戦力に、地球側は翻弄され続けていたからである。
 それほどまでにガミラス艦隊が強力であったわけだが、逆に言えば兵力不足に対する悩みは地球以上と考えられた。恐らく、“辺境の蛮族相手にはこの程度の戦力で十分”として非常に限定された支援・補充しか得られていないのだろう――地球防衛艦隊司令部はそう判定していた(事実も限りなくそれに近かった)。
 つまり、ガミラス軍にとって僅か一隻の喪失は、地球にとって一個戦隊の完全損失に匹敵するほどの重みがあると考えられた。守勢防御と戦術的奇襲の徹底はこうした予想と判定から決定されたものだった。そして、この地球防衛艦隊司令部の判断は、短期間で効果を上げることになる。

 補給と補充、支援体制に乏しいガミラス軍は、艦隊行動時に機関不調等で少ない数の落伍艦を出していた。本来なら、こうした落伍艦は護衛を付けて根拠地に後送すべきところであったが、絶対的な戦力不足と地球軍に対する侮りから、単独での帰還を命じられることが多かった。地球防衛艦隊の標的は、この落伍した独航艦であった。
 いくら科学技術力に格差があるとはいえ、機能不十分な状態、それも単艦では戦力差を覆すにも限界がある。そして、初めて狩る側に立った地球艦隊の戦術も徹底したものだった。
 航空隊による牽制と足止め、その間に艦隊による包囲を完成させ、最後は同時多方位から肉薄した突撃駆逐艦による統制宇宙雷撃戦により落伍したガミラス艦は悉く撃沈された。その数は2195年に限っても四隻を数えた。
 つまり、ガミラス宇宙軍太陽系派遣艦隊の実に一割が無力化されてしまったのである。この時初めて、ガミラス宇宙軍は地球防衛艦隊を“敵手”と認識することになる(それまでは精々“辺境の蛮族”であった)。
 だが、敵手たるガミラス軍の評価とは裏腹に、国連並びに地球各国からの要求と圧力は日を重ねる毎に厳しくなる一方だった。彼らは地球防衛艦隊司令部の戦略方針を『フリート・イン・ビーイング(現存艦隊主義)』だとして強い口調で非難した。――今も地球は遊星爆弾とガミラス艦隊の攻撃によって日々耐えがたい損害を受け続けている!何故地球防衛艦隊は決戦を希求し、この国難の元凶たるガミラス軍を殲滅しようとしないのか!?――そうした声は、皮肉なことに地球防衛艦隊が地味ではあるが着実な戦果を上げれば上げるほどに大きくなっていった。
 これらの非難と圧力に対し、地球防衛艦隊司令部は懸命に沈黙を守った。怯懦故ではない。実際にガミラスと戦い、その実力を知る立場である彼らにしてみれば、“決戦をしても勝てない”ことはあまりにも明白だったからだ。それどころか、今度こそ地球はガミラスを“苦しめる”戦力すら永遠に失ってしまう。
 だが、この時点で既に様々な個人権利が抑制されていたとはいえ、地球は基本的に民主政体の国家群であった。故に市民がそれを望む以上、市民によって選ばれた政府の指揮下にある軍隊はそれを実行しなければならない。たとえそれが、どれほど愚かしく無謀な要求であったとしても――。


カゲロウ型突撃駆逐艦。
所属国によっては“ミサイル護衛艦”とも称された。
本クラスが装備した“宇宙魚雷”は当時の地球防衛艦隊にとって
ガミラス艦艇を撃破可能な唯一の兵器であった。



 2197年6月20日、地球防衛艦隊は三ヶ月に一度の割合で行われるが故に『定期便(プルート・エキスプレス)』と呼ばれていたガミラス艦隊による地球本土攻撃を月近傍宙域で正面から迎撃した。

