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孤島の鬼 江戸川乱歩ベストセレクション(7)
江戸川乱歩著
謎の系図に隠された恐るべき真相!
謎の系図を持った女と恋に落ちた金之助。その女が密室殺人で死んだ。残した謎の系図を手に死の真相に迫る金之助に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。
発売日:2009年 07月 25日
定価(税込): 700円 文庫判
発行元:角川書店 角川書店のHP(立ち読みあり)
<例会レポート>
先月に入会されたピカピカの新入会員5名を含めた、総勢20名超の新旧会員が参加して始まった4月の例会。課題本は、江戸川乱歩の代表作『孤島の鬼』。その「猟奇的」な内容が読後感に大きな影響を与えた作品のようでしたが、予想以上に好評を得たことに推薦人としてはちょっと驚きました。
すなわち、
・いろいろな要素が盛り込まれていて、サービス精神にあふれている。最後まであきずに読めた。
・冒頭の主人公の告白を裏切らない「おそろしさ」の連発。内容は、ただただ悪趣味。本来隠しておきたいことをここまで書けるものか。
・怖いものみたさで読み終えた。
という感想が、最大公約数的なものではないでしょうか。また、現代の作家との違いが如実に現れている文体、言葉使い、差別的描写などについては、
・ミステリとしてのキズは無視して、内容のわりにはコミカルなエンターティンメントとして読めた。文体にリズム感があり、生き生きとしていて、長いセンテンスもすらすらと読めた。
・現代のミステリを読むときはストーリーを重視することが多いが、今回は漢字表記やことばの言い回しなど、「ことば」を重視して読んだ。
・文体が丹念で、そのわりにすらすらと読め、自然に物語りに入っていけた。力のある作家だと思う。
・意外すぎる展開。悪趣味な内容だけれども、文体がかわいているので気にならない。
・現代では古い言い回しも、それは「古典」として許されるのだろう。
・秀ちゃんの手記は「わたし」という一人称で書かれているが、自分の体の異常さを理解していない彼女にとって、主観としての「わたし」とは、他人から見れば、実は吉ちゃんを一緒にした物理的な二人をそう理解している。
・差別的な用語や表現に寛容なのは、時代や感覚の違いだろう。
それでも80年も昔に書かれた作品ゆえ、ミステリとしての欠点や、リアリティをただす、以下のような不満や疑問の声も聞かれました。
・話がうまく進みすぎ、出来すぎている。つごうがよすぎる。
・密室殺人や衆人環視下の殺人の必然性が感じられない。
・作中の人体改造は医学的に考えて無理。このあたりは空想的な「おあそび」としてみるべきだろう。
・諸戸の人生は哀れ、それに比べて箕浦の後半生は玉の輿。
・諸戸に対する箕浦の態度は思わせぶり。
・殺されてしまう探偵の深山木の存在理由って、何?
・吉ちゃんはどうなったの?
ほかには、
・角川ホラー文庫のカバー絵は酷い。ネタバレだ。
・江戸川乱歩を読んだ、という箔が付いた。
という感想もありました。
ほとんどの会員は、小中学校時代に乱歩の「少年探偵団シリーズ」を読んだ経験を語ってくれました。その後の分かれ道は、大人向けの乱歩らしい猟奇的な作品を読んだのち、「これはだめだ」と、乱歩を封印したか、それともその一種異様な世界にのめりこんでいったのか、でしょう。
・子どものころに読んだ乱歩のイメージが強すぎて、大人になった今でも読み終えることができなかった。生理的に合わないのではないだろうか。
こうしたトラウマすら与えてしまう乱歩作品の圧倒的影響力こそ、乱歩の乱歩たる所以にほかならないでしょう。
講師の菊池先生からは、
・貸本屋に通っていた子どもの頃から乱歩はいっさい読まなかった。現代の新本格ミステリの各作品についても言えることだが、トリックのためのトリックというのは意味が無いし、ご都合主義も気にくわないところがある。この作品は、前半と後半のトーンの違いをどう評価するのかがポイントだろう。不具者製造という発想は流石だと思う。
といった個人的感想がありました。
(終)
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