もうだいぶ前の話になるが、昨年末にテアトル新宿(だったかな)でアキ・カウリスマキの映画復帰作「枯れ葉」を観た。あまり大きなスクリーンではない上に、スタンダードサイズだったので、座る位置を間違えたと思ったのだが、さえない男女のほっこりするラブストーリーと、カウリスマキ節の健在ぶりに大いに気をよくした。ラジオから「竹田の子守歌」が日本語で流れてきたり、ハッピーエンドなラストがトリュフォーの「夜霧の恋人たち」を思わせる82分、至福の時間だった。
昨年の映画鑑賞の締めになったのがTOHOシネマ新宿で観たケリー・ライカート監督「ファースト・カウ」。西部開拓時代のオレゴンの先住民居住区が舞台。冒頭、画面の右から左へコロンビア川をゆっくりと航行する貨物船のショットできっと良い映画であると妙に確信を持った通り、少ない会話の物語を無駄のない適切なショットで組み立てていく監督の手腕に脱帽した。
中国からの移民の男ルーと、栗鼠の毛皮猟師グループの料理人だった男クッキーの二人が偶然知り合い、二人で地主が飼う、土地唯一の牛の乳を搾り盗んでドーナツを作って販売し、一儲けするという展開なのだが、二人が次第に心を通わすきっかけになるシーンがある。ルーの小屋に同居するようになったクッキーが、庭で薪割りをしているルーを窓越しに眺めているところを、カメラはクッキーの背中を手前にして納める。クッキーはしばらく薪割りを眺めているのだが、思い立って箒を取り出し家の中を掃き出すのである。これがワンショットで納められていて、ここから二人の距離がぐっと接近していくのだが、言葉や説明でなく、箒で掃くという日常的なアクションでそれを示したところが、実に映画的なのだった。この映画もスタンダードサイズだった。