 後に『“静かの海”直上会戦』と呼ばれる戦闘である。

 それは、地球側にとっては乾坤一擲、ガミラス側にとっては青天の霹靂とも言うべき戦いであった。
 直前まで正面からの決戦に反対していたとはいえ、決定した以上、地球防衛艦隊司令部の準備に怠りはなかった。小惑星帯で落伍艦狩りに励んでいた艦隊主力が悉く引き抜かれ、その数は一線級艦艇だけで四〇隻にも及んだ。消耗著しい航空隊も、未だ開発中の増加試作機まで投入して定数が確保された。
 それらの機動戦力に加え、月面には艦隊主力の存在を決戦直前まで秘匿するための仮設艦隊泊地と、多数の電磁カタパルト砲台が設置されていた。それらは正に、ガミラス艦隊を一網打尽にするために周到に準備された地球防衛艦隊の“巣”であった。
 これに対し、本土攻撃に挑むガミラス側に油断が無かったといえば嘘になる。彼らにとって、地球艦隊が正面から立ち向かってくることはないという判断は、三年以上に渡って覆されたことのない定説であったからだ。故に、緒戦におけるガミラス艦隊の対応はかつてないほど混乱したものだった。
 月の反対側というレーダー覆域から突如として出現した地球艦隊。驚きつつも、対地艦砲射撃陣形から艦対艦打撃戦陣形に移行しようとしていたところに、月面から一斉に打ち上げられた多数の宇宙魚雷が驚愕と混乱に拍車をかけた。そして、背後から敵航空隊の接近が伝えられたことで、ガミラス艦隊の混乱は頂点に達する。
 初動を制した地球防衛艦隊であったが、その時間が非常に限られたものであることは彼ら自身が一番よく知っていた。故に、ガミラス艦隊の混乱を更に助長すべく、艦隊旗艦『ウォースパイト』から全艦艇へ命令が飛んだ。




 ――全軍突撃セヨ 其々ノ神ガ皆ヲ守リ給ウ――

 彼らの取った戦術は、多数の独航ガミラス艦を葬った統制宇宙雷撃戦術であった。フェーザー砲威力の圧倒的差から、砲撃は牽制程度にしか期待されておらず、この時点の地球艦隊の戦術は完全に宙雷撃戦一本槍だった。しかし彼らは、攻撃ヴァリエーションの乏しさを物量で補っていた。根こそぎ投入された主力艦隊も、月面に急ぎ設置された多数の仮設砲台群も、全てはこの攻撃を完全なる飽和戦術に昇華させる為の努力であった。そして彼らの努力は遂に報われた。
 ガミラス艦一五隻の内、六隻が一時に被雷、悉く戦力を喪失してしまう。もし、地球艦隊に同じ規模の攻撃を波状的に繰り出せるだけの戦力があれば、ガミラス艦隊は確実に殲滅されていたであろうほどの状況だった(この時、地球艦隊はガミラス艦隊を完全包囲下に置いていた)。
 だが、この時点で既に艦隊・月面砲台共に、宇宙魚雷をほぼ射耗し尽くしていた。敵艦隊の三分の一を葬り去ったものの、本来ならばこの時点で敵を完全に撃滅していなければならなかったのだ。つまりそれが――地球防衛艦隊の限界であった。
 体勢を立て直したガミラス艦隊による逆襲が開始されると、宇宙魚雷という唯一の牙を失い、機動性にも著しく劣る地球艦隊に逃れる術はなかった。それでも、自発的に殿(しんがり)を引き受けた少数の艦艇の犠牲によって、艦隊戦力の完全消滅という最悪の事態だけは避けることができた。
 しかし、この時点で地球に残された宇宙艦隊戦力はもはや両手の指の数ほどでしかなかった。地球防衛艦隊司令長官マウントバッテン大将は敗戦の責任を取って辞任、総参謀長であった日本国出身の藤堂大将が職を引き継いだ。
 だが、スケープゴートを用意したところで地球の置かれた現実に変わりはなかった。ここに、地球防衛艦隊は実質的な壊滅を迎えたのである。



『“静かの海”直上会戦』には後の九九式宇宙艦上戦闘機
『ブラック・タイガー』の増加試作機四機が急遽投入された。
一機の未帰還機を出したものの、パルスレーザー砲だけで
ガミラス艦を中破した攻撃能力に対する搭乗員の評価は
高く、実用化が急がれた。



 これ以降、国連並びに地球防衛艦隊はガミラス軍との戦闘よりも、地球人類の種の保存を目的とした地球脱出船建造計画(箱舟計画、アーク・シップ計画)に残されたリソースを注ぎ込むことになる。
 各地で建造が開始された地球脱出船の完成目標は2199年9月~11月とされた。それまで、ガミラス軍の目を避けるべく建造工事には細心の注意が払われたが、全てを隠し通すことはできなかった。2199年6月までに貴重な脱出船三隻がガミラス軍によって発見され、例外なく破壊されていた。
 しかし、問題はむしろこれからだった。数ヶ月後に迫った完成に向けて、各地の秘密工廠では昼夜を問わない突貫工事が行われ、何よりほぼ完成状態に達した巨大な船殻そのものが隠蔽をより困難にしていた。そして最も厄介な事態は、直近の動向分析から、9月中旬という最悪のタイミングでガミラス艦隊定期便『プルート・エキスプレス』の来襲が予想されたことであった。
 もしこのタイミングで来襲を許せば、相当数の地球脱出船が発見されてしまう――この判断の下、遂に地球防衛艦隊最後の残存戦力に命令が下った。

