地球と太陽との関係が、光の叙情とでもいうようなものをこうも豊かに描き出すのかと、感嘆しながら眺めていた車窓の秋の景色が、不意に岩のような影にさえぎられたのは、僕の前に一人の女が立ったからだった。
土曜日の午後、私鉄の車内はまだそう混んではいない。膝丈のスウェットのスカートの下に、山門の毘沙門天のように立派な足がしっかりと床を踏みしめ、黒のレース柄のスパッツで包まれている。身長160センチくらい、肉置きのいいからだは、だが、鍛錬されたものではなく、たるんだ皮膚にどこか自堕落な生活ぶりが垣間見え、つり革につかまって外を見ている表情は不機嫌そうだ。
電車が駅に着くと、女の後ろの座席が空いた。女は、振り返って確かめることもなく、すばやく座席確保に動いた。空いたスペースには収まりきれない大きな尻を突き出すようにしてねじ込み、左右の乗客がひるんでちょっと体を傾げた隙に、幅の広い上半身をドーッと背もたれに倒す。左隣のすまなそうにうつむく老婆を「なんか文句ある」とでもいいたげに意地の悪い横目で睨む女。もはや出番を待つ土俵下の力士の如く動かない。しばらくすると女は、大ぶりの黒のバッグから大判の雑誌を取り出した。
光沢のある表紙のタイトルは「月刊BODYプラス」。特集のタイトルに『ストップ・ザ・冬太り「家トレ」で脂肪バーニング!』の文字が躍る。「脂肪バーニングねぇ」こみ上げる笑いをこらえるのはむずかしかったが、僕はこの雑誌の編集者を呪いたくなった。誰にでも安易に痩せる希望などあたえてはならないと。
雑誌にくいいる女。新宿へ向かう急行電車はいつものように走る。女の背後に金色の秋の日差しが当たるたび車内に暗雲のような大きな影が落ちるのだった。
土曜日の午後、私鉄の車内はまだそう混んではいない。膝丈のスウェットのスカートの下に、山門の毘沙門天のように立派な足がしっかりと床を踏みしめ、黒のレース柄のスパッツで包まれている。身長160センチくらい、肉置きのいいからだは、だが、鍛錬されたものではなく、たるんだ皮膚にどこか自堕落な生活ぶりが垣間見え、つり革につかまって外を見ている表情は不機嫌そうだ。
電車が駅に着くと、女の後ろの座席が空いた。女は、振り返って確かめることもなく、すばやく座席確保に動いた。空いたスペースには収まりきれない大きな尻を突き出すようにしてねじ込み、左右の乗客がひるんでちょっと体を傾げた隙に、幅の広い上半身をドーッと背もたれに倒す。左隣のすまなそうにうつむく老婆を「なんか文句ある」とでもいいたげに意地の悪い横目で睨む女。もはや出番を待つ土俵下の力士の如く動かない。しばらくすると女は、大ぶりの黒のバッグから大判の雑誌を取り出した。
光沢のある表紙のタイトルは「月刊BODYプラス」。特集のタイトルに『ストップ・ザ・冬太り「家トレ」で脂肪バーニング!』の文字が躍る。「脂肪バーニングねぇ」こみ上げる笑いをこらえるのはむずかしかったが、僕はこの雑誌の編集者を呪いたくなった。誰にでも安易に痩せる希望などあたえてはならないと。
雑誌にくいいる女。新宿へ向かう急行電車はいつものように走る。女の背後に金色の秋の日差しが当たるたび車内に暗雲のような大きな影が落ちるのだった。
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