今から3週間前、ボクは意を決したかのように、地元の駅の改札口を出ると、自宅とはちょうど反対側のあたりに位置する、まだ開業して間もない歯科口腔外科医院へ足を運んだ。仕事帰りのPM20:30の事だった。地元の駅から徒歩で5分ほどの至近距離には、どういうわけか歯医者が4軒もあったが、口腔外科を掲げる歯医者は他にはなく、ボクは、犬歯と奥歯に挟まれて埋没している歯が、虫歯の危機に晒されるか、虫歯になった時にはここへ来てみようと思っていたのだが、こんなに早くに来る事になろうとは全く予期していなかった。っと言うよりも、犬歯が蝕んで来ている事は随分前から目に見えて明らかな事だったのだが、最近流行りの歯磨き粉で歯を磨きさえしていれば、歯医者に行かずとも、なんとかなるかもしれないと思っていた。だがそれは、やはり間違いだった。
辛うじて残っていた犬歯の前面が、昼休みにパンをひと噛りしただけで歯茎の根元からいとも簡単にポロッと取れたのは、予約をしてから1週間後の金曜日の事だった。すかさずトイレに駆け込んで、洗面台の鏡の前で口を大きく開けてみると、折れた歯と奥歯に挟まれて深く沈み込んでいた、それまでは側面しか見えなかった埋没歯の上部が見えた。パントモと言う・・・歯と顎を撮るレントゲン・・・で、埋没歯がどのような角度で沈んでいるかは知ってはいたが、本当に斜めに倒れている歯を目にしたボクは、・・・もしもこの埋没歯を切開で取り除けるとしたら、いったいどれだけの血が流れるのだろう??・・・本当にキレイさっぱり取り除く事などできるのだろうか??・・・と考えながら、下唇を人さし指で抑え付けて、鏡の中で反転して映っている自分の口の中の歯をじっと見つめていた。
21時に予約を入れた2度目の受診の今日、待合室で名前を呼ばれると、ハンカチをぎゅっと握りしめて診察台に座り、歯科衛生士と軽く挨拶を交してから前掛けをかけてもらうと、目の前にあるWINDOWSの画面に映しだされている歯のレントゲン画像を見ながら、ここへ来るに至った経緯を思い出しながら、ボクはDRが来るのを待った。
果たして今日は、その犬歯と埋没歯の治療を始めるのだろうか??それとも他の虫歯から治療を始めるのだろうか??いずれにしても、きっと麻酔を打つに違いない。昔ほど歯医者は嫌い出はなくなったが、麻酔を打つ時の注射針の痛みを想像したり、キ~ンという機械音を想像するだけで、嫌が応にも緊張が増して落ち着かなくなって来た。
そうして少しの間、背もたれにもたれ掛かって、天井をぼんやりと見ながら気持ちを落ちつかせようとしていると・・・“こんにちは~”・・・という、少し甲高い声が不意に背後から声が聞こえて振り返ってみると、ボクの担当医だった。
“あれから歯茎が腫れたり、痛んだりしませんでしたか??”・・・“はい、腫れも痛みもありませんでしたよ”・・・
ニッコリと微笑んでいる、マスクをした担当医の目と視線を合わせると、さっきまでのボクの緊張は、不思議と一気に緩んで溶けていった。担当医は、レントゲンを見ながら今後の治療方針を丁寧に説明してくれた。まずはとりあえず、小さい虫歯から治療をして、折れた犬歯と埋没歯は最後にガッツリやりましょうと言う事になり、ボクは少し胸をなでおろしていた。
背もたれが大きく倒されて、頭の位置が足よりも低くなり、口を開いたボクを担当医が覗き込むように見下ろした。担当医の肩までかかる長い髪は、毛先まで手入れが行き届いていて、ライトに照らされて、うっすらとではあったが、茶色に透き通ってキレイだった。そして、今日治療する、上の前歯と八重歯周辺に麻酔が打たれた。ボクはすぐ真上にある担当医の顔を見れず、じっと目を閉じて注射針が抜かれるのを待った。