 “冥王星宙域まで進出し、ガミラス艦隊を誘引、戦闘状態に持ち込む”

 要約すれば、それが彼らに下された命令の全てだった。命令の中に『撃滅』や『殲滅』といった景気の良い言葉が一言も含まれていないことが、この任務の異常さと凄絶さを何よりも物語っていた。
 つまり、彼らに敵の撃滅は期待されておらず、ただ自らの命を的(まと)にしてガミラス艦隊を最低三ヶ月間行動不能にすることのみが求められたのだ。
 後のヤマトのような特殊な例を除き、軍用艦艇とは一度戦闘行動を行えば、修理やら補給やらで数ヶ月間は根拠地で時を過ごさなければならなくなるのは地球であれガミラスであれ同様であったから、命令は最低限度の戦略的合理性を含んでいた――だからといって、このような異常な任務が肯定されるわけではなかったが。
 全ては地球脱出船計画を成功させる為に断行された作戦であったが、座視し得ない問題もあった。艦隊指揮官である沖田十三提督を含む艦隊乗組員が、一人の例外もなく地球脱出船計画の中核人員であったことだ(彼らが基幹乗員となり、候補生や訓練生で水増しすることで最低必要人員数を確保する予定だった)。この作戦で彼らが失われた場合、予備人員など世界中探しても皆無であり、地球脱出船計画そのものに大きな支障が生じるのは確実だった。しかし、最終的には藤堂地球防衛艦隊司令長官が作戦決行の判断を下し、沖田提督率いる混成地球艦隊(残存戦力があまりに乏しく、所属国など既に無意味となっていた)は一路冥王星に向かって出撃していった。




 地球艦隊の動きは、ガミラス軍に出撃直後から把握されていた。更に、その目的地が冥王星であることも軌道計算から正確に認識もされていた。しかし――何故かガミラス軍は動かなかった。
 “静かの海”直上会戦の後、その損害の大きさからガミラス軍太陽系派遣軍司令官は更迭され、本国から新司令官としてシュルツ中将が送り込まれていた。当然、彼は前任者更迭の経緯を熟知しており、それであるが故に沖田艦隊の“あからさま”な動きを警戒していた。彼の派遣と合せて月での戦いの損害は補充されたものの、未だ太陽系のガミラス軍は戦力充分な状態には程遠かったこともシュルツの判断に影響を及ぼしていた。彼は、地球艦隊に別働部隊が存在するのではと疑い、哨戒目的の高速空母を単独出撃させただけで、艦隊主力は冥王星に留め続けた(当然、別働部隊などいつまで経っても発見されなかった)。
 この結果、沖田艦隊は自らでも信じられないほど簡単に冥王星を指呼の距離に収めることに成功する。ここに至り、シュルツも遂に沖田艦隊が地球艦隊主力であり、全てであると判断、麾下の艦隊に全力出撃を命じた。その数は、稼働艦艇を根こそぎ投入したことで実に三〇隻。地球艦隊の三倍の艦艇数であり、個艦レヴェルの戦闘実力を加味した戦力係数差は数十倍にまで達すると思われた。


カイザー型指揮戦艦『ツルギ』。
著名な同型艦として沖田十三提督が指揮した『エイユウ』がある。
当時最新のフェーザー砲多数を搭載した新鋭艦であったが
砲威力の差からガミラス軍艦艇には苦杯を舐め続けた。
しかし、その指揮管制能力は高く、地球防衛艦隊の決戦戦術である
多方位からの集中宇宙雷撃戦術の指揮統制艦として威力を発揮した。
その運用思想は後のアンドロメダ級戦略指揮戦艦にも受け継がれることになる。



