トレッキングを始めて3日目。
小高い丘を登るとその先に突然15くらいのホテルが集まってできた村、
キャンジン・ゴンパ(3840m)が見えた。

時間はまだ午前11時くらいか。
住民はこの時間に観光客がくるとは思っていなかったようで、ホテルの外に出て
声をかけてくる人はいなかった。
このトレッキングで初めて人から声をかけられることなく自分からホテルの
レストランに立ち寄った。
ベンチに座ってミルクティーを飲みながら休憩して、最終目的地である
キャンジン・リ(4550m)に向かって歩き出そうとすると、ホテルの女性が
「今夜はどこに泊まるの?」と何とか解るカタコトの英語で言った。
「キャンジン・リだけど・・・。」
「テント、寝袋は持ってるの?あそこにはホテルもなければ水もないよ。」
ツアー会社にも確認してホテルがあることを知っていた僕は女性の言葉を
信じずに、新年につくるお祝い用の揚げパンをいただいたお礼にと、
少し多めにお金を渡しキャンジン・リへ出発することにした。
「ところでキャンジン・リはこの道?」ときくと女性は山を指差す。
『あそこに登って世界を眺めたらどんなに気持ちがいいんだろうか。』
と思うのと、
『あんなところまで行くのか!なんであそこを最終目的地にしてしまったんだ!』
と興奮と後悔が同時にやってくるような高い山があった。
登り始めると、すぐに後悔の方が大きくなった。
とにかく荷物が重い。
足を滑らせたら頭が取れるまで転げ落ちそうな斜面。
ただ平地を歩くのと山を登るのとでは感じる荷物の重さが10キロは違う。
おまけに、今歩いている道は明らかに違う山に向かっていることがわかった。
でも、ちゃんと頂上は見えている。
こうなったら!と僕は完全に道を無視して一直線で山を登ることにした。
これなら間違いなく頂上に着く。最短距離で!
無理やり山を登りはじめると誰かかが通った道を辿るよりもさらに大変で、
自分の心臓が脈打つ音が耳元で聞こえるようだった。
10分登っては休憩。
なんども繰り返していると僕の中に疑問がわいてきた。
『なんで登ってるんだ?』
考えてみれば今日登りきったら明日からまた来た道を戻るだけじゃないか。
そう思いながらも、引き返すことができない自分の性格。
そんなことを頭の中で考えながらも登り続けた。
そして、山の中間を越えたくらいで休憩しようと岩の上に荷物を投げるようにおき、
「あぁ~」と、ため息をつきながら腰を下ろすと同時に僕は無意識に
「気持ちいい」と声にしていた。
無意識に出た声に、僕はなんて素直じゃないだろうかと自分で自分を笑った。
キャンジン・リの頂上は静かで風で旗が音をたてていた。
驚いたことに頂上は崖になっていて、ホテルどころか何もなかった。
寝袋もテントも持っていないので、当然下まで降りてホテルに泊まることになる。
『何の為にこんな重い荷物を背負って登ったんだ!』と怒りたくなる気もしたが、
雪山に囲まれて世界を眺めていると、そんな事はどうでもよかった。
崖に立ってさっきまで自分がいた村を眺め、あたりを見回すと、おそろしい事に気がついた。
村から見えていた頂上の背後に下から見えていなかった、さらに高い山がある!
