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9月の課題本 G・グリーン 『情事の終り』

2013-09-01 19:43:57 | ・例会レポ

G・グリーン 『情事の終り』
新潮文庫 1959年

私たちの愛が尽きたとき、残ったのはあなただけでした。彼にも私にも、そうでした──。中年の作家ベンドリクスと高級官吏の妻サラァの激しい恋が、始めと終りのある“情事"へと変貌したとき、“あなた"は出現した。“あなた"はいったい何者なのか。そして、二人の運命は……。絶妙の手法と構成を駆使して、不可思議な愛のパラドクスを描き、カトリック信仰の本質に迫る著者の代表作。
 
=例会レポート=

8月の例会で、フォークナーの「八月の光」の新潮文庫のうしろのページをめくっていたら、「情事の終わり」をみつけました。学生時代に読んで好きな本でしたので、課題本の候補にあげたら、思いがけずこれに決まりました。以下、例会での感想をわたしなりにまとめて報告させていただきます。

翻訳が古臭いという意見が何人かからでました。新潮文庫の田中西二郎の訳が古い、「杯」とか「小料理屋」という言葉、「・・・ですのよ」、「そんなら」という口調など。早川書房の訳のほうがよかったようです。
登場人物は小説家のモーリス・ベンドリクス、その友人のヘンリと妻のサラアの三人だが、この三人のだれにも感情移入ができなかった、ベンドリクスはいやな奴、サラアはいやな女、夫のヘンリは男としてどうなのか。登場人物の魅力がわからない。つまらない小説だった、と複数の方の感想でした。
イギリスのカソリックは少数派。宗教的な観点がないとこの小説は理解するのがむずかしいのではないか。
サラアについて、夫がいて小説家の恋人がいて、まわりの男の人を翻弄して、幸せだったのかな、夫は妻に恋人がいても一緒に暮らせて幸せだったというし、小説家は愛があったというし、よくわからない。
友人の妻と不倫をしたら、ばれないわけはない。これはファンタジーなのかな。
愛とはエゴイズムだとおもった。サラアが作家を愛し続けていたのに、神との誓いのために去ってしまったというストーリ―自体がベンドリクスに都合のいい恋愛小説にしあがっている。この人、ちょっと変。

他方で、小説としておもしろかったという感想もありました。
サラアの日記には、ベンドリクスの気持ちとの違いがよく書かれている。嫉妬に狂ったベンドリクスの気持ちもわかる。共感するところが多い。構成もうまい。
世の中で戦争をしているときにこの3人は不倫で生きるか死ぬかしている。
終わりのほうでベンドリクスがヘンリの家に一緒にすむことになったことについて、ちょっと気持ちが悪い、同性愛じゃないのかという説と、亡くなった女性の話をして一緒にビールを飲む、いいじゃないですかという感想がありました。
玉葱のシーン、階段がギーとなるシーンなどの表現がいい。
憎しみに関する表現が多い。憎しみは愛の変化形なのだと思った。サラアの日記の語り口、最後の奇跡のところも好き。
楽しんで読めた。ヨーロッパの古い古い話を読めてよかった。

菊池先生はグレアム・グリーンの映画化された作品についても熱く語ってくださいました。
また、1930年代のフォークナーとグレアム・グリーンの小説がこの読書会で続いて取り上げられたことに触れ、彼らの作品は、19世紀的小説から20世紀的小説への過渡期で、自分はどういうスタイルで小説を作っていくかを模索していた時代の代表的な世界文学である、このあととくにフランスではわけのわからない小説の時代に入っていったと指摘されました。
「情事の終わり」は文体が緻密で構成もしっかりしている。サラアの日記をサンドッチにして、ヘンリとベンドリクス、サラアの三角関係、さらに神との四角関係を描いている。
また、レオン・ブロアのエピグラフから小説を読み解きすることができる。「人間の心には、いまだ存在せぬ幾つかの空席があって、それらの席を存在せしめんがために、苦悩がそこに座りこむのである。」そこに神との絡みがある。
また、この小説にはグリーンの感じている文明批評もある、神とのこともみんな文明批評であると結ばれました。

・・・そういわれれば、この小説は、神なき現代社会へのグリーンの挑戦状のようにも思われます。ちなみに、わたしはベンドリクスという人物、たしかにイヤな奴ですが、かなり好きです。ひさしぶりにグリーンの小説に読みふけり、いろいろな方の感想を聞くことができて貴重な体験でした。ありがとうございました。

 

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