『朝鮮雑記』の方がイザベラ・バードの
『朝鮮紀行』より面白い
イザベラ・バードは見た物 感じた事を
真面目な文体で調査的に書いてあるが
本間九介はちょっと揶揄したような
そんなところがあるのが笑えたり
韓流ドラマを思い出させる部分もあるので
だんぜん読みやすくどんどん読んで行ってしまう
腹痛の薬
かの国の人は、わが国と通商する以前は、砂糖を知らなかった。 今なお、内地の人は、これを知らないという人がいる。そのため、少しでもこれを与えれば、あえてすぐには食べず、保管して、腹痛の薬にする人がいるほどだ。とんだ笑い話だが、腹痛の妙薬が、※胃袋を害するものというのも、なかなか妙である。
※ 胃袋を害する……砂糖に含まれるショ糖は、消化の大きな負担になる。
敗俗
かの国で、敗俗(害となる風俗)の最たるものが、早婚であろう。十二、三歳の児童で、すでに妻を娶っているものがある。そして、その妻は、自身より年長者を選ぶのが、常である。十二、三歳のものが、二十歳前後の女と結婚するなど、かの国では、けっして珍しいことではない。これも、奇俗といえよう。 ※稚陰稚陽、ついに何ごとをなすというのだろうか。かの国の人口が年々減少するのも、また、こういったところに原因がある。
※ 稚陰稚陽……児童の肉体と機能は、いまだ成長途上であるから、当然ながら生殖にも向かない。
狗(いぬ)
かの国の人は、狗肉(犬の肉)を喰うことを好む。各家が、狗を飼っているのは、必ずしも、戸を守り、盗みを警戒するためではない。多くは、その肉を喰うためである。
狗一頭の売値は、わが国の通貨で三、四十銭である。そのため、珍客や吉事でもないかぎり、みだりに処理することはない。あたかも、わが国の鶏や豚のようだ。
※桀狗、堯に吠ゆる――狗が吠えることが、どうして、狗の罪といえるだろうか。その性質から、吠えているにすぎない。かの国の狗は、洋服であれ、和服であれ、仮にも韓服と異なるものを見たときは、必ず吠える。私も、内地で、その難に逢ったことは、幾度ともしれない。
一匹の犬が、実を吠えて、一万匹の犬が、虚を伝え、狺々(ワンワン)と吠える声は、耳が聞こえないのではないかと疑うほどだ。これまた、※蜀犬、月に吠ゆる――の類か。
かの国の狗は、人糞を食べて、生命をつないでいる。その不潔は、表現のしようがない。乳児が室内で糞を漏らせば、すぐに狗を呼んで、これを舐らせるのである。また、あえて洗うこともしない。かの国の人の不潔を想像していただきたい。
韓人は、犬を呼ぶのに「ワアリワアリ」という。
ただ、狗だけではない。洋服や和服を着た人を見れば、牛や馬も驚く。いずれにせよ、狗子(犬ころ)を※衛生局長とする、これは妙案だ。
※ 桀狗、堯に吠ゆる……悪名高い桀王の飼い犬が、聖人君子である堯に吠える。犬は、飼い主に対しては、それが暴君であっても吠えないが、飼い主でなければ、相手が聖人君子であっても吠えることから、「忠とは何か」の真意をあらわしたもの。
※ 蜀犬、月に吠ゆる……「蜀犬、日に吠ゆる」のことか。蜀の国は山が高く、また霧が深いので、太陽があまり出ない。たまに太陽が見えると、犬が吠えるという。視野や見識の狭い人が、一般的に正しいとされていることにも、むやみに楯突くたとえ。
※ 衛生局長……人糞の処理をすることを皮肉ったものか。
娼妓
かの国の※娼妓は、すべて人の妻妾(妻と愛人)である。人の妻妾でなければ、娼妓になることはできない。というわけで、その夫の生活の資金は、娼妓である妻がかせぐ。 夫は、みずから妻の客を引き、また、みずから※馬となって、揚げ代の請求に来る。これは、かの国の社会の通常である。夫は、まさに娼妓の夫であり、いわば、妓夫(客引き)の観がある。破廉恥、ここに極まれりというべきだろう。 妻は、その股間にある無尽蔵の田を耕して、夫を養う。これも、夫への忠というものだろうか。大笑い。
※ 娼妓……宴席で芸を披露しながら、むしろ売春を主体とするもの。芸が主体の妓生(キーセン)とは異なる。

娼屋
かの国の娼屋(売春宿)は、日本のそれとは趣きが大きく異なり、一般的には、わが家に客を入れて、夫が妻妾に売春させるというものである。
そのため、一軒の娼屋に二人の娼妓がいることはない。
わが国のように、客に向かって酒肴を供することはないばかりか、渋茶の一杯も出さない。わずかに、一、二喫の煙草を勧めるだけである。
そっくりそのまま、密買春窩(無許可の買春小屋)の光景である。もっぱら、獣欲をあらわにするだけの妖窟ともいえよう。
娼妓の年齢は、わが国のそれと大差はないものの、猥褻で汚らわしい言葉を、少しも恥じる様子もなく見せるところなど、わが国の娼妓が遠く及ぶところではない。
その装飾や容貌が、上品で典雅なのは、全く※国色とばかりに称賛できないわけではないが、梅毒が心配な人は、けっしてその門を叩いてはならない。ひとたび、その門にはいったものは、※落花陥凹は疑いなく、というのは、朝鮮の娼妓ほど、梅堂持ちが多いものは、他にないからである。
娼妓の揚げ代は、一回、当五銭(朝鮮の流通通貨)で一貫文(日本の三十銭)、一夜、当五銭で三貫文(ほとんど一円)。
一喫の煙草。煙にまかれて、たちまち※巫峡の夢の中に逍遥する。なんというお手軽主義か。
※国色……その国でいちばんの美貌。
※落花陥凹……梅毒の症状か。梅毒が進行すると、花びらのような発疹が出て、指の肉が落ち、鼻が落ちるともいう。この症状をあらわしたものか。あるいは、「落花」は「落下」のことか。
※巫峡……中国の名勝、長江三峡のひとつ。