心臓の鼓動が止まる時：サルバドールの朝（2006）

Salvador (Puig Antich) （2006）

約３０年前、正当な判決を受ける事無く死刑になった青年の実話を元にした、ドキュメンタリータッチのスペイン映画。重いです。いやでも人が人を裁く事の意味と、死刑制度に対する疑問を感じざる終えない映画です。最近ドイツ映画「青い棘」を見てダニエル・ブリュールがＭＣＲのＧＥＲＡＲＤに似てるからっていう理由で見に行ったのですが、動機がかなり不純・・・


サルバドール・プッチ・アンティック（ダニエル・ブリュール）

1970年代初頭のスペイン、フランコ政権末期のバルセロナ。主人公サルバドール・プッチ・アンティック（ダニエル・ブリュール）はフランコ独裁に反対する若者のグループに属すメンバーで、活動資金を得るために銀行強盗をしていました。警官に逮捕されそうになった時発砲した事で、警官が死に、サルバドールは死刑を宣告されます。が、警官の体にはサルバドール以外の拳銃で撃たれた形跡もあり、弁護士や家族の必死の訴えも効果無く、警察は検死結果を公開せぬままサルバドールは最高裁でも死刑確定されるのでした。


ダニエル・ブリュール。

My Chemical RomanceのGerard。似てませんか？？

映画はサルバドールが聡明で正義感が強く、家族思いの優しい愛すべき青年だったことを伝えてくれます。看守のヘイスース（レオナルド・サバルグリア）は、そんな彼とだんだん親しくなっていきます。レオナルド・サバルグリア演じる無骨な看守がとっても印象的。この人がサルバドールの父親に充てた手紙を読むところが一番泣けましたよ・・・

左は看守のヘイスース（レオナルド・サバルグリア）。

サルバドールが死刑執行命令を受けてからの、死刑までの１２時間がこの映画の見所。泣かず、叫ばず、冷静に状況を受け止める姿は見ていて辛いです。死刑執行までどんどん時間が過ぎていく、痛いほどの空気の重み。死刑を執行する絞首機を見た彼の表情は説明しがたい複雑なものでした。ダニエル・ブリュールの表情は名演技。事実に基づいているとの事ですので、あのシーンも事実に近いとしたら、私はトラウマになりそうです。あんな死に方をさせられる事を知ったら、私だったらその場で立ってられなくなるか、暴れるか錯乱するか。死ぬことが怖いのではなく、死に至る苦しみの方がずっと恐ろしい。


この死刑方法は勘弁して欲しい。もう一生忘れられません・・・

似たようなことは今でも世界のあちこちで行われている、それをこの監督は言いたかったのは、映画のイントロの映像で分かります。独裁政権や、圧政に反対して行動を起こす人々を「法の名の下に」逮捕したり殺したりしている事実に目を向けて欲しいとのメッセージは十分伝わってきます。しかし、だからといってサルバドールに罪が無いという印象も受ける描き方はちょっとやり過ぎかな？と感じました。
この青年サルバドールは無実ではありません。若者らしい理想主義と正義感から、正しいと思う事を実行するために運動していた彼は、しかしながら銀行を襲い、仲間は行員に発砲しています。また、正当防衛とは言っても警官を撃ったのも事実です。問題は彼が死刑に値する犯罪を犯したのかどうかということ。政治的な背景で正当な裁判も行われず、要するに反体制で警官殺人犯みたいだからさっさと死刑にしちゃえ、とばかりに刑は執行される。死刑とは実行されれば取り返しのつかない刑。世の中死をもって償うべき犯罪はあると思うのですが、人が人を裁くことの矛盾と恐ろしさをつくづく考えさせられる映画です。