晴れときどき風

ノンキな主婦が時に風に吹かれながら送る平凡な毎日。

伊坂幸太郎は好きです。

2008年11月12日 11時14分18秒 | 趣味
伊坂幸太郎著「魔王」。
ずいぶん前に読み終わっていたのですが、なかなか感想を書く余裕がなくて・・・。

あらすじとしては
ネタばれですので、これから読もうとする人は注意




人に自分が思ったことを言わせる能力を手にいれた「安藤」が、ファシストと思われる人気政治家に、その能力を使い戦いを挑む。
というか、挑もうとする。そんなお話。

能力もかなり制限があり、たった一人孤独な戦いを仕掛けようとした安藤は、やすやすと違う能力の持ち主に殺されてしまうわけで。

これだと、超能力者同士の壮絶で派手な展開を想像するかもしれませんが、いたって淡々と物語は進みます。

作者があとがきで、政治的なことを書きたかったわけではないというとおり、ここで答えは何一つでていません。
ただ、メッセージがあるだけです。

そのメッセージを象徴的にあらわす言葉が出てくるのは、一緒に収められている「呼吸」。
安藤が死んだ五年後。
弟の潤也の妻、詩織の視点でかかれた物。

潤也も、かなりしょぼいけれど、運を見方につけるという能力を身につける。
そして、兄とは違う形で、兄とは違う物に、漠とした物に戦いを挑もうとしている。

象徴的な言葉・・・
「スカートを直す人間になりたい。」これだけじゃ、意味分かりませんね。
「ばかでかい規模の洪水が起きたとき、水に流されないで立ち尽くす、一本の木になりたい。」
こういうことです。

なにか世間が、民衆が、大きなものに巻き込まれそうになったとき、みんながそれに流されそうになったとき、本当は何が正しいのか「考えろ。考えろ。」
そして、たった一人でも、それに抗う力になりたい。


私は、伊坂幸太郎さんの本はこれで五作目ですが、彼の書くものの底に、静かに川が流れているような(この感覚うまく言い表せません)、何か静謐なものを感じます。
死神だったり、考える案山子だったり、題材はかなりフィクション性が強いのに、内容は思索的な部分が多く、読む手をふと止めて考え込んだりしてしまいます。

「考えろ。考えろ。」そう語られるたびに、ふと。
文中で語られる挿話に、ふと。
希少種ではない鳶に、ふと。

一気に読み進めるサスペンスではなく、読み手を考えに誘い込む不思議な静かさ。
それでいて、テンポがよくて、機転の利いた会話。
物足りなさを感じる人もいるかも知れないけれど、私はとても好きです。