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3月の課題本 『観光』

2013-04-08 11:32:50 | ・例会レポ

『観光』
ラッタウット・ラープチャルーンサップ/著 
古屋美登里/訳 
ハヤカワepi 2007年 / 早川文庫 2010年

  

タイを舞台に家族、友人の絆を優しく美しく綴る、珠玉のデビュー短篇集

闘鶏に負け続け、家庭を崩壊に追い込む父を見守る娘の心の揺れを鮮烈に描く「闘鶏師」。11歳の少年が、いかがわしい酒場で大人への苦い一歩を経験する「カフェ・ラブリーで」。息子の住むタイで晩年を過ごすことになった老アメリカ人の孤独が胸に迫る「こんなところで死にたくない」。失明間近の母と美しい海辺のリゾートへ旅行にでかけた青年の苦悩を描いた表題作「観光」他、人生の哀しい断片を瑞々しい感性で彩った全7篇を収録。英米の有力紙がこぞって絶賛し、タイ系アメリカ人の著者を一躍文学界のホープに押し上げた話題のベストセラー 


=例会レポート=

残念ながら出席者は16名(1名の見学者を含む)と少なめでしたが、全体的に評価は非常に高くて、我ながら良い本を選んだと嬉しくなってしまいました。
特に、課題本にならなければきっと自分では読むことはなかったという意見が多く、私自身のこの本を知ったきっかけや選んだ理由がうろ覚えだったことが悔やまれるほどでした。

先ずは好意的な意見から。
・子供の言葉にならない気持ちが上手に表現されている
・全体的に特徴がある話ではないが、生きることの苦味が若い人の視点で丁寧に描かれいてる
・自分が社会の歪みについての怒りより負い目を感じる年齢になっているので、ストレートな若い視点が新鮮だった
・複雑な背反する感情が描けている
・タイという国の匂いを感じる
・以前は途中で止めたが、今回は最後まで読んで表題作以外も良いことを知ることができて良かった
・表題に『観光』を選んだことが功を奏している
・人物描写が上手
・貧しさについて書けるのは、作者自身は富裕層であり、貧しさの只中ではなく少し距離があるところに居るからこそではないか
・人生に対する矜持が感じられた
・人生の苦味や痛みは世界共通だと改めて思った
・希望がある話ではないが、読んでいてどこか気持ちが慰められるような爽やかさがある
・物語に登場させる小道具の使い方が上手

しかし勿論それだけで終わるわけはなく、厳しい意見も。
・全体的に話が似ている
・あまりに無残でツラい
・世間的に貧しいながらも元気で明るいように描かれがちだが、現実は計算高くてずる賢いしたたかさがあるというのに、やはりそれが『ガイジン』以外にはない
・住宅や家族構成の設定に貧しさにリアル感がないことが気になり、楽しめなかった
・風俗や気候(湿度のある暑さ)を感じない
・各話ともあまり印象に残らない

各話の人気としては『闘鶏師』が一番でしたが、他にも『徴兵の日』、『こんなところで死にたくない』、『観光』も複数票が入りました。

講師からは、以下の通り。
・国や時代、人間について作者がどう思うか(ものの見方)がしっかり表現できている
・タイという国の歴史を踏まえて読むと、登場する人物や物が更に興味深く感じられるはず
・曽野綾子の『遠来の客たち』を思い出させる
・作者の、タイでもアメリカでもない、狭間からの視点が独特
・映像的で硬い叙情表現が秀逸

ところで、今回特徴的だったのは、作者自身の人柄や今後の生き方に対する興味を示す人が多かったことではないでしょうか。
例えば、こんな意見が。
・次回作が気になる
・タイが舞台ではない作品は書けるのかが気になる
・長編作を書き始めてから失踪するのはいかがなものか(※後日2010年の作者の動画がWEB上で発見され、ご健在を確認できました。良かった!)
・作家としても人間としても精進を期待する
それは、若さや生い立ちが目立つこととは他に、小説でありながら自身のアイデンティティについての葛藤が全体を通して強く出ていることが影響しているように思います。
そこを含めて作品と思うか、それはともかく一つの小説として向き合うか、そこは大きな分かれ目で、だからこそ読書会で読むことができて良かったと、私はまた満足しました。
皆さま、お付き合い頂き、ありがとうございました!

 

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