アラン・ベネット『やんごとなき読者』
白水社 2009年
「本は想像力の起爆装置」
イギリスの人気劇作家・脚本家によるベストセラー小説。
主人公は現女王エリザベス二世。それまで本にはほとんど興味がなかったのに、ある日飼い犬が縁で、すっかり読書の面白さにはまってしまう。カンニングする学生のように公務中に本を読みふけるわ、誰彼かまわず「最近どんな本を読んでいますか」と聞いてはお薦め本を押しつけるわで、側近も閣僚も大慌て。
読書によって想像力が豊かになった女王は、初めて他人の気持ちを思いやるようになるものの、周囲には理解されず、逆に読書に対してさまざまな妨害工作をされてしまう。孤独の中で女王は、公人としてではなくひとりの人間としての、己が人生の意味について考えるようになっていたのだが、王宮中に、「陛下はアルツハイマーかもしれない」という噂が広まっていき......。
本好きなら、読むことと書くことの本質を鋭く考察した台詞や思索の数々にうなずかされる部分も多い。実在の女王が主人公という大胆な設定で、ひとりの人間が読書によって成長し、ついには80歳にして新たな生き甲斐を発見していく姿を描いた、感動の一冊。(Amazon 出版社からのコメント より)
==例会レポ==
片方の口角だけ上がるようなブラックユーモア小説は、好評でした。それは、本好きなら誰もが必ずと言ってよいほど体験することや共感できることが描かれていて、内容に寄り添うことができたこと、英国王室、日本皇室を比較し、象徴としての各陛下のお立場を考える機会となったからではないかと思います。
この作品とは、司書学の教授でもあった大島真理氏の書評集『司書はひそかに魔女になる』で出会いました。2009年に翻訳本が出版され、話題になったとか。その時に読んだという参加者もいらっしゃいました。
満足派のご意見:
英国流のユーモアに感嘆した
読むための筋力とは、読書することの神髄に気付かされた
短い文章ながら内容が濃い
エンディングの3行だけでも価値がある。「生前退位」のことを考え、国民性を考えさせられる、等々
ご不満派は:
エンディングがやや不満
「だからなに?」という読了感
女王と他の登場人物との人間的なからみがすくない
陛下がお使いなる言葉としては不適切な「お思いになって」「よくって」など、誤訳と思われる箇所がある。また、直訳すぎるのでは?と思われるところがあり、編集者のチェックの甘さが窺える
自分の知らない作品について語られてもわからない、等々
我々コモン・リーダーの意見が分かれたとしても、次の2点はうなずけるし、心残り(?)に思うことではないでしょうか?
1)イギリス階級社会の肌感覚をもっていないと、ネイティブ読者が感じ取る半分もうけとれないのでは?
2)「読むこと=書くこと」なのだろうか?(エンディングの女王陛下が“生前退位をしてまでフィクションを執筆すると宣言したことから)
講師のコメント
この小説は、アジテータ(agitator)である。
評論家でもある作者は、女王陛下を道化的案内人として、自分自身の意見を代弁させている。著名な小説のさわりをだし、読んだことがある人々が感じるであろうことを発言させ、寸評をいれる展開が絶妙である。移動図書館をキーにした軽妙な出だしにセンスが光る。女王陛下は、必然的な流れで書きたいと気持ちをもったのであろう。
読書を信じたいという作者の気持ち。何かあった時に本を読んだからといって、直接の解決にはならないが、道しるべになるし、人間は変われるものだというメッセージが含まれている。
最後に参加者が連想した事をご紹介します。
『女王様と私』(スー・タウンゼント):ブラックユーモアつながり(?)
『国を救った数学少女』(The Girl who Saved the King of Sweden、ヨナス・ヨナソン) 首相など実在する人物に絡めたフィクションつながり(?)
『夜を乗り越える』(又吉直樹):読むことと書くことという観点から(?)
ジョン・ル・カレ作品:ディック・フランシスを登場させるなら彼のもだろう、と。
今回も1作品を共有したことによって、多くを教えて頂きました。"筋力”がついたかも!ありがとうございました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます