「本当に本当に大丈夫? いっとくけど、そこ田んぼだからね!? 下手したら私泥まみれだからね!?」
そんな注意喚起を必死に小頭はやってる。サドルにまたがらせられて、脚はペダルに……そして鬼女は後ろで荷物置きの部分を握ってる。本当に楽しそうな顔をしてる鬼女。それを見て小頭は思った。
(あ、これ、絶対に逃げられない奴だ)
――とね。楽しそうな鬼女は私がここでいくら「やめりゅー!」とか言っても聞く耳もってくれないだろう。だって楽しそうだもん。きっと「大丈夫大丈夫。私を信じろ」とか言いそう。
私がこの自転車で漕ぎ出さないと、無理やりにでも彼女がこの自転車を押しそうだ。いや、絶対にそうするよ。わかる。こいつはきっとそんな奴だ。
彼女は絶対に空を進める……と思ってるのだ。けど小頭はこの自転車にまたがって更に不安になってる。なぜならば……
(めっちゃ普通のママチャリですけど!?)
――そうとしか感じれないからだ。触ったりしたらなんか違うのかも? とか思ってた小頭。だってこの自転車が空を飛んでた……いや走ってた所は小頭だって見てる。だからこそ、何か普通の自転車とは違うのかと、期待してたのだ。
でもまたがった瞬間「あれ?」と思った。だって何も変な所はない。特殊なアイテムがあったり……不思議な力が包んでたり……そんな期待ははかなくも崩れ去る。
(いや、まだ私に感じれないだけかもしれないし……)
小頭はそんな願望にすがることにしたようだ。実際、小頭には力なんてものはないんだから、鬼たちの力だって感じれない。ならば……その可能性はあるといえる。
「大丈夫、行くぞ! 思いっきりこげ!」
そんな事をいって心の準備ができてないのに鬼女が押し出した。田んぼと田んぼの道とも言えない淵を進む。めっちゃスピード出すからガタガタと揺れる。そしてそのまま――
「そぉぉぉぉれ!!」
――と鬼女は淵の終わりに小頭を自転車ごと押し出す。
「あああ、もうおおおおおおおおおおお!!」
小頭はもうやけくそだった。途中から立漕ぎを初めて、前傾姿勢になって、目を閉じる。そんなの絶対にダメだが、だってそのまま下の田んぼに落ちるかもしれないのに、目を開けたまま……なんて小頭はいられなかった。けど……落ちるような感覚も、田んぼの水の感触もない。勿論バシャーンなる音だってならない。寧ろ……だ。寧ろなんか風が気持ちいい……と小頭は思った。
恐る恐ると目を開ける。すると、小頭の視界にはただまっすぐに進む光景が広がって雄大な段々畑が下に見えてた。
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