しばらくしてフランス人の家族(もちろん荷物は持っていない)がやってきた。
「ここがキャンジン・リだよね?」
「どうかな?ちょっと待って、見てみる。」
高度計にもなるらしい腕時計をみて彼は言った。
「4200メートル」
『嘘だろ!!!!』という思いでいっぱいだった。
頂上の高度まで350メートル足りない。
『あっちが頂上だったのか・・・。』
僕は岩の隙間に荷物をかくして、再び本当の頂上へ向けて歩き出した。
頂上で何をしていたかといえば、着いてすぐに写真を数枚撮ったこと以外は、
ただ静かにしていた。
しばらくして僕は立ち上がって両腕を広げて一人で何かを抱きしめる真似をした。
ただ地球を抱きしめたかったんだ。
小高い丘を登るとその先に突然15くらいのホテルが集まってできた村、
キャンジン・ゴンパ(3840m)が見えた。

時間はまだ午前11時くらいか。
住民はこの時間に観光客がくるとは思っていなかったようで、ホテルの外に出て
声をかけてくる人はいなかった。
このトレッキングで初めて人から声をかけられることなく自分からホテルの
レストランに立ち寄った。
ベンチに座ってミルクティーを飲みながら休憩して、最終目的地である
キャンジン・リ(4550m)に向かって歩き出そうとすると、ホテルの女性が
「今夜はどこに泊まるの?」と何とか解るカタコトの英語で言った。
「キャンジン・リだけど・・・。」
「テント、寝袋は持ってるの?あそこにはホテルもなければ水もないよ。」
ツアー会社にも確認してホテルがあることを知っていた僕は女性の言葉を
信じずに、新年につくるお祝い用の揚げパンをいただいたお礼にと、
少し多めにお金を渡しキャンジン・リへ出発することにした。
「ところでキャンジン・リはこの道?」ときくと女性は山を指差す。
『あそこに登って世界を眺めたらどんなに気持ちがいいんだろうか。』
と思うのと、
『あんなところまで行くのか!なんであそこを最終目的地にしてしまったんだ!』
と興奮と後悔が同時にやってくるような高い山があった。
登り始めると、すぐに後悔の方が大きくなった。
とにかく荷物が重い。
足を滑らせたら頭が取れるまで転げ落ちそうな斜面。
ただ平地を歩くのと山を登るのとでは感じる荷物の重さが10キロは違う。
おまけに、今歩いている道は明らかに違う山に向かっていることがわかった。
でも、ちゃんと頂上は見えている。
こうなったら!と僕は完全に道を無視して一直線で山を登ることにした。
これなら間違いなく頂上に着く。最短距離で!
無理やり山を登りはじめると誰かかが通った道を辿るよりもさらに大変で、
自分の心臓が脈打つ音が耳元で聞こえるようだった。
10分登っては休憩。
なんども繰り返していると僕の中に疑問がわいてきた。
『なんで登ってるんだ?』
考えてみれば今日登りきったら明日からまた来た道を戻るだけじゃないか。
そう思いながらも、引き返すことができない自分の性格。
そんなことを頭の中で考えながらも登り続けた。
そして、山の中間を越えたくらいで休憩しようと岩の上に荷物を投げるようにおき、
「あぁ~」と、ため息をつきながら腰を下ろすと同時に僕は無意識に
「気持ちいい」と声にしていた。
無意識に出た声に、僕はなんて素直じゃないだろうかと自分で自分を笑った。
キャンジン・リの頂上は静かで風で旗が音をたてていた。
驚いたことに頂上は崖になっていて、ホテルどころか何もなかった。
寝袋もテントも持っていないので、当然下まで降りてホテルに泊まることになる。
『何の為にこんな重い荷物を背負って登ったんだ!』と怒りたくなる気もしたが、
雪山に囲まれて世界を眺めていると、そんな事はどうでもよかった。
崖に立ってさっきまで自分がいた村を眺め、あたりを見回すと、おそろしい事に気がついた。
村から見えていた頂上の背後に下から見えていなかった、さらに高い山がある!
しばらくしてフランス人の家族(もちろん荷物は持っていない)がやってきた。
「ここがキャンジン・リだよね?」
「どうかな?ちょっと待って、見てみる。」
高度計にもなるらしい腕時計をみて彼は言った。
「4200メートル」
『嘘だろ!!!!』という思いでいっぱいだった。
頂上の高度まで350メートル足りない。
『あっちが頂上だったのか・・・。』
僕は岩の隙間に荷物をかくして、再び本当の頂上へ向けて歩き出した。
頂上で何をしていたかといえば、着いてすぐに写真を数枚撮ったこと以外は、
ただ静かにしていた。
しばらくして僕は立ち上がって両腕を広げて一人で何かを抱きしめる真似をした。
ただ地球を抱きしめたかったんだ。