 ――我レ、敵大艦隊ノ攻撃ヲ受ケツツアリ。コレニ可能ナ限リ耐久セントス――

 『冥王星会戦』開始直後に沖田艦隊から発せられた電文は悲壮ではあったが、ある種自虐的なまでの歓喜に満ちていた。彼らは敵主力艦隊の誘引という戦略目標を達成しつつあったからだ。電文の一語一語を発する間も、搭乗した艦艇と自らの生命を犠牲にしつつ。
 そして遂に――彼らは任務を全うした。
 戦闘中にイスカンダルから飛来した恒星間宇宙船によって地球脱出船計画は大きな変貌を遂げることになったものの、それすら彼らの任務完遂を否定することはなかった。
 ガミラス艦隊主力が当面の作戦能力を失ったからこそ、地球脱出船『やまと』から転じた宇宙戦艦『ヤマト』発進に際し、ガミラス軍は大規模な艦隊攻撃といったアクティブな行動を取ることができなかった。ガミラス軍に可能であったのは、冥王星会戦の折に出撃させていた高速哨戒空母を個別にヤマト偵察・攻撃に向かわせたことと、冥王星から超・長距離ミサイル攻撃を加えたことだけであった。
 それを思えば、後に特攻、統率の外道などと酷評されることの多い冥王星会戦における地球艦隊出撃は、悲惨ではあったが『無駄死』などといった言葉とは対極の存在であったことが理解できる。
 様々な新機軸を搭載した画期的宇宙戦艦とはいえ、発進直後は各種装備の試験も訓練もままならず(恐るべきことに、最初の戦闘は建造に携わった技師と訓練生、沖田艦長のみで実施された)、もしこの時点でガミラス宇宙軍による大規模な艦隊攻撃が行われれば、撃沈という最悪の事態すら考えられたからだ。


 ヤマト発進後、程なくしてガミラス軍の太陽系橋頭堡であった冥王星基地は殲滅された。これにより、地球に対する直接的脅威は激減したものの、地球防衛艦隊の任務が消失したわけではなかった。むしろ、ヤマト帰還まで地球近傍宙域を保持する為、最低限の戦力の再整備が試みられた。
 冥王星会戦唯一の生き残りである『エイユウ』、そして資材不足や整備不足で会戦時に稼働状態になかった為、出撃が見送られた僅かな数の艦艇が簡易式波動エンジンへの換装工事を受けた。
 また、極少数であったが新型艦(後に“護衛艦”として知られることになるハント型フリゲート)の建造も行われ、ヤマト帰還までの地球防衛任務にあたることになる。


ハント型フリゲート『エクスモア』
波動機関実用化後初の量産戦闘艦艇。
従来の地球艦艇とは異なり、ショックカノンを主兵装とした重武装フリゲートとして就役した。
戦時急造艦ながら運用実績は良好で、ヤマト不在の間の地球防衛艦隊の切り札的存在だった。



――終わり
(その後の地球防衛艦隊の苦闘については、『続・地球防衛艦隊2199』及び『ハント級護衛艦/ハント型フリゲート②』を参照下さい)

さて、旧年中の宿題でした『地球防衛艦隊2199』をようやく公開することができました♪ヽ(^◇^*)/
とかく無力に描かれる地球防衛艦隊ですが、公式年表ではガミラス軍に対して七年も戦闘を続けているんですよね。
きっと作中では描かれなかった苦闘や善戦の記録もあるはず・・・ということでデッチ上げたのが今回の駄文ですw
いやはや……ちょっとした説明文のはずが、長くなりすぎました(^^;)
え?オメーの下手な文章のことはいいから、模型のことを書けって?(エーン)
えーっと、まずは使用キットです↓。

1/700 宇宙戦艦ヤマト(B社 TV DVD-BOX初回封入特典)
1/500 (一部略)宇宙防衛連合艦隊 艦隊旗艦(F社)
NON-スケール 古代艦(B社メカコレクション)

古代艦をF社の『ミサイル護衛艦』にすることも考えましたが、艦隊旗艦とスケール的なバランスが悪いような気がしてメカコレを採用しました。
あくまで個人的な意見ですが、艦隊旗艦が1/1000、ミサイル護衛艦が1/700、古代艦1/800~900くらいのサイズが妥当な気がします。
結局、三隻並べた時の大小バランスを考慮して、今回のラインナップにしてみましたが、結構良い具合に落ち着いたと思います。
カラーリングは全てヤマト・ツートンカラーです。
『やっぱり軍艦や艦隊はこうでないと…』という趣味丸出しですが、カラーリングを統一すると妙に強そうに見えて、気に入っています(笑)
それにしても・・・・・・メカコレ古代艦って、発売開始は20年以上前だと思いますけど、ものすごく造形いいなぁ。
他の二隻と並べても全然遜色ありません(^_^;)

それと・・・言うまでもないことですが、ここに書いた駄文は公式設定とは全く関係のない妄想設定ですので念のためw

※23年2月25日:『護衛艦』画像とキャプションを追加しました(^_^)

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