“はい、じゃぁ~麻酔が効いてくるのを少し待ちましょうね”・・・診察台が垂直に戻されると、担当医は別の患者さんの治療をする為に席を立った。担当医が戻ってくるまでの間、ボクは、ジンジンしてきていた上唇を指で軽く叩くように触れてみたり、舌で、上の前歯の裏側を探っってみたり・・・を繰り返していたが、時間が経つにつれて、麻酔は鼻の穴の周辺にも広がって、なんとも妙な感覚だった。
戻ってきた担当医に診察台を深く倒されると、担当医は真剣な眼差しでボクの口の中をじっと見つめ、右手に歯を削る器具を持ち、左手にはバキュームを持ち、作業に集中し始めた。器具が強弱をつけて歯に当たると、ボクはハンカチをギュッと握りしめ、目を閉じた。さすがに麻酔が効いているから痛みはなかったが、顎と首と肩には少し力が入り、ボクは緊張のボルテージを上げていた。器具はキ~ンという音を立て、バキュームはギュルル~と唾液を容赦なく吸い込んでは、一旦静かになる繰り返しだった。
気持ちが落ち着いて緊張が解けだしたボクは、ゆっくりと目を開いた。
真上にはボクを真剣に覗き込んでいる担当医の顔があった。ボクはどこを見ていたらいいのか解らず、目線を上に上げると、椅子に腰掛けているらしい担当医の、ちょうど膝くらいの高さにボクの頭がある事が解った。
・・・“ひ、膝枕状態”・・・じゃないか・・・。
口を開けて、まな板のコイ状態のボクに、膝枕・・・。チラリと担当医の目を追いかけてみると、じっとボクを見つめている眼差しがそこにある。ボクからは逆さまに見える担当医の真剣な顏がすぐそこにあって、ボクは違う緊張のボルテージを一気に駆け上がった。担当医がボクの口の中の虫歯をじっと凝視して器具を当てている事は解っている。
だが、ボクにはそうには見えなくなっていた。高まる違う緊張にボクは包み込まれていた。
2週間前の初回は、超音波を使っての、歯茎の奥の歯石取りだったから、痛みに顏を歪めているのが精いっぱいだったが、・・・清楚で爽やかで、笑顔がステキな先生だな・・・とは思っていたボクだった。仮に目と目が合っても、ただそれだけの事ではあるが、ボクとした事が、どうした事だろう??恋のようなドキドキ感を口腔外科の診察台で味わうとは・・・。
全くもって、予期していなかった事だ。でも、それだけの事でも、歯医者に通うのが心なしか、待ち遠しく感じてしまうしれない事が、ボクには、新鮮な事だった。
辛うじて残っていた犬歯の前面が、昼休みにパンをひと噛りしただけで歯茎の根元からいとも簡単にポロッと取れたのは、予約をしてから1週間後の金曜日の事だった。すかさずトイレに駆け込んで、洗面台の鏡の前で口を大きく開けてみると、折れた歯と奥歯に挟まれて深く沈み込んでいた、それまでは側面しか見えなかった埋没歯の上部が見えた。パントモと言う・・・歯と顎を撮るレントゲン・・・で、埋没歯がどのような角度で沈んでいるかは知ってはいたが、本当に斜めに倒れている歯を目にしたボクは、・・・もしもこの埋没歯を切開で取り除けるとしたら、いったいどれだけの血が流れるのだろう??・・・本当にキレイさっぱり取り除く事などできるのだろうか??・・・と考えながら、下唇を人さし指で抑え付けて、鏡の中で反転して映っている自分の口の中の歯をじっと見つめていた。
21時に予約を入れた2度目の受診の今日、待合室で名前を呼ばれると、ハンカチをぎゅっと握りしめて診察台に座り、歯科衛生士と軽く挨拶を交してから前掛けをかけてもらうと、目の前にあるWINDOWSの画面に映しだされている歯のレントゲン画像を見ながら、ここへ来るに至った経緯を思い出しながら、ボクはDRが来るのを待った。
果たして今日は、その犬歯と埋没歯の治療を始めるのだろうか??それとも他の虫歯から治療を始めるのだろうか??いずれにしても、きっと麻酔を打つに違いない。昔ほど歯医者は嫌い出はなくなったが、麻酔を打つ時の注射針の痛みを想像したり、キ~ンという機械音を想像するだけで、嫌が応にも緊張が増して落ち着かなくなって来た。
