ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

W杯パラグアイ戦の前にのんきにジャズ本の話など書いている場合か!

2010年06月29日 | 
 ここんところジャズに関する本をよく読んでいた。油井正一『ジャズの歴史物語』、中山康樹の『マイルスVSコルトレーン』『マイルスの夏、1969』などのマイルスシリーズと『リヴァーサイドジャズの名盤50』。菊地成孔・大谷能生「憂鬱と官能を教えた学校」、「アフロ・ディズニー」、相倉久人『新書で入門 ジャズの歴史』、長門竜也『シャープス&フラッツ物語』など。これらに加えて最近読んだのが中川ヨウ『ジャズに生きた女たち』だ。

 中川さんの本では、リル・ハーディン・アームストロング、ベッシー・スミス、メアリー・ルー・ウィリアムス、ビリー・ホリディ、エラ・フィッツジェラルド、パノニカ・ド・ケーニグスウォーター(ニカ夫人)、アリス・コルトレーン、穐吉敏子の8人のジャズ・ウーマンが取り上げられ、それぞれの個人史を通じてジャズ史を概観できる。ニカ夫人を除いては、いずれも女性ジャズプレイヤーの先駆けとなった人たちだが、女性であるという性的差別とアフリカン・アメリカンや日本人であるといった人種的差別の2重苦のなかでジャズの歴史を切り開いたというのがコアになっている。興味深かったのはアリス・コルトレーンで、トレーンの死後、その遺志を継いでスピリチュアルなジャズを追求するが、コルトレーンの七光りに寄りかかるだけのミュージシャンといった評価のされ方に人知れず悩んでいたということだ。かつて僕もコルトレーンの名を語る厚顔な女(顔の印象かな)と思ったこともあるが、アリス自身がコルトレーンの名前の呪縛からなかなか開放されなかったと知って、この本でも推薦している最後のアルバムとなった「トランスリニア・ライト」を聴いてみたくなった。こういう連鎖によってまた、ジャズの世界が広がっていくのが楽しい。

 さて、個人史からジャズ史を見る点で、中山康樹のマイルスシリーズは、ジャズの革新者・マイルスのアルバムづくりを細かく検証しながら、ジャズの歴史的な転換期の現場を記述したドキュメントだ。『シャープス&フラッツ物語』は日本の歌謡・ポップス・ジャズの歴史を作ってきた原信夫の人物伝だからおもしろいし日本の大衆音楽の歩みがよくわかる。『憂鬱と官能を~』は単行本の文庫化で、上下2巻。単行本刊行時の誤りを豊富な註で訂正したり、新たな論文を加えて補足するなど、これから読む人はこの文庫本を読むべし。とくにバークリー理論の基礎を築いたといわれるヨゼフ・シリンガーについては、より正確な記述がなされているし、その物語は実におもしろい。油井大先生の集大成ともいえる『ジャズの歴史物語』は、ジャズ史を知る必読書で、2,940円という価格が高いと思う場合は相倉の『新書で入門』を読もう。これに、いずれも文庫になっている菊地・大谷の『東京大学のアルバート・アイラー』『憂鬱と官能』を加えると、社会・文化史的側面と音楽史、音楽理論的側面から立体的にジャズの歴史にアプローチできるのだった。

 ところで今夜はW杯パラグアイ戦だというのに、ジャズ本の話でもないか
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