本年初めての例会は10人足らずの出席者と、やや寂しい集まりになりましたが、じっくり語り合うことができました。
井上光晴の妻と愛人である瀬戸内晴美という実在のモデルがあっての小説ということで、いつもとは少し違う感想が多かったような。
・不倫がきれいに終わるわけがなく、物足りない。私小説のようでそうではない。
・楽しくはない話。寂聴は情熱的な人だったかもしれないが、見る方向によって人となりの見え方は変わる
・白木は子どもじみた甘えた人、女性二人が大人で、しっかりした人ほどこういう人に惹かれるのだろう
・モデルがいるけれどフィクションとして読んだ
・生々しくどろどろした感じ。読み進めることができなかった。
・みはるは出家してでも別れたいというよりも、振られるよりは自分から、という感じがする
・女性二人の欲の部分、性(さが)が前面に出て、白木を通して二人がつながっているような印象
・白木は自分を肯定するために多くの女性と関係を持ち、虚勢を張りながらも自信がない男。
・不倫だがどろどろした感じはない。
●講師評
「三角関係は人間関係の中で最も面白いもの。人間性が最も現れる。文壇では姪と関係を持った島崎藤村、佐藤春夫に妻を譲った谷崎潤一郎が有名だが、作家はそれも糧にしている。井上荒野という人は構成が非常に巧みで、エピソードの取り入れ方がうまい。白木に引き寄せた形で二人の女性を互いにどう高め、それぞれの業をどう形にするかバランス感覚が優れている小説である」
共通していたのは、井上光晴という作家自体を知る人が少なく、作品を読んでいない人が多かったこと。菊池先生によれば、もとはバリバリの右翼青年だったのが、戦後は天皇制を否定し、左翼に転じたそう。詳しくは『日本文学辞典』を参照してくださいとのことです。