そうして少しの間、背もたれにもたれ掛かって、天井をぼんやりと見ながら気持ちを落ちつかせようとしていると・・・“こんにちは~”・・・という、少し甲高い声が不意に背後から声が聞こえて振り返ってみると、ボクの担当医だった。
“あれから歯茎が腫れたり、痛んだりしませんでしたか??”・・・“はい、腫れも痛みもありませんでしたよ”・・・
ニッコリと微笑んでいる、マスクをした担当医の目と視線を合わせると、さっきまでのボクの緊張は、不思議と一気に緩んで溶けていった。担当医は、レントゲンを見ながら今後の治療方針を丁寧に説明してくれた。まずはとりあえず、小さい虫歯から治療をして、折れた犬歯と埋没歯は最後にガッツリやりましょうと言う事になり、ボクは少し胸をなでおろしていた。
背もたれが大きく倒されて、頭の位置が足よりも低くなり、口を開いたボクを担当医が覗き込むように見下ろした。担当医の肩までかかる長い髪は、毛先まで手入れが行き届いていて、ライトに照らされて、うっすらとではあったが、茶色に透き通ってキレイだった。そして、今日治療する、上の前歯と八重歯周辺に麻酔が打たれた。ボクはすぐ真上にある担当医の顔を見れず、じっと目を閉じて注射針が抜かれるのを待った。
“はい、じゃぁ~麻酔が効いてくるのを少し待ちましょうね”・・・診察台が垂直に戻されると、担当医は別の患者さんの治療をする為に席を立った。担当医が戻ってくるまでの間、ボクは、ジンジンしてきていた上唇を指で軽く叩くように触れてみたり、舌で、上の前歯の裏側を探っってみたり・・・を繰り返していたが、時間が経つにつれて、麻酔は鼻の穴の周辺にも広がって、なんとも妙な感覚だった。
戻ってきた担当医に診察台を深く倒されると、担当医は真剣な眼差しでボクの口の中をじっと見つめ、右手に歯を削る器具を持ち、左手にはバキュームを持ち、作業に集中し始めた。器具が強弱をつけて歯に当たると、ボクはハンカチをギュッと握りしめ、目を閉じた。さすがに麻酔が効いているから痛みはなかったが、顎と首と肩には少し力が入り、ボクは緊張のボルテージを上げていた。器具はキ~ンという音を立て、バキュームはギュルル~と唾液を容赦なく吸い込んでは、一旦静かになる繰り返しだった。
気持ちが落ち着いて緊張が解けだしたボクは、ゆっくりと目を開いた。
真上にはボクを真剣に覗き込んでいる担当医の顔があった。ボクはどこを見ていたらいいのか解らず、目線を上に上げると、椅子に腰掛けているらしい担当医の、ちょうど膝くらいの高さにボクの頭がある事が解った。
・・・“ひ、膝枕状態”・・・じゃないか・・・。
口を開けて、まな板のコイ状態のボクに、膝枕・・・。チラリと担当医の目を追いかけてみると、じっとボクを見つめている眼差しがそこにある。ボクからは逆さまに見える担当医の真剣な顏がすぐそこにあって、ボクは違う緊張のボルテージを一気に駆け上がった。担当医がボクの口の中の虫歯をじっと凝視して器具を当てている事は解っている。
だが、ボクにはそうには見えなくなっていた。高まる違う緊張にボクは包み込まれていた。
2週間前の初回は、超音波を使っての、歯茎の奥の歯石取りだったから、痛みに顏を歪めているのが精いっぱいだったが、・・・清楚で爽やかで、笑顔がステキな先生だな・・・とは思っていたボクだった。仮に目と目が合っても、ただそれだけの事ではあるが、ボクとした事が、どうした事だろう??恋のようなドキドキ感を口腔外科の診察台で味わうとは・・・。
全くもって、予期していなかった事だ。でも、それだけの事でも、歯医者に通うのが心なしか、待ち遠しく感じてしまうしれない事が、ボクには、新鮮な事だった。
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