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2月の課題本 安岡章太郎『海辺の光景』

2013-03-08 13:05:48 | ・例会レポ

 


安岡章太郎 『海辺の光景』(かいへんのこうけい)

新潮文庫 2000年 / 角川文庫 1979年 / 講談社文庫 1977年 / 大活字本、各種全集に収録 


正気を失った母との最後の九日間。家族の相克と虚無的な心象風景を重ねた、戦後最高の文学的達成。

不思議なほど父を嫌っていた母は、死の床で「おとうさん」とかすれかかる声で云った──。精神を病み、海辺の病院に一年前から入院している母を、信太郎は父と見舞う。医者や看護人の対応にとまどいながら、息詰まる病室で九日間を過ごす。戦後の窮乏生活における思い出と母の死を、虚無的な心象風景に重ね合わせ、戦後最高の文学的達成といわれる表題作ほか全七編の小説集。

(新潮文庫)

=例会レポート=

 1月26日に安岡章太郎が92歳で逝去しました。
一人の作家が亡くなったときというのは、その作家に触れる良い機会ではないかということで、菊池講師が『流離譚』を推薦して下さったのですが、上下巻でとても厚く手に入りにくいといくことで、著者の最高傑作と言われている『海辺(かいへん)の光景』を課題本とすることになりました。
 
安岡章太郎は「第三の新人」と呼ばれる作家の中では最初に芥川賞を受賞した代表的な作家。「第三の新人」と呼ばれる作家たちは野間宏、梅崎春生など「第一次戦後派」安部公房などの「第二次戦後派」の後に登場した作家たちの名称。
どのグループも戦争の影響を受けているが、「第三の新人」は「日常性の文学」と呼ばれるような身近な日常や人間の心理を細やかに描いた作品が多い。


★見学者も迎えてのみなさんの感想は…
「すごくいい!」という人と「どうも苦手」という方がいました。
「良い」という意見では
「すごく、おもしろかった。ああ~、文学読んだ!という感じ。人と人のかかわりが書けていると思った。」
「描写力があり、とても伝わってくる。お母さんが会わないで決めた結婚相手に対して抱いた印象の描写がすごく印象に残った。」
「主人公のお父さんがとてもキュート。暗い話の中で救いになっている。ニワトリみたいな父。死んでいく人とイキイキした人との対比がとてもうまい」
「いろいろなところで、自分にも重なる部分があり、胸に迫った。とても優れた心理描写」
「なめらかでみずみずしい文体で描かれた静かで客観的に描かれた水彩画のような小説」
「家族の中の葛藤がすごくよく描かれている。主人公は「見る人」。出来事を距離をとって眺めている。だから「光景」なのかも。終わり方もいい」
「境界に関する感受性。生と死、正気とボケ、家族と他人、親と子、都会と田舎など対比するものがよく描かれている。カットバックの構成もよく、個々のエピソードは胸にせまる」

「どうも苦手」という意見では
「感情移入ができない。母親の狂気が真に迫っていない」
「起伏がない話が苦手。ニワトリにトラウマあり」
「描写が細かすぎて、ねちっこいな~。意外と読みやすいがもう二度と読まない」
「読めないことはないけど、なんでいいのか良さがわからない。自分の嫌なところを書かれているような気がして、不愉快な気分に」
「読み辛い」
「読めるんだけど、だからなに?」
「さらさら流れて、自分にひっかかるところがない。この時代が想像できず、わかるようでわからない」

★講師から
母と子供の絆を断ち切る別れの物語。
父親は経済力もなく父権ゼロ。「終戦の日から父親が帰還してくるまでが、信太郎母子にとっての最良の月日であったにちがいない」と書いてあるように母とどう繋がっているかということが描かれ、その母が死に向かって腐っていくのを喪失感や罪悪感が渦巻くなかで感覚的にとらえている。母なるものが失われ、家庭は崩壊していく。
最後の杭の場面も詩情があって非常に良い。母と別れ、これから母無しの世界の中で生きていくという変化への中間点として考えられる作品。
このあと大作の「流離譚」が書かれていく。
安岡章太郎はエッセイも巧みで、社会に対する見方もおもしろい。ユーモアと純文学の両方の資質を持っている。「海辺の光景」のなかでもニワトリの描写はおかしみを醸しだしていた。

★   ★   ★   ★   ★   ★   ★   ★   ★   
教科書に載っていた「サーカスの馬」で読んだという会員も何人いましたが、著者の代表作ともいわれていても、あまり触れる機会がなかった名作を読むことができて、良かったと思います。

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